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ねこみみ悪役令嬢 転生×転生  作者: 毛玉
貴動機人編
15/22

episode.1 はじまりの機人 

「……で?次はどこに行かされるんですの?」


 目の前には自主的に正座する天使ガブリィ。

 ソファーの隣ではリリーがオレンジジュースを美味しそうに飲んでいる。

 

 二人はワルサー王が蒸発するのと同時に、またこの真っ白な『転生の間』の魂だけ呼びつけられたのだ。リオーネの頭には相変わらず猫耳がぴこぴこと揺れていて彼女自身は煩わしかったが、妹がなんだか嬉しそうなのでそれは一旦に良しにした。


「おねーさま!これとっても美味しいですぅ!」


 リリーは出されたオレンジジュースをすぐに飲んでいたが、リオーネは用意された紅茶に口をつけずにいた。足を組み、扇子をぺしぺしと腕に叩きつけイラつきを露わにしている。



 その理由は2つ。



 ひとつは猫から魔法少女になったときもそうだったが、今生の別れになるかもしれぬ者たちとの別れの時間を一切用意されなかったこと。そして、ふたつ目は


「早く資料(それ)を寄こしなさい」


 いくら自分が手を出しても、目の前の天使が「あの~その~」と、胸をおし潰しながら抱えるそれを渡してこないからである。前回モニターで流れていた転生先の予告は今回は無く、さらに資料も渡し渋られるとなると彼女の怒りもごもっともだった。


 だが、それを見かねたリリーがオレンジジュースの氷を「ぷっ」と地面に吹いた。

 一度大きく跳ねたソレは続けて二、三跳ね続けるとどんどん小さくなり、正座するガブリィの膝にコツンと当たり、彼女もそれを無意識に視界のハジで追っていた。


「すきありぃ~」


 まるで自分の影から手が急に伸びてきたかのように、無意識の領域から細く可愛らしい手に資料をかっさらわれ「おねーさまどーぞ!」とリリーが姉に資料を渡した。そして自分はソファーの後ろに回り込みそれを覗き込む。


──な、なにがあったの?!


 ガブリィの背筋が凍る。

 確かに意識してリリーのことは見ていなかったが、2mは離れた距離を一瞬で自分の横へと詰めてきたのだ。


「……今回はこれだけですの?」

「前はもっと多かったんですの?」

「あ、あのさ。ボクも神様から渡されたのがそれだけで、うん」

「ふぅん……まぁいいんですけれど」


 リオーネは一瞬だけガブリィに目を合わせ、資料に目を落とす。

 

──どうか察してくれ……。


 ガブリィは思う。

 なにしろ今回神様が用意したのは片面刷り10ページの資料だけ。

 その内容は転生先のアニメの全25話中5話までだけのあらすじ。あとは設定がいくつかだけしか書いてないのだ。当然、前回のような完全設定資料もない。


「【貴動機人アリストジェラーク】?」

「う、うん。今回はいわゆるロボットものなんだ」

「んん~?ロボットものってなんですの?」


 姉に質問をさせる前にリリーが聞いた。

 小首を傾げ人差し指を頬に立てて実に可愛らしく。

 それはもちろん姉に恥をかかせまいとの行動だ。


 だが、ガブリィはそんな偽りの姿には騙されない。


 あの魔法少女世界で、倉庫内の怪人たちをえげつない方法で一網打尽にした計画を立案したのが彼女だと知っていたからだ。今この瞬間にもなにか計画が進行中なのでは?とガブリィの羽の付け根から汗が垂れる。もちろん彼女らに悟られないようにだが。


 が、ガブリィは良くも悪くも素直な天使だった。


 リリーを見る目や僅かに生まれた会話の間で、彼女が怯えていることはすぐに見抜かれた。そしてリリーは「ふぅ」と息を吐く。バレてるならもういいや、といった具合にだ。


「……で?なんですの?こ・れ・は?」


 そして資料を最後まで読んだリオーネはその紙束を3回叩いた。

 


【貴動機人アリストジェラーク】

 原作ゲームの主人公は平民の16歳の女の子。

 ふとしたことがきっかけで貴族学校に入学した彼女が、エンディングまでに五人の貴族のうち誰と結ばれるかは彼女の行動で決まる、いわゆる乙女ゲーム。

 作りこみも中々で攻略対象のルートに入ると、サブのキャラクターが他国の王女と恋仲になったり悲しい結末を迎えたりと、乙女ゲーム界で一大ブームを起こした名作。


 そして火付け要素になったのは、そこに加わるロボットの要素だった。


 西洋甲冑と花をモチーフとしたスマートなデザインと、その操縦はひとりでも可能であるが、男女二人が操縦することでその力をさらに引き出せる設定が大ウケ。

 そのロボの召喚と操縦は貴族の血を引く者だけしかできず、召喚は魂の廻廊(アリスト)から【機人(ジェラーク)】というロボットを召喚する設定。

 だが、なぜか平民のフェンリッタが機人(ジェラーク)を呼び出し、襲ってきた他国の機人(ジェラーク)を撃退。これがゲーム冒頭だ。


 

 ただし、アニメ化にあたりスポンサーの意向で主人公は少年に変更。



 その発表時はゲームファンから批判の声が殺到したが、一部の腐界からは強烈な支持を得て無事に放送は開始。

 そんな放送前に湧いていたアンチも、キャラデザや声優、アニメで動かすとなると大変そうな機人(ジェラーク)の動きのぬるぬる感が話題になり、ガッチリ色んな界隈の大人たちの心も掴み大ヒットしたというわけだ。


 また原作ゲームでは主人公の恋敵になる敵国の姫・ルージュは、ゲームとは違い学校には転入してこず、アニメ版のラスボス・リルーム皇帝の妃となり、帝国軍の機人(ジェラーク)を操り主人公たちと戦う……というのがアニメ版とゲーム版の大きな違いだ。

 

 ちなみにそのルージュの機人(ジェラーク)のデザインはファンの中でも非常に評判が良く男女問わずにプラモデルが良く売れた。彼女の苛烈な性格そのものを表すような各部の鋭利さと、一瞬で燃え尽きてしまいそうな儚さを両立させた全体デザイン。アニメや原作を知らない者ですらそのプラモデルの前では足を止めるほどだった。


 そして、その敵国の姫・ルージュがリオーネが転生先であり、本編に登場するのは第六話。


 だが五話まではその名前すら出てこないため、彼女が見ている資料にはルージュのルの字も載っていない。

 

 ……と、ここまで説明が長くなってしまったが、リオーネがイライラしながら資料を叩いたのは、表紙に書かれていた転生先の名前・ルージュが資料のどこにも出て来ないから……という理由ではない。


 妹のリリーは本来存在しないルージュの妹・リップとしてねじこまれていることも別に良い。


 彼女がイラついたのは、主人公たちが乗る6体の機人(ジェラーク)の一番最後に描かれていた、自分が操縦する機体。

 


 名前:レージョーオー

 操縦:ルージュとリップの2人で操縦(前後にシートが並んでるよ)

 大きさ:8m

 重さ:12トン

 武装:レージョービーム 他・未設定 (適当にどうぞ)

 その他:スカートを破ると第二形態 (笑)



 そんな説明と共に描かれた機人(ジェラーク)レージョーオーは、実にスマートな主人公機たちとは違い、まるで素人の描いた拙いデザインをプロが一生懸命格好良くしたようなもので……金髪縦ロールの彼女の姿を、そのまま鋼鉄化し巨大化させたようなデザインだったのだ。


 つまりリオーネは「こんなクソダサイものに乗らなきゃならないか?」と聞いているのだ。


 ガブリィの答えを待った彼女だったが、とっくにどこかの誰かさんに話す許可をもらっていないことには気付いていた。


「どうせ行かねばならないのならサッサと行きましょう」

「おねーさま!待ってぇ!」

 

 そしてリオーネは妹と共に、真っ暗な転生門へ躊躇なく潜った。




 ガブリィは下唇を噛む。


「なにも伝えるな」と神から縛りをかけられたにしても、聡明な彼女たちだった気付けるような伝え方がもっとあったのではないか?と。


 あの機人(ジェラーク)レージョーオーは神様がデザインと設定をし、それを神様が最も好きだった天国で暮らすロボットデザイナーに任せたものなのだ。


 レージョーオーは原作ゲームやアニメで活躍する、ルージュが操るはずだった機人(ジェラーク)ヴェルガンの代わりとして登場する。

 そして……それに準拠するならば、主人公たちに対抗するためレージョーオーは度重なる改造を受ける。それが精神汚染と肉体の崩壊を引き換えの強化とも知らされずに。

 アニメでは終盤に登場する彼女だが、その狂行と暴走ぶりはファンも目を背けたほどだ。

 

 前回の魔法少女の世界。

 

 あれは最終回への展開を早めることはできても、その結末は同じだった。

 ワルサー王を倒して、めでたしめでたし。

 その結末は変わらなかった。


 この物語の結末で彼女が嫁いだ帝国は滅びる。

 そしてそれは気を狂わせたルージュの死が大きく関与している。

 前回まではたまたま主人公側だったので、彼女らは生き残れた可能性が高い……そうガブリィは分析していた。

 

 前回心配した『混乱した魂が地獄に行ってしまう。ショックで魂が壊れてしまう』そんなのは彼女たちを見ていると杞憂と思えたガブリィであったが……


 レージョーオーの度重なる改造からの浸食で、その強い精神と肉体が壊されるとなると話は別だ。

 壊された精神は……魂は肉体の死に強く引っ張られることが多い。

 肉体と一緒に滅んだ精神は天国にも地獄にも向かえない。完全な無だ。  

 そのくらい魂は肉体と強く強く結びついている。


 前回決意した2人を早く迎えに行く決意は変わらない。

  

 だが、終始不機嫌だったあの神様がそれを妨害しないとも限らない。



──どうか無事で帰ってきて……。



 その祈りが自分の主に届かないことを願いながら、ガブリィは転生門が閉じるのを見ていた。

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