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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
50/66

獄炎の大地から生き延びて

 総司令官室にて。


「総司令官! 第00小隊が帰還しました! それと信じられないことが!」

「話はもう法隆アキラ隊長から聞いている! やってくれたな、松下指揮官! 見事としか言いようがない! スターヴハンガを退けるとは!」

「彼は本当に一般人だったんですか?」

「経歴を見ろ。物流センターで働いていたじゃないな。それ以前は京都の高校に通っている」

「いえ、でも……このドローンの動きはどう見ても素人のそれではありません……それこそ、軍の人が何年もかけて磨き上げたものよりも……天才のそれですよ、ドローン操縦の! しかもあんなモンスターマシンのハイドラグンを!」

「戦いの中で目覚めたのだろう。地上奪還のためにグラトニーと戦う、戦士として、な」

「入隊して一週間もせずにスターヴハンガに出会ったら死んで当たり前、なのに彼は生き延びた! ありえません! 本当に普通の強化人間手術を受けた人間なのでしょうか⁉」

「でなければ後遺症が出るだろう? 出ないということは国が認めた正規の強化手術を受けたということだ。安全が確定されているものを松下指揮官にやった。それは嘘ではない」

「……本当ですか?」

「彼は一般人だ。物流センターで働いていた、どこにでもいる社会人さ」

「それはさっき聞きました!」

「なんならこの軍は皆、元は一般人だ」

「へ?」

「グラトニーが来る前だってそうだ。そりゃあ地球奪還軍の中には大企業の社長の令嬢だったり、大勢のファンがいる俳優だったり、中には議員だったものもいる。でも、彼女たちも日本の社会で暮らす普通の人たちだ。超人的な力を持ってはいなかったし、キセキだって操れたりはしない」


 だが、


「それはこの軍に入っても変わらない。ウカミタマになっても……彼女たちはこのニュー・キョートシティの一般市民だ。グラトニーに戦える力を持つ戦士だとしても、それを忘れてはいけない。それをないがしろにしてはならない」


 そして、


「それは指揮官にも当てはまる。彼らもまた、ニュー・キョートシティの市民なんだ」

「それは……」

「これ以上、彼を疑うようなことはしないでくれ。本当に彼はごく普通の生活を送っていただけの青年だったのだ」

「……わかりました。よく考えたら、小隊の隊長たちもちょっとぶっとんだ人たちが多いですしね」

「腕っぷしだけさ、ぶっ飛んでいるのは。こちらとしても、あの紅いスターヴハンガについていいろ聞きたいが……まずは臨時ボーナスと休養の話が先だな」






 目を覚ますとそこは綺麗な天井が目に入った。


「……真っ白い天井だ」


 トラノスケは目を覚ます。

 胸に手を当ててみる。心臓は動いている。どうやらここは天国ではないらしい。


「やあやあ、お目覚めかい?」


 声がした方に目を向ける。

 白衣を着た女性隊員がいる。

 医師がいるということは、ここは病室だ。

 自分を治療してくれた人だろうか、トラノスケは聞いてみる。


「……すいません、私はどれぐらい寝ていましたか?」

「一日中ずっと寝ていたよ。傷は治っている。でも精神がすり減っているね、よっぽど死に近づいたと見える。なにせスターヴハンガと戦ったんだ。痛い目にあわされたんだろ? 何でも体に穴を開けられたというじゃないか。奴らは人間相手ならどんな残虐なことをしていいと思っている。これが他の惑星人のモラルかね? 他の惑星に足を運ぶならその惑星のルールに従ってもらいたいものだよ。グラトニーは頭脳はあっても知性は獣以下だね」

「怪我の治療はあなたが?」

「いや、君の部下だよ。姫路エリナ君が『キセキ』を使って治した。もっとも地球奪還軍の医療技術なら一日で後遺症も傷跡もなく完治させることができるのだがね。これもウカリウム鉱石様々だ。あれのおかげでこの地球の科学は大きく進歩したよ。普通ここまで人口と土地と建物が減ってしまったら文明は衰退をたどっていくというのに、何とかとどまっているのはウカリウムのおかげ。地球の恵みに感謝だね」

(面白い話だがよくしゃべる人だな)


 自身の身体を見つめる。

 痛みはない。

 穴も塞がっている

 怪我はなくなり完治していた。


「アタシがここにいるのは君の容態を確認するためさ。体の調子は? 不安に感じたりしていないかい?」

「いえ、なんとも。疲れはありますけど、痛みはないです。街中でパルクールしても問題ないですよ」

「ふぅん……なるほど、君のメンタルは中々にいい。肉体のことだけでなく趣味も話せるとは。地球奪還軍で大事なことは希望を見失わない精神力だ。君にはそれがあると見た。いやはや、君のような人が指揮官になってくれるのはありがたいね」

「そうですか」

「グラトニーは怖い存在だ。己の意思で戦おうとするものは少ないということさ。臆病とは言わない。なにせ世界を滅ぼしかけた奴と戦えと言ったら誰だって躊躇するものさ。指揮官が少ないのも、それが理由だね」


 医師が立ち上がって冷蔵庫の前に立つ。


「何が飲みたい? 紅茶かい、コーヒーかい? それとも果汁百パーセントジュース? アタシのおすすめはドリップコーヒーだよ。スーパーで売っている奴だねえ。甘いお菓子と一緒に飲むとその苦さがアクセントになっていいんだ」

「わかります、それ。じゃあ炭酸水、ありませんか?」

「いきなり刺激的なものを頼むねえ。まあ体に問題はないから、いいけどねえ」


 冷蔵庫から炭酸水を取り出してトラノスケに渡す。

 炭酸水はキンキンに冷えている。

 蓋を開けると、プシュッと心地よい音が耳に入った。

 それを一気に飲み込む。


 ――うまい!


 喉が渇いているときに感じるのどのシュワシュワ感が体全身にガツンと来る。これがたまらない。

 一気に半分くらい飲んで息を吐く。

 生き返った気分だ。


「まっ、それでも無茶はあまりしないほうがいい。任務を終えたら心を落ち着かせることが大事だということさ。優雅なクラシックでも聞きながら鼻歌を響かせるといい」

「わかりました」


 医師の言う事は従うべきだ。

 安静にしておこうとトラノスケは、ずっと寝ていたため腹が減った。

 なにかもらえないか、医師の人に聞こうとして、ふと周りを見ると、


「白神……」


 リオがいた。

 彼女とまたベッドの上で静かに寝ている。安らかな顔をしている。


「大丈夫だ。彼女も君と同じ、戦いで神経をすり減らしただけさ。死闘というものは心をすりつぶす。どんな戦闘狂であっても。彼女も必死になって戦って生き延びた。なら今はゆっくりと眠らせておくべきだ。心をすり潰された兵士はもっとも役に立たない。兵士ならば敵対者に怒りを持つか、そもそも感情そのものをなくすしたほうがいいかもしれないけど、そういう教育はあまりよろしくないものでね」

「それはよかった……っていうべきでしょうか?」

「生きているんだ、よかったに決まっている。リオ君の心は弱くはないさ」

「そうか、無事だったのか……よかった。ああ、そういえば第06小隊の皆さんは?」

「救助した隊員は皆無事だよ。彼女たちも寝ているよ」


 さて、そう言って医師は席から立ち上がって、この部屋から出ようとする。


「アタシも次の仕事があるのでね。本音を言えば君やリオ君とはもっと話をしたいのだけど、それはまた今度だ」

「大変そうですね。話ならいつでもいいですよ」

「そうか。ああ、あと言っておくけど。今日一日はこの部屋から出ないでもらいたい。ついでに言うなら明日はこの基地に来ず自由に街中を歩いてくるといい」

「え?」

「メンタルの回復が優先だ。いいかい、私たちの医療技術を使えば体はほぼ治る。だが精神の方はそうはいかない。どんな道具を使っても心を回復させるのは大変なのさ。それにスターヴハンガと戦って生き残ったんだ。はっきり言って奇跡だよ。自分の運と小隊のメンバーに感謝することだね。アーッハッハッハ‼」


 そう言って部屋から出る医者。

 彼女の言う通り、自分たちが生き残れたのは運がよかった。

 トラノスケは息を吐いて再び横になる。


「う、ううん……」


 今、一番聞きたい人の声が聞こえた。

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