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ねこみみ悪役令嬢 転生×転生  作者: 毛玉
猫編
2/22

その2

 リオーネが辿り着いたのは家近くの公園だった。

 シンジの匂いは窓を出てすぐに見つけ「家の近くで何をやってらっしゃるのかしら?」と向かったのだが……シンジは大きな男たちに取り囲まれていた。


「さっさと金だせよ~あとはお前だけだぜ?」

「それともさっき逃げてったお友達をまた呼ぶか?RINEのID教えてくれたから、すぐに呼び出せるぜ?」

「面倒だからもう一発なぐろうぜ?」


──確かチュウガクセイとかいう者たちでしたかね?


 シンジは10歳の小学4年生だ。

 明日が母の日という事で友達とプレゼントを買いに行ったのだが、その帰り道。

 一緒に行った友達の自転車にカゴが付いてなかったので、シンジが自分のカゴにそれを入れてやりこの公園で渡そうとしていたときに、彼らに目を付けられてしまったのだ。


──這いつくばってみじめですわねぇ~


 黒猫が深いため息をつく。

 ヴィヴィオーナ家の者なら10歳ともなれば剣術・体術の級をいくつもとっており、あんな連中なぞ3秒も掛からず折り畳んでしまえるのだから。

 そしてやれやれと首を振ったリオーネの首輪の鈴がちりんと鳴り……その音に気付いたシンジが、公園入口の柵下にいる彼女を見つけた。


『あなたには天から与えられた才能などなに1つありませんわ』


『知恵も回らず動かせる体もなく、力も弱い』


『ですが……唯一その優しさだけは見上げたものです。雨で弱った私の面倒を一晩中見るなどなかなか出来る事ではありませんわ』


『よろしくって?優しさを勇気に、勇気を力にお変えなさい。立ち上がり、立ち向かい、殴り飛ばし踏みつけ、相手を見下しておやりなさい。そのための方法はこのリオーネ=ヴィヴィオーネが教えて差し上げますわ』


 シンジの脳裏に彼女との特訓が蘇ってきた。

 そして泣いてぐちゃぐちゃになっていた呼吸を、あえて思いきり息を吐くことで整える。

 これもリオーネに教わったことだ。

 そして……シンジの心と瞳に勇気の炎が灯った。

 あれだけ特訓したじゃないか、ではない。あれだけ指導してくれたリオーネに、何もしない情けない姿を見せたくないと思ったからだ。

 そして、その決意の瞳に黒猫が口の端をにやりと歪ませた。

 

 例え絶望的な状態であろうとも、勇気だけを頼りに克己奮起する者たちのそんな強い瞳が彼女は大好きだったのだから。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


 うつ伏せのシンジが叫びながら一番大きな体の中学生の膝に体ごと突っ込む。リオーネから見たらその技の完成度は見るに耐えないものだったが


──お見事


 体の大きな少年・タツヤがバランスを崩し、隣の仲間へと倒れこんだ。

 その技を確実に決めるための前段階。相手に気取られぬよう手足の位置を実にみじめったらしく動かし、弱者を演じつつ発射態勢を整える


【ヴィヴィオーナ家流 構え 潰れガエル】


 そして実力差を覆す片膝への正面からのタックル。 


【ヴィヴィオーナ家流 秘伝体術 馬脚落とし】


 それらが決まったことにリオーネは心の中で扇子を広げた。


 ……だが、そこからがいけなかった。


 本来ならばそこから大声で誰かに助けを呼ぶ【ヴィヴィオーナ家流 秘伝逃走術 鳴き鶫】か、(逃走ルートを予め装丁してあることが前提だが)角を曲がり続け相手の視界から消え続ける【ヴィヴィオーナ家流 秘伝逃走術 蜻蛉走り】を使わねばならぬところを、シンジはただ愚直にリオーネの下へと走り出してしまったのだ。


 そして2番目に背の高い中学生にシャツをあっさり掴まれ、結局シンジは再び地面に叩きつけられてしまった。


「てめぇ……慰謝料だなコレは」


 先程小学生にタックルを受け、無様に倒れたタツヤが立ち上がりながら言った。

 だが……自分の体重の半分にも満たない子供に転ばされただけにも関わらず、右膝と腰に鋭い痛みが走り思わずたたらを踏む。


 シンジが未熟だったが故に、先程の技がこの程度ですんだことを彼は知らないのだ。


 本来の【ヴィヴィオーナ家秘伝体術 馬脚落とし】は、ただの片足タックルではない。


 右前腕をナタに見立てて突っ込み、ぶつかった瞬間に相手の足を左で抱え、同時に右のナタで膝の皿を砕く。それらを突進の勢いを殺さずに行い、続けて相手を潜り抜けながら自分の両腕と相手の片足を絡ませ、ひねりながら倒れ込む。こうすることでヒザか腰、あるいはその2つを同時に破壊する技だったのだ。


 だが、この【馬脚落とし】はあくまで一対一の技だ。


 一瞬の関節技からの脱出ではあるが、どうしても打撃と比べると時間がかかる。

 そもそも今回のような複数対一の戦いで関節技は不向きなのである。

 やはり実戦経験も少なく体と基礎が出来ていないシンジに、やはり()()()()()()()()()()ではやはり限界があったのだ。


「おやめなさい」


 だが突然、オレンジに色に染まる公園に凛とした声が響いた。

 大人の声ではない。だからビビることはない。

 そこにいた中学生三人は思った……だが彼らは身動きひとつ出来なくなっていた。

 

 彼らの視線の先。

 

 まるでライトノベルやマンガのキャラクターのような金髪の縦ロール。

 透き通るような白い肌と、やや吊り上がり炎を宿しているかのような強い緑色の瞳。

 美しい鼻筋と、花の蜜をあしらったかのように輝く唇。

 ドレスは赤を基調とし足元こそ隠れているものの、おそらくは真っ赤なハイヒールを履いているとそこにいる誰しもが想像できた。

 そして自分たちに突きつけられる白い羽の扇子……と


──猫耳……悪役令嬢?


 中学生のなかでも一番背の低い、実はラノベをよく読むノボルが思った。

 だがその猫耳も可憐にピンと立ち、あたかもそれも彼女という花の一部のようだった。


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