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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
9/81

自己紹介

「あの……皆さん……」

「…………」

「…………」


 松下トラノスケは今、人生で一番の窮地に立たされていた。

 先日のグラトニー襲来よりも、かもしれない。心に冷水がかけられ続けている。


「…………」

「じー」

「……え、えっと」

「ふふ」

「……男性の人」


 自分を助けてくれた女性がごみを見るような目でこちらに見ている。そして他のメンバーはただ黙ったままこちらの行方を見ている。

 空気がすごく冷たい。


(自分が悪いけど……正直すぐにこの場から逃げたい……)


「せっかく来てくれたんだし、挨拶でもしましょ、指揮官・さ・ま」

「そ、そうですね」

「き、緊張しなくて大丈夫です、はい」

「平泉さんも落ち着いてください。ほら、わたしに抱きついて、落ち着きますよ〜」

「皆静かに! 指揮官さまが挨拶されますよ!」

「…………」


 他の隊員たちがわちゃわちゃしているのを見て何とか心を落ち着かせることができる。彼女たちはこの空気をかえようとしてくれているのかもしれない。

 そんな都合のいいことを考えるも、とにかく今は挨拶をしなければ。


「えーと、今日00小隊に配属した松下寅之助と申します。指揮官として、皆さんの戦闘の邪魔にならないように頑張ります。よろしくお願いします!」


 頭を下げて自己紹介を終える。

 無難でいい。

 さっきあんなことをしでかしたのだ。もうひと騒ぎ起きるのは遠慮したい。


「真面目ちゃんね」

「そうですね~新人さんって感じがして初々しいですよ」


 一部不満の声が上がったが、これ以上はふざけてはいられないのである。

 トラノスケはあらためて、自分が所属する小隊の隊員たちの顔を見る。


(ってよく見たら、この人たち! 前に俺を助けてくれた隊員たち! 全員この小隊のメンバーだったのか! ってよくよく考えたら当然か)


 顔を見て今ようやく思い出す。

 前の地上でのグラトニー襲来で多くの敵を討伐し、トラノスケを救護してくれた人たちだ。

 なおさらさっきの事故がまずいものだと感じてしまう。

 他の小隊のメンバーに悪い男だと思われてしまっているのではないか。

 否定できない分、余計に落ち込んでしまう。


(あれ、なんで皆首輪付けてんだ? ファッションか?)


 ふと、隊員たちの首元を見ると分厚い首輪を皆つけている。

 ごつい首輪だ、オシャレでつけるようなものでは断じてない。

 なんでつけているのか疑問に思っていると、隊員たちが挨拶をつづけていく。


「じゃあ、隊長さん! 指揮官さまの次は誰があいさつしましょうか!」

「……私がするわ」


 不機嫌そうにしている白神が前に出る。


「白神リオ。この部隊の隊長を務めている」


 第00小隊隊長、白神莉音(リオ)は凛と自己紹介を続ける。

 長い艶のある白髪に左右にはバッテン印の髪飾りをつけていて、琥珀色の瞳がじっとトラノスケを睨んでいた。


「この軍に入隊した理由は――グラトニーの殲滅、それだけ」


 冷たく、そう言い放つ。


(グラトニーに対して強い憎しみを感じる……! 誰もがそれを持っているが、彼女は他の人よりもより強く憎んでいる……)


 基本、クールに答えていた彼女だがグラトニーの殲滅という言葉を発したときだけ、目を細めて憎しみがその口からこぼれていた。

 グラトニーによって大事なものを奪われたものはこの街なら誰もがそうだろう。

 だが彼女は他人よりもさらに強くグラトニーを憎んでいると、トラノスケはそう感じた。


「あと、指揮官。さっきのもう気にしなくていい」

「は、はい」

「私の中で指揮官がそういう人だってことで納得したから」


 ――よくない。


 だいぶオブラート包んでいるが、ようは無遠慮に他人の裸をのぞくような奴とリオはトラノスケに対してそう認識したと言っているのだ。

 とにかく小隊として活動している最中になんとか誤解を解かなければならないと心の中で奮起するトラノスケ。まあ見てしまったのは誤解ではないためどうやって納得させなければならないのか深く考えなければならないが。


「え、えと……」


 次に縮こまっておろおろとした様子できょろきょろしていて眼鏡をつけている人。

 深緑色のボブカットで赤みの強いオレンジの瞳が常に揺れ動いている。

 この様子を見ているだけで大丈夫かと声をかけたくなるぐらい不安になってくる。


「じゃあ次は私、ですね。私は、平泉イチカと言います。指揮官さんの期待に応えるため、精一杯がんばります……皆さんの足を引っ張りません……ドジ踏んだりしません……この中じゃあ一番弱いですけど……正直こんな臆病者がここにいていいのかと……」

「ストップ。あなたのことはよくわかった。これ以上悲しくなる自己紹介はしなくていいです」

(だんだん暗くなっていく……ネガティブな人だな)


 平泉一華の表情に影が深くなっていく。なにか目の光がどんどん消えていっているような気がする。

 すごい後ろ向きな子だ。

 本当に戦闘できるのかと思うぐらいに気弱だ。心配になってくる。


「はい! 次はアタシです!」

「……失礼ですが、お歳は?」

「今年で十八です! 隊長さんより一つ年下です!」

(俺の一つ下の年齢⁉ てか白神さん、俺と同じ年か。そう言われてみれが顔つきも綺麗より……いや、やっぱどう見ても高校生には見えない……)


 周りの隊員と比べて一回りどころか二回りほど小さい隊員。地中奪還軍の紋章が入った服を着ていなかったら小学生と間違えても仕方ないほど幼く見える。

 くせっけのある薄い桃色のショートヘアにキラキラと輝く濃い緑色の瞳。

 自信満々に胸を叩いて、


「はい! 富岡ツムグと申します! 指揮官さまの命令はなんでも従います! 絶対に迷惑かけません! 体傷一つつけることなくお守りします! 指揮官さまの指示と共にグラトニー共を倒していきましょう! お願いします!」

「はい、よろしくお願いします」

(素直そうな子だ……でも小さいな。ここが地球奪還軍の基地じゃなければ子供と勘違いしていたかも)


 富岡紬のハキハキとした挨拶にとっても元気な子だと思った。

 あとなにかやたらと崇拝されているような気がする。初対面なのに指揮官さま呼びだ。


「元気ね。さて」


 先ほどトラノスケをからかっていた隊員が前に出る。

 鮮やかな青色の後ろ髪を伸ばしたウルフカットに金色のメッシュが入っている。左目の下に泣きぼくろがあり空のような水色の瞳がじっとトラノスケを捉えている。


「上野マリ・ヴァイセン。ドイツ人と日本人のハーフだけど日本生まれの日本育ち。仕事もお誘いでもどちら待っているわ。私が楽しめるくらいハードな方がいいけどね。よろしく、指揮官君」

「あ、あの顔が近いです……」

(……艶しいお人だな。あとからかい上手だ)


 上野真凛(マリ)・ヴァイセンがトラノスケに豊満な体を見せつけるように近づきながら自己紹介をする。

 その目は獲物を狙う美獣のような瞳であった。貞操の危機を感じる。 


「あっ、わたしが最後ですね」


 そして最後に彼女。

 ゆったりとしてふんわりとした雰囲気を醸し出している。

 肌が焼けた褐色にふわふわとしたウェーブがかかったロングの金髪。あと目を閉じているのかと思うぐらい糸目だ。


(ひょっとしてギャル?)

「この小隊のママ、姫路エリナです〜。皆さんがケガをしたらすぐに私に見せてくださいね。絶対に治しますから〜。死んでも蘇らせます」

「お、おう……」

(凄いあいさつ来たな)


 包容力溢れる女性、姫路恵理奈の突っ込みどころあふれるあいさつに思わず足を一歩下げる。

 他人相手にママを名乗り、死んでも治すとか理解できない言葉と物騒な言葉が入れ混じったことを言ってきている。

 雰囲気は優しそうなギャルママなのだが、どこか暗い影を感じ取ったのであった。


「以上がこの小隊のメンバーよ」

「えっ?」


 寅之助が戸惑い、


「小隊ってもっと人数多いようなもんじゃないですかね? 私を含めて六人? 少なくないですか?」


 疑問に思ったことを隊員たちに投げかける。


「まあ、色々あるのよ」

「そ、そうですね……色々と人数不足でして」

「総司令官から小隊は00小隊含めて十小隊あると言われたが。他の小隊は少なくとも三十人は超えていると」

「……」「……」


 イチカとエリナが慌て始める。

 なにか怪しさを感じる。

 いくらなんでもこんな少人数の小隊なんて。訳アリで集まった人たちなのだろうか。


「指揮官さん。心配になるのはわかります。でもわたしたち、結構腕は立つんですよ!」

「姫路さん、なんでヴァイセンさんの後ろに隠れながら言ってくるのですか?」

「彼女、ちょっと男絡みでトラブルあったのよ。大丈夫、苦手なだけで嫌いじゃあないから」

「そうですか……なら仕方ないですね」

「……す、すみません」


 マリの後ろに隠れながら謝るエリナ。

 トラウマがあるならしょうがない。

 聞きたいことがあったが黙っているのは仕方ない。無理に聞いても答えてくれないだろう。


(まじでなんでこんなに少ないんだろ……賀茂上司令官に聞いても問題ないよな?)


 上司に聞くべきかもしれないとそう思った。




 トラノスケと第00小隊の隊員は互いに挨拶をかわしあった。


「指揮官さま! 今日の命令は何でしょうか!」


 ツムグが意気揚々と聞いてくる。


「えっと、今日は皆の実力を測るためのテストをしたい。自分は皆のこと、今日出会ったばかりであまり知らないもので」

「あー、なるほど。指揮官君、私の実力知らないものね」

「せ、戦力の確認、ってことですね……それは大事です」

「だったら早く訓練場にいきましょう。そうしたらすぐにでも地上に出れる」


 今日指揮官になって第00小隊の隊員たちと出会った。トラノスケからしたら彼女たちのことは全く知らない。兵士としての実力も、だ。

 だから今日は訓練室で彼女たちの腕を見るのが予定なのである。

 全員納得したようで訓練室に向かうことになった。


 ――ビィィィッ‼ ビィィィッ‼

 

 突然警報が鳴る。


『地上エレベーター付近に再びグラトニーの集団が近づいています! 地上の防衛部隊から基地内にいる小隊に救援要請です!』

「え、こんな時に⁉」


 また地上エレベーターにグラトニーが襲来してきた。

 これから自分の部隊たちの実力を見ようとするのに。


「松下指揮官。早く地上に向かうべきだ」


 リオがそんな提案をしてきた。


「え?」

「私たちの実力が知りたいんでしょう? ちょうどいいじゃない」

「勝手に出ていいのか?」

『松下指揮官! 聞こえるか!』


 その声と共に左腕につけられたガンドレッドから声が聞こえる。

 指揮官のガンドレッドは様々な機能がつけられている。これは通信機能。ガンドレッドの画面を見る。声の人物が賀茂上だ。


「はい、なんでしょうか!」

『君たち、第00小隊に地上のグラトニーの討伐任務を出す。やってくれないか?』


 まさかの討伐任務。

 いきなりこんな大事を任せられるとは。


「わかりました。ですが自分は何をすれば……まだ武器や支援用の道具を支給されていません」

『いや、松下指揮官はこの場で待機してもらう。君は今日入隊したばかりだ。ならば今は彼女たちの実力を知るべきだろう。地上付近なら指揮官の仕事も少ない』

「わ、わかりました。皆さん! たったいま指示が入りました! 地上付近のグラトニーの討伐に行ってください!」

「ええ」

「わ、わかりました!」

「はい! 任せてください!」

「私の活躍、じっくり見ててね」

「はい~」


 隊員たちが準備を始める。


『松下指揮官。ちゃんと部隊のメンバーの実力をこの目でしっかりと見ろ。次の任務では君も地上に出る。彼女たちのことをよく知り、ちゃんとした指示とサポートをするためにな』


「はい!」


 指揮官として、基地内で待機させられる。

 同じ小隊の隊員の腕を見るために。

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