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ねこみみ悪役令嬢 転生×転生  作者: 毛玉
魔法少女編
6/22

第2話 ねらわれた通学路!走れ、わたし! その②

 元の世界でもリオーネは学校に通っていた。

 そこは特権階級のものしか通えぬブリリオール王国唯一の公的教育機関であり、12才以上でないと通えない学校だった。

 だから正直この世界の小学校の授業に彼女は退屈な予感しかしていなかったのだが……そこでリオーネは衝撃を受けた。


 彼女の通っていた学校でも算数はあったのだが、それも四則演算程度。

 ブリリオール王国が大陸で一番大きな国ということもあり外国語の勉強も無し。

 また歴史にしても自国の成り立ちや、いかにこの国が優れているかを教え込むような歪なものであり、あとはマナーや社交術だったからだ。

 そしてリオーネは数学の美しさに魅了され最初の1週間(第一話から第二話が始まるまでの間に)小学生の範囲は終わらせてしまい、帰りには本屋で数学の本を立ち読みすることが日課になっていた。


──それにしても”魔法”ですか。


 彼女のいた国の北にも魔女はいたが、せいぜい天気を当てたり人の運命を見られると自称するくらいだったのだ。

 そしてリオーネは隣の席の女の子を見る。

 

 花咲ここる。

 

 プリマ―ピンクである彼女は、現在すやすやと眠り、ノートによだれを垂らしている。

 彼女の得意魔法は光魔法。

 他の魔法少女は二人の魔法を反発させないと怪人を浄化出来ないが、彼女はひとりでそれを行うことができるのだ。


──そういう才能のある子を見てると……ついつい意地悪してしまいたくなるんですのよねぇ


 リオーネ優しく微笑みながら、机を指で叩きリズムをる。

 現在この『魔法少女隊 プリマー3』は第2話。

 小原シズカと花咲こるるの直接対決は、第16話の『文化祭前夜 シズカ衝撃の告白!わたしあなたと戦いたくない!』なのでまだまだ先だ。

 それまでに仲良くなっておかねばならないことは分かってはいるが………

 悪役令嬢としての本性を隠すため、そのときが来るまで極力口数と行動は減らし、自分の名前の通り静かにしていようとリオーネは思っていた。



「ねぇアンタ!ちょっと吉田くんと喋りすぎじゃない?!」


 それでも絡んでくる子はいた。

 放課後の教室で図書館から借りてきた『世界の悪女の歴史』を読んでいたリオーネに声を掛けてきたのは、赤いショートカットの女の子 宝条あやみ。

 陸上部に入っていて学年で一番足が速い女の子だ。

 彼女は次回、第3話『林間学校で仲間発見!えぇ?!あなたがプリマ―レッドなの?!』で仲間になるまでは、主人公花咲ここるにキツく当たるクラスメイトとして登場していた。


「……私に仰ってらっしゃるの?」

「あんた以外に誰がいるっていうのよ!?てかその喋り方なんなの?!」

「それは私の勝手でなくて?それともなにかご迷惑をおかけしているのかしら?」

「それは別にないけどさぁ!」


──本来ならば花咲ここるに絡み行くのに、どうして私に?


 小首を傾げるリオーネ。

 

 それは悪役令嬢が染みついてしまっている彼女が無意識に取った行動が原因だった。


 花咲ここるにヤキモチを妬かせるため、彼女が心を寄せる吉田ヒロタカに何度か話しかけたことがあったのだ。何度も言うがリオーネはそれを全く覚えていない。根っからの悪役令嬢ゆえの無意識の行動である。


「嫉妬は見苦しいですわよ?それに吉田(なにがし)にはすでに思いを寄せる相手がいるのですよ?」

「お、おもいをよせるあいて?!だれのこと?!」


 次に教室に大声を響かせたのは花咲ここるだった。

 算数の授業で寝ていたことがバレた彼女は今日中にドリルの提出を命じられ、今のいま職員室から帰ってきたところだった。

 現在クラスには小原シズカと宝条あやみ、そして花咲ここるしかいなかったが……その大声は廊下中にも響いていることに気づいた花咲ここるは慌てて両手で口を抑えた。


「ちょっとここる!大きな声出さないでよ!」

「ねぇ小原さん誰なの?!吉田くんが、その……す、す、好きな子って?!」

「本人に聞いてくださいまし。ではごきげんよう」

「ちょっと待ちなさいよ!ねぇここるも思わない?みんなも吉田君と話したいのに、ずっとひとり占めしてささぁ!」

「わ、わたしはべつに……」

「アンタもそっち側になるわけ?!」


 白と黒のストライプ柄のランドセルを背負い教室を出ようとしたリオーネだったが、あまりの二人の醜さにため息をついた。


「嫉妬はみっともなくってよ?ルデル鳥じゃあるまいし」

「「……るでる?は?」」

「失礼。こちらの世界ではあの嫉妬深い鳥がいないんでしたわね……とにかく、嫉妬はみっともないですわよ?そんな姿を吉田くん見られたりしたらどう思われますかね?」

「きーー!っ!なによちょっと可愛いからって調子に乗ってさ!」


 地団太を踏む宝条あやみ。

 果たしてこんな子が魔法少女とやらになれるのかしら?と思ったとき、ふとリオーネはこのアニメのタイトルを思いだそうとしていた……が、どうでも良いと思った情報はすぐに削除してしまうのが彼女だ。 

 よって頭のどこを探してもその情報は見つからなかった。


──『魔法少女隊プリマー3』だよ!

──あぁそうでしたわね。よくやりましたガブリィ。けれど次回からは伺いを立ててから声をお掛けなさい

──しょうちしました

──心がこもっておりません。もう一度。


 それに対する返事はなかったが……リオーネは悪役令嬢として過ごす日々の中で、出会った人物が自分の味方か敵かくらいの判別はできるようになっていた。


 この世界に自分を送るときの態度……少なくともあの天使ガブリィは味方だ。

 あの神らしき老人はどうにもきな臭く、敵というよりは同種。

 それも強力な力を持ちながら子供のような危うい精神を持つ厄介な存在。


 そう分析していた。


 そして現在目の前にいる宝条あやみは当然味方だ。


 多少突っ張っているが、完全資料集の中にも『彼女は恥ずかしがり屋なだけで、本当は良い子』と書いてあった。


──だけどこの子は……どうも我が強くって、つい意地悪してしまいたくなりますわね


「な、なによアンタ!どうして笑ってんの?」

「あなたのお名前はなんて言ったかしら?」

「は?あんた同級生の名前を忘れたの?」

「宝条家のご息女。あやみさんでしたわよね?」

「知ってるならなんで聞くのよ!?」


 腕を組み扇子を……は持っていなかったので、リオーネはたて笛を突きつける。


「私ほどではないですけれど、相当お金持ちのご家庭ですのよね?そんなあなたがどうしてこのような下等な市民と張り合おうとしているのか理解できませんわ」

「は、張り合おうとしてないもん!」

「嫉妬も良いけれど、ご自身の感情に気付いているのならどうして吉田くんに告白なさらないのかしら?」

「だからわたしは……別に……その……えっと」

「もし私や花咲さんが気に食わないのなら、黙って恋路の邪魔をなさってはいかが?けれど吉田くんの目の前では、その態度をおくびにも出してはなりませんことよ?まず物を隠したり、根も葉もない私たちの悪い噂を立てることから始められてはいかが?」

「そ、そんなのいじめじゃん!やりたくないよ?!」

「……あなたの好意はそんなものなのですか?」


 そして、一呼吸をおき「そして」と続ける。


「その好意が本気であるのなら相手を潰すのでも自分を磨くのでも……やるなら徹底的におやりなさい。それが今のあなたのすべきことです。なんなら私がその方法を教授してあげてもよろしくってよ」

「なっ……」

「それでは花咲さん共に帰りましょう。私疲れてしまいましたわ」

「え?!小原さん一緒に帰ってくれるの?」

「そこの公園までですけどね。あとシズカで良くってよ?私もここるとお呼びいたしますので」

「う、うん!じゃあね宝条さん!」


 そして途中まで一緒に帰っていた小原シズカは「それではまた明日」と別れたあと、花咲ここるは無事にワルサースルに襲われ、これを撃退した。



 そして翌日。



 花咲ここるは昨日の宝条あやみとの別れを思い出し、少し足取りを重くして登校した。

 しかしいざ学校に着いてみると当の宝条あやみはなんだかモジモジしており、ことあるごとに「ちょっと小原さん呼んでくれない?」なんて言ってくる。

 だが小原シズカは「結構です」と本屋で買ってきた数学の本を読み、取り付く島もなく花咲ここるは焦っていた。


「ね、ねぇ!シズカちゃんも『悪役令嬢もの』好きなの?」


 だが掃除の時間、

 優雅にほうきで掃き掃除をしているときに、リオーネは突然宝条あやみから耳打ちをされた。


「……悪役令嬢『もの』?なんのことですの?」

「だってその喋り方!漫画とか本とかで覚えたんでしょ?恥ずかしがらなくていいって!ほんとは私も大好きでさ!」

「仰ってる意味が分かりませんし、そういった本よりももっと有意義なものを読まれたらいかがかしら?数学は実に美しくてお勧めですよ?」

「くぅぅ!!かぁっこいい!!」


 そして本来の流れと違い、なぜか宝条あやみは花咲ここるとではなく小原シズカと仲良くなってしまった。


──そういえば設定資料集の宝条あやみの欄に、そんな裏話が載っていましたわね


 それをリオーネが思い出すのと同時に、モニターでその光景を見ていた神もそれを思い出す。


 だが本来の流れと違う上に、小原シズカの初めてのセリフ……意味ありげな表情を浮かべつつ「気を付けて帰ってね」の台詞が無かったことに、イラつき唇の端を噛み切っていた。



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