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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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嵐気流警報発令! ②

 最高速度でイチカに合流したトラノスケ。

 それと同時にハイドラグンをマッハでぶつけてラァ・ネイドンを吹き飛ばす。


「ぐぅっ……⁉」


 横腹を抑えて苦痛の声を上げる。いくらウカリウムの光でなければ肉体が消失しないとはいえ、衝突事故の強烈な痛みはいくらスターヴハンガでも悶えるほどだ。

 ハイドラグンの奥の手、マッハアタックである。別名、ひき逃げ。


「ビィ・フェルノも寝込んだ一撃だ、強烈だぜ」

「こ、この……こけにして……ウカミタマでもないただの人間のくせに!」

「ああ? コケにされることばっかやってお前の責任だろ! 勝手に侵略してきやがって!」


 傍若無人にふるまい逆恨みをしてくるラァ・ネイドンに青筋を立てるトラノスケ。

 残虐な行為ばかりしている理性あるグラトニーに対して怒りしかわかない。

 顔を見ればわかる。

 こいつは倒さなければならない、と。


「クソ……なんて日なの。ビィ・フェルノを怪我させたヤツの顔を拝みに来ようとここに来ただけなのに……それなのにこの仕打ち。キミたちヒドイよね、弱っちいザコのクセにさ、ボクに暴力を振るおうなんて傲慢だよ。羽虫に噛まれた気分ってやつ? 害虫って迷惑をかけることだけはいっちょ前だよね」

「長々と我儘ばかり言って……っ!」

「ボクたちはこの地球を支配したグラトニーだよ。支配されたザコはボクたちに従うべきじゃない」

『強いやつは何してもいいって? はっ、じゃあ今度はこっちが自由にさせてもらうぜ!』

「力を持つものは何してもいい! それはどんな世界でも変わらない! ザコはボクのアソビ道具になっていればいいのよ!」


 手のひらに竜巻を作り出し投げ捨てるように何度も何度も放つ。地面を削り、空気を切り裂きながらトラノスケたちへと襲いかかる。

 前までなら避けることに専念しなければならなかった。ラァ・ネイドンの放つ風の刃はどんなものも斬り裂く切れ味を持っているため少し触れるだけでもパックリと肉体が斬れてしまう。


「指揮官さん、私の近くに! 私があいつの攻撃を防ぎます! 指揮官さんはドローンで攻撃を!」


 だが、今は違う。


「どうやって防ぐ!」

「こうやって防ぎます! 『嵐気流(タービュランス)』!」


 瞳を翡翠に光らせ、周囲の空気を停止させる。風は空気の流れ、ラァ・ネイドンの竜巻をいとも容易く止めてそのまま消失させる。


「風の刃が止まった⁉ マジか、イチカ! お前、自分の『キセキ』を使えるようになったんだな!」

「はい! トオカちゃんに教わりました!」

『どうだ! イチカは凄いだろ!』

「すごいじゃねーか! よし!」


 イチカが守ってくれている。

 ここまで頼もしくなるものか。やはりイチカとトオカ、二人が揃っているからこそであろう。

 そして、敵の攻撃を防いでくれた。できた敵の隙を見逃しはしない。

 ハイドラグンの操作に集中してラァ・ネイドンにビームバルカンを撃ちまくる。


「くっ!」

「まだまだっ!」

「ふざけないでよ……ほんとにさ!」


 ことごとく自分の攻撃を防がれて反撃を喰らっていくこの状況を打破すべく、ラァ・ネイドンは地面に翼のスクリューを突き出した。

 トラノスケにとって見覚えのある動きであり、焦りの表情を浮かべる。


「これは⁉」

『ビィ・フェルノの時と同じだ! 大地から強烈な火柱を立てたように! アイツも竜巻を地面から立てるつもりだ!』

「そんなことあったの⁉」

「あったんだ! だとしたら! イチカ! 地面に向かって『嵐気流(タービュランス)』を使え!」

「は、はい!」


 ビィ・フェルノの似た技を使うのなら地面から風の刃を飛ばしてくるだろうと考え、イチカにそう指示をだす。

 素直に従って『嵐気流(タービュランス)』の空気停止を地面に向けて解き放った。


「『インフェルノブラスター』の真似事! 『サイクロンブラスター』とでも名付けちゃおっか!」

 それと同時にラァ・ネイドンが最大級の風を灰色の大地にぶち込んだのであった。




「ソウォン、大丈夫か?」

「情けないわ……プロゲーマーの名が廃るわよ」

「プロゲーマーだったのか」

「……なに、あれ?」

「――⁉ 黒い竜巻が!」


「隊長! あれを!」

「わかってるよ、ありゃ危ないね」

「ヨソミ、カ!」

 ――バキッ!

「グべ⁉」

「トラン君、結構マズイことになっちゃったか……?」


「指揮官! あそこに巨大な黒い竜巻が発生しました!」

「ラァ・ネイドンの仕業か!」

「指揮官さまが今、ラァ・ネイドンと戦っているって……!」

「トラノスケ君、大丈夫かしら……」


 各部隊からもその巨大な竜巻が目に見えた。

 先ほどまで侵食樹を覆っていたあの黒い嵐の球を彷彿とさせるほどの巨大な竜巻。

 それを見た隊員たちは皆、嫌な胸騒ぎを感じ取ったのであった。




「な、何とかなりました……」

「ナイス! イチカ!」


 そしてトラノスケたちは無傷ではあった。

 地面からの暴風を防いだ後、周囲を確認するトラノスケ達。


「ここは……⁉」

『竜巻の眼の中心だぜ。黒い風が回ってやがる』


 彼らの目に映るのは動く黒い壁があった。ラァ・ネイドンが作り出した巨大な嵐がトラノスケたちの周囲を回っている。風とは思えないほどの黒さに、先を見通すことができない。

 この場に居るだけで強風が体に襲うかのように飛んでくる。


「灰結晶の塵風か。触れただけ手が血だらけになりそうだ」

『前が見えねえ。これじゃあ他の皆が入ってこれないな』

「助けはこれないってことですか⁉」

「そんなんじゃないよ!」


 黒い竜巻を分析していると、空から忌まわしき声が聞こえる。

 ラァ・ネイドンが翼を羽ばたかせ見下していた。


「ここは檻さ! 処刑の!」

「ラァ・ネイドン!」

「キミたちを逃がさないために作ったのさ! おそらく他の連中はボクの下僕の相手しているんでしょ? まだ来ないのおかしいもの。だからさ、キミたちをここで殺すことを最優先したほうがいいよね? イチカ! キミへの恨み、今ここで晴らしておくよ!」


 自分勝手な恨みを込めて、問答無用の真空波を一気に放つ。全方位から風の刃の壁が斬り潰してこようとやってくる。

 風ごと消し飛ばさなければサイコロステ―キどころかミンチになってしまうだろう。


「あ、危ない!」


 そんなことにさせない、と仲間を守るようにイチカが『嵐気流(タービュランス)』を発動、大量の真空波を全て停止させて霧散させた。


「なんつー風の物量! 四方八方隙間なく飛んできやがる!」

『イチカがいなかったら死んでたな! 流石だ!』

「ナイスだ、最高だ!」

「ほ、褒めすぎですよ!」


 真空波を防いでくれているイチカを褒めつつ、すぐさま反撃に移ろうとしたが、


「ちぃ、グラトニー粒子が……」


 ヘルメット内に小さな警告音。

 人体に悪影響を及ぼすほどのグラトニー粒子がこの空間に漂っている。空気中のグラトニー粒子が濃いのだ。

 原因は周囲の竜巻であろう。

 ラァ・ネイドンが全力でトラノスケたちを殺すために作り出した竜巻だ、空気だって悪くなる。


「トラノスケさん、大丈夫ですか⁉」

「装備は破けてないから問題はない」

『だが長居は禁物だぜ。ウカミタマじゃないトラノスケがここに居続けたら体が駄目になっちまう』

「ここから離れましょう! 私の力ならこの竜巻でも通り抜けれます!」


 普通の強化人間であるトラノスケはここまでグラトニー粒子の濃い空間に長時間いれば、確実に身体に悪影響を及ぼす。

 最悪肉体が侵食させる恐れもある。

 だが、


「俺の体のことより目の前のアイツをぶっ倒すことを考えるべきだぜ。二人とも、気張っていきな」

『いいね、その度胸気に入ったぜ。それに奴はカンカンにぶちキレてやがる。全力でオレたちを殺すつもりでくるだろうぜ。イチカ、なら奴との因縁をここで終わらせてやろうじゃねえか』

「……わかりました。ここに来る前から戦うって覚悟を決めていたもの」


 逃げるつもりははなからない。

 ここで逃がしたりしたらまた襲ってくるだろう。

 奴の風が仲間たちや同じ地球人たちの命をかすめ取っていくだろう。

 そんなことはさせてはいけない。

 勝てる可能性があるというのなら、勝たなければならないのなら、戦いから逃げることはしない。


「作戦会議は終わったかな!」


 真空波を放っていたラァ・ネイドンは突如射撃を止める。

 そしてスクリューを逆向きに発射させて自信を加速。ラァ・ネイドンが己自ら風となり、トラノスケたちへと突撃を仕掛けてに行った。


「肉弾戦を仕掛けに来た!」

『遠くからの攻撃じゃあ通らねえって吹っ切れてきやがったか!』


 トオカからしてみれば考えられない行動をとってきたと思った。

 ラァ・ネイドンは常に地球人を見下しながら戦う。戦いを狩りや遊びと思い、遠くから痛めつけるように風の刃を飛ばしていく。ちょっと痛い目に会ったら空を飛んで上空というアドバンテージを活かして虐める。

 楽しく楽に勝つのがラァ・ネイドンの戦闘スタイル。

 よく言えば自分のペースを大事にする、悪く言えば舐めプ。

 そんなプライドの塊のような戦い方をするラァ・ネイドンは接近戦を仕掛けてきた。

 楽に勝つ、それはもう捨てた。

 イチカを絶対にこの場で滅ぼす。

 そして風を封じられるのならスターヴハンガの身体能力を十分に生かした接近戦でイチカとトラノスケの命を狩ろうとしている。


「全力で殺しに来ている!」

「遊びさ! 全力の!」


 殺意を全開にして翼を槍のように、手足を剣のように鋭く変化させて手刀をでたらめに振り回す。

 雑な動きだ。

 だが化け物さえもかすんでしまうほどの身体能力を誇るラァ・ネイドンであれば無駄が大きい攻撃でも驚異的、掠るだけでも皮膚が抉れ取られるだろう。


「切り裂いてあげるよ!」

(俺から狙いに来た⁉)


 弱い奴から狙う。

 闘いの定石であり、ラァ・ネイドンの当たり前でもあった。

 鋭き刃の手刀がトラノスケの頭上から振り下ろされる。


 ――ヒュッ! ――スカ!


「あぶな!」

「ちぃ! ただの人間の癖に!」


 だがそれを反応して回避。

 恐ろしい速度で飛んでくるもなんとか避ける。

 避けられたことにちょっと驚くラァ・ネイドン、しかし攻撃は止めない。腕と足の切り裂き連続攻撃、一撃が金属をも切り裂く名刀の薙ぎ払いだ。


「あ、当たらない……」


 だが、それも当たらない。

 後ろに下がりながら回避し続けるトラノスケ。

 ラァ・ネイドンはイラつき、トラノスケは避ける度に命に触れられている感触を感じて冷や汗を流した。


(ビィ・フェルノとの戦いだけじゃあない! リオやマリさんとの組み手してよかった、何とか動きが見える!)


 トラノスケはこれまでの訓練を思い出してかすったら絶命になるであろうラァ・ネイドンの攻撃をギリギリで避け続ける。

 特に自身を加速させることができるマリとの組手のおかげでどれだけ素早く動く敵も目で追えることができる。


『身体能力に差があっても反射で動けば何とかなるものよ。人間の行動で反射より早い行動はないわ』


 訓練や仕事の時は真面目な彼女だ、教えも丁寧だった。

 そのおかげでラァ・ネイドンの動きをなんとか見切って避けることができるのだ。


「ビィ・フェルノを追い返した実力は偽りじゃないってことね!」

「止まれ!」


 ウカミタマではないトラノスケ相手も用心するべきだ、そう考えていると横からイチカが『嵐気流(タービュランス)』で動きを止めに行こうとする。

 ラァ・ネイドンの周囲の空気を停止させて身動きを取れないようにしたのだ。気体である空気そのものが一瞬で岩のように固まる。いきなりコンクリートの中にぶち込まれたようなもの。ラァ・ネイドンの体を止めようと停まった空気がまとわりつく。


「う、動いている⁉ 止め切れない⁉」


 だが、ラァ・ネイドンは立ち止まらない。

 動きは遅くなったものの、それでも人並みの速度で動き続けている。それどころかだんだん動きが元通りになっている。

 固定された空気の中に閉じ込められても持ち前のスターヴハンガの力で無理やり体を動かしているのだ。普通なら動けない体を動かそうしたらその反動がやってくるはずだが、それはグラトニーのぶっ飛んだ回復力でカバー。そのためダメージはない。


「どれだけ凶暴な風は止められてもボクを止めれると思っているの? パワー不足なんだよね!」

『ハイドラグンに乗れ、トラノスケ! コイツをぶっ飛ばす!』

「ああ!」


 心の中で合図を送り、


「選手交代だ! オレが相手だ!」

『わかったよ!』


 人格をチェンジ。


「髪色がまた変わった⁉」

「オレが相手してやるよ!」


 姿が変化したイチカとトオカに驚くラァ・ネイドンの腕を掴み取り、逃さないように万力の力で握りしめる。そして足に風をまとわせて、


「ぶっ飛べ! オラッ!」

「ぐう⁉」


 天を貫くかのような鋭い蹴り上げが炸裂。ラァ・ネイドンの顎にクリティカルヒットし、豪快なパワーで上空に吹き飛ばされて、


「バルカン! ついでこいつも!」


 ハイドラグンのビームバルカンが光る。さらにトラノスケが持っているビームハンドガンも光る。

 二つの銃砲から翡翠のビームを放ってラァ・ネイドンに命中させていく。

 旋回しながらの射撃で全身に熱弾をあびせ続けた。


「そんな火力じゃあ! ボクを消すなんて! 到底不可能なんだよね!」


 だがそれでもはっきりとしたダメージは受けていない。羽以外にも命中したが、それでも皮膚の表面が少し溶けた程度。スターヴハンガにとっては全く受けていない怪我だ。


「駄目だ! 生半可な武器じゃあかすり傷をつける程度だ! 蚊に刺されたぐらいだろうよ! 殺す前にこっちの体力と弾薬が無くなる!」

『ど、どうします⁉』

「……ビームキャノンのフルパワーをぶち込めば貫ける」


 前のビィ・フェルノにぶつけたとっておきの技、ハイドラグンの百パーセントチャージのビームキャノン。大型のグラトニーであろうとその肉体に穴を開ける威力を持つ。まさにハイドラグンの切り札。

 スターヴハンガの光を遮断する肉体でさえも消滅させるほどだ。


「だが、チャージする時間が稼げるかどうか……」


 当然、そのキャノンを撃つためにはエネルギーチャージの準備が必要だ。

 それに、撃てたところで当てなければ意味がない。隙をついて狙わなければ避けられるのは必至、外れたらまたチャージをしなければならないうえに、膨大なエネルギーを使うため数回使えばハイドラグンは燃料切れで操作できなくなる。

 そうなればラァ・ネイドンを倒す手段がなくなってしまうということだ。


「リオがいれば……」


 光を操作できるリオがいれば命中する確率も格段に上がる。

 だが今ここにはいない。


(あのオモチャ、ビィ・フェルノがグチグチと悪態ついてた物だってのは知っているのよ)


 一方、ラァ・ネイドンはハイドラグンに目が行っていた。

 ビィ・フェルノはおしゃべりな奴だ。自分にとって都合が悪いことでも愚痴を吐きたくなったらとことん喋る。

 特に自分の顔半分を抉られたことを恨みつらみ吐き出すように言ってきた。よっぽどイラついていたのだろうな、とこの時だけは茶化さず素直に聞いてた。


「イチカが近くにいない今が壊すチャンスってわけ!」


 ここでハイドラグンを破壊すれば一気に勝利に傾く。

 そう思い黒き真空波を放とうとしたとき、


「――一瞬、ボクの竜巻が乱れたような……」


 自分たちを囲む竜巻に異常を感じた。

 誰かが通り抜けてきた?


(ありえない……あの竜巻を潜り抜けれる奴なんて――)


 触れるだけで粉々にするほど竜巻。普通の人間なら通り抜けることはできない。

 だが例外はいる。

 たった一人、戦ってきた奴にこの竜巻を無視して外から中に入ってこれる奴がいた。


「誰⁉」


 背中の翼を動かし、自分を守るように包み込む。

 そのわずかな後、背中に翡翠の光が輝いた。


「見破るか! ラァ・ネイドン!」

「モモカちゃん⁉」

『なんでアイツが!』

「救援に来ていたのか!」


 第02小隊の副隊長、寺山モモカがいたのであった。

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