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1 十年の重み


(*+ - +*)< まだ0pt...だれかptを恵んでください。




ジリリリリリリリリリ!!



翌朝。陽斗は目覚ましの音で起きる朝を、十年ぶりに経験した。



「はっ!追手か!?」



すかさず、枕元にある『聖剣グラム』に手を伸ばす。しかし、手に触れたのは重い鉄の冷たさではなく、プラスチック製の時計だった。



「そうだ、帰ってきたんだった...。」



この十年間、常に死と隣合わせで生きてきた。寝た自分を狙ってくる襲撃者、宿を囲む魔物の群れ。もはや睡眠は1種の戦いであり、精神を削りながら過ごす持久戦であった。しかし、ここは違う。朗らかな笑い声と小鳥のさえずりが響く、平和な街が広がっている。



大きく、深呼吸する。

肺に満ちるのは、魔素の濃い空気や毒霧に比べたら、懐かしく、清々しい空気だ。



壁を見ると、時計の秒針が規則的な音をカチ、カチ、と鳴らしている。


とんとんとん、と母の握る包丁が食材をリズミカルに切っている。


ポップなBGMとサウンド、明るいニュースキャスターの声が、テレビに映るニュースから聞こえてくる。



――平和だなあ。



魔王の呪いも、スライムになってしまったエルフも、血に濡れた武器も存在しない。



...そういえば。


机に置いてある()()に視線を向ける。ごく自然と置いてある、聖剣グラムのキーホルダー。持ってみると、未だに微かな魔力を感じる。


戦闘が嫌いだったとはいえ、十年間連れ添ってくれた相棒とお別れするのは少しばかり寂しかった。そんな俺の思いを汲み取ったのか、神によって作られたキーホルダーは聖剣を完全に再現している。しかも、新品同然の剣ではなく、年季の入ったデザインになっている。


...この先、この剣を誰かに向けることも、血に汚すこともない。


金具をそっと押し込み、近くに置いてあったスクールバッグにつける。



――これからもよろしくな、グラム。



剣に埋め込まれた宝石から、彼の背後に一瞬、真っ直ぐな視線――意思が向けられたことに、彼は気づかなかった。



俺は慣れない足取りで洗面所に向かう。

鏡の前に立つと、魔王を討った伝説の勇者――ではなく、どこにでもいる15歳の少年、天宮陽斗の姿が確かにそこにあった。



「...若返ったなあ。これなら、学割も使い放題、なんて。」



自嘲気味に笑う。

こうして、俺の神様から与えられた"二度目の人生(セカンドライフ)"の初日は始まった。



***



「陽斗、またおかわり?病み上がりなんだから無理しちゃだめよ。」


清々しい朝の食卓。母さんは顔には驚きと困惑が浮かんでいた。


それもそのはず、俺は静かに泣きながら「炊きたての白米」と「焼き鮭」を食らいつくように食べていた。



「うめえ、うますぎる...。俺は、これが、これが食いたかったんだ......。」



米が甘い。味噌汁の出汁が五臓六腑に染み渡る。

異世界では、ドロドロのお粥か、石のように硬い保存食がほとんどだった。

宮廷で出された料理はマシだったものの、魔物の肉は日本の牛肉や豚肉ほど美味くはなかった。よくわからない調味料のかけられたあの味は、決して好んで食べたくなるものではない。俺はこの十年間、ただこの味が恋しかった。異世界の料理と比べたら、日本の家庭料理は神の供物同然だ。



...さて、数週間の間、原因不明の体調不良 (ということになっている) 俺だが、今日から学校に復帰することになっていた。久しぶりに袖を通す制服は、小さな埃が積もっている。

鞄の中を確認してみると、長方形の機械――スマホが入っていた。

スマホの操作方法はあまり覚えていない。正直、魔導通信機の方が慣れているが、まあ触っているうちにだいたいは思い出すだろう。


「いってきます。」


ガチガチの装備と違い軽い身体に驚きを覚えつつ、スクールバッグを背負い、異世界の形見――聖剣グラムのキーホルダーを揺らしてドアを開けた。


眩しい朝の光。アスファルトの上を歩く、懐かしい感覚。たしか、このあたりで異世界に飛ばされたんだっけ...なんて考えながら、慣れない通学路をなぞる。


信号機...たしか青で渡るんだよな。交通規制用の魔道具...ではなく機械。

それにしてもあの光はどんな魔道具で――じゃなくて、LED?だっけ。勇者脳の修正にはしばらく時間がかかりそうだ。


そんなこんなで考え事をしながら歩いていると、背後から聞き覚えのある声、けれど十年ぶりの(こちらでは数週間だが)美化された声を耳がしっかりと捉えた。



「――ちょっと、陽斗!あんた、完全復活したって本当なの!?」



振り返れば、幼馴染の佐倉凛(さくらりん)が立っていた。ショートの黒髪を揺らし、今時っぽい、少し短めのスカートを翻して駆け寄ってくる。

彼女の中では、俺はただ「しばらく学校を休んでいた幼馴染」に過ぎないのだろうが、俺にとって凛は十年ぶりの平和の象徴。


「......凛か。おはよう。」


「お、おはようじゃないわよ!連絡しても全然返事来ないし、おばさんに聞いても「寝てるから」って言われて......心配だったんだからね。」


凛は俺の顔をジロジロと見てきた。


「......ねえ、なんか変わった?」


「え?...そうか?」


「うん。なんか、おじいさん...じゃなくて、山に籠もって修行してきた武道家みたい。あんた、休みの間なにしてたのよ。」


女の勘は鋭い。異世界での修行は、武道家の山籠りと似たようなものだ。


「ちょっと、面白い夢を見ていただけだよ。」


俺達は並んで学校へと歩き出す。

他愛もない流行りの曲の話、テストの話。

隣を歩く凛の体温と、柔らかい声。


最高だ。

この平和を壊す奴がいたら、たとえ神様でもタコ殴りにしてやろう。


そう誓った、その瞬間。



(――ッ!?)



勇者時代、数々の奇襲を切り抜けてきた俺の『危険察知スキル』と『索敵スキル』が脳内で危険信号(サイレン)を鳴らす。後頭部にかかる、ピリピリとした刺激。


信号が出ている方向は、前方の路地裏。

そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()

微かな魔力だが、魔素の歪みを感じる。


(今、のは...空間転移の残滓か...?まさか、日本にも魔物が存在するのか?)


一瞬、俺の目は鋭い獲物を狙う鷹のように細まった。


「陽斗、どうしたの?急に立ち止まって。」


転移をした何者かの気配は、もう周辺には感じられない。


「...いや、なんでもない。ただ、忘れ物をした気がしただけだ。」


「そう。ならいいけど。」


俺は柔らかな笑顔を作って再び歩き出す。


どうやら俺の二度目の人生(セカンドライフ)は、ただ「食って寝る」だけでは済まされないようだ。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

次回、平和な学校生活の始まり――?


(*+ - +*) < 次の更新は、明日の朝、8:00です。

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