語り合い、話し合い
スターヴハンガについて話し合いに第02小隊の宿舎に来ていたはずの第00小隊。
なぜかアスカの口からは趣味のアニメの話になったのだが、
「やっぱりね、ボロボロの量産機に乗った敵軍の脱走兵が主人公の巨大ロボを圧倒するシーンは最高でね!」
「俺もそのシーン大興奮した! 性能も低い、武装も近接用のナイフだけ、なのに変装移動で避けまくってからの一刺し! 鮮やかだったな〜!」
「で、最後には戦った二人が近くの街を守るために協力して、出会って間もないのに凄い連携で敵を手玉に取り!」
「武器を失った、からの最後の右ストレート! しびれるねえ!」
滅茶苦茶話し込んでいた。
二人っきりでかなり濃い目のロボットアニメ物を。
トラノスケも年上で他の小隊の隊長であるアスカに対して最初が敬語であったが、今は砕けて友達感覚で接している。
一瞬で仲良くなったのだ。
「アスカ君もそうだが松下君も順応早いな」
「ロボット物ね……派手なアクションあるなら見てーな」
「見ればどうだ。アスカ君なら色々とおすすめを教えてもらえる」
二人が話している中、イチカとカズキがちょっと離れた場所から話を聞いていた。そしてロボアニメに興味を持ち始めたイチカである。
(わからないが……二人が面白く話し合っているということは、いい作品なのだろうな。グラトニーが来なければサブスクリプションで見れただろうか……)
リオもまた離れたところからトラノスケとアスカの話を聞いている。
言っていることはさっぱりだが、トラノスケとアスカが楽しそうに会話はかわしているのを見て、心を中ではニコニコと笑っている。ポーカーフェイスなため、はたから見たらただ無表情に二人の会話を聞いているだけのように見えるが。
「いやー、アスカさん、ロボットアニメにも詳しいんだな」
「僕は流行ものならどんなジャンルのアニメでも目に通すからね。流行っている作品は面白いし、いろんな人の話の種になるからね。もちろん、自分の好みに合う作品を第一にしているけどさ!」
「なるほどなー、そのキャラも大好きな作品の?」
「そそ、この娘は僕の一番の押し、傭兵騎士カシア! 自由を愛し、束縛を壊す、無敵の傭兵さ!」
「この作品って一般的なファンタジーのやつか?」
「うんや、Rー17ぐらいのラノベ」
「……あー、そういうのが好きなのね」
「女が! 可愛くて! エッチな! 女の子を好きになって何が悪いんだ!」
「お、おう」
「ついでにエッチな男性も大好きだ! 例えば君とか!」
「女性だから許させるようなこと言いやがるな」
自分の好きなキャラを熱く語るアスカ。
たまにその熱量の高さに引くトラノスケだが、基本的に自分が見たことある作品を中心に話してくれるのでこちも話しやすい。
しかもコアな部分のネタを言っても返してくれる。それなればトラノスケも彼女との会話が楽しみのは当然であった。
「いや、こんなディープな話して引かれないかな、って思ったけどトラン君が優しくてよかったよ」
「自分が大好きな作品を話し合える相手がこの基地にいるとは」
「トラン君。この基地にはアニメ好きもゲーム好きも沢山いるんだよ。今度紹介するよ」
(いつの間にか、あだ名で呼んでいる……)
本当にすぐに仲良くなったな、とはたから見てそう思ったリオ。ちょっぴり羨ましそうに二人を見つめる。
(私にはできないことだな)
リオ、引きこもり生活は長いため人見知りである。一番の原因はいじめによる、知らない人に対して不信感を抱いてしまうことなのだが。
「あ、リオン君。ごめん、蚊帳の外にしちゃって。他の二人もさ」
「いえ、気にしないで」
「しかし、トラン君も中々の人たらしだね」
「そうか?」
「リオン君が他人の後ろについてくるなんて、僕の知るところアキラちゃんぐらいだよ。それぐらい信頼しているってことさ」
軍にほぼ同じ時期に入った動機だからこそリオの態度にちょっと驚いているアスカ。
アスカ自身、リオの人見知りは知っている。なにせ基本は仲のいい人しか近くに寄らないし、自分から話しかけるようなことはしない。
だからこそ、トラノスケ相手にまともに話していることに驚いているのだ。
「ええ、彼にはいろいろと教えてもらった。信じてもいいと、心の底から思った指揮官よ」
「君、そういうところは素直だよね。好きだよ」
「……好意は伝えおかないと。こんな世界よ、いつ消えてもわからない」
「ネガティブなことは言うものじゃないと僕は思うけどなー」
大切な人を失っているからこそ愛を伝えることは早いほうがいいことをリオは理解している。
トラノスケも彼女のその思いに応えるべきだと強く思った。
「って、おい、小笠原! いつまでオレらは隊長の無駄話に付き合うんだよ! さっさと話進めろや!」
「無駄話とは酷いねー。互いのことを知ることは大事だよ。表面だけでも知ろうとすることは小隊として活動するならね」
ティー片手に好きなことを喋り合う。それは互いを知るもっとも簡単な方法だ。
相手のことを知ることが大事だとアキラは言う。
「まあ、個人的に言えば初対面で仕事の話はしたくない!」
「ぶっちゃけやがったな!」
だが、それは建前である。
「――そろそろだ、アスカ」
「はいはーい」
するとカズキはそんな事を言ってきた。
アスカも返事をして椅子に掛けてある黒コートを身にまとう。
なにがそろそろなんだ、そう思ったトラノスケ。
すると机の上から発光し、そこから賀茂上総司令官が姿を現した。
「加茂上総司令官⁉」
『小笠原指揮官、松下指揮官。大事な用件があると聞いた』
「はい、緊急案件です」
「あれって……」
「立体映像を利用したカメラ通信みたいなものだ。遠くにいても実際に顔を合わせて話せるのさ」
加茂上総司令官も忙しい身だ。本人が直々に来ることは大変。だからリモートである。
(ああ、コート着たのはあのシャツを隠すためにね)
そしてアスカも、流石に真剣な話し合いであのシャツをさらけ出すということはしないようだ。常識があってよかった。
そして第02小隊の報告が始まる。先ほどまであった緩やかな空気が一変、全員が気を引き締めて話し合いをする。
「我々はビィ・フェルノとは違うスターヴハンガの存在を目撃した」
『その情報は耳に入っている。あらためて尋ねるが、それは本当かね?』
「はい」
『発見した場所は?』
「かつて神護寺があった場所近く、そこです」
場所を言って、イチカが首を傾げた。
「トラノスケ、どこらへんだ?」
「小笠原さん、地図出せるか?」
「ああ、その方がわかりやすいだろう」
ガンドレッドを操作して、部屋の中に空中液晶を作り出す。
そしてその液晶に地上の地図を開いた。
「私たちがいるのは伏見稲荷大社の近く。ここが地上エレベーター付近であり地下にあるニュー・キョートシティがある。そこから北西の方角のここで私たちは見つけた」
「旧京都駅の方角だが、よりもっと遠くにあるってわけか」
指をさして場所を確認。
前にビィ・フェルノと戦った旧京都駅よりももっと遠くの寺にピンがさされた。
この場所がアスカたちがスターヴハンガを見つけた場所であり、トラノスケたちが戦いに赴く場所でもある。
『小笠原指揮官。そこで何を見つけた』
「地上で大きな侵食樹を」
「なんだって?」
カズキは自分たちが目撃し撮影した一枚の写真をこの場にいる全員に見せる。
その侵食樹の姿を見てリオが目を細める。
「……今まで見たことのない形をした侵食樹ね」
「ああ、私たちが目撃したのがこれだ。どす黒い緑色の侵食樹だった」
しかもカズキ達第02小隊が見たのはそれだけではなかった。
「その侵食樹を遠くから観察していたのだが、突然風の刃がこっちに向かってきた」
「風の刃……かまいたちのようなものが?」
「犠牲者も出ちゃった。でも、軽い怪我だったからよかったけど、あれは厄介な奴が潜んでいるね」
「そしてそのかまいたちを誰が放ってきたのか。ドローンのカメラで侵食樹を確認し続けて、その正体を見つけた」
「人型? なんか、変な煙のせいで顔が見えねえな」
「グラトニー粒子が濃いのが原因だ。
「なるほどな、だからオレの力が必要と。その風の刃を吹き飛ばすために」
「できるでしょ」
「はっ、このオレに風で勝負すること自体が間違いだってことを証明してやるよ」
自信満々にそう答えるイチカ。
イチカのキセキ、『嵐気流』の風は恐ろしい力を秘めている。ひとたび風を動かせばあらゆる生物はひれ伏し、紙のように吹き飛ばしていく。
そんな彼女なら侵食樹の風もどうってことない、アスカはそう思ってイチカを今回のスターヴハンガ討伐に呼ぼうと考えたわけだ。
『異常な形態の侵食樹が目撃されたのは類を見ない。しかもスターヴハンガの目撃情報もある』
(普段とは姿かたちが違う侵食樹、そして突然飛んでくるかまいたち、結構厄介な案件になりそうだぜ)
この話し合いを聞くだけで異常な事態が起こっていることがわかる。
なにか厄介ごとの前触れが迫ってきているような。早くその侵食樹を壊さなければこのニュー・キョートシティに危険がやってくる、そんな気がしてならない。それはこの場にいる誰もがその予感を感じ取っていた。
「ゆえに、すぐに対処すべきだと私は考えました。第00小隊と共に出撃命令を出してもらえないでしょうか」
「第00小隊も任務を遂行する覚悟はできています」
どちらの指揮官も出撃の覚悟はできている。
相手が誰であろうと関係ない。グラトニーを討伐するのが仕事であり、使命なのだから。
『……スターヴハンガは驚異の存在だ』
賀茂上の考えはすでに決まっていた。
『もしスターヴハンガと戦うのなら、準備を怠るわけにはいかない。準備期間を設けるべきだ』
「なら五日ほど。小隊同士の最低限の連携を取れるぐらいはしたいですから」
「確かに……いきなり本番で合わせるわけにはいきませんからね。武装だけでなく、連携の確認も取るにはそれぐらいの時間が必要です」
「隊長としても、第00小隊のことはよく知っておきたいな。キセキに関しては情報で知っているけどね」
自分たちのやるべきことは決まった。
『第02小隊、および第00小隊に告ぐ! 神護寺付近に存在する風の侵食樹を破壊、お呼びにその侵食樹にいるであろうスターヴハンガの討伐任務を出す! これは過酷な任務になる! 準備を怠ることなく任務に備えてくれ』
「「「「「了解!」」」」」
『必要なものがあるならすぐに私に連絡をくれ。至急用意させよう』
「ありがとうございます」
『では健闘を祈る』
加茂上がこの場から消える。
話し合いは終わった。
「異常な成長を遂げた侵食樹……ならば早く壊すべきね」
「へっ、燃えてきたぜ。ここでオレ様の名声を広げてやるぜ」
「あまり突っ走るなよ。今回は第02小隊と一緒に行動するんだからな」
あのスターヴハンガと戦うかもしれない、しかし三人とも怯える様子はない。いや、トラノスケとリオは警戒心を最大まで上げている。それでも戦わなければならないという責任感が怯えと恐怖を飲み込んでいる。
スターヴハンガを倒せば京都付近の地上も安全になっていく。それが地上奪還に繋がり、身体灰結晶病の治療につながる、はずだ。
「というわけだ。トラン君、今回の任務、よろしく頼むね」
「ああ、よろしく。できる限り迷惑かけないよう頑張るさ」
「安心してよ。僕たち、強いからさ」
「私も指揮官として君より長く勤めている。足を引っ張るような真似はしないさ」
アスカとカズキが力強くそう言った。
「頼りにしてますよ」
第00小隊、初めての共同任務が遂行されるのである。




