9 ツインテール襲来
(*+ - +*) < メリークリスマス!
「......開けていただけますね?」
画面越しに映る、冷徹な氷室の目。
怯えるルナを後ろに庇いながら、俺はドアノブに手をかける。
「やめておいたほうが良い。こいつら、令状なしで踏み込んできてるんだぜ。」
声に振り返ると、窓枠にもたれる黒崎の姿があった。
「......しれっと不法侵入してるおまえの方がやばいと思うけど?」
「まあまあ、いいじゃん。」
「...話し合えば、帰ってくれるさ。なんたってここは日本なんだから。」
(.........根拠のない自信...昔から変わらないですね。)
「......幻聴か。」
覚悟を決めて、ゆっくりとドアを開ける。先日の黒スーツの集団――氷室率いる特務四課と、中央でタブレットを操作する、女の子の姿があった。
「おー、いたいた。伝説の勇者、天宮陽斗さん?笑 おひさー」
「......は?」
腰まで届く長いツインテールに、フリルの付いた可愛らしいワンピース。
明らかに小学生と分かる、幼い少女。陽斗には、全く覚えがなかった。
「......わからん...親戚か...?」
「彼女は我々の『特別顧問』だ。君たちのようなイレギュラーを管理するための、な。」
少女――リリスは、俺をまじまじと見つめ、キャンディをぺろりと舐めた。
「......はは、相変わらず脳筋の顔だ。隣の聖剣ちゃんも泣いてるよ?『キーホルダー扱いされて屈辱ですぅー』って。」
(!? 主様、この少女は私の声が聞こえているのですか!?)
戦闘に備えてと思い、念の為に持ってきていたスクールバッグが、動揺に揺れる。
「なにいってるんだ?これは日本の最新技術でボイスが.........。」
「......ぷっ............あははははは!!...傑作だ!ねえ、こいつやっぱり馬鹿だよ。面白すぎるから、今日は見逃しちゃおうよぉ。」
俺の発言が余程面白かったのか、いつまでもクスクスと笑っている。
まだ信じられないけど......グラム、まじでごめん。
(主様、本当に、呆れてしまいますよ。あそこまでして気付かないだなんて...。)
一方の氷室は困惑の表情を浮かべている。
「しかし、リリス様...『被検体09』の回収命令が......。」
「...命令?そんなの私が"書き換えた"し。今この瞬間から、ルナちゃんは脳筋勇者さまの『観察対象』ね。それとも、文句あるの?」
リリスが手のひらをヒラヒラと振ると、氷室は悔しげに唇を噛んだ。
...どうしてルナの名前を知っているんだ、という困惑はありつつ、リリスから放たれる魔素を見ていると、当然のことに思われる。彼女から放たれる魔力の密度は、俺でさえも驚くほどだ。
「まあ...リリス様がそうおっしゃるなら......。天宮陽斗、今日のところは特別です。行くわよ。」
「「はっ!」」
氷室は力任せに言い捨てると、部下とともに玄関から離れていく。
よくわからないが、ボイス機能の話で助かったみたいだ。
「...行かないのか?」
玄関に残るリリスに声をかける。
リリスはクスクスと笑いながら、こちらに手を招いてきた。
いいから来い、と言っているようだ。
一歩前に出ると、長いツインテールを揺らしながら背伸びをし、俺の耳元でこう言った。
「......いい?...『門』が開いたのは君が帰ってきたからじゃない。...君を帰すために、誰かが『無理やりこじ開けた』んだよ。.........その代償が、そろそろ来るかもねぇ。」
「...代償?おい、どういう意味だ。」
問い詰める俺に、リリスは「...さーぁね。」と煙に巻く。
ぴょこ、ぴょこ、とスキップをして、彼女は氷室の方へ行ってしまった
「.........なんなんだ、あの子。」
「あいつ、神みたいな匂いがするぜ...。」
黒崎が戦慄したように呟く。
リリスが残した不穏なヒント。
俺の背後では、「私、ルナです! おてつだいします!」と慣れないエプロン姿でルナが張り切っている。
......母さんが困惑してるから、あとで上手く説明しないとな...。
勇者のセカンドライフは、息をつく暇もなく、進んでいく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
次回、ルナとの休日。
(*+ - +*) < 次の更新は、明日の朝、8:00予定です。




