エピローグ ねこみみ悪役令嬢 転生×転生
夏の暑い日差しが照りつける東京都庁。
そして、その都庁が今日爆発した。
果たしてその犯人とは?!
決まっている!それは地球を征服せんとする邪神大皇ベルーゾナの仕業だ!
そして今週も、毎週日曜朝に立ち上がる5人の戦士が現れた!
「五獣戦隊レッド!レッドライオン!」
「五獣戦隊ブルー!ブルーファルコン!」
「五獣戦隊ピンク!ピンクエレファント!」
「五獣戦隊ブラック!ブラックタイガー!」
「五獣戦隊いえ……ろー……ぐぅぅ」
「「「「どうしたイエローー?!」」」」
「いや……さっき女の子から「ファンですっ♪」ってもらったカレーを食べてから調子が……」
「ばかやろう!人からもらったものを食べちゃダメってあれほど……」
「ショウカキッキ~~!4人になった五獣戦隊なんて雑魚同然ッキー!」
消火器型怪人が腹をカンカンと叩き笑う。
ブラックがイエローに肩を貸し立ち上がらせ、新宿西口公園のトイレに向かう。
だが、それを見逃す怪人ではない。
背中のホースを外し残った三人の五獣戦隊にその先端を向け……
だが、そこに2つの影。
「お待ちなさい!」
「おねーさま~わたしもいますぅ~!」
着地したのはドレスを纏った2人の姉妹。
姉は猫耳つきの金髪の縦ロール。透き通るような白い肌と、やや吊り上がり炎を宿しているかのような強い緑の瞳。美しい鼻筋と、花の蜜をあしらったかのように輝く唇。そのドレスは赤を基調としており足元は隠れているが、おそらく真っ赤なハイヒールを履いているとそこにいる誰もが想像した。そして怪人と五獣戦隊に突きつける白い羽の扇子。
妹の方は金髪のツインテールに大きな赤いリボン。その小さな身長と、うるんだ大きな目は保護欲をかきたてられるが……見る者が見ればわかる、その青いドレスの下の引き締まった体。それはどう鍛えたかよりも、なんの目的とどういうモチベーションがあればそこまで鍛えられているかに興味が沸く体だった。
「まったく……あなた方は本当に価値のない者ですね」
「そうですわね、おねーさま」
怪人、そして五獣戦隊があんぐりと口を開ける。
なぜならそこいる誰もが知らない第三勢力として彼女たちが現れたのだから。
◆
ガブリィは神様の負けを確信した瞬間、こちらの世界に転移した。
そしてそこで見たのは……夕陽に照らされた森で座り込む神様。
しかしその表情は、ガブリィたち天使が最も好きだった頃の穏やかなものだった。
「ワシは一体なにを……と言いたいところじゃが、全部覚えとる。申し訳ない。この通りじゃ」
そして恐らく誰も見たことがない神様の土下座。
天使が止める間もなく、神様はごくごく自然にその姿勢をとっていた。
「ワシがしたことは到底許される事ではない。神の座も降りよう」
「べつに好きにすればよろしんじゃなくって?」
「ねー」
そして姉妹はいつの間にか用意した丸太のイスに足を組み座っていた。
「本当にすまんかった……ワシに出来ることなら何でもしよう」
「……あら、どんなことでも?」
「ワシを殺したいならそのための槍を持ってくる。お前たちが神になりたいというのなら、ワシが推薦しよう……あぁ、それももちろん元の世界に戻すことや、過去の転生先に会った者達との面会も自由にできる権利を与えた上での話だ」
「その前に、ひとつだけ聞きたいのですけれど」
リオーネが夕陽に照らされる村を見ながら言った。
魔物によって破壊された家や井戸も、正気を取り戻した神はすぐに修復し魔物たちも消した。
そして村人たちの記憶も消し村に戻した。
各々の家からは夕飯の匂いがのぼり、麦を干していた赤毛の姉妹たちも名前を呼ばれると走って家に戻って行った。
「この世界を創ったのは貴方ですのよね?」
「……そうじゃ」
「なら滅ぼすのをおやめなさい。100年後に魔王が必要なら突然現れたことになさい」
「……は?」
「この世界で私は幸せでした。例え貴方が書いた物語の中の出来事であっても、あの両親からの愛情は……あれは紛れもなく真実でした」
「おねーさま……」
その言葉を聞き神は涙を流した。
自分の書いた作品など、読み漁ったラノベの好きな設定のツギハギであり、つまらないことは重々承知していた。描写も拙く、自分の素直な欲望を書き出そうにも創造神であるゆえに全て現実で叶ってしまいその欲望すら湧いてこない。
だからこそ人間が書くものは、日常の物足りなさが作品にエネルギーを与えているのだと神は気付いていた。
「神が悪意で書いたものが評価されるとはな……」
ぼろぼろとこぼす涙に嘘はなかった。
神は本当に嬉しかった。
拙い自分の作品に放り込んでしまった後ろめたさの中、その中の彼女が自分の作品を喜んでくれたのだから。
「分かった。この前日譚は極上のハッピーエンドにすることを約束しよう」
「そう。いつだって物語の最後はそうしなければならないのよ。だからこそ私たちがいるんですもの」
「はい、おねーさま」
悪役令嬢姉妹が目を合わせ穏やかに笑う。
彼女たちが背負うものは大きい。
悪役令嬢が悪役令嬢であるほど作品は盛り上がる。
そして……彼女らは不幸になる事がゴールであるが、それが彼女たちの幸せ、人生の役目なのだ。
悪業も溜まって当然。
神様もまた地面に視線を落とし笑った。
彼女たちがそれで良いなら良いではないかと。
それが彼女たちにとってのハッピーエンドなのだと。
そして、ふぅと息を吐き顔を上げた神様の笑顔は……そのまま凍り付いた。
さきほどの姉妹だけで交わしていた穏やかな笑みが、こちらに向けられている。
「さきほどのお話。嘘ではないですわよね?」
「さ、さきほど??」
自分はさっきなにを言った?
どれだ?どのことを指している?
そして、それを思い出したとき。
たくさんの悪役令嬢ものの作品を読んでいた神様は……
悪役令嬢に最も言ってはならないことを自分が口にしてしまったことを思い出した。
「どんなことでもしてくれるのですよね?」
立ち上がったリオーネは鮮やかな夕陽を背負い、その顔は見えない。
その声色からは穏やかな笑みを浮かべているはずだ。
だが……鳥肌は神様の全身に広がっていた。
◆
「量子転送機開放 冥府の幅剣」
「遺伝子篏合 モード爆炎王」
ビルの上から飛び降りてきた姉妹。
姉は見るも禍々しいサーベルを空中から取り出し
妹は全身に炎を纏い、ガツンとぶつけた両の拳にはかわいいらしい炎ライオンの顔が浮かんだ。
彼女たちはあれから様々な世界へ転生を繰り返した。
神に自分たちの体を転生先に用意させ、そこへの転生を繰り返した。
それはもちろん自分たちの悪役令嬢道を極めるためである。
もう何者にも自分たちの歩みを止めさせぬ力を手にするために。
「お、おまえらは一体なにッキー?!!」
「教えを乞うのなら、頭の位置が少し高いのではなくって?」
「そうですわねおねーさま♪」
彼女たち、悪役令嬢の活躍はまだまだつづく。
そして姉妹が元の世界に戻ったとき一体になにが起きたかは……また別のお話。




