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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
55/102

飢餓運ぶ侵食者たち

 暗い暗い洞窟の中。

 光も全く差さない洞窟の中を青肌の人型グラトニー、ビィ・フェルノがゆらゆらとふらつきながら、壁を手にやって支えて前へとゆっくり歩いていた。

 ビィ・フェルノの体は見るも無残に傷だらけだ。

 体の中心はリオによって穴が開いている。

 なにより一番目に留まるのはビィ・フェルノの右眼だ。黒く焼け焦げて、眼球そのものが消失している。

 あまりにも痛々しい姿であった。

 それでもグラトニーの肉体であるため、目を失ったところで視界が狭まったり視力が落ちることはない。グラトニーは生物が持つ生命エネルギーを探知することで周囲のものを認識する。

 真っ暗闇の洞窟の中でも平然と歩けるのだ。

 だが、その傷は自身が敗北してしまったという不名誉の証として残り続ける。


「痛ッテェ……まさか、このアタシが……こんな傷を……」


 悔しがるように歯を食いしばる。

 この体の痛みも、そして第00小隊への敗北感も、どちらもビィ・フェルノのプライドに傷がつく。

 肉体の痛みよりも心の痛みの方がビィ・フェルノにとって辛いものだった。

 重い足取りで前に進み、ビィ・フェルノが向かっていた目的地にたどり着く。

 そこには真っ赤な宝石の実がなっている巨大な侵食樹があった。

 この侵食樹はビィ・フェルノの住処であり、地球から吸い取ったエネルギーを侵食して体内に吸収したり、静かに眠ったりするために使っている。


「ついた……ここなら、アタシの傷が治るはずだ!」


 紅い侵食樹の実をもぎ取って、頭上に持っていき潰すような勢いで握る。すると侵食樹の実から凄い勢いで液体が溢れて、ビィ・フェルノはそれを全身で浴びる。 

 地球のエネルギーを果実にし、そのエネルギーと侵食樹が持つグラトニー細胞によって、グラトニーは誕生する。

 そのエネルギーを侵食して体の自然治癒力を上げてみたら、この傷は治るかもしれない、そう思っての治療行為だ。

 だが、 


「……駄目だ、傷穴が塞がらねえ」


 効果はなし。

 体中の傷と右目に触れて、落胆する。この星の膨大なエネルギーを侵食しても、肉体が治る気配すら無かった。

 自分を作り出した主もウカリウムのビームによってできた傷がまだ完治していない。

 いくら人類にとっての災害であるスターヴハンガでも、この傷を治すのは何十年もかかるであろう。


「シラカミっていってやがったか……絶対に許さねえ! 指揮官って奴もだ! 死ぬことを懇願したくなる罰を与えてやる!」


 この傷をつけた二人を思い出す。

 第00小隊のトラノスケとリオだ。

 他にもいたが、ビィ・フェルノにとって憎むべき相手はこの二人。他はついででしかない。

 必ず屈服させてやる、そんな憎しみを心に秘めて侵食樹の目の前で座り込み、


「おい! もしもしッ! 聞こえてるか! 話聞きやがれ!」


 キレながら電話をかけるように長方形の形に整えられている灰結晶に声をぶつける。


「キャハハハ! ビィ・フェルノちゃん、なに騒いでいるのっ?」


 灰結晶が淡く光だし、そこから人の顔が映し出され、声も出る。

 小柄のグラトニーがそう言ってきた。ビィ・フェルノの服装のように激しい露出の服を着ている。

 暗い緑に所々黒が混じった髪を左右ドリルのように巻髪にして、つり目と八重歯がやんちゃっぽさを醸し出している。

 無邪気そうに笑っていて、グラトニー特有の青黒い灰結晶色の肌でなければ幼い子供に見える。

 だがビィ・フェルノに殺気をぶつけられても楽しいそうに笑っている。

 強者の余裕というべきか。

 それとも狂気に侵されているのか。

 彼女の笑みからはどこから恐怖を醸し出している。それは子供のそれではない。


「うるせえぞ! ラァ・ネイドン! 出会い頭に燃やしてやろうか!」

「うるさいのはどっちかな~」

「ビィ・フェルノさんが喧しいのはいつものことでしょう」

「……ウム。うるさい」


 さらに他の灰結晶から声がした。二人の声がした。

 どちらもビィ・フェルノが騒がしいことに煩わしさを感じている。


「できる限り静かに優しく話しかけてくれないか? 今イラついて仕方ねーんだ」

「それは珍しい。いつも通信を楽しみにしている貴方が話しかけるな、なんて言うとは。何かありましたか?」

「この体を見てわからねえのか? このボロボロ具合を! 痛い、つらい、苦しい、ムカつく! あの女と男が……クソッタレ!」


 地面に落ちていた侵食樹の実を踏みつぶして苛立ちを晴らそうとする。だがそんな程度では心の敗北感は消えない。ゆえに怒りも消えない。

 他のスターヴハンガたちもビィ・フェルノの体の状態を見て純粋に驚いていた。


「うっわ〜……凄いケガ。珍し」

「……ああ、実が。もったいない」

「なんで治らねえんだ! アタシたちは主から無敵の力を授かった生物の頂点に存在するものじゃあねえのかよ!」

「おそらくですが、全身の細胞そのものにウカリウムのダメージが行き渡っていると考えるべきかと。再生能力だけでなく、侵食能力や身体能力も下がっているのでは?」

「パワーは落ちてねえよ……他は下がっているかもしれねえが」

「じゃあ雑魚だね」

「うるせえぞ! 燃やしてやろうか!」


 暴言に怒りの殺意を込めて脅したが、ラァ・ネイドンはそれでも笑っている。

 弱まったビィ・フェルノ相手じゃあ楽に勝てると思っているから、怖がる必要ないのである。


「やはりウカリウムは私たちグラトニーにとって恐ろしい毒物です。主もそれによって穢され、いまだなお負ってしまった傷を治すことができずにいると聞きます」

「ああそうだ。主が警戒するのもわかる。あのウカリウムを浴び続けたらアタシたちグラトニーは消滅するな。どれだけ強い力を持つ主も怪我の治療に専念するわけだ」

「くそ……このままじゃあ地球人相手に満足に戦えねえ……雑魚相手ならともかく、白い奴と同等のウカミタマと相手したら勝てるかどうか怪しいぜ……」

「でもでも~ビィ・フェルノがここまでひどーい目に合っちゃうなんて。

「確かに、最近の地球人は力をつけています。特にこの大陸の中央、アイツラは京都と呼んでいましたね。その京都付近の地球人は他の地域と比べても戦闘力が高いように感じます」

「……地球奪還軍、だったか。オレはまだあったことないが、ビィ・フェルノの様子を見るに強者の集いと見える」


 このスターヴハンガ四人はよく話し合いをするぐらいの仲だ。

 だが最初はそうではなかった。

 未だに日本にいる人類を全滅しきれないことに焦って情報を渡し合うぐらいには協力的になった。

 日本の地下に避難した地球人を殲滅して手柄を横取りしたいという欲が全員あるものの、ニュー・キョートや他のシティのウカミタマ相手に手を焼いていた。

 単騎ならどうとでもなる。こちらだって戦力が低いとはいえ下級のグラトニーなら侵食樹さえあればいくらでも作れるのだ。スターヴハンガや大型グラトニーの質、そして侵食樹によるグラトニーを作り出すことでできる数。どちらもある。

 しかし、ウカミタマもやられてばかりではない。

 ウカミタマの中には別格の実力者もいる。

 なにより全盛期とは程遠いとはいえ、地球二十一世紀末の科学技術は伊達ではない。奴らの作った兵器の中には、たった一機で線を超えるグラトニーを殲滅できるものもある。

 まあその兵器は地上でグラトニー粒子が漂っている以上、地上で使えばすぐに侵食して壊せるのだが。

 だとしても脅威であるのは間違いない。


「他の大きな大陸は全滅しているのにね~」

「それは主が侵略した場所だからです。こういった小さい島国は敵にならないと思って無視していましたから」

「まあ、あんなアタシたちにとって都合の悪い物質がこの星から生まれるなんて考えられねーもんな」

「……主の命令だ。地球人に絶望を与えて滅亡させる。それを果たさなければならない」


 主の命令は絶対だ。

 何とかして日本の人類に絶望を与えなければならない。

 希望を根絶やしにしなければならない。

 なぜなら、それが主の望みだからだ。


「じゃ、ボクが出よっと!」

「お前が?」


 ラァ・ネイドンの言葉にビィ・フェルノが反応する。

 ここに来るのだ。

 ニュー・キョートの地球奪還軍を潰しにラァ・ネイドンが来ると言っている。


「えーと、確か奴らは中国地方……そう中国地方って言ってた! そこの大きな地下の住処を壊してきたからさ! すぐにでもビィ・フェルノのところに行けるよ!」

「もう潰してたのかよ」


 ラァ・ネイドンの話した内容に三人が驚いていた。

 すでに中国地方に存在する地下の巨大シェルターを破壊して、その地下にする人類を侵食していた。

 ようは暇になったのだ。

 この場所でやることはない。

 なら手間取っているニュー・キョートシティのウカミタマを殲滅してやろう。

 ラァ・ネイドンに残虐な笑みが浮かべてあった。


「何日かかる?」

「三時間あれば余裕、全力出せばその半分もかからないよ」

「乗り物使ってか?」

「ボクの身体で十分」


 スターヴハンガの身体能力なら日本なんて狭い島のようなもの。どこにだって一日以内にすぐにたどり着ける。

 しばらく何か考え事をするビィ・フェルノ。

 そして、


「いいぜ、来なよ。だか一つ言っておく。バッテン印の髪飾りをつけた白髪のウカミタマは殺すなよ。そいつの指揮官もな。そいつらはアタシが地獄を合わせてやる予定だからよ」


 許可した。

 考えていたのは、自分が復讐するべき相手と戦った場合、どうするか、そのことであった。


「それ以外のウカミタマは?」

「殺な。なんなら白い奴と指揮官は痛めつけるぐらいしてもいい。それができるならこっちに来なよ」

「じゃあ向かおっと! 楽しみだな~。京都の地下ってどんな景色なんだろうね~」

「……おい、待てよ」

「なに?」


 話を終えて、早速京都方面に向かう準備に取り掛かろうとしたラァ・ネイドン。だがビィ・フェルノが呼び止める。

 そして画面の中のビィ・フェルノは侵食樹の木の実を取り出して握りつぶして、その液体をコップに注ぎこむ。

 そして一口含んで、


「せっかく久しぶりに話してんだ。もうちょっと付き合えよ」

「え、話したの三日前じゃん」

「いいだろ! こっちはこの傷をわざわざ見せているんだ! 奴らに負けた恥の証を! 見せているんだ! 笑いものになっちまうのに、わざわざ恥を見せたんだぜ! ならアタシの話を聞くのが道理ってもんだろ? なあ!」

「そんな道理しらないよ! もう!」

「そんな嫌な気分を晴らすには、仲のいいお前らとおしゃべりするのが一番ってわけだよ!」

「おしゃべりじゃなくて一方的な会話じゃん! こっちが暗い気分になってくるよ!」


 そのまま会話が始まった。

 ラァ・ネイドンが嫌そうな顔をしているが、お構いなしに言葉次々に話し込んでいく。

 なんかやたら血気迫った表情をしているため、止めようにもなんか怖い。


「……まずい、ビィ・フェルノが愚痴を語りだす。長くなる」

「よほど京都の地球人にひどい目にあわされたことがムカつくのでしょうね」


 蚊帳の外にいる二人がすぐさま通話を消した。巻き込まれたくないため、ラァ・ネイドンを犠牲にして。

 ビィ・フェルノの愚痴は一日たっても終わらなかった。

 新章始まります。

 投稿が遅くなってしまう可能性もあります。


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