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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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風の侵食樹破壊戦

 一方、小笠原カズキ指揮官は侵食樹の近くまで来ていた。


「……そうか。よかった。引き続きラァ・ネイドンとの戦闘を頼む。こちらも手早くここを抑えよう」

「どんな内容だったんですか?」


 ヘルメットを被った隊員がカズキに聞いてみると、


「松下指揮官がイチカを救出し、今は治療をさせていると言っていた」

「あらそうなの。トラノスケ君、やる~」

「さすがは指揮官さまですね!」

「でも、イチカの奴、勝手に一人でいくのはね。もう片方のイチカも大変でしょうに」


 イチカが救出されたことに安堵の息を漏らすマリとツムグ。

 スターヴハンガ相手に一人で立ち向かうという無謀をしでかして、無事に生きているかどうか心配であった。凶暴のイチカがどれだけ強かろうと不安になるのは当然である。

 トラノスケが見事救出したことを知って安心しつつ、よく助けたものだと二人は称賛の声を上げていた。


「ならばこちらも任務を遂行せねばなるまい」

「あれを壊して、さっさと指揮官さまのもとに戻りましょう!」


 あっちも頑張っているのだ、ならばこちらも成功の成果を伝えることにしよう。

 闘志を漲らせて侵食樹に近づいていく。

 敵は多くいるだろう。

 奴らグラトニーにとってもあの侵食樹は生命線だ。

 そしてこちらも、あの侵食樹を壊すまたとない好機。先ほどまでは嵐が包まれて攻めようにも攻めることができなかった。

 だが今は違う。

 イチカのおかげで嵐は消えている。

 この好機を見逃したらまたイチカに頼らなくてはならない。せっかく作りだしてくれたこの場面を不意にするようなことはできない。


「そろそろ侵食樹にたどり着くか」


 そういうと、カズキはチャージライフルの銃口を空に向けた。


「あら」

「おや?」

「指揮官? ひょっとしてあれを?」

「ここが洞窟の中でなくてよかった。奇襲をかけれる」


 ツムグ以外の隊員はカズキが何をするのかを察していた。

 そしてチャージライフルの重心が翡翠色に光り始める。エネルギーをチャージしている合図だ、チャージライフルには膨大なエネルギーが溜まり始めている。


「ビーム兵器はあらゆるものを貫ける灼熱の武器。だが光ゆえに防ぐ手段はある。ビームを曲げる機械を兵器に搭載するのが防衛手段の一つであった」


 チャージが完了したことを確認し、引き金を思いっきり引いた。


「――それは当然、攻撃する側だって使える」


 上空に上がった極太のビームは山なりの軌道を描いて落ちていき、侵食樹の近くに着弾。そしてエネルギー爆発が巻き起こりグラトニーたちを巻き込んでいく。


「ナンダ⁉」


 侵食樹を防衛している自我を持っているグラトニー、『フェイス』も目を見開いた。空から大きな光が落ちてきたと思ったら目の前に大爆発が起きていた。

 忌むべき翡翠の光だ。

 それは自分たちの敵である地球奪還軍がやってきた、という合図であった。


「もっとも、そちらの隊長ほど器用に曲げることはできないが」

「あれ曲げるというより光を自由に操作しているって言うのが正しいから」

「富岡隊員! ヴァイセン隊員! 今こそ攻め時ですよ!」

「グラトニーどもを殲滅だ!」

「いっけっ!」

「ぶっ殺せ!」


 動揺と混乱が阿鼻叫喚しているこの状況、攻勢を仕掛けるしかない。隊員たちが狙いを定めて引き金を引きつつ距離を詰め、グラトニーに風穴を開けていく。


「あらあら、血気盛んね」


 前を走っていく隊員たちを見ながらほほ笑み、


「やっぱ私たちはそれぐらい殺気強くないと! アハハハハ!」


 獰猛な高笑いと共に青い閃光が戦場に一筋の光を残していく。その閃光が通り過ぎる度にグラトニーが真っ二つにされていく。

 マリの『疾くあれ、螺旋(ブラウ・ブリッツ)』によって閃光の如く加速している。

 誰よりも速く、誰よりも鋭く、マリが単独で敵陣に入り込み、グラトニー達を無残に蹴散らしていった。


「さあ! 斬られな!」

「ああ! マリさんに一番槍取られました!」

「先に取ったのは小笠原指揮官では?」

「私たちが先に撃ったし」

「そんなことはどうでもいい。各隊員! グラトニーどもを殲滅し、あの侵食樹を破壊しろ!」

「「「了解!」」」

「マリさんばかり頑張ってずるいです! アタシも頑張ります!」


 第02小隊の隊員たちも前に出る。そしてツムグも遅れるものか、と敵陣へ向かって走り出した。


「撃て撃て! 敵は混乱している!」

「フェイスやら中型がいても、それらはヴァイセンさんたちに任せましょう! 私たちは小さい奴を片っ端から素早く潰すのよ!」

「いいわ! 暴れやすくて助かる!」

「はい! 楽々と狙い打てますね!」


 小型のグラトニーを相手にしてもらって、大きめのグラトニーを一方的に屠っていくマリとツムグ。

 マリは閃光の剣技で敵を高出力ビームソードで斬り裂き、ツムグはハンドガンとナイフで器用にグラトニーに致命打を与えていく。


「マズイ! ドウスル?」

「ココ、マモラナイト、ラァ・ネイドンサマニ、オコラレル」

「アレヲダセ!」

「アノモンスターダ!」

「ヨンデ、イッセイニ、コウゲキ!」

「ワカッタ!」


 人型のフェイスたちも勢いあるマリ達の攻撃に焦りながらも切り札を呼び寄せる。

 ここを守らないと後でラァ・ネイドンの折檻が待っているうえに、全力を出さなければ地球奪還軍に討伐されてしまう。そんな破滅の未来は嫌だ。


「ツレテキタ!」

「ラァ・ネイドンサマガ、ツクッタ、オオキイドウホウ!」


 そしれ連れてこられたグラトニー、まず目に入ったのは鋭い大鎌のような腕であった。

 腕そのものがドス黒い刃でできていて、目が灰結晶、細長い体に六本足、見た目はまさしくカマキリだ。

 そんな昆虫が巨大になってマリたちの目の前に現れる。 


「大型グラトニー……侵食樹を守りに来たって感じかしら」

『ラギャッ‼』

「――はっ⁉」

「むっ⁉」


 不意にカマキリのグラトニーが腕を縦に振る。

 それを見た瞬間、殺気を感じ取ったマリとツムグが左右に別れながら避ける。


 ――ズバンッ‼


 すると二人がいた場所に向かって大地が裂けていき、その軌道にいたグラトニーが真っ二つとなってしまった。

 真空波だ。

 巨体から放たれるその風の刃が大地を切り裂きながら飛んできたのだ。あれを喰らったらどんな装備であっても体が二つに分かれてしまうだろう。

 ちなみに斬られたグラトニーはすでに元通りになっている。ウカリウムを喰らわない限り死なないのがグラトニーだ。


「腕の一振りで大地が割れた⁉」

「随分とでかいカマキリがやってきたわね!」

「『ストーム・マンティス』! イケ!」


 そう名前で呼ばれたカマキリ型グラトニー、『ストーム・マンティス』が唸り声を上げて腕をデタラメに振り回しながら地球奪還軍に突撃してくる。

 振っている腕から風の刃が出ており、周囲に鋭い切れ味の刃を発射しながら突っ込んできている。これは厄介だ。


「各隊員! 警戒しろ! ヤツの腕の攻撃を喰らったら一瞬で終わりだ!」

「わかりました!」

「私が先に仕掛ける!」

「はい!」


 隊員に注意を呼びかけつつ、すぐさま狙撃を仕掛けるカズキ。

 遠くからなら一方的に攻撃できる。あのどんなものでも斬り裂してしまうあの腕を相手にしなくていい。

 あの『ストーム・マンティス』相手に接近戦を仕掛けるのは愚策であろう。

 チャージを完了させ、高出力のビーム弾を連射。狙いは『ストーム・マンティス』の足。機動力

を奪いに行く。


『ラガッ!』


 すると危機を察したのか、腕を振るのをやめて力を込めるようにしゃがみ込んで大きく飛び上がる。

 巨体に見合わない跳躍力で縦横無尽に飛びながらカズキのビーム弾を避けていく。


「そういう避け方か……!」


 そして近くにいた第02小隊の隊員たち目掛けて攻撃を仕掛ける。

 腕をまっすぐ開いて、その巨体を回転しながら突撃してくる。さながらコマのように。

 よく見たら上半身部分だけが回っている。だからバランスのいい体勢で回転しながら敵に向かって突撃を仕掛けることができるのだろう。

 そのまま風の刃を飛ばしながら突っ込んでくる。


「急いで避けろ!」

「ビーム弾じゃあとまらない⁉」


 迎撃のビームアサルトライフルをお見舞いするも動きは止まらず。

 急いで逃げようと回避行動をしようとする。とにかく『ストーム・マンティス』の攻撃を喰らわないように動かなければならない。

 だがこのままでは逃げの一方。


「どこみてんのよ! この私から目をそらすなんてさ!」


 そこに仲間を助けようとマリが殺意に満ちた一振りをかます。

 接近戦重視のマリでも、あの巨大な鎌相手に近接戦を仕掛けるのは危うい。そう感じっとったマリは離れた距離からの斬撃を放つことに決めた。

 鋭く無駄のない縦振りから放たれる斬撃波がストーム・マンティスの体に命中する。巨体なため攻撃は当てやすい。

 しかし傷はついていない。

 普通のグラトニーなら一瞬で消し炭だ。奴らが切り札にしたのも納得のできる頑丈さと鋭い攻撃だ。

 だが動きは止めることができた。


「助かった……!」

「あの程度じゃダメか。なら殺されるしかないな! カマキリさん!」

『グギョ!』

「ついてこられるかしら!」


 ビームソードの出力を上げてマリのキセキ、『疾くあれ、螺旋(ブラウ・ブリッツ)』を発動させる。

 蒼い光が彼女を包み込み閃光の世界へと誘う。

 一筋の軌跡を残しながら加速する。小型のグラトニーたちを斬り伏せながら『ストーム・マンティス』に向けて火力を高めたビームソードの斬撃波を放っていく。

 一発でダメなら何十発も放ってやればいい。


「ハヤイ!」

「ダガアレデハキカナイ! ムシシテホカノヤツラヲ!」

「させません! その腕を斬り落としてみせます! 『断ち切れぬ糸(ジ・ボンド)』!」


 さらに暴れようとする『ストーム・マンティス』にツムグは目を翡翠に光らせる。

 両手から紅い糸が伸び、それを鞭のようにしならせて『ストーム・マンティス』の腕を挟み込んで切り落とそうとする。

 あの鎌自体は名刀並みの切れ味を持っているとツムグは判断した。真空波で地面を切り裂くあの威力、直撃ならばどんな硬いものでゼリーのように切り分けるだろう。

 だが鎌になっていない腕ならばただ硬いだけだ。

 それならば金属のワイヤーをも凌駕する切れ味を持つ『断ち切れぬ糸(ジ・ボンド)』ならば斬れるはずだ。

 だがしかし、紅い糸は腕の表面に喰いこむだけでこれ以上は入らない。予想以上の頑丈さだ。


「挟み込んでもダメならば、巻いて引っ張るのみ!」


 だがそれで終わるほどツムグは甘くない。彼女にとってトラノスケの指示を達成することこそが指名。それこそが生きる意味。

 押すのでない。巻いて自身のパワーも加えていく。

 優しくなでるように糸をぶつけるのではない、引っ張って無理やり糸で真っ二つにしていこうとする。強引に引きちぎってその腕を切り落としに行く。


「いい加減に! 斬れろ!」


 それでも腕は落ちない、ならばとその糸を両手が強くつかみ取り、敵に背中を見せてからの糸そのものを背負い投げ。腕だけでなく体全身の力を使っての強引な切断。


 ――ブチッ‼


『ラガッ⁉』

「マンティス⁉ ウデガ⁉」


 そのパワーが腕に伝わったのか、『ストーム・マンティス』の腕が断たれた。


「今です! グレネードで爆破を!」

「プレゼントってやつね!」


 ツムグとマリが同時に『ストーム・マンティス』へウカリウムグレネードを投げぶつける。二つのグレネードが爆発して二つの翡翠の爆破が起こる。

 これで壊した、『ストーム・マンティス』の最大の武器がなくなった。

 近接戦を仕掛けにいっても問題ないはずだろう。


「トッタ!」


 だが鎌は壊れていなかった。

 一体のフェイスが持ち上げてマリ達から離れようと必死に足を動かして逃げている。


「あいつら! どうやって!」


 フェイスはグレネードが爆発する瞬間に黒い風を飛ばして『ストーム・マンティス』の腕の鎌を吹き飛ばした。それによってグレネードの爆撃から逃れることができ、吹き飛ばされた鎌は他のフェイスが回収。

 それによって鎌が壊されることを阻止したのだ。


「アブナイ! カイシュウ!」

「アノイマイマシイヒカリデキレテイナイ! ナオル! クッツケロ!」


 持っている鎌を『ストーム・マンティス』めがけてぶん投げる。するとその鎌はカマキリの巨体に突き刺さる。普通なら誤射のようなものだがそこはグラトニー、突き刺さった鎌を『ストーム・マンティス』は侵食、そして自身の腕を再生していく。


「周りの奴らも厄介ね!」

「フェイスも手ごわいですからね! スターヴハンガと比べたら弱っちいですけど!」

「ムカツク」

「タシカニソウデハアル」

「ダガ、チキュウノヤツラニイワレルノハイラツク!」


 絶対にあの二人を始末してやる。

 フェイスの怒りが沸き上がっていく。

 ゆえにこれで決めてやろう。


「ヤレ! トットトシマツ! シロ!」

『ラギャギャ!』


 命令された『ストーム・マンティス』が天に向かってでたらめに腕を振り真空波を飛ばしていく。

 空に敵はいない、なぜだと疑問に思うマリ。そしてそれと同時に戦士としての感が告げる。

 ここにいたらマズイ、と。

 すると上空に向かっていった真空波が地面に引っ張られるように落ちてくる。


「空から風の爆撃⁉」

「ニゲラレナイゾ!」

「カマイタチの雨だ! 避けろ!」

 

 各隊員が空から降ってくる風の刃をよく見つつ回避、さらにビームシールドで防ぐも数がおおい。豪雨の如く隊員たちに刃が降り注いでいく。


「チッ⁉ なかなか乱暴ね!」

「斬っても止まりません!」


 空からの刃の雨を消し飛ばそうとマリはビームソードの斬撃波を、ツムグは『断ち切れぬ糸』で相殺しに行く。

 風の刃は鋭く、打ち消さなければこちらの身が危ない。


「スキダラケダ!」

「イッキニハナツ!」


 フェイスたちが集まって風の刃と灰結晶弾を乱れ打つ。目標はマリとツムグ、この舞台の中で一番厄介なメンバーだというのは今の戦いですぐにわかった。

 ならば戦闘力の高い二人を一気に殲滅する。

 そうすればあとは楽な相手ばかりだ。

 ゆえにここで確実に殺しておこうとフェイスたちが必死になって弾を放つ。


「真正面からも――⁉」


 マリとツムグが斬撃波の群れに飲み込まれて紅い血をまき散らす。

 端から見れば致命傷。


「やってくれるじゃない……そうでなくちゃあ!」


 だが二人は倒れていない。


「指揮官さまの期待を裏切るわけにはいかない……討ちきってやります!」


 傷だらけの二人、しかし戦闘に影響なし。

 この程度で止まるほど二人は脆くはない。

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