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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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黒き刃の嵐 ③

「ああもう! なんでボクに歯向かうのよ!」


 怒りに歯噛みし、イラつきをぶつけるように言い放つ。

 ラァ・ネイドンは激怒した。


「ゲームは一方的に相手をなぶるから楽しいのよ! 敵が強いなんてストレスがたまるだけじゃない! ボクに好ましくない体験を押し付けやがって! ボクはね! キミたち地球人が無様に絶望を味わう姿が見たいのよ!」

「なんなの……コイツ」

「醜悪なヤツめ」


 あまりにも自分勝手な言い分にアスカとモモカは表情を強張らせる。心の中ではこのグラトニーは確実に始末しなければならない存在であると認識した。

 残虐な侵略に楽しさを見出している。

 他の惑星人だから常識が違う、という考えで済ませていい存在ではない。

 このグラトニーは殺戮者だ。ここで止めなければならない。


「だからさ――」


 先ほどまでの激昂した態度から一変、体をゆらりと揺らして静かになる。

 そして彼女の背中から機械がスクラップになるような破壊音が響き渡る。その度に揺れているラァ・ネイドンの体が激しく揺れる。

 背中から刃のように鋭い突起物が生えてきて、それが左右に伸びていく。そこからナイフの形をしたうろこが突起物を覆うように形成されていき、ラァ・ネイドンに羽が生えた。

 その翼は殺意に満ちていた。

 ラァ・ネイドンの髪と同じような黒い緑色に染まっている。

 その鱗は触れるだけで、撫でた手を斬り裂きそうなほどの切れ味を誇っている。

 さらに羽の先端には刃のスクリューが静かに回っている。

 弱者を苛め抜く、その残虐な精神がそのまま形になったかのような、そんな翼がラァ・ネイドンにあった。


「は、羽が⁉」

『どうした⁉』

「スターヴハンガの身体変身能力だ! 指揮官、ちょっとまずいよ!」

「さっきまでの死闘はおしまい! これからは弱いものイジメのお遊びが始まるのさ!」


 羽のスクリューの回転が速くなる。それと同時に空へと飛翔して殺すべき獲物を見下す。

 そして大気の空気もそのスクリューに吸い込まれていくかのように集まっていく。


「『舞イ踊ル旋風』! さあ、空を舞いなよ!」


 スクリューから横向きの竜巻が発射される。それと同時に羽の鱗も黒い竜巻についていくかのように発射、先ほどまで見せた竜巻よりも大きく、指から飛ばした風のライフル弾よりも早く、かまいたちよりも鋭い。


「パワーが違う⁉」

「モモちゃん! 一旦回避だ!」


 二人とも回避行動に移る。

 モモカはアスカの手を握って『友往邁進』を発動。安全な場所まで直進して避難する。黒い旋風が灰結晶の大地を削りながらもそれを回避。


「くっ⁉ 旋風が消えない⁉」

「これがラァ・ネイドンが生み出した超次元の風ってこと⁉」 


 だが黒い旋風は消えない。常にこの場所を這いずり飛んでいる。

 ラァ・ネイドンの力が込めらえた嵐はグラトニーの特性を兼ね備えている。大気と大地を侵食しエネルギーを奪い、半永久的に風が激しく動き続ける。

 グラトニーの作り出す風は高密度のウカリウムでなければ消すことは不可能なのである。


「らちが明かないね!」


 攻められてばかりではいけない。

 アスカは背中のホバージェットを起動させて反重力を生み出す。そしてラァ・ネイドンを追いかけるように空へと飛び出しながらビームアサルトライフルを打ち出す。


「速い射撃! だけどね!」


 ラァ・ネイドンの体がぶれて消える。ビーム弾は無情にも通り過ぎ、遥か上空に姿を現す。

 当てようとして撃ち続けるも空を鳥のように優雅に飛び回るラァ・ネイドンを捉えることはできなかった。


「狙い定めるの無理! その前に動かれる!』

『だ、ダメだ……予測できん!』

「カズ君でも予測できないなら無理だ!」


 カズキも援護しようとするも、ラァ・ネイドンの音を超える飛行に目が追いついても狙撃が間に合わない。遠くからの狙撃に対しても対応できるように高速移動しながら攻め立てているのだ。


「おっそーい! ボクの方がずっとはやーい!」

「ちょこまかと――はっ⁉」


 モモカも空を飛んでアスカの援護をしようとしたその時、ラァ・ネイドンの姿が消えた。それと同時に横から殺気。

 槍を構えると、そこにはラァ・ネイドンが佇んでいた。

 ――いつの間にこの場所に⁉

 まさしく瞬間移動。モモカは冷や汗をかく。

 そしてそのまま体を回転させて羽をぶつける。


「ぐおっ⁉」

「モモちゃん⁉」

「ほらほら! ボクの羽はどうだい! 美しいでしょう!」


 ラァ・ネイドンの羽は見た目以上に重く、槍で防いだというのに身体中に鈍い衝撃が走る。

 そのパワーに耐えきれず吹き飛ばされてしまった。 

 そこからさらに追い詰めるようにラァ・ネイドンは竜巻に包まれる。そこから全方向にかまいたちを発射。大地と空を斬りつけながら、アスカたちのもとに飛んでいく。


「一気に風刃の大群が⁉」


 前面から刃の弾幕が押し寄せてくる。かまいたちの群れだ、ひとたび巻き込まれたらその体は無残にバラバラの肉片へと化してしまう。


「モモカ!」


 吹き飛ばされたモモカを追いかけて、『摩訶不思議なポケット(バックパック)』を開いて何とか自分とモモカの身を守る。


「も、申し訳ありません!」

「謝るのはいらない! お礼の方で頼むよ!」

「ふっふーん! これこれ! この一方的な戦いがいいのよ! 次の一撃でトドメを――」


 特大の風刃をぶつけて絶命させてやる、そう考えて羽に風のパワーを溜めようとしたその時、ラァ・ネイドンにとって信じられない光景が目に入った。


「私の住処の樹が……嵐の鳥籠が消えている?」


 いつの間にか侵食樹を覆っていた嵐が綺麗さっぱりなくなっていた。

 それを見てラァ・ネイドンが空中で地団駄を踏む。


「誰なの! 私の大事な樹にあんなことした奴は!」


 ラァ・ネイドンにとっては自分の家を踏み荒らされたようなものであった。侵食樹を建てて、自分が気に入るように嵐をデコレーションしたのに、それが消された。

 元は地球人の大地なのに、自分の元を言い張りながら、それが壊されたことに自分勝手な怒りを抱いている。


「何を言って……指揮官! 隊長! 侵食樹をみてください!」

『――風がなくなっている!』

「仕事を成し遂げたようだね……トラン君たちは」


 嵐が消えたということは、トラノスケの部隊がやり遂げたということ。これなら侵食樹に近づいてぶっ壊すことができる。よくやってくれた、とアスカは心の中で称賛した。


「ムカつく……ムカつくムカつく! ボクの家を壊すような真似しやがって! 一体誰だ! 顔を見たら傷と穴を開けてやる!」

「おいおい、こっちは無視かい?」


 言葉と共に長めのビーム弾が飛んでくる。

 アスカがビームマグナムを握って何度も打ち込んでくる。片手銃で金属を一瞬で溶かすほどのマグナム。

 それが飛んできても、ラァ・ネイドンは翼で自信を包んで身を守る。生み出した羽はウカリウムを対して絶大な耐性を誇る。その分、壊れたら肉体と違って修復するのに時間がかかるが、グラトニーの天敵と言えるウカリウムに対抗できるのなら安いもの。

 マグナムのビーム弾を防ぎながら周囲を調べていると、


「――おもちゃ見っけ!」


 アスカたちとは別の地球奪還軍の隊員たちを見つけた。

 彼女たちはアスカたちの部隊、周辺のグラトニーを討伐してカズキたちの小隊を合流しようとしていたのである。本当はアスカたちと合流しようと思っていたのだが、アスカ本人が戦いに入ってはいけないと言われたため、

 スターヴハンガとの戦いに巻き込まれないようにするために、アスカが注意したのである。

 その部隊を見つけたラァ・ネイドンが口端を歪ませて両手を上空に掲げる。

 すると急激に大気が激しく揺れ始め、ラァ・ネイドンの手のもとに巨大な嵐の球体が形成されていく。


「あればさっきの嵐の大玉⁉」

「ぐちゃぐちゃのミキサーになっちゃいなよ!」

「やらせるかよ!」

『私も止めに入る!』


 それを止めるため、『摩訶不思議なポケット(バックパック)』から二丁のアサルトライフルを取り出して速射。さらにカズキも遠距離狙撃で援護。一発でも当たればいい、それでラァ・ネイドンの攻撃を止めにいく。


「そんなもの!」


 だがそれを、ラァ・ネイドンは自ら嵐の球に突っ込んで防いだ。

 どれだけ鋭い風の刃に満ちていようが、スターヴハンガであるラァ・ネイドンには効かない。ゆえに、この嵐の大玉は殺戮の風であり自信を守る守りの嵐である。


「なにっ⁉」

『弾かれた⁉』

「バイバイ!」


 そして両手を前に突き出して嵐の大玉を吹き飛ばす。

 狙いはアスカの部隊。

 直撃すれば人体はバラバラに飛び散ってしまうだろう。

 そんなことはさせてはいけない!


「くっ⁉ クソッたれ!」

「隊長⁉」


 ホバージェットの出力を最大にしてこの場から離れる。いきなりの行動にモモカも戸惑ったが。

 あの風を止めなければならない。

 そうしなければ自分たちの部隊が全滅してしまう。

 それを阻止するために嵐の大玉に向かって飛んでいった。


「聞こえる! すぐに空を見て、逃げて、守れ!」

『い、いきなり……は、萩隊長! わかりました!』


 突然の意味不明な指揮に戸惑うも、アスカの焦り声を聞いて素直に従う。隊長の指揮だ、間違いないはないと他の隊員も思い、上を見上げた。


「なにあれ⁉」

「さっき見た嵐の球だ!」

「避けれる場所がない! ビームシールドを構えろ!」


 自分たちに危険が迫っていることを理解した隊員たちが防御態勢を取る。それで防げるかどうかと言えば無理に近い。だがそれでも逃げる場所がないのなら、せめて生き残る可能性をかけて守りに入った。

 そしてアスカはそんな彼女たちを守るために『摩訶不思議なポケット』を開く。


「僕の『摩訶不思議なポケット(バックパック)』は銃火器だけが入っているわけじゃあない!」


 アタッシュケースからビット兵器がたくさん出てきた。全てシールドビット、小型のビームシールドをこれで展開。

 さらに巨大な持ち手のついた円盤を装備。

 大型のビームシールドだ。本来はドーム状のビームバリアを展開するために開発されたものだが、使い方次第では巨大なシールドを作り出すことができる。

 ビームシールドの周囲にシールドビットを立てて、より巨大な盾を作り出す。巨大な嵐の大玉にも匹敵するシールドを作り出した。

 これで巨大な風の竜巻玉を止めにいく。


「これぐらい、跳ね飛ばして――」


 真正面から受け止めていく。

 手に伝わる嵐のエネルギー。踏ん張らなければ一瞬で風に飲み込まれて吹き飛ばされてしまうほどだ。


(このまま……遠隔操作武装でぶっ壊して!)


 さらに武装を取り出そうとする。嵐の大玉を受け止めている間にこの嵐球をビームで消し飛ばす、それがこの窮地を脱する唯一の方法だ。


「は、灰結晶が、ぐおっ⁉」


 だが、武装を取り出す前にシールドにひびが入る。

 この嵐の大玉は前のものも凶悪なものであった。

 風の刃だけでなく、ラァ・ネイドンの翼から発射された羽と鱗が混ざっており、その二つは風の刃よりも鋭く重い。それらがビームシールドに大きな負担を与えて、一瞬にして耐久力を減らしに行ったのである。


「や、ヤバい――っ⁉」


 そしてシールドは瞬く間に壊れてしまった。

 嵐の大玉に巻き込まれながらアスカは、自分の部隊の隊員のところに叩きつけられる。そして嵐の大玉は巨大な爆弾のように爆発し、周囲に風の刃と衝撃をまき散らした。黒い風と粉砕された灰結晶の粉が舞い散る。


「隊長っ⁉」

『アスカ⁉』

「死んじゃったね。さて早く探さないと」



「よう、会いたかったぜ。ラァ・ネイドン」



 この場から消えようとしたとき、ラァ・ネイドンの耳に自身の名を呼ぶ声が聞こえた。


「お、お前……やっぱりお前だったか!」


 声を出した人物を見たとき、目を見開きながらもラァ・ネイドンが怒りに満ちた表情を浮かべる。


「それはコッチのセリフだ、テメー! あの時からずっとぶっ殺してやりたいって思っていたんだぜ! 陰湿風ヤロー!」


 赤紫色の短髪を強い風でなびかせながら、彼女もまた怒りに染まったつり目でラァ・ネイドンを睨みつける。

 初めて顔を合わせたとは思えないぐらい、両者は互いに仇を向けるような、純粋な怒りを抱いていた。


「い、イチカ……」


 苦虫を潰すような顔をしながら、この場では最も頼りになる人物の名前をモモカはつぶやくのであった。

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