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11 原宿とニット帽


(*+ - +*) < 平和は短い。闇は深く...。



アイスの平和が訪れた翌日。

俺、黒崎、ルナはルナの帽子を探すべく原宿に来ていた。


十年ぶりの原宿は、王都のギルドのように賑やかで、なにより派手だった。



「......ハルトさま、人がたくさん、います...。敵ですか?包囲されちゃいます...。」



初めての地に行き交う人々を、彼女は不安げに見ている。


今日のルナは、黒崎がどこからか持ってきたオーバーサイズのパーカーを着ている。フードで角は隠れているものの、先端の尖は流石に隠しきれなかった。



「敵じゃないよ。みんな、ここに遊びに来てるんだ。...はぐれないように、気をつけろよ。」



挙動不審の彼女に、黒崎が教育するような物言いで言う。



「いいか、ルナ。ここは『かわいい』という属性が全てを支配する戦場だ。ルナの角を、『そういうファッション』だと思わせるんだ。」



ちなみに黒崎は、まるでスカウトマンかのようなスカジャンに、サングラス、というこの場に自然すぎるほどに馴染む格好をしている。



「おまえ、そういうの意外に詳しいんだな...。」


「......異世界じゃ、『擬態』は暗殺者の基本だろ。」


「...なるほど?」



俺達は一軒の帽子専門店に入った。壁一面に色から形まで様々な帽子が並び、ルナは先ほどとは一変して楽しそうに店内を眺めている。


俺は、一番上にあった銀色のポンポンがついた、ニット帽を手に取った。



「ちょっと、被ってみてくれ。」


「...はい!」



ルナは周りをキョロキョロと見回し、そーっとフードを外して帽子を被る。



「...ど、どう、ですか......?」



まだ角の突起が目立つものの、ポンポンのおかげで『そういうデザインの帽子』に見える。


上目遣い、澄んだ瞳、揺れる髪。


...破壊力抜群だった。


(......ほう、主様。顔が赤くなっていますね。)


バッグの中のグラムが、ニヤニヤとした思念を送ってきた。



「...黙れ。」


「......どうかしました...?」


「あ、違う。なんでもないよ。いまのは、グラムに!」



自分に言われたのかと不安になってしまったルナに、慌てて否定する。



(......はあ、まったく。)



...グラムの念話が聞こえたけれど、気のせいだと受け取って無視しておく。



「よく似合ってるぞ。これで、外を歩いても怖くないな。」


「......はい...!」



ルナの顔がぱっと明るくなる。会計を済ませて店を出たその時、人混みの中から聞き覚えのある「だるそうな」声が聞こえてきた。



「......あーいたいた。...なに?バカップルの買い出しかなー?目の毒だなあ。」



振り返ると、そこには片手にクレープを持ち、パンダのリュックを背負ったリリスがいた。黒いスポーツキャップに、シンプルなデザインのセーター。短めのスカートから細い足が露出していて、長いツインテールがゆらりゆらりと揺れている。小学生にしか見えないリリスは、俺達を小馬鹿にするような表情でこちらを見ていた。



「...リリス、仕事はどうしたんだ?氷室さんたちは?」


「今日は非番。...たまには糖分補給も必要なの。......ねえ、本当は"境界(ひび)"のようす、見に来たんでしょ?」



そう言って、クレープの先で奥の路地裏を指した。その先には、華やかな原宿の雰囲気の延長線にあるとは思えないほどの静けさが、ひっそりと佇んでいる。

何も言えない俺に畳み掛けるように、リリスはさらにこう言った。



「......陽斗、本当は気づいてるんでしょ。グラムがさっきから震えてる()()。」


(...主殿、リリスの言う通りです。あそこには異世界の『瘴気』を感じます。)



グラムの声は、いつになく真剣だった。



「...ああ、分かってる。黒崎――」


「ルナを任せる――だろ?」



言葉を続ける前に、黒崎は俺の意図を読み取ってくれた。



「ああ、頼んだ。」


「...ハルト、さま......。」


「どうした、ルナ。」


「...むりは、しないで、ください。」


「......大丈夫だよ、すぐ終わる。」



ルナを安心させるように、頭を撫でる。


交差点の人混みを抜け、俺は路地裏に一歩を踏み入れた。


日本の平和を守るための、最初の『修復(リカバリ)』。

原宿の喧騒の隅で、陽斗の戦いが始まろうとしていた――。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

次回、初めての『修復』が、静かに幕を開ける――。


(*+ - +*) < 次の更新は、明日朝の予定です。

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