第00小隊、再動!
「オーライ、オーライ! ドローン通るよ! この線の中に入らないでね!」
大声で注意を呼びかけながら物資を貨物用ドローンで運んでいるトラノスケ。
彼がしているのはグラトニーの討伐ではなかった。地上エレベーター付近の防衛施設を建設している人たちの手伝いをしている。
ビィ・フェルノとの死闘の後、トラノスケとリオはしばらくの間、休暇を命じられた。
戦闘で負った怪我はすでに完治しているものの、激しい戦闘で精神の疲労を感じとった医者が任務はするなとドクターストップがかけられたのである。
これは第00小隊の隊員全員に通告されたもので、今は基地内で身と心の回復をしたり、腕を鈍らせないための軽い訓練を行っている。
ちなみにトラノスケとリオ以外の隊員は地上エレベーター付近の防衛もしていたりする。
首輪付きの問題児の集まりである第00小隊が指揮官なしに他の小隊と組むのは危険だと判断されて、地上エレベーターの防衛任務を任されたのである。
そしてトラノスケは何をしているかというと、地上に出てエレベーター付近の建築作業の手伝いを行っていた。
最初の三日間はゆっくり休んでいたが、ずっと休んでいたりするのはな、とそんなことを考え始めたトラノスケは地球奪還軍の手伝いを始めた。
前職の物流センターでドローンでものを運ぶ仕事をしていたので、建設のための材料を運ぶのはできるのだ。
「いやー、若いの助かったよ。アタシらウカミタマでもトンを超える物資は数人がかりでゆっくりと運ばなければならないからね。その点、ホークリフトや大型ドローンを使える人がいれば楽できるからありがたいよ」
小柄の現場監督の女性隊員がトラノスケの仕事ぶりに感謝の言葉を送る。
「いえ、休んでばかりではいられませんから。それに、ドローンを使う作業は前の職場でしていましたので」
「高校生から働いてたんだって? ホント若いのによくがんばるよ」
「ありがとうごさいます」
(この人も若いはず……だよな)
若干歳が気になったが、女性に歳を聞くのはデリカシーにかける。なので歳のことは心の底に閉じ込めておくことにする。
そしてそれを誤魔化すように地上付近で建てられている建物について触れた。
「防衛施設の建設も順調ですね」
「それでも不安にはなるさ。この頃、グラトニーの活動が活発的になっている。施設は多くて損はないさ」
トラノスケたちがしていたことは地上エレベーター付近の防衛施設の再建。
地上エレベーターは地球奪還軍にとって最後の壁であり、地上と地下を行き来する橋のような存在。
ゆえに絶対に守らなければならない場所。
武器を補完する倉庫や、ウカミタマの休憩場所に周囲のグラトニーを探索するための部屋、さらには大型武装の配置など、多くの作業員がこの場所をグラトニーたちから守るために頑張って施設を建設している。
「ここがグラトニーによって汚染された空気がなければ、すぐにでも特殊な建築専用の機械を使って一瞬で防衛施設を建てることができるんだけどねえ。侵食されてしまうから防衛にならないよ」
「この木材はウカリウム原液に浸したものでしたよね」
「そうさ、でもまあ耐久性には期待しないでおくれ。特殊な木材でもグラトニーにしちゃあ発泡スチロールみたいなものさ」
現場監督がため息をついていた。
「前のも結構自信あったんだけどね。やっぱり気を抜かしちゃあいけないねえ。しかも最近じゃあスターヴハンガってヤバい奴が暴れているときた。不安で仕方ないよ」
グラトニーの活動が活発になっている。しかも災害を引き起こすほどの強さを持つスターヴハンガがこのニュー・キョートシティ近くにいるということ。
それが不安になっている原因だ。
「まあ、紅い髪のスターヴハンガは当分は現れないと思いますけどね。大きなダメージを与えましたし」
「退けた小隊の指揮官の言葉なら信じることにするよ。まっ、ともかくだ。松下指揮官、お手伝いありがとさん。果汁100%の飴あげようさね」
「マジ? それ貴重なものじゃないですか! ありがとうごさいます!」
「また、ご縁があったら頼んでもいいかい?」
「もちろんですとも!」
今日の仕事を終えて、トラノスケは雨を貰ったことに感謝しつつ別れを告げる。
「トラノスケ、仕事は終わったのか?」
飴を貰って舐めている最中に、リオがやってきた。
リオもトラノスケと同じように休暇を取っており、自身の腕が鈍らないように訓練はし続けていた。
でも、訓練以外では宿舎で一人携帯ゲームをしている時もある。
今まではオーバーワークと思ってしまうほど鍛えていたリオがゲームをしているところは驚いたトラノスケ。
たまにゲームで対戦するようなったのはここだけの話だ。
「ああ、楽な仕事さ。ドローンで物運ぶのは前職でやってたしよ」
「もう終わったのか。流石ね」
(リオ最近、ひよこのように後ろついてくるようになったな)
あのビィ・フェルノとの戦闘のあと、リオはやたらとトラノスケの近くにいるようになった。さすがに部屋まではこないが、それ以外の場所だとトラノスケの後ろについてまわってくるのだ。
別にそれで困っていることはない。むしろ、なんかうれしい気分になってくる。
(信頼されているってことか。それなら嬉しいぜ)
一人でいたり、誰とも話したがらないリオが自分に積極的に話しかけてくれるのは嬉しいもの。
前みたいな冷たい雰囲気もなくなっているように感じる。
「今日から小隊としての活動を再開できる。任務はまだ先だが、他の皆と合流したいわ」
「頼むぜ、隊長さん」
「安心して、もう勝手な行動はしない」
リオは真面目だ。
今までは単独行動が目立っていたが、これからは隊長として頑張ってくれるだろう。
「あ、白神さんだ!」
「ん?」
「すいません! 任務が終わった後、一緒に訓練所に行きませんか! 白神さんの銃さばきを参考にしたんですよ!」
地上で防衛任務をしていた他の隊員の人がリオにそう頼み込んできた。
休暇中にリオとかかわったが、色々なことが分かった。
意外にも懲罰部隊に入隊したことある彼女だが一部の他の小隊からの評判は悪くない。
彼女に助けられた者たちからだ。
リオの強さ、そして仲間を守ろうとする意志、それに惹かれたのであろう。
もちろん、それは一部だけである。大半の隊員が厄介者扱いしているが、それに関してはトラノスケから言うことはない。リオ本人が原因だし。
(まあ直接言ってきたり、殴りかかってきたり、武器壊そうとしてきたら上に報告するし止めてやるが)
直接なんかやってくるのは暴行だから、それは止める。
無駄にいがみ合うなんて無駄なことだ。
それともう一つ以外に思ったことがある。
「……ええと」
「どうでしょうか!」
「…………トラノスケ。どうやって言葉を返せばいいの?」
そして、すっごい人見知りだった。
これが一番驚いた。
リオが元所属していた第01小隊のアキラやリーユェ、ツカサとは仲がよかったため、人見知りが激しい性格とは思えなかったのだ。
「したいならいいよ、ダメなら予定があるって断れ。真剣な眼差しでよ。真面目な雰囲気出しておけば問題ねえよ」
「……そう?」
「お相手さん、クレーマーとかじゃねえんだ。素直に言えばいいんだよ」
変に構えないで、普通に話せばいい。
そう言って見守ることにするトラノスケ。そしてリオはどんな言葉を言うべきか、少し黙って考えて、
「……いいえ」
「へ?」
「無理」
冷たいまなざしでそう答える。
トラノスケはわかる。
あれがリオの真剣な表情だ。
だが知らない彼女からしてみたら機嫌が悪そうに見える。場の空気も冷えていっている。
「な、なんででしょうか?」
「…………」
「に、睨まれてる⁉」
(あー、これなんて答えればいいか悩んで黙っているな)
見ていられなくなったトラノスケが会話に交じる。
「そのな、ごめんな。これから第00小隊としての活動があるんだ」
「あ、あなたは?」
「彼女の小隊の指揮官です。松下トラノスケといいます」
「あー! 指揮官さんでしたか! そうですか……任務は大事ですからね! 休暇中でも訓練しているところは見ましたので、共に訓練できると思っていたのですが」
「すいませんね。俺たち、今日で休暇が終わって活動を再開するんですよ。これから再び地上に行くための小隊訓練を行うので……また今度で」
「指揮官さん、わかりました! 余裕があれば、すぐにでも誘いますね!」
そういって誘ってきた隊員は去っていく。
(しかし、リオの戦闘スタイルを参考にしたいとは……あれ、そう簡単にまねできる戦い方じゃあねえぞ)
ジェットブーツで空中を高速移動しながら、的確にグラトニーを撃ちぬいていく、そんな戦い方常人の戦い方ではない。
あれはリオの果てしない訓練で身に着けた空中でのバランス能力と判断力、そして光を捻じ曲げるキセキ、『光刺す道』があってできるものだ。
普通の人はビームアサルトライフル持って戦った方が戦いやすいし、そっちの方が強さをだしやすい。
「でも、まあ。リオの戦い方は一体多数な無敵に近いからな」
「トラノスケ……助かった」
「まあいいってことよ。じゃあ行こうぜ」
「どこに?」
いく場所を尋ねると、
「総司令官に呼ばれたのでね。新しい任務が来るかもな」
今日から第00小隊の仕事が再開する。




