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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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久しぶりの地上

「兄さん、地上に出るの?」

「ああ、休暇も終わったしな」

「ずっと休暇が続けばよかったのに」

「そんなこと言うなよ。いつまでも仕事をさぼるようなことはしたくない」

「……心配なの」

「そうか、ありがとな」

「最近、小隊の皆さんとはどうなの?」

「いい感じだぜ」

「……兄さん、なんか楽しそうだね」

「ああ、美羽やお父さんとお母さんの調子が少しだが良くなったからな。地球奪還軍がいい医療設備を与えてくれたからな」

「言っておくけど、いくら給料が高いからって無茶しないでよね」

「わかっているさ」

「あと、兄さん背中には気を付けてね」

「刺されるような真似してねーよ」

 明日、任務に出る前のトラノスケと美羽の会話である

 第00小隊は久しぶりの集団訓練を終えて翌日、地上へと出向いた。

 休養開けの任務だ。

 あいもかわらす地上は灰と青黒い結晶を覆われ、空はどす黒い黒に覆われている。

 トラノスケはホバータンクを操縦していた。


「今回は軽めの任務だ。地上エレベーターからそんな遠くない場所を走り回って、グラトニーを発見次第、殲滅する」

「ま、前と比べたら簡単な方の任務ですね……よかった」

「ええ、私たち第00小隊が復帰して、地上での戦闘の感を取り戻すために簡単な任務にしたのでしょうね」

「しばらくはこういう任務が多くなる。だが油断はするなよ、俺もしない。俺も誰も死にたくはないからな」

「もちろんですよ~」


 隊員同士で任務の確認をし合う。

 今回の任務は楽な方だ。地上エレベーターの防衛基地の建設をグラトニーから邪魔されないために、グラトニーを索敵して討伐して数を減らしていく。そして防衛基地を守るのである。

 地上エレベーター周辺なら、そのエレベーターを守るために他の小隊がグラトニーたちを討伐して数を減らしたり危険度が高いグラトニーも殺しているため、敵も比較的弱い。さらにもしピンチに陥っても、逃げて地上エレベーター付近を防衛している隊員に連絡を取って応援を呼んだりすることもできる。

 侵食樹の破壊や他の小隊の救援に比べたら危険が少ない。

 しかし、だからといって気を緩めてはいけない。グラトニーは危険な侵略者だ、油断したらすぐに屍と化してしまう。

 任務を遂行するため決意をあらためて決めて、ハンドルを強く握りしめる。

 久しぶりのホバータンクの操縦。

 速度は出ていないが、安全を心がけて運転。隣にはリオもいて、いつでもホバータンクのビームバルカンの射撃は万全だ。ついでにマリも目をつぶっているだけで顔色は悪くない。安全運転が出来ているかどうかはマリの調子でわかる。

 そしてトラノスケは運転しながら、ドローンを飛ばしている。

 索敵ドローンはホバータンクからつかず離れずの距離を保って、周囲のグラトニーを索敵する。さて、グラトニーが現れるかどうか。


「――おっと、いきなり発見か」


 レーダーに反応あり。

 索敵ドローンからグラトニーの姿を確認してモニターに映す。


「あれは……随分と大きなカマキリだ」

 

 グラトニー特有の青黒い体色をしたカマキリが集団でふらふらと歩いている。獲物を探しているのだろうか、顔を常に左右に振っている。

 そして何より目に引くのが、両腕の鎌だ。

 青黒の灰結晶がきらびやかに輝いており、その鎌の切れ味が見ただけ鋭くと感じてしまうほど。


「『マンティス』ね。奴の腕は金属を簡単に真っ二つにすることができるわ」

「あと、あの大きな瞳から小さな灰結晶を飛ばしてくるわね。接近戦を挑むのはちょっと骨が折れるわ」


 リオとマリが敵のグラトニーの特徴を解説してくれた。

 だとしたら説明してくれた二人を前に出すのは愚策か。まあリオとマリの二人ならマンティスを相手にしても問題なさそうではある。

 隊長クラスのリオとマリならマンティスの攻撃を避けながら斬り刻んでいくだろう。

 でも、教えてもらったマンティスの癖を蔑ろにするのはいけない。

 確実に討伐するように指揮するのが指揮官の仕事というもの。


「指揮官さま! 出撃しましょう!」

「いや、あの数から外に出て襲撃する必要はねえ」

「あら、指揮官君。じゃあ、どうするの?」

「無駄な消耗は避けるべきだ。ここからハイドラグンで攻撃する」


 トラノスケのドローンで空中から襲撃する。

 マンティスは集団ではあるが、数自体は少ない。十は超えていない。

 それぐらいの数ならハイドラグンで殲滅できる。ならばハイドラグンで一方的に空中から攻めるのみ。

 それに、ひさしぶりの実戦、ハイドラグンはVRシミュレーションシステムでしか練習できなかった。そのため空に浮かべて操縦して、自身のドローン操縦の腕が鈍ってないか確かめてみたかったのだ。


「わざわざ相手の得意距離に入る必要はない、それにハイドラグンも久々に空を飛びたいってな」

「わかった。ハイドラグンに異常がでたら、すぐに出撃する。それでいいか?」

「いいぜ、リオ」

「では、わたしがここから狙撃でハイドラグンちゃんを支援しますね〜」

「頼みますよ、エリナさん。ハイドラグン、出撃する!」


 ハイドラグンがホバータンク上部から発進する。そしてエリナもホバータンクから身を出して上に乗り、しゃがみ込んで射撃体勢を取る。遠くからの攻撃ならエリナの狙撃もある。

 灰色の濁った空を鮮やかな翡翠の粒子が舞う。音速の大型ドローンが天を掛けていく。


「さあ、言うこと聞いてくれよ。じゃじゃ馬ドローン!」


 期待を乗せて、ホバータンクの液晶を見て敵を位置を確認。

 まだグラトニーには気づかれていない。

 まさに絶好の奇襲のチャンスであった。

 そのまま上空からバルカンでビームの雨を浴びせに行った。


『ゴィゴィ⁉』


 突然の空からの襲撃にマンティスも驚愕して鎌をでたらめに回している。かなり動転しているようだ。

 そのチャンスを見逃すほど甘くはない。

 さらにチャージしたビームキャノンを発射。一筋の翡翠がマンティスの頭部を焦がしつくしていく。


「まだまだ!」


 攻撃の手を緩めることなく。


『ゴォォ‼』


 だがマンティスもやられてばかりではいられない。獲物を見つけたらその姿を消し去るまで襲い掛かってくるのがグラトニーだ。

 顔を上げて、大きな瞳から灰結晶が乱れ飛ぶ。サブマシンガンのように乱射していき、ハイドラグンを撃墜しようとしてきた。

 鋭くとがった灰結晶弾。

 ウカリウム塗料を塗っただけのハイドラグンでは、掠るだけでも侵食が始まってすぐに撃墜されるだろう。ゆえに絶対に回避しなければならない。避け続けなければならない。


「……見えた」


 前方の灰結晶の壁だが、トラノスケは冷静であった。

 そしてハイドラグンをローリングさせて、その状態のままビームバルカンを連射。灰結晶をウカリウムのビームで消し飛ばし、ハイドラグンが通れるほどの穴を開ける。前の戦いで見せたビィ・フェルノの黒炎の炎を切り抜けた方法と同じやり方で切り抜ける。

 そして次弾の薄い弾幕に関しては抜けるコースを目測で確認し、音速の速度で抜き切っていく。音速を超える速度となれば、少し操作を間違えたら灰結晶に当たり、最悪ハイドラグンのバランスが崩れてそのまま地面に激突する可能性もある。

 だがトラノスケはそんな不安を全く感じさせない操縦で、マンティスの攻撃を避け続けた。


「あ、当たってない⁉ あの数の弾を避け続けているの⁉」

「エリナさん!」

「はい、了解しました!」


 ホバータンクの上から狙撃音。エリナがトラノスケの合図と主にビームスナイパーライフルの引き金を引いた。

 狙いはすでにつけていた。


『ゴィ⁉』


 ゆえにビームの弾丸は吸い込まれるように、マンティスの胴体にクリティカルヒット。

 別の方角から飛んできた狙撃のビーム弾にマンティスは再び混乱に陥ってしまう。


「攻撃が手薄だぜ!」


 マンティスの視線がそれた。

 そうなったら攻撃の大チャンス。それを狙って一気に仕掛ける。

 そのまま急降下。ハイドラグンを地面スレスレまで下ろして、そして横方向に高速回転。そしてバルカンをこれでもかと連射させた。


「雑に打ちまくるぜ! なにせ当たるからな!」


 エリナの援護に思考が止まってしまっているマンティス。立ち止まっているのなら乱射しても当たるというもの。

 コマのように回転しながらビームバルカンを発射して、至るところに飛んでいく。

 こんな雑な打ち方でもマンティスの体にたくさんビームの弾丸が貫いていく。


「とどめだ!」


 最後にビームキャノンを照射させる。高速で回転している状況でビームを照射すればどうなるか。

 すると照射されたビームもハイドラグンを軸に回っていき、まるで剣のようにマンティスたちの胴体を真っ二つにしていった。

 乱射と切断。

 同時に喰らったマンティスはボロボロになった肉体が灰になっていき、そのままこの地上から姿を消していくのであった。


「レーダーの反応、消えたぜ。全滅ってわけだ」


 圧倒的な勝利であった。

 スペックをフルに生かしたハイドラグンが、グラトニーどもを蹂躙していったのだ。


「指揮官君、あのぶっ飛んだハイドラグンを制御しきれているの?」

「凄いです! さすが指揮官さま! 飛行兵器の扱いならお手の物ですね!」

「や、やっぱり、わ、私より強いんじゃ……」

「そこまで褒められると嬉しいな、死にかけて身につけた甲斐があった!」

「トラノスケ、冗談でもそういうのは言うべきではない」


 称賛の声を浴びて喜ぶトラノスケ。リオは怒っていたが。


(やっぱ訓練と実戦は嘘をつかないな!)


 ビィ・フェルノとの戦いで身に着けた、ハイドラグンを操作したあの感覚。

 あれを忘れないために、休暇中でもVRシミュレーションシステムで操作し、現実でも操作をし続けていた。

 完璧に操縦できた、あの感を忘れないようにするために。

 そして実戦、その感覚はトラノスケの脳裏に確実に刻まれていた。

 ハイドラグンを完全に自分の手足のように操縦できるようになった。

 強く拳を握りしめて、心に喜びがあふれ出す。

 ドローンが大の好きなトラノスケだ。ようやく操作できるようになった自分の相棒、嬉しくないわけがない。


「じゃあ、これからは指揮官さんがグラトニーを全部やっつけてくるんですね!」


 気弱なイチカが珍しく元気そうにそう言ってきた。


「いやー、さすがにあれぐらいの集団ならやれるが、これ以上大きかったり危険度が高い奴だったら皆を頼らせてもらうぜ」

「…………し、指揮官さんと他の皆さんがいれば倒せますよ。私は足引っ張ると思いますし……ホバータンク守る仕事についておきますから……」

「イチカ。懲罰部隊に戻るか? それとも檻の中か?」

「それは嫌です! 除隊したくないです!」

(割とふてぶてしいな、コイツ)


 実は凶暴な時と根っこはあまり変わっていないかもしれない。

 安全を手に入れると気が大きくなるなと、イチカの様子を見てそう思ったトラノスケであった。

「でもな、第00小隊は今後もっと危険な任務増えていくだろうぜ。少数精鋭ゆえにな」

「………………え?」

「あっ、イチカが固まったわ」

(乱暴な時のイチカなら喜びそうなんだけどなー)

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