復讐者の闇明け
夜、リオは病室から出て、墓地へ訪れていた。
自分の家族、姉のリサと話をするために。ビィ・フェルノと再び出会い、死闘を繰り広げた。それゆえは無性に姉と話したくなったのだ。
「……お姉ちゃん。やっぱり私、あの時と変わってなかったよ。お姉ちゃんに頼りっきりの、弱いまんま」
いつもと変わらず声を掛ける。
だが、今日はリオの表情はいつも以上に安らかであった。
「でもね……」
「リオ」
「っ、アキラさん」
姉に言葉を告げようとしたその時、アキラの声が聞こえた。
「無事でよかった……基地に戻った時、声をかけても目を覚まさなかったから、心配で心配で」
アキラ自身、リオが寝ている病室に足を運ぼうかと考えた。今日は非番だったてめ会いに行っても問題はなかった。
だが、第00小隊の人たちがリオをお見舞いに言っているところを見かけて、邪魔をするのは悪いと思って後にした。
そして夜になって病室ひに行ったが、リオがいない。トラノスケに聞いたら墓地にいると言われたので、来たのである。
心配そうに不安気な顔をしながらもリオの顔を見て安心するアキラ。元気であってよかったと一安心。
「心配かけて、ごめん。かなり手ごわい相手に出くわして」
「紅い顔つきに、ですか?」
「……うん」
第01小隊の隊長であるアキラにも報告が届いていたのだろう。彼女の表情が険しくなる。
アキラからしても親友を失い、そして再起不能寸前まで追い込まれた因縁のある相手だ。ビィ・フェルノを討伐したい、その思いはリオにも負けていない。
リオがビィ・フェルノと戦闘したと聞いたときは、鼓動が激しくなった。よく生きて帰ってこれた、と第00小隊を見て安堵した。
「友人がいなくなってしまうのは寂しくて、悲しいですから」
「そう思ってくれたのは、嬉しい」
あれだけ冷たく接しても、友人だと思ってくれている。
申し訳なさを感じながらも嬉しく感じるリオ。
それを聞いたアキラは、
「リオ、変わりましたね」
「……?」
「今の貴方の顔には柔らかい表情を浮かべてますよ。ひさしぶりに貴方の笑みを見た気がします」
一人孤独に戦い続けていたリオを見続けてたアキラにとって、今のリオの顔は珍しいものだった。
どこか憑き物が落ちて、親しいものに見せる穏やかな笑みにアキラは懐かしさを感じた。その懐かしさは心地よいものであった。
「そう。そうだったのね」
「私の話に付き合ってくれている。それだけで嬉しいのですよ」
「それは……ごめん。余裕がなかった」
今までは話をしてもはぐらかされているばかりであった。リオもそれは反省している。
彼女がこうなったのもトラノスケのおかげだとアキラは確信している。
(後日、彼に出会ってありがとうと伝えておかなければ)
リオと仲良く接してほしい、そう頼んだ彼女であったがここまで態度が優しくなったのは、トラノスケの頑張りがあってこそであろう。
「彼のこと、どう思いますか?」
だからこそ、トラノスケのことを聞きたくなった。
「……最初はあまりいいように思っていなかった。色々あったし」
「色々?」
「それは話せない」
顔を初めて見合わせた時、あんな恥ずかしい場面だったことを思い返すリオ。今は怒りより恥ずかしさの方が勝っている。
こんなこと、親しい人にも話せるような内容ではないため誤魔化した。
「あ、はい」
アキラもこれ以上踏み込んではいけないと、追求はしなかった。
「……最初に思ったことは、彼は地球奪還軍にいるべきではないと思っていた。死が間近にある地上にいるより、地下で人のために働いているほうが彼のためになると。トラノスケはどこでも生きていける人間だ」
「まあ、世渡り上手そうですよね。前の職場でも円満退社したそうですし」
「でも、今は違う。トラノスケはお姉ちゃんと同じような雰囲気を感じる」
「リサと?」
「うん、安心するっていうか、彼の近くにいれば心に勇気が湧いてくる。あの人についていけば大丈夫、そんな……」
あの時、トラノスケの希望に満ちた表情にリサの面影が重なった。
それは自分のあこがれと同じやさしさと勇気を持った人だったからだ。
「結局、私は本当は誰かに頼りたかっただけ。でもそれが弱いことだと……思っていた」
「それは違います。他人に頼って共に進むことは、むしろ他人の歩幅と合わせること。他者と協力するができるのは人間の強さの証明ですよ」
「うん、それを彼と共に戦ってわかった」
一人で戦うよりも、トラノスケと共に戦った方が何倍も力を発揮することができた。
彼ならばリオ以外の第00小隊の皆、ひいては他の小隊の隊員たち、その人たちとも共に戦えるのは強さだと思った。
トラノスケなら誰とでも合わせられる。
彼の指揮とサポート能力を見てそう感じた。
「トラノスケが私たちを支えてくれるのなら、私はそれに応える。彼の指揮を無駄にしないために」
もう、自分のせいで彼が傷つくところは見たくない。
戦いで傷つくのはいい。危険な地上で戦うとはそういうものだ。
だが自分勝手な行動でトラノスケや仲間が傷つくのは……もうしたくはないのだ。
「彼となら……どんな障害だって乗り越えれる。それこそ、ビィ・フェルノだって退けることができた。ならば今度は殺し切る」
「復讐は止めないと」
「止めるの?」
「私は止めませんよ。ビィ・フェルノに対する恨みは私自身も持っていますから。それにグラトニーを討伐するのは地球奪還軍の使命です」
「……ふふ」
「な、何を笑っているのですか?」
「トラノスケも同じようなことを言っていた」
最初から決まっていた。
自分が成し遂げたいことが、グラトニーを殲滅することは、地球奪還軍なら誰もが抱いていることだということを。
(お姉ちゃん。心配しないで。こんな私にも頼れる人たちがいる)
だから、
(見守っていて。私たち、第00小隊を。私の使命を)
そう祈って、姉に伝えたのであった。
彼女は復讐者だ。
ゆえに他者を遠ざける。
強さに焦がれ、弱さを斬り捨て、ただ暗闇の中を歩き続けて、どこに向かうかさえもわからなくなってしまった。
だが今は違う。
目指すべき道が確かに見えている。
光り輝く道しるべが、たどり着く場所まで続いている。
彼女の道に、希望の光が刺さりこんだ。
頼れる者たちの。
リオ・アヴェンジャーはこれにて終わりです。
次の章は少し時間を空けて投稿する予定です。
感想、評価、ブックマーク、よろしくお願いします。




