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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
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地球奪還軍とウカミタマの秘密

 法隆(ほうりゅう)アキラに基地内を案内されることになったトラノスケ。すでに心はワクワクでいっぱいだ。


「はあ……やっぱり軍用ドローンはカッコいいな〜、スタイリッシュていうかさ〜、工場のものはカチコチしたデザインで、市販のものも遊び心満載のデザインしているけど、軍の物は無駄を省いたがゆえの美しさがあるなぁ〜。訓練の時とは違うやつも見れるの最高!」


 凄く満喫していた。

 トラノスケが最初に案内された場所は、グラトニーと戦うための武器を開発する『武装開発研究所』である。

 ドローンがあると聞いて、一番最初にこの場所に行くと決めた。

 そして電子書籍やネットサイトでしか目にしなかった軍用ドローンの実物をこの目でじっくりと見ていた。笑顔があふれている。


「ああ! 無人戦闘機! これもドローンだ! 機会があれば操作してみて〜!」

「今の時代じゃあ飛ばせる場所がないため使えないのが残念です。地上はグラトニーがいますし、街の上空飛ばすのは危ないですから」

「それは残念ですね……」


 こんな立派な無人戦闘機を飛ばせないことに落胆するトラノスケ。

 ドローンを空に飛ばせない。

 それはドローンが好きなトラノスケ悲しいことである。


「この武装開発所にはまだまだ多くの対グラトニー用武装があります。そちらも見ていきますか?」

「そうしたいですけど……予定された時間を考えると他の場所にも足を運びたいと言いますか」

「この基地は広いですからね」

「予想以上に広いですね」

「はい。大型ビルを改造して基地にしましたから」

「なぜビルを?」

「このビルは地上エレベーターの近くに作られたものです。隊員たちが泊まる場所としては都合がよかったもので」


 そこから様々な場所に案内される。


「うわ、食堂広い、メニューも多い……」

「利用されたことがないのですか?」

「いや、訓練が大変で……プロテインバーで済ませてました」

「そうだったのですか。でもこの食堂もぜひ利用してみてください。隊員なら一部のメニューは無料、有料メニューも格安でいただけますよ」




「訓練所、射撃場だけでなくVRのシミュレーションルームもあるのか⁉」

「はい。これで限りなく実戦に近い形式で訓練を行うことができます。訓練兵もよく愛用していますよ」

「ゲームもできますか?」

「もちろん。私の隊員もよく遊んでいますよ」



 

「温泉やら娯楽施設もあるのか」

「グラトニーとの戦いはつらいもの。ですから、せめて基地にいる時ぐらいはゆっくりと体と心を休めてほしいものと考えて作ってもらったんです…………人間、追い込まれると大変なことをしでかしますから」

「……そうですか」



 

 他にもいろいろな施設に訪れてはアキラから説明を聞く。この時間はとても楽しい時間を過ごせていた。


「一通り、見て回ることができたでしょうか」

「ええ、そうだと思います」


 とても楽しいひと時だった。

 アキラの案内はとても親切で、どんな質問でも丁寧応えてくれる。おかげで様々な施設の耳寄りな情報も聞けた。


「さて、では最後にこの基地の中で一番大事な場所に行きましょうか」


 すると彼女はそう言った。


「一番大事なところ? 司令官室とかでしょうか」

「それも大事ですが、この軍に入ったのなら必ず目に通しておくべき場所があります。そこに行きましょう」


 すると基地内のエレベーターに入って、階数のボタンの手際よく押していく。階数の数字が暗証番号の代わりになっているのだろう。ボタンを押し終えると、体が軽くなる感覚がやってくる。

 一階なのに軽くなるということは地下に向かっているということ。でもボタンには地下の階数はなかった。

 秘密の階層、というわけだろう。


「さらに地下?」

「はい。その場所は私達、地球奪還軍にとってなくてはならない場所です」

「そうなんですか」


 しばらく待つと扉が開く。


「こ、これは!」


 扉の先には驚くべき光景を目にした。

 そこにはいたるところに翡翠色の結晶があり、採掘用ロボがその結晶を丁寧に採取していた。ここは採掘エリアなのだろうか。この結晶の色に見覚えがある。


「――あの鉱石の輝き……ドローンのビームと同じ翡翠色の!」


 そうだ、あの時自分が使った緊急用ドローンの射撃ビームと同じ色の鉱石だ。


「これが、グラトニーを倒すための唯一の武器です」

「これが……あの光線の元になった物質ですか」

「はい、この物質は『ウカリウム』と私達地球奪還軍はそう名付けて呼んでいます」

 

 そしてここからこの採掘エリアから採取できる『ウカリウム』について説明が始まった。


「ウカリウムはグラトニーの侵食に対して大きな耐性を持っており、さらに女性の体内に注入することによってウカミタマの肉体へと変化します。そうなればグラトニーに侵食されないようになるわけです。しかも今の医療技術でできる強化人間よりさらに身体能力を高くできる。さらにビーム兵器の燃料として使用することによって、あのグラトニーにダメージを与えることができるというわけです。まさしく人類の滅亡に瀕した我々にとって救世主と呼べる物質ですよ」

「そいつはすごい!」

「あとウカリウムは日常生活でも役立つもので、細かく砕いて土に混ぜると農作物は立派に育ったり、泥水に入れるときれいになったり、あと空気もきれいにしてくれたり。ああ、あと私たち、ウカミタマにとっては怪我したときの治療薬としても使っています。すぐに傷がふさがるんですよ」

「俺たち、地球人にとってあまりにも都合がいい物質ですね。そんな物質がなんで、こんな地下から? 昔からあったのならすぐに発見されていそうな……」

「それは不明です。地上でも目撃情報はあるのですが、本当に突然生まれたのです。グラトニーがやってきて一月が経ったあたりでしょうか。研究者もここまでグラトニーに対して都合のいい物質が現れるなんて『奇跡』のようだと語ってました」

「本当突然に……もしかしたら地球そのものが己の星を守るためにこの物質を作り出したとか?」

「その解釈、いいかもしれません」

「ロマンがある方がいいですからね」

「ウカリウムの名前は豊穣の女神、『宇迦之御霊神』から取っています。お稲荷さんと言った方がわかりやすいでしょうか。いつか地上を取り返し、緑をよみがえらせる、その希望と願いを込めて。ウカミタマも神の名前に倣ってそう名付けました」

「そんな名づけの由来が……でもなんで女性だけしかウカミタマになれないのでしょうか?」

「ウカリウムは女性の染色体にしか反応しないと研究者がそうおっしゃっていました。理由はまだ判明されていません。でもそれが事実です」

「それこみで、『ウカミタマ』……というわけですか」

「はい」

 


 奇跡の鉱石、ウカミタマの説明を聞いてトラノスケは唸る。

 いろいろと謎が多い物質ではあるが、これがあるから自分たちはこの地下でも満足に暮らしていくことができる。

 ならばこの鉱石に巡り合えたことには感謝するべきであろう。

 これからもグラトニーと戦うときに頼っていくのだから。


「このウカリウムが無くなったら、私たちは終わりです。ニュー・キョートシティの街の、善良な市民も、全て奴らに喰われてしまう」

「ここにあるウカリウムが自分たちのタイムリミットってわけですか」

「そうさせないために、私たちはグラトニーと戦っているのですが……最近、奴らも積極的になっているというべきでしょうか。一気に数が増えたような気がします」

「確か、地上エレベーター付近を襲撃されるのはそうそうなかったのですよね?」

「はい。だからこそ私たちも焦っているのです。何が原因でそうなっているか……その原因さえわかればエレベーター付近の施設も楽に再建できるのですが」


 防衛施設を建てようにも、グラトニーがやってくる。でも防衛施設は絶対に必要だ。今、地球奪還軍は必死になって地上エレベーター付近に防衛施設を建て直している。

 全ては地下のニュー・キョートシティを守るために。



 ウカリウム採掘所から離れて一回のロビーに戻る二人。


「いい時間ですね。今ので施設内の案内を終わります。あの、上手く案内できていたでしょうか?」

「とってもわかりやすかったですよ。案内、ありがとうございます」


 そう言ってもらえてうれしいです、とアキラが笑みを浮かべる。

 アキラの説明はわかりやすく聞いていて楽しいものであった。それに彼女に案内されたおかげで迷うこともなさそうだ。

 そして時間を見る。

 そろそろ自分が指揮する小隊の隊員たちに会う時間だ。


「松下指揮官。小隊に挨拶に行く前に、一つ言っておくべきことがあります」

「なんでしょうか?」

「どんな状況に陥っても、希望を抱いてください。貴方は私たち地球奪還軍の一員ですが、それと同時にニュー・キョートシティの善良なる市民の一人でもあるのです。私にとって貴方は共に戦うべきものであり守るべき存在――死なないで」


 先ほどまで浮かべていた優し気な雰囲気から一変、歴戦の戦士のようなまなざしでトラノスケに言葉を送った。

 それは彼女にとっての祈りなのかもしれない。

 アキラはこの地球奪還軍が設立したその時に兵士として入隊している。そうなればグラトニー討伐に地上に出て帰らぬ人も多く見送っただろう。


(希望を抱いて……か)


 地下に追いやられて、グラトニーたちの脅威に怯えている地球人には難しいこと。

 でもだからこそ、生きてほしいと願ったのだろう。

 死なないでと祈ったのだろう。


「戦士としてのアドバイスというべきでしょうか」

「俺には家族がいます。その家族を悲しませるようなことはしたくありません。だから俺はそう簡単には死にません」


 ならばここは己の意思を伝えるだけだ。

 自分はどんな相手だろうと死ぬつもりはない、そのことを。


「家族がいるのに軍に入る……軍に入らなければならない理由があるというわけですね」

「はい」


 家族の病を治す可能性を信じてこの軍に入った。

 だから死ぬなんてこと、絶対にあってはならないことだ。病を治す前に死んでしまったら意味がない。


「アドバイス、ありがとうございます。胸に刻んでおきます」

「必ず、この戦いが終わるまで生き残りましょう」

「ええ」


 両者が生き残ってほしいと願い、トラノスケは自分の小隊のところへ向かおうとする。


「あの、すいません。私の小隊のメンバーはどこにいるのでしょうか?」


 だがその前に、その隊員たちがいる場所を聞かなければならない。

 トラノスケは今日指揮官になったばかりで、どこの小隊に所属されるかはまだ聞いていない。知ってもいない。


「ああ、そのことですか。彼女たちは宿舎にいます。今頃あなたが到着することを心待ちにしていると思います」

「そうなのですか。では最後に。自分が指揮する小隊は?」

「それはですね――」


 トラノスケは自分がこれから長く付き合うことであろう、頼りになる小隊たちの名を聞こうとした。




「貴方が指揮をする小隊――それは第00小隊です」





(しかし……シュウジさん、なぜ新人の彼を第00小隊の指揮官に? 確かに実力はありますが……まずは私の小隊か、第02小隊で指揮官見習いとして育てるべきでは……ドローンの操作は凄まじいの一言ですけど、新人には荷が重いはず……いつでもアドバイスや助けができるように準備するべきか……)

「えーと、考え事ですか?」

「あ、はい。少し心配事を思い出して」

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