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ねこみみ悪役令嬢 転生×転生  作者: 毛玉
最終章
21/22

第五話 決戦

 ガブリィを含む天使たちもその光景を見ていた。


 自分たちの主が魔王に転生するという異常事態。

 しかもその転生先は御自身が書かれたラノベの世界だという話はすぐに広まり、普段食堂として使われているところに大型モニターを設置しそこに集まっていたのだ。


 しかし神はすぐに帰ってくると思った。

 そして悪役令嬢をこらしめた神様は、あのみんなが大好きだった頃の穏やかな姿で戻ってくれると願っていた。


 先日発売された【異世界転生~なぜか魔王に転生させられちゃったけど、前世が神だったのでこっちの世界でも無双できそう。ついでにエルフの嫁ともふもふ獣人っ子は俺のもの~エピソード0。原初の魔王】に一応全員が目を通していた。


 無力な村娘たちが蹂躙されるバッドエンド。それで終わりのはずだった。


 だが件の村娘たちは元の悪役令嬢姉姿に戻り、あまつさえ巨大ロボットを召喚し主と戦おうとしている。


 それを見ていた天使の多くが「ガブリィがなにかしたのか?!」と同僚の介入を疑ったが……唖然としている彼女を見て、どうもそういったことではないと首を捻る。

 

 猫耳

 魔法

 レージョーオー

 

 それらは全て他世界のものであり、あの世界で使えるはずがない。

 しかし実際にリオーネは魔法少女の世界に猫耳を持ち込み、さらに魔王の前で機人を召喚した。

 そして……ガブリィは1つの結論に辿りついた。

 


 最初の転生先。猫の魂と悪役令嬢の魂が合体した『ぼくの飼い猫は悪役令嬢?!~転生したら猫の魂と合体して猫耳が生えましたけど、わたくし一向にかまいませんわ~』


 二番目の転生先。その魂が魔法少女に選ばれた『魔法少女隊 プリマ―3』

 

 三番目の転生先。一部の特権階級だけが持つ魂の回路(アリスト)を通し機人(ジェラーク)を召喚する『貴動機人アリストジェラーク』



──順序が逆なんだ

  

 

 ガブリィの勘は当たっていた。


 彼女たちの魂は、その能力が使える体へ転生させられきた。


 猫から人間に変身できる体へ。

 魔法少女に変身できる体へ。

 ロボットを呼び出せる体へ。


 魂と肉体は密接な関係がある。

 彼女たちが入り込んだ魂が、転生先の体の中で変質と同化を繰り返していたのなら、現在目の前で起きている出来事全ての辻褄が合う。

 さらに付け加えるのなら全ての記憶がリセットされる通常の転生と違い、神の指示により記憶を保持させられたままの歪な転生。

 魂が各世界の特殊な能力の源なら、覚醒などを経由せずとも記憶からそれを掘り当てることも造作もないことだと。


 そして全員の天使たちが祈る。

 当然、自分たちの主の無事の帰還を。そしてあの姉妹の生還を。

 狂った神を正すことが出来たのはいつも人間だった。

 だから祈る。

 どうか姉妹よ神を元に戻してやってくれ、と。


 

          ◆



 リオーネは自分の生き方に誇りを持っていた。

 悪役令嬢としての役を演じること。

 壁となった自分を乗り越え成長し、まっすぐに育った彼ら彼女らは国をより豊かになものにしてくれる。それをがヴィヴィオーナ家に生まれた令嬢たちが、連綿と紡いてきたものだ使命だと。

 例え親からの愛情を受けられなかろうと、例え蛇蝎如く嫌われようと。 

 ()()()()()()悪役令嬢を演じることが、彼女にとって至高の時間だったのだ。


 それは誰かのために悪口を流し、誰かのために物を隠し、誰かのために馬車の予定をキャンセルする。


 誰かのために。

 他人のために。

 他人、他人、他人。


 つまり、彼女の人生の真ん中に『自分』はいなかった。

 

 だから彼女は本当の意味で怒ったことが無かった。

  

 当然その感情に振り回されることも、支配される経験など無かった。



「おねーさま!まだレージョーオーがあったまってません!」

「どうにか都合をおつけなさい!」


 

 この世界で神の誘導はあったにしろ、あのとろけるような愛情を両親から受け、彼女は悪役令嬢としての誇りも失いかけていた。

 そして一時的であろうとその誇りを奪った者とは、人々が自分を殺し自ら選んだ役目を軽んじるような者だった。


 自分を自分たらしめる、人を人たらしめる、己が己に課した責務と尊厳を踏みにじる俗物。


 彼女は胸の中心に燃えるこの感情の名前が分からなかった。


 しかし、目の前にいる巨大な老人を打ち倒せばスッキリすることだけが分かっていた。



「行きますわよ!!」 


 リオーネがレバーを引くと背中のスラスターが火を吹き、瞬間移動と見まがう速度で魔王に肉薄、その名も分からぬ感情を込めたパンチを腹にぶちこんだ。


「がはっ……」

「あまり息を吐かないでくださいまし、空気が汚れてしまいますわ」

「きさまぁ……()()()()()()()()()()()()()!!!!!」


 魔王が振りかぶり、胸部のコックピットめがけ瘴気を纏う右の抜き手を放つ。

 それをレージョーオーは半身なり軽やかにかわした。

 が、その回避先は後ろや横ではなく、前。

 点の攻撃には前進による回避。

 これがヴィヴィオーナ家流体術の基本である。

 

「げばぁぁっ!!!!!!」


 抜き手の外側から真横へ移動した、鋼鉄令嬢の鋭いボディブロー……いや、肋骨を下から押し上げ砕く【ヴィヴィオーナ家流 裏体術 花黒】が脇腹から心臓に目掛けてめり込んだ。


 だが、神が言った「主人公でもない」という発言。


 これはリオーネがいたラノベの世界『大好きなおねーさまが悪役令嬢?!わたくし全力でサポートします~引くくらい極悪悪役令嬢リリーの奮闘記~』から彼女が引っ張り出されたことを意味する。


「レージョーマルチスピアァ!」

 

 だが彼女の脳は不要と思ったことを、すぐに忘れる。

 よって、主人公とは?などという疑問も浮かばぬまま、掌から射出した白銀の槍を掴み魔王の喉めがけて突いた。


「魔王ウィングゥゥゥゥ!」


 だが魔王はコウモリのような一対の羽で空気を叩き、一瞬で上空へと消えた。

 

「レージョーオー第二形態!」


 間髪入れずにリオーネがガラスカバーを叩き割りボタンを押す。

 敵の回避先は遥か上空。

 ならば変形に時間を要する第二形態への移行も可能と判断。

 レージョーオーが自らスカートを引き裂くと、細い足が露わになった。

 続いて僅かな母性を感じさせていた柔らかな表情が一変。

 瞳が赤く輝き、外れた顎部パーツの下から真っ赤なルージュを引いた唇が現れた。


「マルチスピア!タイプクートゥ!」


 掴んだ白銀の槍が一瞬ぐるりと捻じれナイフに変形。


「トリプルウィング!」


 そして背中から輝く絹のような三枚の布が飛び出した。

 だが、第二形態になる以前から金髪ロールの先端から排熱のため蒸気が噴き出していたが、形態変化後はその蒸気に黒いものが混じるようになった。

 それを叫ぶように報告するリリーを無視し、姉はアクセルを踏み抜きレバーを引く。

 

 そして上空で息を整えていた魔王の背中。


 鋼鉄の悪役令嬢が姿を現し、白銀のナイフで切りつけた。


「ぐがぁぁぁ!!」


 切ることよりも頑丈さに特化させたナイフ。

 だがそれでも魔王の肉のかなり深いところまで切りつけ、魔王は叫び声と共に地表に叩きつけられた。


「レージョォォォォビィィィィィム!!」


 彼女の猛攻は止まらない。

 獣のように爪を立て、胸の前でクロスした腕の交差点。

 頭と足先から赤く光る線がそこへ向かう。

 それは神自ら設定したレージョーオーの必殺技。


「おねーーさま!!!!」

「くっ!!!!!」


 だが突然異世界に召喚されたレージョーオー。

 それに加えて大技の連発。

 いかに魂のエネルギー次第で無限に稼働できる機人(ジェラーク)と言えど、警告音は鳴り続けていた。有能な妹がそれを騙し騙しやっていたが……ついに根を上げ、必殺技発動前に彼女たちもまた地表へと落下した。


「っ………リリー無事ですか?」

「はい……おねーさまムチャしすぎです」

「申し訳ないですわ……はっ!?」


 お互いの無事を確認したのも束の間。

 先に落下させた魔王が立ち上がり、その紫の手をこちらに伸ばしてきたのがモニターで見えた。


「きぃさまらぁぁ!!!!」


 レージョーオーの首を掴み、立ち上がる()()()()の魔王。

 紫の肌は第一形態。

 その赤黒い肌は第二形態の証だ。

 それはもちろん神の書いたこの物語の設定で出てくるものだ。  

 背中の切り傷と落下ダメージは無視できるものではなかった魔王は、第二形態に変身。

 そのエネルギーを治癒にまわした。さらに千切れどこかに行ってしまった左腕を生やすための割くエネルギーを、右腕と立ち上がる足へ送る。

 すると足は鋼鉄の線を何千も束ねたように太く頑丈になり、右腕は過剰なほど太く黒曜石のような輝きを持った。


 コックピットにメキメキという音が響く。

 機体の破損を告げる警告音が鳴り続ける。

 深刻なエネルギー不足とオーバーヒートの通知は騒がしいからと切ったが、命に直結するその警告音は切ることが出来ない。 


「レージョーオーの状態は?!」

「復旧まであと42秒!」

「あ……ワシまた良いこと思いついちゃったぁ」

 

 コックピット内で交わされる会話は神には聞こえていない。

 だがその魔王の閃きと、姉妹の絶望は同時に訪れていた。


「ワシの瘴気でおまえらも魔物にしてあげよう。それが後の勇者と戦うなんてすっごい熱い展開じゃなぁい??そうしようそうしよう。それが良いそれが良い。ワシって天才だなぁ~~」


 首を掴む右腕の表面から触手が次々と生え、その触手の胴から目玉が開いた。

 到底女児向けのアニメで放送できそうなソレではない。

 そして先端の鋭い刃がレージョーオーの傷口から内部へ音を立てながら侵入してくる。


「それに刺されると無事に魔物化できまちゅからねぇ~」


 ゲラゲラと笑う魔王に呼応し触手も太くなり、傷口をどんどん広げ突入していく。


「お、おねーさま!脱出ポットも起動しません!」

「そうですか」

「おねーさま?!」

「リリー落ち着きなさい。あれらを良くご覧なさい、なにかと似てませんか?」


 その会話の直後、ついに全ての触手が体内に侵入しコックピットの外壁をぶち破った。


「はははははははははは!魔物になったか?!名前は何にしようかなぁ~~二人とも【リ】で始まるから名前は~~」



──ガシャン



 だが首を掴み空中に持ち上げていたはずのレージョーオーが、ヒザをついた。

 もちろん魔王が自ら降ろしたのではない。


「な、なんじゃこれは?!」


 首を掴んでいた右腕が溶け始めていた。

 そのせいで12トンの重さを支えられなくなったのだ。

 その溶解は止まらず皮膚の下からは骨が見え始めていた。 


 そして……その腕を駆け上がってくる者達を魔王は見た。


 その姿は魔法少女。


 プリマ―パープルとダークプリマ―。



「「合体浄化魔法!ホーリーシャイン!」」


「そんなばかなぁぁっぁぁ!!」



 それは雷と氷魔法の反発で起こす浄化魔法。

 

 だがプリマ―パープルとダークプリマ―でのそれは本編では登場しなかった。

 それは完全設定集にしか載っていなく、監督がボツにしたIFの物語。

 生みの親であるワルサー王にそれを放とうとし殺されるという暗いもの。


 その本編で見ることの出来なかった合体浄化魔法に、魔王は少しだけ口元をほころばせ意識を失った。

 



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