表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/32

20 忘却の聖女


(*+ - +*) < 感動で泣いちゃうかも...。




「...ぐあああああああ...!」



頭を抱えて膝をつく俺の視界に、断片的な記憶が濁流のように流れ込んでくる。


決戦の日の朝、交わした花畑での会話。魔王城の最奥、光り輝く門の前。

神様と対峙していたその時、彼女もたしかにそこにいた。



アステリアで俺の冒険にきっかけをくれた。

そして、傷を癒やし続けてくれた。共に旅を過ごした――聖女『◼️◼️◼️◼️』。



***



『――ハルトは、魔王に勝ったらどうしたい?』


『帰りたいかな、故郷に。』


『故郷って...いつも言ってる日本だよね。』


『ああ。ここと違って、平和なんだ。』


『...そっか。私ね、ちょっと調べたの。ハルトが日本に帰るためには、この世界との【縁】を断ち切る必要があるんだって。......私に関する記憶を、消さなきゃいけない。...そうすれば、あなたの【影】として私の命は――心臓は、失われる。世界から、私の「存在」が消される。』


『思ってたより、簡単には戻れないのか。■◼️◼️◼️の記憶を消すぐらいだったら――帰らなくてもいいかもな。』


『...ううん、いいの。私が犠牲になるから......ハルトは、日本で幸せになってね...。』



***



目に映る記憶の中の彼女が静かな涙を流すのが見えたところで、映像が止まる。


陽斗に残されたのは、なによりも重い絶望と、罪悪感だった。



――嘘だ。あの日、俺は...■■■■の犠牲を受け入れたのか?

  自分の「平和に帰りたい」という身勝手な願いのために?



「思い出したようね、天宮陽斗。」



絶望に溺れる陽斗の前に、女――■■■■が降り立つ。

黒崎は、夜のネオンライトを背景に空中から落下し、ビルの一角で倒れ込んでいた。


■■■■は音を立てずに浮遊すると、黒い槍を無数に生み出した。


その一本一本は、まるで陽斗の罪を具現化したようで、重くて鋭い。



「......死になさい。...私が経験した孤独を、いまここで返してあげる!」



無数の槍が、陽人に降り注ぐ。動けない陽斗は、避けるようすもなく、槍を受け入れる。

漆黒の先端が手に握られたグラムを弾き飛ばす。



――俺には、彼女の攻撃を拒絶する権利がない。



「...ハルトさま!!」

「あんた、しっかりしなさいよ!」



叫び声と共に、俺の前に二つの影が飛び込んだ。

ルナが、小さな体に魔力を纏わせ、必死に障壁を張る。


凛が俺の肩を強く掴み、真っ直ぐに俺の瞳を覗き込んできた。



「陽斗、あんたが何を忘れたかなんて分からない!......でも、いまのあんたが目の前で泣いてる女の子を見逃すようなやつじゃないことぐらい、私でも知ってるわよ...!!」


「......ハルト、さま。...私、しあわせでした。...名前をもらって、アイスを食べて......それは、ハルトさまが、あきらめずに戦ってくれたから...です...!」



ルナの角が、銀色に輝く。

障壁は大きくなり、ルナの魔力が増幅される。



(主様!)



いつのまにか、吹き飛ばされたはずのグラムがいた。どうやら、自力でここまで来たらしい。



(あなたは、彼女を見捨てたのではない。思い出してください!あの日、あなたが誓った言葉を...!)



凛、ルナ、グラムの声が、俺の凍った思考を叩き割る。体に血が巡り、右腕が熱を帯びるのを感じた。



(主様、いまこそ彼女の『影』を受け止めるのです。あなたならできる。)


「グラム...。」



そうだ。俺はあの日、「さよなら」を告げたんじゃない。「必ず迎えに行く」と誓ったんだ。

そして、その誓いすらも、神様の『代償』で消えてしまっていたんだ...。



「もう一度、力を貸してくれるか...グラム。」


(......もちろんです。彼女を...■■■■を取り戻すためにも。主様も気づいているのでしょう?彼女の名前を口にできないことに。)


「...世界が彼女の名前を拒むんだろうな。」



俺はゆっくりと立ち上がった。



「...ハルトさまなら、できます。」

「......無茶しすぎないでよね...。」


「ありがとう、二人とも。」



俺は右手のグラムを、天高く掲げる。



「――来たれ、アステリアの『星』。その力を、再び、解放せよ!」



『真・聖剣解放』



眩しい銀の光が街を覆う。黒く濁った空が夕焼けの色を取り戻し、雲一つない空が広がる。


俺の手には、渋谷でも手にした――聖剣となったグラムの姿があった。


そしてその瞬間、俺の中で彼女の名前が認識される。



「......な、に...私の闇が、溶けて......。」



無数の黒い槍が浄化され、光の花びらとなり、夕焼けを白く覆い尽くすように舞う。


俺は一歩、空へと踏み出した。


重力を無視して、呆然とする彼女と同じ高さまで駆け上がる。



「......待たせたな。名前も、思い出も、約束も、全部持ってきた。...もう、一人にはさせない。戦いは終わりにしよう――エルシィ。」



グラムを手放し、震える彼女の肩を抱き寄せる。


空に浮いたグラムが白い光のカーテンを作り出し、エルシィの漆黒のドレスを純白の法衣に染め直す。



「...う、うそ......ハル、ト...本当に、私...。」


「俺のセカンドライフには、エルシィが必要だ。......今度は――エルシィも一緒に幸せになろう。」



聖女の瞳から黒い涙がこぼれ落ちる。

しかし、涙は地面に届く前に光の粒となって消えていく。


闇が晴れ、グラムから真っ白なカーテンが降りる中、月の光が二人を照らした。


夜の静寂に、泣きじゃくる少女の姿があった。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

(予約投稿のミスでもう一話投稿しています...。)


【エルシィに関する補足】

「幸せになろう」という発言及び聖女エルシィと陽斗の関係についてです。

どのように捉えてもらっても構いませんが、作者としては、エルシィの「日本で幸せになってね...。」に対する対比として「幸せになろう」というセリフを書きました。ただし、エルシィが陽斗に好意を持っているのは事実なので、これからのエピソードにもぜひ注目してください!


次回、どたばたの朝と、一通の『招待状』。


(*+ - +*) < 次の更新は、明日の朝の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ