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12 原宿と『修復』


(*+ - +*) < 初めての『修復』です。




一歩、また一歩と踏みだす度に、街の喧騒が遠のいていく。

背後を楽しげな若者たちが通り過ぎ、俺と対照的な空気の尾を引いた。

先に続く、異世界の汚染区域のような雰囲気が俺の足を重くする。


「...ここだな。」


路地裏の突き当り、スプレーの落書きが散在する壁の一面が、ゆらゆらと炎のように歪んでいる。赤黒い粘液が水たまりのように滴り落ち、魔素がコンクリートを溶かすように広がる。


(...主様。)


壁自身が鼓動するように、魔素が一気に膨れ上がる。


「わかってる、グラム。」



――直後、壁の歪みから鋭く、鎌のような足が飛び出す。



間一髪で突進を回避した俺は、キーホルダーのグラムを取り出して右手に握り込んだ。


飛び出してきた敵は、『マンティス・シャドウ』だ。半分は実体を持ち、半分は透明な体を持つことから異世界で恐れられていた魔物。背後に現れてはあっさりと命を奪うことから、異世界の捕食者と呼ばれている。


襲撃に失敗したことが相当悔しかったのか、狂ったように鎌を振り回し、次の攻撃を繰り出してくる。



「『反発(リターン)』!!」



攻撃を二倍にして返す、カウンターで返す。



「グギ、ギ、ギオオオオオ!」



相手の威力が低いのもあり、倒しきれない。上級魔法である『反発(リターン)連鎖(チェイン)』を使えば自分のステータスを上乗せできるので一撃で倒せるが、それだとこの一帯が吹き飛んでしまう。



――そして、俺の狙いはこいつじゃない。



あとずさったマンティスを置き去りにして、壁の歪みに近づく。



「ギギ!?」


「ここは原宿だ。おまえのテリトリーじゃない。」



右手のグラムに魔力を流し込み、キーホルダーのグラムを歪みの中心に突き立てる。


「『境界固定(アイソレーション)・極』――設置!」



――ドォォォォン!



本来、『境界固定(アイソレーション)』は異世界で街とダンジョンの境界線を引くものとして使用されていたものだ。しかし、今回の魔法は一味違う。昨日の真夜中に眠らず作り上げた、異世界と日本を隔離するための()()()()()なのだ。


グラムの小さな白銀の刃が光り、幾千もの糸が紡ぎ出される。

糸は空間の歪みを縫い合わせるように広がりはじめる。



「グ...ギギ...!?」



穴の半分ほどが塞がった時、倒れていたマンティスがゆっくりと消え始める。修復によって、こちらの世界にいれなくなったのだ。糸が縫われる度にマンティスの体が薄くなり、最後は霧のように消えていった。



(ふう...なんだか、不思議な感覚ですね。主様、見事です。)


「まだだ、この楔に魔力を馴染ませなきゃいけない。」


(案外、疲れるものですね...。帰ったら久しぶりに磨いてくださいよ。)


「キーホルダーって磨けるの?」



グラムと会話しながら楔に魔力を集中させていた、そのとき。



「......あーあ、やっぱり力技だ。勇者様は繊細って言葉を知らないのかなあ?」



いつの間にか、路地の入口にリリスが立っていた。

彼女はクレープの最後の一口を飲み込むと、一歩跳ねて背後に飛んできた。

着地の反動で、長いツインテールが激しく揺れる。


...相変わらず、小柄な体に似合わない恐ろしい脚力だ。



「リリス、終わったぞ。これで塞がったはずだ。」


「......あまーい。...それはただの応急処置。.........あと三回くらい、この周辺の『結束点』も閉じないと。またすぐに開いちゃうよ?」



リリスは地面の亀裂を指でなぞり、またヒントを落とした。



「......いい?...原宿、代々木、そして新宿。.........このラインを『銀色の糸』で繋ぐの。...そうすれば、この街一帯は魔物の入ってこない"聖域"になる。」


「『銀色の糸』...つまり、グラムの力で結界を張るってことか。」


「......察しが早くて助かる。...ご褒美に、これ、あげるよ。」



リリスが俺の手に載せたのは、小さな『星型の飾り』だった。



「...なんだ、これ。」


「『修復(リカバリ)』の道しるべってところだよ。...上手く使いこなせるといいね。」


「道しるべって言われても...。」


「それじゃ、私はルナちゃんの洋服を選んでくるから。...頑張って。」



そう言って俺の元を離れ、軽快な足取りでまたどこかに行ってしまった。



「.........やれやれ。ほんとに何者なんだか。」


(...主様、そんなことより代々木に行かないと。魔力の残滓を追いますよ。)


「......そうだな。」



さっきの戦闘で、グラムはキーホルダーから変化しなかった。

やはり異世界で使ったグラムとは別物なのだろうか?

なにかを忘れている気がするけど......気のせいか。


俺は路地裏の埃を払い、再び原宿の喧騒に足を進めた。


「平和」を守るための、世界の『修復(リカバリ)』。


これが本当の日本に帰ってきた理由になりつつあった。


今日は、少し長い一日になりそうだ。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

次回、代々木の『修復』に現れた刺客!?


(*+ - +*) < 次の更新は、明日朝の予定です。

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