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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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嵐気流警報発令! ①

「トオカ、初っ端からぶっ飛ばしているな」


 トラノスケは髪をなでる嵐のそよ風を浴びて、イチカとトオカの闘志を感じ取る。

 イチカの怯えていた心も、トオカの猪突猛進的な幼い精神、その二つの弱さが互いが支え合うことによって無くなっている。

 イチカが恐怖を抱くのならトオカが背中を叩くように励まし、トオカが怒りのまま突っ走ろうとするならイチカが優しく肩に手を置きながら落ち着かせる。

 一つの体で最高のコンビの魂を持った存在が今生まれた!

 ラァ・ネイドンをぶっ飛ばして追いかけていったイチカたちに背を向けて怪我をしているリオの治療を始めようとする。


「リオ、大丈夫か? よく頑張ったな! 生きてるなら怪我治せるぜ!」

「足が削れただけよ。あの時の怪我に比べたらどうってことないわ」


 息を荒げながらも強がりを言うリオ。

 あの時とはビィ・フェルノとの戦いのことであろう。確かにあの時のリオは重症だった。

 だがトラノスケからしてみれば今のリオの状態も十分重傷だ。心配になる。

 急いで治療しようとしたらリオが手を突き出し、


「トラノスケ、私のことはいい。イチカと共に戦って」

「いいのか?」

「スターヴハンガの強さをお前はよく知っているはずだ。一人で勝てるものじゃないわ」


 リオはトラノスケの治療を突っぱねる。

 それはイチカを心配しての行動であった。

 ラァ・ネイドンとタイマンで戦うべきではない。無謀と言っていい。チームを組んで戦うべきだ。


「お前のサポートがあれば、勝てるはずよ。それは私たちが証明したでしょう」


 そしてトラノスケへの信頼でもあった。

 どれだけ災害級の力を持っているスターヴハンガが相手だとしても、トラノスケが支えてくれば勝てる、そしてそのことをリオはこの身で体験している。

 トラノスケの援護ほど背中を任せられるものはない。


(リオ……自分の身より仲間のことを!)


 リオの頼みを聞いて、トラノスケは指揮官として一瞬で決断する。


「そうか……わかった。迷っている暇はない、イチカの下に行くよ」

「ええ、行ってきて。ソウォンのことも私に任せておいて」


 リオの思いを無下にはできない。それにイチカのことが心配なのも事実だ。

 ハイドラグンに乗り込みイチカを追いかけに行く。

 ラァ・ネイドンと共に戦うために。

 



「イチカ、気を引き締めろよ。奴はしぶてえ」

『うん、それに手ごわいよ』


 ラァ・ネイドンを吹き飛ばした先に着地したイチカたち。地面に倒れているラァ・ネイドン。暴風に吹き飛ばされて地面に叩きつけられても大したダメージは負っていない。

 こくりと立ち上がりトオカの顔を見て殺気に歪んだ顔で睨みつけてきた。


「わざわざそっちから来てくれたんだ! イチカ! さっきはよくもボクを傷つけてくれたね……虐め殺したくてワクワクしてきたよ!」

「あいかわらず心のねじ曲がった奴だぜ」


 侵略者の殺意を浴びても涼しい顔のまま睨みつけるトオカ。

 戦闘のプロである彼女にとっては

 両者が睨みあって、いつ戦いが始まってもおかしくない空気。嵐と嵐がぶつかり合う前触れ。

 そしてリラックスするように軽くジャンプをして、


「あれ?」

『よし、イチカ! お前が行け!』

「ええ⁉ い、いきなり⁉」


 髪と目の色が変わって、イチカに主導権を移した。

 突然、自分が体を動かすようになってイチカは困惑を超えて驚愕。

 なんで? なんで?

 そんな疑問が頭の中を支配してパニック状態。あたふたしている。

 イチカからしてみればトオカが戦ってくれると思っていたのだ。自分はたまに射撃を任されるぐらいがやれる仕事だと思っていた。

 それなのに、いきなり戦場に立たされた。

 しかもあのラァ・ネイドンが目の前にいる状態で。


『問題ねえよ。お前の『キセキ』があれば奴に勝てる!』

「で、でも!」

「弱い方になった? 都合のいい! ならいたぶってあげるよ!」


 心臓がバクバク激しく動き、動揺しているイチカをなだめようとしたトオカであったが、ラァ・ネイドンがイチカに変わったのを見てチャンスと思ったのか風の刃を一斉に飛ばしてきた。


「ひぃい⁉ 怖い⁉」

『お、おい落ち着け! 避けてるのはいいことだがよ!』


 まだ頭の整理が終わってない状況での敵からの集中砲火。

 イチカが恐怖におののくも、持ち前の臆病な精神で必死に避ける。死にたくない、その精神から出される回避行動は小隊の中でも随一だ、風の刃をどんどん避けている。

 何であんなにビビっているのに避けれているんだ? とトオカ自身が疑問に思うもとにかく落ち着かせようとして、


『イチカ! 『キセキ』を使え! お前の『嵐気流(タービュランス)』を使うんだ!』

「む、無理だよ! 私、『キセキ』使えないよ!」

『……なんだって⁉』


 逆に焦りだしたトオカ。

 トオカはイチカが『キセキ』を扱えないことを知らなかったのである。


「他の人から私の『キセキ』を聞いたけど全然使えないよ! トオカちゃんが風を操るところもついさっき初めて見たし!」

『待て、いまなんて言った?』


 だが心の中のトオカは呆れたり落胆したりはしなかった。

 彼女が思ったことは困惑である。


「なにぶつぶつ独り言を言っているの? そんなにボクの風が怖いかな? ザコイチカちゃん!」 

「ひ、ひどいことばっかり言って……」


 挑発しながら攻撃してくるラァ・ネイドン。まだイチカの二重人格のことはわかっていないため、ただイチカが誰もいない空間に向かって話しているようにしか見えていないのだ。

 そんなことはつゆ知らず、トオカはイチカに話を続ける。


『お前、他人から自分の『キセキ』を知ったのか?』

「そうなんだよ! 私知らなかったんだもん!」

『イチカ? まさかお前は自分の『キセキ』の力を理解していないのか?』


 ただ困惑しているトオカ。

 トオカはイチカが『キセキ』を扱えない。それならば頭を抱えてしまう悩み事になっていただろう。

 だがイチカは自身の『キセキ』を知らなかったと言ったのだ。

 それは『嵐気流(タービュランス)』を扱うトオカからしてみれば疑問でしかなかった。


「それってどういうことっ、危ない⁉」

『いいか? 『キセキ』の能力ってのはな、本能的に理解できるもんなんだよ。頭の中で自分が持っている『キセキ』に対して、こんな力を持っているんだ、ってのが自然と思い上がってくるんだ。だからこそ『キセキ』を楽々と扱えるんだよ』


 極一部のウカミタマが使える『キセキ』の力。それはまさしく女神からの贈り物。

 その力を手にすれば無意識にその力がどんなものかを理解する。

 だからこそ、『キセキ』を持っているはずのイチカがどんな能力なのかをわかっていないことに疑問を抱いた。


「だ、だからそれが私って『キセキ』の力を扱えないから……」

『――オレは知っているぜ』

「え⁉」


 驚愕する事実を心の声から聞いてしまった。


『お前の力を。イチカ、今まで『嵐気流(タービュランス)』を使えなかったのは能力を知らなかっただけだ。大方オレと同じような使い方をしようとしていたんだろ?』

「そ、そうだよ! でもできなかった!」

『なら使えねーのは仕方ねえ。だって自分の『キセキ』を知らなかったもんな』


 なぜイチカは『キセキ』のことを知らなかったのか、そんな疑問が残るがそれによってなぜイチカが『キセキ』をうまく扱えないかをトオカは理解した。

 イチカは自身が持っている『キセキ』の力を知らないのだ。

 イチカの力、『嵐気流(タービュランス)』の扱い方を。


『オレの『嵐気流(タービュランス)』を使う。それじゃあ駄目だ! 嵐はオレの風だからな! だがイチカ、お前にも風を扱う力を持っているのさ!』

「ほんと⁉」

『いろいろな疑問に関しては戦った後で考えろ! すぐに教える! 聞け! 覚えろ! そして試せ!』

「わ、わかった!」


 すぐさまトオカから『嵐気流(タービュランス)』の扱い方を教えてもらうイチカ。必死に攻撃を避けながらも、トオカから教えてもらったことを忘れないように覚えていく。


「現実逃避がしたいなら今ここでさせてあげるよ! 侵食技法『旋風葬塵』!」


 イラついたラァ・ネイドンが切り札を発動させた。

 両手の間から空間さえも削り取る風塵のミキサーを生み出す。ラァ・ネイドンの切り札が炸裂する。 

 さらに翼のスクリューから螺旋回転の風槍も飛ばしてくる。大きく曲がりながらイチカが回避しようとするところを予測して飛ばす。これによって回避のルートを狭めに行った。

 避ける隙間もない確実に敵を撃ち殺す風の弾幕包囲網。

 イチカの命を狩る風の刃たちが向かってくる。


「たっぷり削り取ってあげるよ!」

「く、来る! で、できるのかな……?」

『できると思わなきゃできねえ! 『キセキ』、起こしてみせやがれ!』

「……うん!」


 心の中で背中を押されて、イチカは覚悟を決める。

 今までどれだけ頑張っても扱うことができなかった『嵐気流(タービュランス)』。今までの自分なら不安に心が押しつぶされていたであろう。

 だけど、トオカが自分を支えてくれる。

 今ここにいないトラノスケも見守ってくれている。

 できるといったらできる。

 トオカから教えてもらったことを頭に思い浮かべながら、目の前から迫ってきている風の刃たちに向けて、



「これが私の! 『嵐気流(タービュランス)』だ!」



 なにもまとっていない、ただの拳を前に突き出して自身の『キセキ』を発動させた。



 ――シュン……っ!



 その瞬間、空間の風が吹き止んだ。

 全ての風が動くことを止めてその場で停止している。

 螺旋回転している風の刃も、全てを削り取る『旋風葬塵』の黒い塊も。全てが止まっている。

 そしてイチカの瞳が翡翠色に輝いていたのだ。

 それはイチカが『嵐気流(タービュランス)』を使った証であった。


「えっ――」


 この光景にありえないようなものを見るような目をするラァ・ネイドン。

 自身の風が止まった。

 スクリューから放たれた風の螺旋槍も。

 自分が必死にイチカとトオカを殺すためだけに編み出した『旋風葬塵』も。

 動かそうにもピクリともしない。完全に自身の風の制御権を奪われた。


「な、なによ⁉ キミ、そんな力をまだ隠していたというの!」


 自分の切り札を止められてしまったことに動揺を隠せない。


『どうだ! これがイチカの『嵐気流(タービュランス)』! 風を止めて消し去る! オレの真逆の力! 風は空気の進むべき力! オレは嵐をも生み出すほどの動の『嵐気流(タービュランス)』!』


 そして、


『イチカの方はあらゆる風を停止して無へと返す静の『嵐気流(タービュランス)』! 雨雲は水滴を落とすことすら叶わず、冷たき雪も自ら凍りその場でとどまってしまう。空気を停止させる! オレの嵐を止められるのはお前だけなのさ!』

「こ、これが私の……『嵐気流(タービュランス)』!」


 ようやく、自分の『キセキ』を使えてまた涙が溢れてくる。

 悲しみと悔しさてから生まれたものではない。

 歓喜に満ち溢れたものであった。


(やった! できたんだ私!)


 本当に止まったかどうか、目の前の風の刃に触れようとする。


 ――ザクッ!


 ぱっくりと手のひらが斬れた。

 綺麗な切り傷だ、血も垂れている。


「キャアア⁉ 手のひら切れた⁉」

『バカヤロー! 風を止めただけで真空波の刃そのものは消えてねえよ! 消すように止めねえとよ!』

「血出てる⁉」

『出るに決まってんだろ!』

「な、何やっているの?」


 うっかり自傷したイチカに呆れてポカンとするラァ・ネイドン。そんなイチカは手のひらから溢れ出す血を見て大混乱。必死にトオカがなだめている。


 ――ガンッ!


「ぐへっ⁉」


 そんな気を抜いているラァ・ネイドンの横腹に音速を超えた機械の物体が激突してくる。

 飛行モードのハイドラグンが衝突事故を仕掛けに来たのである。油断していたラァ・ネイドンはハイドラグンが飛んでくることも想定外であった。ビームなら熱に反応して回避していたがドローンは探知できないのである。

 そしてそのまま勢いよく土煙を巻き上げながら吹き飛んだのである。


「え?」

『うわ……マジで痛そう……』


 イチカは戸惑い、トオカは痛みを想像してゾッとしている。

 巨大な機械の塊が音速を超えて激突してきたのだ。普通なら肉体そのものが肉片となって散らばっている。


「卑怯とは言わんでくれ。集中切らしたお前が悪いんだぜ」

「トラノスケさん!」


 そしてハイドラグンを操縦しているトラノスケも現れたのであった。

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