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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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地上エレベーター付近の殲滅戦 ②

 トラノスケは彼女の肩のマークを見て、


「第02小隊の援軍か!」 


 同じ地球奪還軍の隊員だとわかって安堵の息を吐く。

 指揮官の小笠原カズキが言っていた隊員が彼女だ。


「そこに指揮官がいるのだな」


 ホバータンクの位置を確認した第02小隊の隊員がイチカの首根っこを掴んで、背中の小型ジェット噴射器から翡翠の光が出て、空を飛ぶ。

 そしてトラノスケのいる場所まで飛んでくる。


「あの武装は! アンチグラビティ・ホバージェットパック!」


 通称、ホバージェット。

 背中に装着したあの装置は反重力装置とジェット噴射機を組み合わせた代物で、ウカリウムの燃料で空を飛び、大地をより速く駆けるようになれる装置だ。

 小隊の中で実力のある者のみが着用を許される。装置にアシスト機能が備わっているとは言え、空を飛ぶのは難しい。浮かびながらライフルを撃ったりビームソードを振るうのはより難しい。

 故に一部の精鋭の隊員だけがそれを身につけることを許されたいのだ。

 そして、それは彼女が地球奪還軍の隊員の中でも実力者という証明でもある。


「あれがハイドラグン……高性能な無人戦闘機をドローンに落とし込めた遠隔操作兵器か」

「君は! 返答をお願いする!」

「そちらの指揮官か!」


 急いで通信をつなげる。

 ホバータンクの近くにいる彼女もトラノスケの声を聞いて、すぐに通信に答えた。


「私は第02小隊副隊長! 寺山モモカ! こちらの指揮官から第00小隊と共に戦うように命じられた。これより加勢する!」


 堂々と凛々しく、そう名乗る寺山百花。

 先ほどの槍さばきに迅速にイチカを救い出したことといい、副隊長を任せられる確かな実力があるとトラノスケは見た。

 これは頼もしい。


「俺は第00小隊指揮官、松下トラノスケ。協力感謝します! 平泉隊員をたすけてくれたことも!」

「………………」


 感謝の言葉を告げると、機嫌悪そうにする。

 そして掴んでいたイチカを持ち上げて、


「あれ? どうした?」

「……さっさと引っ込んでおけ。戦闘の邪魔だ」

「……ひゃ⁉」


 雑にトラノスケが乗っているホバータンクに投げつける。怪我をしているのに、そんなことお構い無しに。


「ちょ、ひどくないか?」

「い、いたい……」

「指揮官がいなければ、私の助けが間に合わず、今頃死んでいただろう。別に私はそれでもよかったが。そちらの指揮官や他の隊員が困るのでな。感謝の言葉を松下指揮官に送れ」


 トラノスケの注意は耳に入っていないのか、イチカに向けて怒りがにじんだ言葉をぶつけ続ける。


「お前の感謝など、いらない」


 イチカに対して、殺気に満ちた冷たい目を向けている。

 その反応は険悪という言葉以上のものを感じる。

 関わることさえ嫌な――絶対的な拒絶。

 この二人に何かあったのは間違いない。


「第00小隊の皆さん! 支援に来ましたよ!」

「副隊長が敵陣を崩したわ! 援護援護!」

「あの顔つき……なんか雰囲気が違うわ!」


 バイザーやヘルメットを着用した隊員たちが現れた。ボディスーツの肩の所を見ると第02小隊のマークが入っている。

 モモカ以外の他の第02小隊の隊員がやってくる。そしてすぐさま戦闘開始。顔つきやグラトニーたちに狙ってビームを撃っていく。

 他の小隊が助けに来てくれた。

 イチカとモモカの関係は詳しく知りたいが、それは後。

 それはこの場を切り抜けてからだ。


「指揮官、あの顔つきは?」


 モモカがグラトニーのことを聞いてくる。


「何を聞きたい?」

「戦い方だ」

「風を起こす。とびっきりの豪風をな。浴びたら紙吹雪のように吹き飛んでいくぞ」

「風か……嵐は嫌いだ」

「ならさっさと止めに行かないとな」


 あのフェイスを倒せば、他のグラトニーも司令塔を失って動きが鈍るはず。敵の最大戦力を消せば勝ちはぐっと近くのだ。


「エリナさん、彼女のサポートを……」

「イチカちゃん、大丈夫ですか⁉ すぐに治しますからね! 動いちゃメッですよ!」

「もう……むり……」

「…………」


 エリナをモモカのサポートに任せようと考えたが、エリナ本人はイチカの治療は専念している。怪我人を放っておけないのが彼女。こうなったらイチカの怪我が治るまで言うことを聞かない。


(せめて凶暴の時の彼女なら……豹変の条件って一体なんだ?)


 乱暴、しかしその実力は確かな豹変状態のイチカ。今日はその姿をまだ拝めていない。

 変わった状態のイチカなら同じ風使いのフェイスを対処できるかもしれないが、変わらないのはもう仕方のないことなのかもしれない。

 そんなことはおいて。

 エリナに頼めないなら、もう一人の隊員に任せるほかない。


「ツムグ! 寺山隊員と共に戦ってくれ!」

「指揮官さまの命令のままに!」

「俺もハイドラグンで奇襲をかける!」

「なるほど、私とツムグ……だったな。二人で視線を集めるのだな」


 ツムグとモモカで前線に赴き、グラトニーたちの数を減らして注目を集めていく。そしてフェイスの警戒を二人に向けさせて、その瞬間にトラノスケがハイドラグンで一気に


「私たちが先陣を切り込むのですね!」

「そうだ。真正面からの戦闘なら私たちの方が得意だろう」

「俺らは空から攻める! 二方向からの侵略で奴らを倒す!」


 他の第02小隊の隊員もトラノスケたちの作戦を聞いて、頷く。

 作戦は決まった。

 実行に移る。


「副隊長! 私たちが先に行きます!」


 第02小隊の隊員の左腕に半透明のビームシールドを起動させる。

 そして右手のビームアサルトライフルを撃ちながら前へ前へと進んでいく。


「指揮官、奴らの注意がそれたら、空から頼む」

「わかったよ」

「では。寺山モモカ! 敵陣を斬り裂く!」

「私もついていきます!」


 そしてツムグとモモカが前に飛び出した。


「各隊員! 前は私が引き受ける! 周囲の敵を討て!」

「わかりました!」

「他の小隊に無様な姿は晒せん!」


 シールドを構えた隊員の前に出たモモカが、槍を回しながら右に左に動かして、そのまま前進していく。モモカの前に立ちふさがるグラトニーが、一瞬にして斬り刻まれて灰と化す。

 そしてその後ろにツムグはついていくように走りこみ、彼女もまた両手から『断ち切れぬ糸』で周囲のグラトニーを、器用に糸を肉体に通り抜けさせて斬っていた。あとは第02小隊の隊員がとどめを刺してくれるため無視してモモカを追いかけながら周りのグラトニーを再起不能にしていく。

 たった二人で大量のグラトニーが次々と灰になっていく。

 モモカ達は止まることなくフェイスに近づいていく。


「ヤレ! トメロ!」


 その猛進を止めようと、他のグラトニーに突撃を指示するフェイスたち。

 モモカを止めようと、多くのグラトニーが上下左右から隙間なく飛び掛かっていく。

 数で制圧しに来た。


「わざわざ近づいてくれたのか!」


 好機が来たとあざ笑う。

 槍を回しながら走っていたモモカは、そのまま体ごと回転しながら大ぶりの横薙ぎ一閃。その一振りで襲い掛かってきたすべてのグラトニーを吹き飛ばした。


「おお! すごい槍さばきです!」


 後ろで紅い糸を巧みに操って次々と細切れにしていくツムグも、思わず称賛の声を上げる。任務に忠実な彼女は凄いと思うほどの槍さばきだ。

 たった一振りで無数のグラトニーを消し飛ばしていくその姿は無双の一騎当千。


「キケン! ウテ!」

「サキニ、コロセ!」


 モモカを殺さなければならない。

 危機感を感じたフェイスたちの集中砲火。黒い灰結晶と暴風を乱発していく。


「風は防げなくても! その結晶は! 『断ち切れぬ糸(ザ・ボンド)』!」


 その攻撃に危険を察知したツムグは紅い糸を伸ばしていく。そしてその糸に波を生み出すように手を大きく動かして糸を鞭のようにしのらせる。

 揺らめく赤い糸が灰結晶を豆腐のように軽々と入り込む。そして糸が激しく揺れ動き、灰結晶をみじん切りにして無力化させた。


「見事な糸さばき! 第00小隊の隊員は一人のぞいて優秀だな!」


 残った風はモモカの槍のなぎ払いで消し飛ばす。

 そして体を回してそのまま槍を横に振るう。体全身を使った回転横払い。それによって繰り出されるビームの斬撃波は巨大で、フェイスたち全員を巻き込む勢いで飛んでいった。


「マズイ! ヨケロ!」

「カイヒ、カイヒ!」


 巻き込まれないように散り散りになって避けるフェイスたち。

 しかし、それは大きな隙を生む。

 モモカはそれを見逃さない。

 敵を定めたその瞳に両目とも翡翠に染まる。


「止めることはできない! 『友往邁進(ユウオウマイシン)』!」


 モモカの進もうとするその方向、足を踏み込むべきであろう大地が翡翠に光る。翡翠色の道ができる。少なくとも五十メートルはできている。その道の上に立たされた一体のグラトニー。

 なにかマズイ。

 嫌な予感がしてたまらない。


「ナ、ナンダコレハ⁉」


 危機を感じて、すぐに離れようと翡翠の道から出ようとした。


 ――ザシュンッ! 


 道の外に出た瞬間、胴体が真っ二つになっていた。そしてモモカはその翡翠の道の終着点にいる。

 いつの間に斬られたのか。肉体がそれを認識することなく、倒れて絶命するフェイス。そして肉体が灰へと変わっていく。


「ナニィ⁉」

「キエタ! ナンダアイツ⁉」

(な、何とか目で追うのが限界だった。寺山隊員の恐ろしいほど速い一撃!)


 必死に動きを見たトラノスケ。

 まるでマリが使う『疾くあれ、螺旋(ブラウ・ブリッツ)』のように、翡翠の道を一瞬で移動した。

 そしてその瞬間移動の時に、道にいたフェイスをビームスピア片手で、通り過ぎる直前に胴体に刃をめり込ませた。

 フェイスはモモカのたった一撃で灰へとなった。


「我が行く道、阻むもの無し。『友往邁進(ユウオウマイシン)』とはそういうキセキだ」

「『友往邁進』……!」

「これが副隊長のキセキの力です!」

「副隊長が進む道は誰にも阻まれない! そしてその道に立っていれば一瞬で斬り刻まれる! 移動しているときは無敵ですよ!」

「やっぱりカッコいい……」


 第02小隊の隊員がモモカのキセキを説明してくれる。

 他の小隊のキセキを見るのが初めてであった、やはり強力だ。そしてその力を使うモモカも副隊長に任せられる実力を持っていることは、あらためてその目で見てわかった。

 モモカとツムグの大暴れで前線が崩れた。フェイスたちも離れて連携も取れない。

 奇襲をかける絶好の時が来た!


「よし、ハイドラグンでそろそろ奇襲を!」

「指揮官さん! 大変です!」


 ホバータンクに追尾させていたハイドラグンを自動操作から手動に切り替えようとしたその時、焦っているエリナがトラノスケを呼び掛ける。 

 


「おい、オレにケンカ売った奴は誰だ!」



 その瞬間、空気が震えるほどの怒声が戦場に響き渡る。

 そして空から人の影が風と共に飛んでくる。

 着地した瞬間、大気が揺れ、大地がどよめく。

 その中心には赤紫色の髪をして、ボロボロのボディスーツを身にまとった人物が。


「イチカちゃんが! 勝手に、ホバータンクから出て!」

「なんだと⁉」 


 エリナの報告を聞いて、すぐさまハイドラグンで戦場を確認。

 そしてフェイスの前に立っている隊員は間違いなく、アイツであった。


「オレ相手に風を使おうってか。舐めたマネしてくれんなあ」


 (イチカ)がやってきた。


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