13 巫女の白羽
(*+ - +*) < 修復二箇所目。新キャラ来ます...。
長い原宿の道を抜け、代々木公園の緑が視界に入り始めたとき。
背後の人の気配に振り返る。
「はあ、はあ...やっと追いついたぜ。」
「黒崎、ルナは?」
「リリスに預けた。女同士のコミュニティに入るのもなんだしな。」
「...そうか、それもそうだな。」
緑が広がり、空気が一層澄んできたあたりで、ポケットの中でリリスからもらった『星型の飾り』が氷のように冷たくなる。
「......まさか、反応してるのか?」
代々木公園に近づくにつれて、その温度は下がり続ける。
「...陽斗。なんだか、魔素というよりは日本の古い『気』を感じるな。」
「そうだな。だれかがここを『守っている』んだろうな...。」
俺たちは公園の奥深く、明治神宮に続く森の境界線のあたりで足を止めた。
原宿で見たものより巨大で、深く食い込んでいる『歪み』を見つけたからだ。
「周囲に人はいない。さっさと片付けようぜ。」
「...だな。」
『索敵スキル』が反応する。穴から這い出すのは、蛇のような影。
「ギ、ギギギィィ...!!」
こいつはおそらく『デス・スネーク』だ――と、俺の思考がめぐる。
しかし、俺がグラムを構えるより早く、白羽の矢が蛇の眉間を貫く。
――ヒュッ!パーンッ!
疾風のごとく俺と黒崎の間を通過した矢が、清冽な光を放って魔物を消滅させる。
「......そこまでです。迷い込んだ異界の魔獣、および――不審な帰還者たち。」
森の陰から現れたのは、紅白の装束に身を包んだ少女だった。
手にはよく手入れされてそうな綺麗な和弓をもち、背筋をぴんと伸ばしてこちらを見据えている。凛とした雰囲気を纏った彼女は、特務四課の氷室たちとはまた違う、『伝統』を感じさせた。
「...巫女さん、か?」
「失礼。『神宮守護班』の東雲と申します。......天宮陽斗さん、ですね?リリス様から伺っております。」
あいつ、どんだけ有名なんだよ...と心の中で思いつつ、冷たさの引いた『星型の飾り』を取り出す。
「あのさ、これ、なにか知ってる?」
「...託されたということは、知っているのかと思ったのですが。」
「いや、あいつ性格悪いから教えてくれなくてよ。」
「......リリス様のやりそうなことです。簡潔にすると、境界の探知機といったところですよ。」
「...やっぱそうか。」
『星型の飾り』の正体が分かったところで、黒崎が一声をあげる。
「おい、また来るぞ。」
東雲はおろした弓を再び構え、警戒を張りながら、こう言った。
「...あなたも結界の『修復』に協力してくださるとのことですが――正直、その力...。」
言葉を切って、視線をグラムに向ける。
「......古い異世界の呪物を使い、日本の土地を清める。...それは毒を以て毒を制す行為であり、私はあなたを信頼してよいのか、迷っています。ですから...。」
「...見せてください。あなたたちの、力を。」
「......言われなくてもやるさ。」
大きな穴から、先程の個体よりもサイズの大きい『デス・スネーク』が現れる。
「おいおい、ボス級じゃねえかよ...。」
黒崎が困った口調でつぶやく。東雲も大きさに圧倒されたのか、「...手強そうな相手ですね。」と言い、一層集中を高めている。
「グラム、やるぞ。」
(おまかせください、主様!この小娘にいかに私が素晴らしい魔道具であるかということを見せつけてやりますよ!!!)
...さっきの"古い異世界の呪物"を根に持ってるのか?
人がいないことを確認してから、念の為、外からの視覚を遮る結界を張っておく。
「こいつは強い。黒崎が引き付けている間に、矢を打ち込んでくれ。俺がとどめを刺す。あと弱点は――」
「――額と尾、です。この種類とは何度も戦ってきましたから。」
「そりゃあ頼もしいや。黒崎、行けるか?」
「いつでもオッケーだ。カウント...さん...に...いち!!」
デススネークが牙を振るうと同時に、黒崎が一気に飛び跳ねる。
俺と東雲も攻撃をかわし、一度後方に引き下がる。
「こっちだぜ!ついてこれるかな!」
黒崎の挑発に乗ったデススネークの頭部はそのスピードについていけず、右往左往する。
「...なかなかのものですね。さすがは帰還者。」
皮肉とも褒め言葉とも取れるつぶやきの刹那、東雲の矢がまっすぐにデススネークの尾を突き刺す。
「グギャアアアアア!?!?」
「いまだ陽斗!」
「いまです、天宮陽斗!」
二人の声を合図に、高く飛び上がる。
「『雷牙』!!」
雷属性の上級魔法を放つ。鋭い雷が、蛇の体に穴を開ける。
(......牙には牙を...主様らしい選択ですね。さて、そろそろ私の出番ですか?)
「ああ、頼んだぞ、グラム。」
グラムを取り出し、大きな『歪み』の前に立つ。
「な、なにをするんです...!?」
「まあ見てろって。」
「『境界固定』――設置!!」
『歪み』の中心にグラムを突き立てる。光の糸が穴目を縫い、徐々に塞いでいく。
最後に魔力を馴染ませ、作業は終了した。
「...ふう、これでいけたな。」
東雲は目を見開き、信じられないという顔でこちらを見ていた。
「ば、ばかな...私達一族が何代もかけて行う清めを、この一瞬で......!?」
「......これが、『世界を縫い直す男』の力...。」
東雲のつぶやきは、風に流されて聞こえなくなった。
いまのところ、修復は順調だ。
しかし、このとき俺は気づいていなかった。
修復の光が、海の向こうの『別の勢力』に絶好の目印を与えてしまったことに。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
次回、新宿に行く前に、一度ゆったり回を挟みます。
(*+ - +*) < 次の更新は、明日の朝の予定です。




