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魔王城・第一戦――瘴気の門を越えて

瘴気に満ちた魔王城へと踏み込んだ勇者と聖女。

門番との死闘、魔獣との激突――そして、魔王の間へ。

リンカは思わず声を漏らす。

「ここが……魔王城……」


恐怖ではなく、圧倒されているのだ。

聖女としての感覚が告げていた。

ここが魔の源であると。


レンは剣を握り直し、深く息を吐く。

「ゴーレムを倒したら扉が開いた」


近づくほどに空気は重くなり、喉が焼けるように痛む。

普通の人間なら一歩も近づけない。


だがリンカの持つ光が、ふたりの周囲だけを辛うじて浄化し、進む道を切り開いていた。


城門は半ば崩れ、巨大な顎のように口を開けていた。

そこに立つと、背後の世界が遠く霞んで見える。


ここから先は、生者が戻れぬ領域

――そう告げられている気がした。


回復したノアはふわふわ飛びながら、

きゅっと口を結んだ。

「ねぇ……ごめん。ここから先は、私、行けない」

「どうしてだ?」レンが眉をひそめる。

「魔王の瘴気は、

 私みたいな小さな存在を消しちゃうんだ。

 それに、これ以上二人の足を引っ張りたくない」


ノアは小さな拳を握りしめながら、

それでも笑顔を作った。


リンカは黙ってノアを見つめ、そっと両手を差し出す。

ノアの手は小刻みに震えていた。


「ここまで一緒に来てくれて、ありがとう。あなたの歌のおかげで、私は何度も立ち上がれたわ」

ノアはその手にちょこんと座り、羽根を震わせた。

「……うん。

 でも、最後にひとつだけ意地悪な質問していい?」

「え?」

妖精はレンをちらりと見て、にやりと笑った。


「聖女さま、もう結婚まで一直線よね?」

「なっ……おまっ!」

レンが慌てて制止するが、リンカは真剣な顔で答えた。


「ええ。私はこの人と共に歩むと決めたわ」

妖精の瞳が潤み、声が少し震えた。

「そっか……よかった。答えが聞けて、安心した」

彼女は羽ばたき、二人の頭上で光を散らす。


「私の力、ほんの少しだけど置いていくね。

 これがあれば、きっと戦える」

柔らかな光が舞い降り、レンの剣とリンカの胸に宿る。

「ありがとう、ノア」

「ありがとう。絶対に帰ってきてね!」


ノアは涙をこらえながら、泉の方へと飛び去っていった。

残された光の余韻が、二人の背中を押す。

レンは剣を握りしめ、リンカと視線を交わした。

「行こう、リンカ」

「ええ。ここからが本当の戦いね」

そして二人は魔王城の門へと歩みを進めた。


魔王城・第一戦

巨大な城門を抜けた瞬間、地面が震えた。

闇の奥から、甲冑をまとった騎士の亡霊が

整然と並んでいる。

だがその鎧の隙間からのぞくのは人の肉ではなく、

黒く爛れた魔の瘴気。

「お出迎えだぞ」

レンは剣を抜き、歯を食いしばった。


騎士は隊列を組むと無言のまま、

巨大な斧を振り下ろす。

地面が抉れ、瓦礫が飛び散る。


辛うじてかわしたレンの背後に、リンカが結界を張る。

守護結界サンクト・ウォール!」

光の壁が騎士の一撃を受け止め、火花のように散る。


「リンカ!先に瘴気を何とかしてくれ、」

「えっ、でも!」

「魔王領で出会ったシャドウナイトが瘴気で強化されているんだ!」

リンカは歯を噛みしめ、呪文を唱える。

結界を重ねるのは始めての経験だ。


もし、守護結界が消えてレンが切られてしまったら

――私達の旅はそこで終わる。

「清浄の祈り(プリエール・クレール)」小さな浄化の結界を慎重にレンの足元に重ねた。

途端に防御は安定し、レンは聖女に笑いかけた。


「助かる!」

浄化の光で怯んだシャドウナイトに剣を構え直し、

突進する。

騎士達は円陣を組み、勇者の退路を断つと、

強引に斧を振り下ろす。

「今度ははじき返して見せる!」


だが騎士の斧は重い。受け止めるたび、

腕がしびれ、足がめり込む。

「クソッ……!」

その瞬間、リンカが叫ぶ。


「レン! 左肩の継ぎ目!」

光の矢が放たれ、騎士の肩を撃ち抜いた。

黒い瘴気が噴き出し、わずかに体勢が崩れる。

「ナイス!」

レンはすかさず剣を振り抜いた。


刃が鎧を裂き、深く切り込む――

しかし、斬られた箇所からさらに濃い瘴気が噴出し、

傷口が閉じていく。


「……再生するのかよ」

「聖なる力で止めないと……!」

リンカは両手を組み、さらなる祈りを捧げる。


「――勇者を守る清浄の祈りよ。

 悪しき騎士達を退けて!」

天井から降り注ぐ光が円陣を組んだ騎士を

まとめて包み込む。

断末魔のような咆哮をあげ、

瘴気の影が焼かれていく。


「今だっ!」

レンは渾身の力で突きを放ち、胸部を貫いた。

黒い霧が爆ぜ、隊長と思われたシャドウナイトが

崩れ落ちる。

残ったのは、ただ冷たい鎧だけだった。


二人は肩で息をしながら見つめ合う。

「ははっ……俺達まだ魔王城に入ってもいないぜ」

「もっと強いのが、奥に待ってるってことだね」

リンカも汗を拭い、再び闇の奥へと足を進めた。


魔王城の回廊は、瘴気そのものが壁を這い、

脈動していた。

その闇を裂くように、轟音とともに石壁が崩れ落ちる。


現れたのは、黒曜石のような鱗に覆われた巨獣。

背に並ぶ棘は槍の森のようで、

眼窩には血のごとき光が燃えている。


吐き出す息は瘴気そのもの、

触れれば岩すら溶かす毒の嵐だ。


「……スカルドラゴン」

リンカの顔色が険しくなる。

「魔王の血を浴びて進化した個体

 ……普通の魔物じゃない」


「なら、最終決戦にふさわしい相手だな!」

レンは笑みを浮かべ、聖剣を構えた。


咆哮とともに巨獣は突進した。巨体に似合わぬ速さ。

受け止めた瞬間、石床が砕け、

レンは壁に叩きつけられる。


「ぐっ……重すぎる!」


リンカの結界が光を放ち、爪撃を弾くが、

連打に耐えきれず火花が散る。

押し切られるのは時間の問題だった。


「動きを、一瞬でいい、止めろ!」

「任せて!」

リンカは祈りを込め、両手を掲げた。

「――浄火ピュリファイア!」


白銀の炎が十数条、鎖のように現れ、

巨獣の四肢と翼を縛り上げる。

スカルドラゴンが苦悶の咆哮を上げ、回廊が震えた。


「そこだぁっ!」

レンが跳躍し、聖剣をその眼窩へ突き立てた。


だが――。


斬り裂いた眼窩から黒い炎が噴き出し、

虚空に幻影を描く。

五頭の偽りの竜が現れ、瘴気の嵐で回廊を覆った。


「幻影……!?」

リンカの視界に幾重もの竜が重なり、どれが本体か見分けられない。

瘴気に目も心も惑わされる仕掛けだった。


レンは剣を握り直し、吠える。

「だったら、どれでも斬り伏せて突破するだけだ!」


だが、その声にリンカは首を振った。

「いいえ、見えるわ……!」


聖女の光が揺れ、彼女の瞳に幻影を焼き払う真実の姿が映った。

「右前足の鎖が軋んでる……そこが本体!」


「よし――!」

レンは声を合わせるように駆け出した。


リンカの矢が瘴気を切り裂き、幻影を祓う。

レンの剣が、暴れる竜の心臓部を深々と貫いた。


轟音とともに、巨体が崩れ落ちる。

黒い霧が爆ぜ、回廊全体を揺らしながら瘴気を霧散させていった。


レンは肩で息をし、剣を杖にして立ち上がる。

リンカは駆け寄り、彼の手を強く握った。


「……本当に、しぶとかった」

「でも、俺たちは勝った。魔王の間までもう少しだ」


二人は互いにうなずき、深奥の闇へと足を踏み入れた。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

魔王城の第一戦は、ただの戦闘ではなく、レンとリンカの絆と覚悟が試される場面でもありました。

次回はいよいよ魔王との対峙――二人の旅の終着点が近づいています。

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