中身おじさんの女魔王と、勇者&聖女の最終決戦!
巨獣を退け、ついに魔王城最奥へ――。
勇者と聖女の前に現れたのは、美しき姿と親父声を併せ持つ異形の魔王!?
笑いと恐怖が交錯する決戦の幕開けです。
巨獣が瘴気の霧となって消え去ったあと、
回廊には不気味な静寂が訪れた。
壁に走る魔力の脈動が、
まるで生き物の鼓動のように重く響いている。
レンは額の汗を拭った。
「……どうやらスカルドラゴンが
最後の化け物だったらしいな」
リンカは息を整えながら、
床に散った光の粒を見つめる。
「ちょっと休憩できればよかったんだけど。
呪文を使い過ぎてしまったわ」
彼女の声は震えていたが、その瞳は決意に満ちていた。
レンはそんな彼女の手を強く握り返す。
「俺が見張りをする。少し休憩しよう」
リンカは小さく頷き、微笑んだ。
「……ありがとう」
リンカはしゃがんで干し肉を齧り始めたが、
不意にボロボロと涙を流し始めた。
「辛かったらここで休んでいるといい。
ノアにも言ったが、俺は感謝している。
リンカの助けが無かったら、
俺はゴーレム戦で死んでいた」
聖女は涙を拭うと、レンを見上げた。
「つらくて泣いてたわけじゃないの。ごめんね」
「勇者は魔王に勝つと相場は決まってるんだ。
任せておけ!」
二人が再び歩みを進めると、
やがて巨大な扉が視界に現れた。
漆黒の鉄で造られたその扉には、
無数の魔族の紋様が刻まれ、
中心には赤黒い水晶が脈動している。
扉の向こうからは圧倒的な瘴気が、
波のように押し寄せてきた。
レンは聖剣を構え直す。
「先方もお待ちかねのようだぜ」
リンカも胸の前で祈りの印を結び、
再び神聖な光が全身を覆う。
「魔王を倒せば、すべて終わる。そうでしょう?」
レンは一瞬だけ彼女を見て、静かに笑った。
「いや、俺たちが生きて帰るまでが本当の終わりだ」
二人は視線を合わせ、同時に扉へと手をかけた。
漆黒の扉がゆっくりと開かれ、
そこから溢れ出す瘴気は、
まるで地獄の底から這い出す炎のようだった――。
玉座の間は瘴気で覆われ、
黒水晶の柱が不気味に光を放っていた。
その奥、漆黒のドレスをまとった魔王が、
白い足を組んで座している。
その玉座に腰掛ける影――
銀の髪を垂らし、艶やかな黒衣を纏った女。
白磁のように滑らかな肌、妖艶な微笑。
だが、その口から発せられた最初の声は
……驚くほど低く、渋いものだった。
「おぉ……やっと来たか、勇者と聖女よ」
リンカが思わず目を丸くする。
「……えっ?」
レンも剣を構えながら眉をひそめた。
「魔王って女だったのか?」
「声……いや、中身がおっさんだな?」
女魔王はゆっくりと立ち上がり、優雅に歩み寄る。
その動作は完璧に女王然としているのに、
吐き出される言葉はまるで居酒屋の常連客だった。
「まぁ、見た目は気にするな。肉体は捨てたのだよ。
こっちの方が威厳があるだろう? ふふん」
リンカが小声でレンに囁く。
「いや……正直、余計に怖いよ……」
女魔王は二人の反応を愉快そうに見下ろした。
「小娘よ、聖女と呼ばれているらしいな。
魔王領に入った時から
ずっと見ていたぞ。あれでは国も持て余すはずだ」
リンカはぎゅっと拳を握る。
「私がここまでの魔力を持ったのも
…あなたの力に呼応してのこと!
神があなたを滅ぼせと言っているのよ」
だが、魔王は肩を揺らして笑った。
「はははっ! 威勢がいいなぁ! だがな――」
彼女の指先から黒炎が噴き出し、
広間全体が灼けるような熱に包まれる。
次の瞬間、玉座の間が揺れ、床石が砕け散った。
「この私を倒せると思っているのか?
聖女と……うぬぼれ勇者風情が!」
レンは歯を食いしばり、剣を構える。
「……来いよ、魔王。俺とリンカでお前をぶっ倒す!」
女魔王はその挑発に愉快そうに笑みを浮かべる。
「ふふ……良いぞ。久々に楽しめそうだ。
勇者は手足を潰して――魔王城で飼ってやろう。
聖女は磔にして王国に帰してやる」
広間を揺るがす衝撃音と共に、
決戦の火蓋が切られた――。
広間を満たす黒炎の奔流。
レンは咄嗟にリンカの手を引き、身を翻して跳ぶ。
直後、二人の立っていた床が溶けるように崩れ落ちた。
「おいリンカ! 防御はお前が頼みだ!」
「わ、わかった!」
リンカは慌てて祈りの言葉を紡ぐ。
黄金の障壁が瞬時に展開され、
押し寄せる黒炎を弾き返した。
しかし、その障壁の外側で空気が歪み、
耳をつんざく轟音が響く。
女魔王は艶やかに微笑み、低い声で嗤った。
「ほぅ……なかなか耐えるな。
だが、聖女よ、その魔力どこまで回復した?」
レンが聖剣を振り抜く。
光を帯びた刃が一直線に魔王を狙った。
しかし、魔王はひらりと舞うようにかわす。
その動きは優雅で女らしい
――にもかかわらず、
吐き出す声は居酒屋の親父そのものだった。
「おっと、危ねぇな!
お前、けっこう筋がいいじゃねぇか!」
「うるせぇ! ちょっとは魔王らしく喋れ!」
「魔王らしくってなんだよ! 俺は俺だ!」
剣戟と炎がぶつかり、衝撃波が広間を揺らす。
リンカが両手を組み、必死に祈ると、
結界がさらに広がり、レンに力を与えた。
「レン! 今だよ!」
「おう!」
剣に聖なる光が宿り、魔王に斬りかかる。
だが――女魔王は笑みを浮かべたまま、掌を突き出した。
「その程度で俺を倒せると思うなッ!」
黒炎と光刃が正面衝突。
爆発的な衝撃が広間を揺るがし、
天井の魔石が砕け散る。
レンは吹き飛ばされ、床を転がった。
「レン!」
リンカが駆け寄る。
しかし魔王は悠然と歩み寄り、低く唸るように告げた。
女魔王は咳払いをし、艶やかに微笑んだ。
「さあ、余の力を見せてやろう!」
次の瞬間、玉座の間に黒い炎が広がった。
レンは剣を抜き、リンカは聖光を展開する。
「来るぞ!」
閃光と闇の衝突。
女魔王は舞うように杖を振り、
黒炎の刃を次々と放った。
リンカが聖光で打ち消し、
レンが一歩一歩、距離を詰める。
「くっ……速い!」
「油断しないで、レン!」
美しい容姿とは裏腹に、圧倒的な攻撃速度。
しかし、ふとした瞬間――
「うおっ、久しぶりの運動は腰にくるな……」
女魔王が顔をしかめ、腰を押さえた。
「……今、何て?」
「い、いや……余の魔力が高まりすぎただけだ!」
「いやいやいや!完全におっさんの言い方だったぞ!」
リンカは激戦のさなかに吹き出した。
魔王のギャップに振り回されつつも、勇者と聖女は一歩も退かず挑みます。
次回、彼らの力と絆が本当に通じるのか
――決戦の行方をぜひ見届けてください。
ふたりの物語も残り2話となりました!
次回9/17投稿予定です。
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