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魔王領突入――聖剣と結界の誓い

魔王領へと踏み込んだ勇者と聖女。瘴気渦巻く中、魔物化したオークとの死闘が始まる。聖剣と結界、そして妖精ノアの力が交わる時、新たな誓いが生まれる――。

森の緑が途切れ、

不気味にねじれた黒い大地が広がっていた。

徐々に魔王領深部に向かっているのだ。


地面からは瘴気が立ち昇り、

風は冷たく、月光さえも濁って見える。


「……魔王領の中でも、ここからは直轄地だ」


地面を踏みしめた瞬間、黒い瘴気が靴底を這い上がり、足が鉛のように重くなる。


「チッ……足が鈍る。

 リンカ、浄化魔法もう一度かけられるか?」


「ふわぁ……空気がどろっとしてる。

 聖女の体には毒だわ」

 ノアがレンの肩にちょこんと座って、

 わざとらしく咳をした。


「お前は平気そうだな」

「だって妖精だもん。

 ……でも、レンの顔色も似たようなもんよ?」


「聞いた俺が馬鹿だった。ちょっと黙ってろ」


その時だった。


前方でふっと土煙が立ち、

黒い影がゆっくりと姿を現した。


背丈は人の倍以上、腕は岩のようにごつく、

赤い瞳がぎらついている。


「……魔物化したオークか! でかいぞ!」

レンが剣を構えた瞬間、リンカがぽつりと呟く。


「わぁ、筋肉ムキムキ! レンとどっちが強いかな?」

「比べるな! 俺はこんな血走ってねぇ!」

「ふふ、すぐ目が赤くなりそうだけど?」

「集中しろ、今は!」

ノアは口元を押さえながらくすくす笑っている。


オークが咆哮を上げ、

地面を叩き割りながら突進してきた。


その足音だけで周囲の瘴気が震え、空気が重く圧し掛かる。


「リンカ、後ろに下がってろ!」


レンは聖剣を抜いてリンカの前に出ていく。


「そのままじゃ危ない!――神聖結界!」


途端に、周囲一帯にまぶしい光の壁が展開される。


周囲の瘴気を浄化しながら森に潜んでいた小型魔物たちまでごっそり弾き飛ばす。


大型の魔物が怒り狂ってレンに雪崩れ込んでくる。


「おい!余計なやつまで寄越すなぁっ!」

「ご、ごめん!

 瘴気が強くて調整がむずかしいみたい!」


「結界が出せるなら上等だ!

 これで聖剣の力が発揮できる」


レンは大型の魔物に囲まれながら、リンカに襲い掛かろうとしていたオークの片腕を切り落とす。


「グルァァ!」


オークはひるまずに

残った片手でリンカの結界に斧を振り下ろす。


「リンカ!」

その時、ぱっと金色の光が舞った。


レンとリンカの間にふわりと現れたのは、 

手のひらサイズの小さな妖精――ノアだった。


「見てらんないわね」

「強力な瘴気を纏っている。

 結界が破れるぞ、逃げろ!」


「私も戦うよ!」ノアは鱗粉をまき散らす。

歪んでいた結界が強化され、オークの斧が弾かれる。


さらに、リンカの身体が一瞬柔らかな光に包まれ、

魔力が回復していく。


「すごい……力が戻ってくる!」

「んふふっ、感謝しなさいよね。借りは返したわよ」


「……今はそれどころじゃねぇっ!」

オークが咆哮と共に地面を叩き割る。飛び散った石片がレンの頬をかすめ、熱い血が滲む。


「くっそ、デカいくせに速い!」

レンは剣を構え、リンカを再び背後にかばった。


しかし、突進の勢いは想定以上で――


「レン、右っ!」

ノアの声と同時、金色の光線が走り、

大型魔物の一体を撃ち抜く。


「お、お前攻撃できるなら先に言え!」

「だって怖いんだもんっ!本能で撃ったの!」


「話してる暇ない!リンカ!」

レンの叫びを察した聖女は力を解き放つ。


「任せて――《聖なる矢・精密射》!」

光の矢が剣筋に重なり、オークの肩を正確に貫いた。


「よし、今だ……!」

レンは隙を見て跳び上がり、

袈裟切りで一撃を叩き込む。


「はあぁぁぁっ!」

「グォォォォッ!」


黒い巨体が地響きを立てて崩れ落ち、

やがて瘴気と共に溶けていった。


「よしっ!一気に片付ける

 ーー聖光一閃せいこういっせん


レンの聖剣から光の刃が飛び出し

残りの大型魔物を切り裂いていく。


「さすが勇者の一撃ね」ノアが歓声を上げた。

「きゃ!」リンカは魔物の返り血がかかり、

 小さな悲鳴を上げた。


レンが聖剣を鞘に戻すと、静寂が戻る。

瘴気の風が、三人の間をすり抜けていく。


「……ふぅ。なんとか倒したな」

「……今ので、誰も傷ついてない?」

リンカが魔物の血を拭いながら声を掛ける。


「馬鹿!俺はお前さえ無事ならいいんだ!」

レンが息をつくと、

ノアがニヤニヤしながら降りてきた。


「ふーん、いいコンビじゃない。

勝利のキッスはしないのかなぁ」


「えっ!?な、なにを突然……!」

リンカが真っ赤になる横で、

レンが大きくため息をついた。


「おいノア、次言ったら置いてくぞ」

「えー、いいじゃない、ちょっと気になるだけよ」

ノアはくすくす笑いながらレンの肩にちょこんと座る。


リンカはぷいと顔をそらしながら呟いた。

「……ほらね、レン。私たちって“いい雰囲気”なんだって」


「お前まで何言ってんだよっ!」

三人は笑い合いながらも、その視線の先――


魔王領の奥に、

決意を固めるような静かな緊張が走っていた。


黒い瘴気の渦の中で、巨躯のオークが崩れ落ちると、

不気味な静寂が辺りを覆った。


耳の奥でまだ地響きの余韻が鳴り、レンは荒い呼吸を抑えるように剣を地面に突き立てた。


「……あと一瞬判断を誤れば、俺たちここで終わってた」

リンカは少し怯えた表情を浮かべ、

それでも必死に笑おうとした。


「……でも、勝てた。ふたりで」

その笑顔に、レンは返す言葉を失った。

けれどすぐに視線を外し、険しい声で言う。


「……お前は城を出てどんどんお馬鹿になっていくな」

「な、なによ!」


「だけど……そういう馬鹿じゃなきゃ、

 俺は信じられない」


レンは疲れたように笑い、

血に濡れた剣を拭いながら立ち上がる。


リンカは驚いたように彼を見上げ、

そして安心したように微笑んだ。


「勇者様、もう迷わないでね」

「ああ。二人で必ず帰ろう」


二人は黙って空を仰いだ。


黒い雲が渦を巻き、

夜空の星はほとんど見えなくなっていた。

だがその闇の奥で、一筋の光がかすかに瞬いている。


レンとリンカは互いに手を取り合い、

その光に導かれるように、


魔王領のさらなる奥へと足を踏み入れていった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回はついに魔王領に突入し、初めての本格的な戦闘となりました。

勇者レンと聖女リンカ、そして妖精ノア――三人の連携はいかがでしたでしょうか。

次回はさらに魔王領奥地へ。強敵や人間側の影も絡み、物語が動き出します。

引き続きお楽しみいただければ嬉しいです!

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