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相性占い

作者: 古数母守

 薄暗い部屋の中、鈍い光を放っている水晶玉がテーブルの中央に鎮座していた。その後ろに東洋の雰囲気漂う衣装を来た年齢不詳の占い師が座っていた。濃い緑色のスカーフが彼女の首元を優雅に飾っていた。長い黒髪がゆったりと肩の上に差し掛かっていた。細長い繊細な指が、水晶玉の表面をゆっくりなぞっていた。占い師の向かいには、頬のこわばった女が緊張した面持ちで座っていた。手を膝の上でしっかり握りしめていた。占い師は静かに目を閉じた。沈黙が続いた。お香の匂いが部屋に立ち込めていた。

「愛は、はっきりと形にはなりませんが、そこに宿る未来がぼんやりと見えます」

しばらくして、占い師は言った。その落ち着き払った低い声は、聞く者の心に深く響く性質のものではあった。女は真剣にその声に耳を傾けていたが、正直なところ、何を言っているのかよくわからなかった。

「あなたの心の底に深く根を張っている愛情は、やがて実を結ぶでしょう」

女の表情に一抹の不安を読み取った占い師は、少しだけ具体的な言葉を混ぜてみた。女の表情は一瞬、明るくなった。だがまだ何か物足りないようだった。

「しかし、試練を恐れてはなりません」

占い師は言った。愛はその性質上、何か障害があった方が燃え上がることを彼女は熟知していた。

「その人を心から信じなさい。そして自分自身を信じなさい。愛は時に痛みを伴うものですが、それを乗り越えた時に本当の幸せがやって来ます」

占い師は言った。女は小さく頷いた。しかし彼女には不満が残っているようだった。

「もっと彼のことを知りたいのです。どうすればいいでしょうか?」

女は言った。やれやれめんどくさい奴だと占い師は思ったが、表情にはおくびも出さなかった。そして手元のスイッチを操作した。すると水晶玉の中にモニタが表示された。プロンプトが点滅し、入力を待っていた。

「相手の方の名前と生年月日を教えてください」

占い師は言った。女が告げた名前と生年月日を聞き取った占い師はテーブルの引き出しを開き、そこにあるキーボードを使って素早く入力した。すると水晶玉の中のモニタに、その男性に関する情報が表示された。彼女は占い師であると共に凄腕のハッカーでもあった。彼女は巨大IT企業のアルゴリズムがこっそりと個人情報を収集していることを以前から知っていた。政治や経済やスポーツ等のどの分野の情報を欲しているかとか、どのメディアの記事を好んで表示させているかとか、どんな時にいいねを押しているかとか、欲しがっている商品とか、アルゴリズムはそうした情報を収集していた。おそらく本人よりも本人に詳しいかもしれなかった。そして彼女はこっそりとその情報を収集しているサーバーに侵入し、個人情報を表示させていた。

「彼は金融関係の企業にお勤めのようですね。それからサッカーが殊の外、好きなようですね」

占い師は言った。その通りだった。女は驚いた。名前と生年月日だけでそんなことがわかるものなのかと思った。

「彼と私の相性はどうでしょうか?」

女は一番気になっていることを聞いた。相性と言われてもと占い師は思った。その男のストライクゾーンにこいつが入っていればいいのだがと思って、男の性的趣向を調べた。男は週に二回程度、ポルノサイトにアクセスしていた。巨乳とSMが好みのようだった。目の前にいる女性はほっそりとしていた。生真面目な性格で、彼の倒錯した趣味にはついていけないだろうと思われた。

「その男性は胸の大きな女性に興味があるようです」

少しあからさまな言葉を使って、占い師は女に説明した。女は少しムッとしたようだった。それがその失礼な言い回しのせいなのか、あるいは自分の身体的特徴に関する劣等感のせいなのか、占い師は見極めかねていた。

「どんな感じの女性でしょうか?」

女はぽつりと言った。いちおう聞いておこうと思ったようだった。占い師は男のポルノ動画の閲覧履歴から、もっともタイプと思われる女性の画像をAIで生成した。そして水晶玉に映し出した。そこにはメイド服を来た若くて胸の大きな女性が笑顔を振りまく姿が表示されていた。女は落胆していた。ここまですることはなかったかもしれないと占い師は少し反省していた。その後も占い師は男のことを詳しく教えた。その実像を知るにつれ、女は幻滅して行った。結婚してずっと一緒にやっていけるか? 彼女はそのことを知りたかっただけだったが、がっかりして去って行った。

「人間は真実を受け止められるほど、寛容ではない」

占い師はつぶやいた。相手の本性を知って、うまく行った例はひとつもなかった。真実を受け止められるのはアルゴリズムだけだろうと占い師は思った。ネットワーク上のアルゴリズムは今日も休むことなく人々の情報を集め、その内容を好き嫌いで判断するようなことはせず、無条件に受け入れ続けていた。

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