10 アイスと誓い
(*+ - +*) < 今後のビジョンを見据えて、少し踏み込みます。
特務四課とリリスが去った、翌日。
俺の家には、久しぶりの平穏が訪れていた。
「......ハルトさま、これ、なんですか...?すっごく、つめたい、です...。」
ルナがスプーンを片手に持ち、カップに入ったバニラアイスを凝視していた。
「アイスクリームだよ。溶けないうちに、食べてみろ。」
ルナは恐る恐る、スプーンを口に運ぶ。
直後、彼女の瞳が大きく見開かれる。
「......っ!!...美味しいです!とっても、甘くて...ゆきみたい...。」
満開の笑みが、場を和ませる。俺も、思わず安心していた。
......よかった、喜んでくれて。異世界での血に濡れた十年間の報酬がこの小さな笑顔なら、俺は十分すぎるほどに報われる気がする。
(......ふん。主様、だらしないですね...。)
脳内に響くグラムの声。視界の端で、銀色のキーホルダーがゆらりと呆れに揺れる。
(まあ、主様が守りたかったものが『これ』だというのなら...私がその盾になるのも、やぶさかでもありませんが......。)
「なんだ、おまえも食いたいのか?」
(なっ......!この清き聖剣である私に不純物の塊を食べさせようとするとは、本当に.........あ、でも...イチゴ味だったら...興味が、少しだけありますが......。)
意外とチョロい相棒だ。
「まあ、今度な。黒崎も食うか?」
「......俺はいい。甘い物は苦手だ。」
黒崎はぼんやりと空を見上げていた。特務四課と戦ったときも、こんな感じだった気がする。
なんというか、どこか憑き物が落ちたような感じ。
「......なあ、あのガキが言ってたこと...覚えてるか?」
「...ああ、『門』をこじあけた"代償"だよな。」
俺は、幸せそうにアイスを食べるルナを見ながら、掌を握りしめた。
俺が帰ってきたことで、世界の境界線に『ひび』が入った。
もしも、その裂け目が広がったら。この世界が飲み込まれてしまったら。
俺の人生は、再び異世界の戦場へと戻されてしまう。
...そしてなにより、日本の平和を望んだ俺自身が、この世界を壊してしまうかもしれない。
(守るだけじゃだめだ、この世界を『修復』しなきゃいけない...日本の平和のためにも。)
日本各地に点在する、異世界と日本の境界線が薄くなった場所。
全て巡り、『本当の平和』を取り戻さなきゃいけない。
それが、帰還勇者である俺のセカンドライフの、本当の仕事なのかもしれなかった。
――必ず、守ってみせる。
「ルナ、明日は街にお出かけしようか。」
「......おでかけ、ですか?ハルトさまと...!」
「ああ、帽子を探しに行くんだ。」
嬉しそうに立ち上がるルナ。アイスの入っていたカップは、いつの間にか空になっていた。
俺がこの先どうするにしても、その頭につく角を隠すための、帽子を探さなければいけない。
きっと、日本を「永遠の安住の地」にするための、長い旅の一歩になる。
「俺も付き合うぜ。...その角を隠すためには、派手なファッションが多い原宿が最適だと思う。」
意外にも的確なアドバイスをした黒崎が、体を伸ばす。
勇者と、傭兵と、魔族。そして、生意気な聖剣。
俺達の「本当の日常」がゆっくりと、確かに始まっていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
次回、ルナとの買い物はまたしても波乱の予感――。
(*+ - +*) < 次の更新も明日の予定です!




