29 テスト最終日、険しい道のり
(*+ - +*) < 時間かかった...。
***
「かなりの先鋭だったのだが...そうか。」
サミット会場の一席、資料を眺める男が不敵に笑う。
「天宮陽斗......面白いじゃないか。」
***
「そろそろサミット会場に向かわないと。」
「ていっても、どうやっていくんだよ。俺がバイクで乗せていけばいいのか?」
黒崎が、近くに止めてある白バイを指差す。
その様子を見た警察隊員が、守るように白バイの前に立つ。
「...分かったよ。かといって、電車だと間に合わないぞ。」
「――陽斗、プレゼントだよ!」
リリスの声が響き、パチンという音と同時に高級車――ポルシェが現れる。
「ありがたいんだけど...なんでポルシェ?」
「テストのご褒美だよ。あ、このまえのクレープの話。忘れてないよね?」
「...どっちなんだか。ルナ、エルシィ。疲れてるところ悪いんだが、一緒に来てくれるか?」
「もちろんです!」
「もとからそのつもりですよ。」
ルナが目の前のポルシェに目を輝かせる。
...まあ、楽しみもあったほうがいいか。
「俺は?」
「おまえは待機だ。こっちでなにがあるか分からないしな。」
「まあ、陽斗が言うならいいけどよ...。」
黒崎もポルシェに興味があるのか、少し残念そうにしていた。
エルシィが助手席に、ルナが後部座席に乗り込んだとき、遅れて凛がやってきた。
「陽斗!」
陽斗は驚いた。学校からここまで、かなりの距離があるはずだ。
ここまで歩いて――いや、走って来たのだろうか。
「遠いのによく来たな、凛。」
「だって...じゃなくて!私もついていくから!」
膝に手を置き、息を切らしながら、凛はそう言った。
「...だめだ。凛には危険すぎる。」
凛は頼りになるけど、黒崎やルナたちと違って、いざとなったときに戦えない。
「たしかに、私は戦えないけど......でも!...そっか。...足手まとい、か。」
勢いを失った凛に声を掛ける。
「凛。」
「...ううん、ごめん。私の理解が足りなかった...。」
「凛は大事な幼馴染だから...こんなことに巻き込みたくない。」
はっとしたように凛が顔を上げる。
陽斗の意図を探るように、ゆっくりとこちらを見つめている。
「ここで、待っててくれ。帰ってきたら、またクレープでも食べに行こう。」
ごく普通の誘い。だが、陽斗に想いを寄せる凛は予想外の言葉に顔を赤くした。
陽斗に顔が見えないように、とっさにうつむくと、あえて強めの口調でこう言った。
「...余裕かましてるみたいだけど、暴れすぎないこと!氷室さんたちも大変なんだからね。」
「はは、気をつけるよ。」
凛の見送りを受けて、ポルシェは目的地へと走り出す。その運転席では、さも当たり前かのように陽斗がハンドルを握っていた。
「...陽斗、未成年の運転は禁止されていますよね?」
エルシィがすかさず突っ込む。
「まあ、異世界での十年合わせたら25歳みたいなもんだろ。」
無理矢理だとは分かってたが、逆に今のメンバーの誰が運転しても法律に引っかかるのだから、少しは言い訳できる俺がいいだろう。
「ハルト様、絶対駄目なやつです。」
「いいんじゃない?どうせ氷室がどうかしてくれるよ。」
「......。」
ここは陽斗を咎めるルナ。それに対して、リリスはのんびりとしている。黒崎は、たまにバイクを運転したりしているみたいなので、なんとも言ってこなかった。
一方、氷室は警察が用意したドローンモニターの前で頭を抱えていた。
「スピード違反に無免許運転...彼の言い分はこちらの世界では証明できないぞ...。」
「氷室管理長、どうしますか!」
「仕方ない...このことは私がどうにかする。君たちは全力で彼を援護しろ!」
「「了!」」
「天宮陽斗...絶対に許さない...。」
このとき、氷室の心に僅かな憎しみの灯火がついた。
――一方のポルシェ。
「おいおい、まじかよ...。」
陽斗一行が乗るポルシェの進行方向には、道を塞ぐように止まった黒の乗用車があった。見た感じ、どれも運転手は乗っているようだ。
車の前に立つ、ひとりの男。
その声が、窓越しに聞こえてくる。あの男の特殊能力だろうか?
『天宮陽斗、きみが「それ」を差し出してくれれば、全て解決するのだよ。』
「...嫌だね。それより、ここで止めた理由はなんだ?話なら向こうでいくらでも...いや、そうか。」
『...?』
「サミットが始まる前なら力を振るっても構わない...ってことか?」
『......さあな。』
「当たりか。だったら、会場に着いたらこっちの勝ちだな。」
相手の目的が分かったところで、ここを突破する方法は戦うくらいしかない。ただ、サミットまで時間もない。なにか策はないか...。
「陽斗、困ってるみたいだね!」
「リリス...なんとかできないのか?」
「そうだねえ、じゃあ、そこのボタン押してみたら?」
「これか?」
リリスが言うボタンは、空調ボタンの横にある「!」と書いてあるこのボタンだろう。
――ポチッ
――ガシャン、ガシャン...
「な、なんですか!?」
「車が変形している...まるで戦隊ものですね。」
――ピーッ...ガチャン!
「うわあ!?」
機械の合体音が止まった次の瞬間、ポルシェは赤と青の混じった空へ飛び出した。
「将来、車は空を飛ぶって言われてたけど...もう進歩してるのか!?」
「ハルト様、たぶん違います!リリスさんがすごいだけです!」
「ああ、そう...。」
一瞬抱いてしまった期待を返してくれ...と思いつつ、開いた窓から下を見下ろす。マップに登録した目的地――サミット会場に向かって、空飛ぶポルシェは一直線に進んでいく。これが空中散歩...。
呆然とした海外勇者が、慌ててこちらを追いかけてきている。先回りするつもりだろう。
覚悟を決めた男は、道路を蹴り出してこちらに殴りかかってくる。その手には小さな針。
「タイヤを割るつもりか!」
男が腕を振った方向と反対にハンドルを切る。空振りをした男は一気にバランスを崩し、道路まで落ちて着地した。さすがは海外勇者。一筋縄ではいかないだろう。
「...エルシィ、結界。」
「わかりました。」
――カキィィン
頭上には空一帯を囲うヘリ。
「...まじかよ。」
爆発物が空中で撃ち放たれ、下からは炎魔法の槍が飛んでくる。
「ルナ!」
「了解です!」
ルナが小さな手から暗黒魔法を放ち、攻撃をかき消す。
しかし、車体の下は結界が張られていなかった。
――ドォォォォン!
「うおおおおおお!?」
ポルシェのバランスが一気に崩れる。目的地までは残り数十メートル。
「こうなったらこうするしか!風魔法・ウィンドブレス!」
俺の放った魔力の風が、ポルシェを大きく外した爆風をかき立て、車体を押し上げる。
「いける!」
魔法の威力を強める。飛躍した車体は、不安定に揺れながら進んでいく。
――ガガッ キィィィィィィィン!
「うわあああああああああ!?」
車体は勢いよく落下。激しい衝突音を鳴らすと、サミット会場の前ギリギリで止まった。
「ふう...なんとか着いたな。こっちの勝ちだな。」
入口で待っていた受付嬢は、悔しそうにこちらを見る。
「...天宮陽斗様ですね?どうぞ、こちらへ。」
これからが始まりだ。
「ハルト様、がんばってください!」
「美味しい料理を作って待ってますね。」
「せいぜい、がんばってねえ。」
「ルナ、エルシィ...リリスも、ありがとう。」
三人に背を向けて、会場の入口に入る。
俺の長い一日は、最大のフェーズを迎えていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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