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紀ちゃんと都ちゃん

作者: ありま氷炎

「まだ終わってない?うそだよね?」

「ごめん。だから答え、写させて?」

「……いいよ。本当。紀ちゃんはいつもそうなんだから」

「ごめん!ありがとう。都ちゃん」


 都ちゃんは、幼馴染の男の子だ。頑張り屋さんでいつも助けてもらっていた。だからかなあ。いつも私は彼に頼っていた。


「都ちゃん、高校は一律にいくんだよね?」

「うーん。どうしようかな」

「え?」

「紀ちゃんは一律だっけ。だったら、僕はやめとこうかな」

「え?どうして」

「だって、紀ちゃんの世話するのが面倒なんだもん。いつも、僕を頼ってばっかりでさあ。たまには自分で何とかしてよ。本当」


 中学生になって都ちゃんの背はどんどん伸びて行って、中学二年生の終わりには私よりずっと背が高くなっていた。

 地元の高校、一律高校に都ちゃんも行くと思っていたのに。

 

「この機会に紀ちゃん、僕に頼るのはやめてよね。迷惑だから」


 都ちゃんはそう言ったきり、話しかけてくれなくなった。

 いつも都ちゃんが話しかけてくれて、私から話しかけることはなかった。

 だから、どう都ちゃんに話していいか、わからなかった。

 帰りも、なんだか会うこともなくなった。

 一人になって、私は悟った。

 都ちゃんに頼り過ぎていたことを。

 だから頑張って自分ですることにした。

 朝も都ちゃんに頼らず、学校に行った。お昼はお弁当がない日は都ちゃんにパンを買ってもらったけど、自分で買うようにした。

 余りものしか買えなかったけど。

 

「前島さん、最近一人だけど、南加野なかのくんと喧嘩でもしたの?」

「ううん。そうじゃないの。うん」


 都ちゃんはいつも私に構ってくれて、教室違うけど、お昼とか一緒に来てくれた。図書館で勉強を教えてくれることもあった。だけど、都ちゃんに誘われないから、私は誘えなくていつも一人。

 だけど、そうして過ごしていると話しかけてくれる人ができた。

 友達は都ちゃんしかいなかったから、不思議だった。

 結局、卒業まで都ちゃんと話すことはなかった。

 高校は別、そうなると大学も別。都ちゃんは一人暮らしを始めたみたいで、私は都ちゃんとちゃんと話すことなく、二十歳になった。


「紀ちゃん」

「……都ちゃん?」


 アルバイト先で、都ちゃんらしき人に話しかけられた。

 らしいっていうのは、雰囲気が全くちがったから。

 眼鏡はかけてなくて、髪も茶色に染まっていた。


「久々。ちょっと話せる?」

「えっと」

「前島さん。行ってきてもいいよ。早めの昼食食べてきたらいいよ」

「ありがとうございます!」


 一個上の先輩にそう言われて、ぺこりと頭を下げる。


「じゃあ、行こうか」


 都ちゃんはにこりと笑って手を差し出す。


「えっと、あの」


 戸惑っている私の手を都ちゃんは掴んで歩き出した。


「都ちゃん、ちょっと、手、手。ついて行くから、離して」

「だめ。逃げそうだから。離さない」

「逃げないって」


 都ちゃん、おかしい。

 なんで逃げるって。

 迷惑って言ったのは都ちゃんだよ。


 五年以上話さなかった。

 都ちゃんが迷惑だって言ったから。


「座って。何がいい?コーヒー?紅茶?」

「あの、カフェラテで」

「うん、わかった」


 都ちゃんは近くのカフェについたら、やっと手を放してくれて、彼に指定された席に座った。

 お昼にはまだ早い時間で、カフェは混んでなかった。

 待っていると、都ちゃんは飲み物を持って戻ってきた。


「はい。ホットでよかった?」

「うん。ありがとう」


 五年くらい、お互い話したことなかったのに、なぜか自然に話せている。

 不思議。


「紀ちゃん。可愛くなったね。想像以上だった」

「え、あの。都ちゃんは随分変わったね」


 都ちゃんらしくない。なんていうか軽い。

 姿もそうだし、なんていうか違う人みたいだ。


「うん。カッコいい?」

「う、ん」


 今の都ちゃんは肌が白くて、なんだか外国人みたいにも見える。

 俳優さんみたいだ。


「よかった。紀ちゃんはすっかり大人だね」

「う、ん」


 なんか調子が狂う。

 都ちゃんはニコニコ笑っていて、ちょっと、正視できない。

 かっこよすぎるかも。


「もう、大丈夫だと思って。紀ちゃん。今彼氏いる?」

「い、いないけど」


 なんでそんなこと聞くのかな?

 彼氏なんてできたことない。

 っていうかそういうのなんだか怖かったし。


「よかった。会わない間に紀ちゃんが誰かのものになるのがずっと怖かったんだ」

「都ちゃん?」


 何言っているの?


「あの時、迷惑なんて言ってごめん。でもそう言わないと、紀ちゃん、一人でなんでもしようって思わなかっただろう?だから、僕は突き放した」

「突き放す?」

「僕はずっと紀ちゃんと一緒にいたかった。だけど、紀ちゃんが自立できるようになってから、結婚の話をしてもいいって紀ちゃんのお母さんに言われて」

「結婚?お母さん?」

「そう。僕は紀ちゃんとずっと一緒に過ごしたかった。だから結婚したかった。それをうちの親と紀ちゃんのお母さんに言ったら、条件を付けられたんだ。紀ちゃんが外の世界を知って、自立できて、それでも僕を選んだなら、結婚してもいいって」


 そんなこと知らない。

 っていうか、お母さんもそんな勝手に。


「それは酷いよ。都ちゃん。なんか騙されたみたい。いやだよ。そんなの」

「あ、泣かないで。紀ちゃん。ごめん」


 気が付いたら泣いていた。

 都ちゃんからハンカチを借りて涙をぬぐう。


「私は、都ちゃんとは結婚しない。っていうか、誰とも結婚しない」


 酷い。

 なんでこんな。

 

「紀ちゃん!」


 私は立ち上がるとカフェから立ち去った。

 呼び止められたけど無視。

 涙がずっと出てきて、止まらなかった。

 トイレに駆け込んで落ち着いてから、バイト先に戻った。


「紀江。ごめん。勝手に」


 家に戻ると玄関でお母さんに謝れた。


「許さない」


 怒りがぐつぐつと煮えたぎって、私は自室に駆け込んだ。

 私の人生を何だと思っているの?二人とも。

 結婚なんて、そんな重要なこと二人できめて。

 私の問題なのに。

 だいたい、都ちゃんは先に私に話すべきだよ。

 結婚したいかどうか、私に聞くべきだったのに!


 その日は眠れなくて、翌日講義もバイトもないことにほっとした。

 でも私はほっておいてくれない人が二人。

 都ちゃんとお母さんだ。

 お母さんはわかる。

 だけど都ちゃんは許せない。

 ずっと私を避けていたのに。今更なんで?

 五年だよ?

 都ちゃんと会わなくなって、色々わかったことやできたことは増えたけど、傍にいなくて寂しかった。

 急に一人にされたみたいで嫌だった。

 それでまた急に近づいてきて、結婚したい?

 絶対に嫌だ。

 だから私は二人に言った。

 都ちゃんとは結婚しないって。


 都ちゃんはショック受けていて、お母さんもだった。 

 だけど、私の人生だ。

 勝手に決めるなんてひどすぎる。


 だけど都ちゃんは、なんだかしつこかった。

 空白の五年が嘘のように毎日家にきた。

 だけど、結婚の話はしなくて、ただご飯を食べに来た。

 私もご飯も作れるようになったから、たまに作る。

 そしたら都ちゃんはおいしいって言ってくれて嬉しかった。

 でも私は騙されない。

 懐柔しようってしてるんだ。

 なんか毎日会うのが普通になって怖くなったから、家にまっすぐ帰らない日を作った。

 友達が誘ってくれた飲みにいった。

 男の人がいて、なんだか慣れ慣れしくて嫌だった。

 都ちゃんは平気なのに。

 都ちゃんはもっとカッコいいのに。

 なんだか、都ちゃんのことを考えるようになってしまった。

 嫌だ。

 なんで。


「紀ちゃん。今帰り?」


 飲み会が終わって11時過ぎ。家の近くで都ちゃんに会った。


「どうしたの?」

「あ、コンビニで買い物してた」


 都ちゃんはそう言ったけど、手に何も持ってなかった。

 もしかして待ってた?


「紀ちゃん。そんなに僕のこと嫌い?」


 都ちゃんは真剣だ。

 染めていた髪も元に戻して、コンタクトもやめたみたい。

 あの頃の都ちゃんより、ずっと大人になってるけど、ずっと一緒にいた都ちゃんだってわかる。


「嫌いだったら、はっきり言って。そしたら僕はもう付き纏わないよ。紀ちゃんの邪魔はしない」

「き、嫌い」

「そっか。ごめんね」


 違う。違わない。

 だってその時、迷惑って言われてものすごく悲しかった。

 だから!

 でも

 去っていく都ちゃんの背中。

 暗闇に溶け込む。

 

「都ちゃん!」


 気がついたら走り出していた。

 都ちゃんは立ち止まってこっちを見ている。


「嫌いじゃないの!もう少し時間をちょうだい!」


 あの時も自分から話しかければよかった。

 凄く寂しかったのに。


「だったら、他の男と会わないでくれる?悲しいから」

「うん、わかった」


 それから毎日会うようになって、都ちゃんは彼氏になった。結婚はまだわからない。

 まだちょっと許せないから。


 都ちゃんは前みたいになんでもしてくれようとするけど、それでは私がダメになる。

 都ちゃんに頼りっぱなしは嫌だし、対等な関係でいたいから。


(紀ちゃんと都ちゃん おわり)

 





 

 






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