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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
72/103

●●●との話し合い

 もう片方の凶暴のイチカが出てきた。

 起き上がって頭に手を当てながら辺りをキョロキョロとしている。


「……頭イッタ⁉ 転んだのか、頭ぶつけたのか、どっちだよ!」

「イチカ、大丈夫か? 頭から地面に転んだんだ」

「なるほどな……そいつはイてえわけだ。ぐっすり寝すぎたみてーによ」

「どうやらケガはないみたいだ。よかった」

「おい、アイツになんか言ったのか?」


 アイツ、というのはもう片方のイチカのことだろう。

 転んだのはトラノスケに原因があるのか、そう疑っている。素直に教えなければ誤解されてしまう。


「もう一人の君が次の任務に大きな不安を抱いている。そのことで話し合っていたら逃げ出して、で転んだ」

「……マジか」


 それを聞いて、納得する表情を浮かべた。

 どうやら共謀の方のイチカはもう一つの方のイチカの臆病さを知っているみたいだ。


「まあ、わかるぜ。あいつ、ビビりだもんな。本当だったらこんな軍にいるような性格してねえだろうによ」

「自分の意思で軍に入ったわけじゃあないのか?」


 前々から思ってはいた。

 イチカはグラトニーとの戦いに対して、消極的すぎる。グラトニーを倒したくてこの軍に入隊する、とは思えない。

 だからこそ疑問に思う。

 あのイチカがどんな理由で地球奪還軍に入隊したのかを。


「知らねえのか⁉ イチカはむりやり軍に徴兵されたんだぜ」

「徴兵⁉」


 知らなかった真実がイチカの口からあっさりと聞かされた。

 イチカが軍に徴兵されて隊員になったのだ。

 この軍のほとんどは自分の意思で入った人が多いので、逆に珍しい。

 その理由を考えていると、イチカがすぐに口を開いて教えてくれた。


「この軍が生まれたころにはな、ウカミタマになった隊員も死にまくっていた。グラトニーのこともよく分かってなかったし、隊員としての能力も武装もへっぽこだったからな。ドンドン減っていったらしいぜ」


 一息、


「で、隊員を補充するためにウカミタマになれる素質のあるやつを片っ端等から集めたってことさ」

「俺は知らないぞ、そんなこと。そういったことがあるなら地球奪還軍は世間に公表するだろう。無理にでも隊員を集めないといけない状況になりました、協力してくださいって!」


 徴兵なんてことやるなら、ニュー・キョートシティ全域にその情報が発信されてないとおかしい。なにせグラトニーと戦う隊員になる人をコッソリと無理矢理集めます、なんてことを世間にバレたりでもしたら地球奪還軍を懐疑的に見る人が増える。

 余計に人が集まらなくなるし、軍そのものを無くせ、と住民が思うようになるはずだ。

 そんなリスクを冒してまでもやるべき行為なのか。

 だがイチカは首を左右に振った。


「知らねえ、どうせ軍の上がこっそりやったんじゃねえか」

「……総司令官や法隆さんが?」

「あー、そいつらはやってないと思うぜ。オレも話してみたが真面目そうだしよ。法隆に至ってはオレとケンカもしてくれたぜ」

「ケンカしてくれるのがいい人の条件ってどんな判断なんだよ」


 彼女の言うケンカは訓練所での一騎打ちのことだ。おそらくだがアキラに戦ってくれと挑みにいったのだろう。

 それで仲が深まった……といった感じか。

 だが自分もイチカと同じ気持ちだ。アキラや加茂上がそんな非道なことをするようには思えない。


「というか、こういった秘密にしたい情報を簡単に口に出していいのか?」

「いいんじゃねえか? 多分、紙に書かれているだろ」

(資料のことか……)


 確かに、こういった大事なことならファイルの中にある資料に入隊理由ぐらいなら書かれてあってもおかしくない。


(……だからイチカは戦いに乗り気じゃないのか)


 つらい訓練はしたくない、危ない地上には行きたくない、本人にグラトニーと戦うやる気がないその理由は、イチカ本人は無理矢理入隊させられた一般人だからだ。

 そりゃあモチベーションも低いのも当然というべきか。


「だからまあ、アイツが戦いに乗り気じゃねえのも、そもそも自分の意思で軍に入ったわけじゃねえんだよ」

「じゃあ、君は?」

「俺は戦うのが好きだ。あの自分が偉いと思っているグラトニーどもをぶん殴れるのは気分がいい」


 それに、


「イチカを、守るのはオレの役目だからな」

「最初から戦いに出れないのか?」

「切り替わるスイッチがわからねえんだよ。もし出来たら最初っから入れ替わってるよ」


 それはそうだ。

 トラノスケからして見ても、どう考えても凶暴な方のイチカの方が圧倒的に強い。

 銃の腕は素人だが嵐を操るほどのキセキ、『嵐気流(タービュランス)』。そして他のウカミタマを凌駕する身体能力、そして類まれなるバトルセンス。

 全てが今話しているイチカの方に宿っている。

 そして極度の戦闘狂。

 普通に考えたら凶暴な方のイチカの人格が戦闘をすればいい。戦闘が得意な方の人格に任せた方が、互いの人格も気が楽だし。

 だが、本人たちは人格の切り替えのことをまだあまり理解していない。

 人格が変わることが不安定なのだ。


(多重人格自体は大きなストレスによって生まれたものだから、イチカの精神は安定しきっていないのか)


 人格の切り替えが不規則なのもそれが理由なのかもしれない。


 ――というか、


「イチカを守るっていうけど、なら戦いから遠ざけるのが一番楽かつ手っ取り早い方法じゃねえかな」


 そんな疑問をぶつける。

 イチカを守りたいなら戦うことを止めるのが一番ではないか。その方が命を失う危機に陥ることさえなくなる。グラトニーと戦うこと自体が己の身を危険にさらしているのだから。

 だかイチカは首を横に振る。


「オレには、イチカには懲役がある、賠償金もな。一生かけて償うのも大変なぐらいによ」

「敵前逃亡と暴行が原因か」


 罪を犯してできてしまった罰がイチカにはあった。


「ああ。グラトニーどもをやっつければ罪も罰金もなくしていける。ちゃんと働けばその分の報酬で懲役も減っていく。だからオレがグラトニーをぶっ倒しまくればいいのさ。そうすりゃあ軍を辞めてこのシティで平穏に暮らせるようになる」

「それが君が戦う理由か……」


 もう一人のイチカに安寧の生活を送らせるために。

 そのために今話しているイチカはグラトニーと戦っていくと決めている。


「罪増えたの、半分君のせいだろ」

「うるせえよ!」


 トラノスケの言葉にキレ気味になる。

 凶暴な方のイチカが暴力沙汰を起こさなければ、臆病な方のイチカももう少し気を楽にして任務に出れたのではないか。

 暴行の罪が消えて、その分懲役も減るだろう。

 だから懲役と賠償金が増えた理由は凶暴な方のイチカにも原因がある。


「他の連中がアイツにイラつく文句ばっか言ってくるからちょっと黙らせたんだよ」

(本当に文句だったのか?)


 そりゃあ、敵前逃亡した後に味方に暴力振るう奴なんて警戒や嫌悪を抱くだろうし、イチカが言っている文句も本当は注意なのではないか、とトラノスケは思う。

 トラノスケがイチカのことをあまり嫌わないのは、罪を犯したころにいなかったからだろう。今はちゃんと指示に従っているし、乱暴な方も最低限従ってくれる。それに初対面の時は助けてくれた。だから、あまり悪い人ではないなというのがわかっているからだ。

 だがもし自分が当事者だったら関わりたくないな、とトラノスケは思った。互いの人格が最悪なことを起こして、それらの罪が積み重なって大犯罪者の完成だ。


「って黙らせったって、どうやって?」

「病院送り」

「文句言ってきた奴に怒りを抱くのはいいが、そいつらよりあくどいことしてどうするんだよ」


 殴るのはダメだろ、頭を抱えるトラノスケ。

 暴力で解決しようしたから、余計に事態がややこしくなっている。

 ここは地上ではなく地下のニュー・キョートシティだ。法律もギリギリ残っている。そんな世界で人を殴ったら、当然罰せられるのである。


「まあ、君の方と話せてよかった」


 よく考えたら、凶暴な方のイチカとはあまり話したことがなかった。

 どうしても戦いのときにしか出てこない。

 日常の時や訓練の時は人格を出してこないのだ。


「だがもう片方のイチカにはどうやって元気づければいいのか」

「……指揮官。アイツが出ないと言っても、オレは出撃するぜ」


 トラノスケが悩んでいると、イチカは真剣なまなざしで任務出る意思を見せつける。


「スターヴハンガは確かにやべー奴だが、そいつをぶっ殺せばイチカの罰も一気に減っていく。出ねえ理由はねえ」

「でも、君が出てくる可能性は……」


 確かにスターヴハンガは強敵で、そいつを倒せば懲役も賠償金も一気に減るだろう。

 だが今のイチカが出たいと思っていたも、もう片方のイチカは出たがらない。

 だから悩んでいるのだ。


「ならオレが出るまで耐えればいいだろ」

「いや、耐えろって……いつ出るかわからないのに?」

「指揮官、今回ばかりは頼む! スターヴハンガの討伐! さらに任務の重要なところを任された! となりゃあ、この任務を達成すれば報酬もたんまりだ。早くアイツの罪を減らしてやりたいんだよ! 頼むぜ!」


 頭を下げて頼み込んでくる。

 凶暴な方のイチカがここまでしてくるとは。今回の任務に本気で遂行する気満々だ。


「……わかった」

「ほんとか⁉」

「正直、指揮官としてみると不安しかないが、それでも君のやる気を買おう。次の任務で君が出てくるまで、こっちで頑張ってみるよ」

「さすっが指揮官! 話が分かるな~!」


 トラノスケの背中をパシパシ叩いて喜ぶイチカ。結構力が強いため、背中に痛みが走るが、何とか耐えるトラノスケ。

 片方のイチカのやる気はある。

 なら、それにかけようではないか。


「だが、もう一人の君に対して、どうやって説得すればいいか」

「オレが守るって伝えておけ! そうすりゃ安心するさ!」


 自信満々に言い切るイチカ。


「……君のこと、怖がっていたけど」

「へ?」


 トラノスケは先ほど豹変する前に言っていた言葉を思い出す。


「身の覚えのない罪が増えるって……暴行事件のせいで君に対して疑心が沸いているじゃないか」


 本人からしても、いつの間にか暴行の罪が増えていた。

 そりゃあもう一人の人格を怖がる。

 なんというか、凶暴な方のイチカが後先考えずに行動しすぎなのが悪い。

 トラノスケからそう言われたイチカは膝を崩して、


「クソ! なんでだよ!」

「自分の心に聞きな」


 やっぱり心配になってくる。

 だが彼女に頼るしか他ない。

 嵐を連れてこれる、平泉イチカに。

「イチカ、不安か? こういう時は趣味に没頭するのがいい。イチカはどんな趣味があるのかしら?」

「え、えっと……」

「ほら、どーぞ! 優しく抱きしめますからねえ~。あっ、好きなものは何ですか? 何でも作ってみせますよ〜」

「いや、でも……」

「あら、なら私が一曲演奏してあげようかしら。こう見えてギターを弾けるし、ドラムだって叩けるわ。好きな曲は何?」

「え、そんなことが……」

「イチカさん! 指揮官さまが心配にしていましたよ! もちろん、アタシたちもです! なので励ましの言葉を送ります! イチカさんはいつも頑張っています! ですのげ元気出してください! フレーフレー!」

「な、なんで皆こんなに優しいのですか? そんなことしても任務に出撃する気は起きませんからね!」

 トラノスケとの会話の翌日の出来事である。

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