希望の道しるべ、『光射す道』 ③
突然の出来事であった。
いつの間にか、マリがビィ・フェルノの横に立っており、怒りが込められたビームソードの一閃をビィ・フェルノに放ったのだ。
これにはビィ・フェルノもリオも驚愕。
トラノスケだけが笑顔を浮かべていた。
「――ガッ!?」
当然、その奇襲の一撃はかわし切れない。
ビィ・フェルノの右肩に翡翠の刃が食い込む。それでも何とか反応して後ろに下がる。肩の一部が消滅したが、腕と胴体が離れたわけではないので軽傷で済んだ。
(これ以上のダメージは……)
マズイ、そう思ってマリから距離を離そうとすると、
「逃がしません! 平泉さん、姫路さん!」
「しゅ、集中砲火ですね!」
「撃ちます!」
「なにィ⁉」
さらに第00小隊のツムグ、イチカ、エリナの一斉射撃。ビーム弾の群れがビィ・フェルノの体にぶつかっていった。
「来てくれたぜ。頼りになる仲間が!」
「時間稼ぎが間に合った!」
トラノスケとリオが歓喜の声を上げる。
第00小隊が全員そろった。
さっきトラノスケがハイドラグンを止めたのはマリから通信が届いたのだ。
――私が激しい一撃をアイツにお見舞いするから、射撃は止めてね、と。
「平泉! 皆を見つけてくれたんだな!」
通信をつなげてイチカに連絡を取る。
よく皆を助けてくれた。その感謝を伝えるために。
「は……はい……そうです……」
「気弱な状態になっているな」
「そ、その……ビルに激突しちゃったみたい……でして……」
「大丈夫か? なんか言葉が曖昧だぜ」
「姫路さんに治してもらいましたから……」
それほど急いでいたということだろう。風と共に空を飛んで仲間を救助していて、建物に激突してしまったとトラノスケは読んだ。
だが彼女の様子が変わったことはどうでもいい。いや、キセキをうまく使えないのは問題かもしれないが、彼女が第00小隊の皆を助けてくれたのだ。
それを喜ぶべきであろう。
「多勢で攻めてきやがって……うざいだけなんだよ! 『獄災火』!」
だがその喜びも長くは続かない。
ビィ・フェルノが傷だらけになりながらも立ち上がってくる。
なんて生命力だ。その生命力、まさに雑草が如く。
そして奇襲を喰らったビィ・フェルノが怒りをそのまま炎に変えて第00小隊の方に放射する。
「なんですか⁉ この炎は!」
「かするな! 当たったら消えない炎で苦しめられるぞ!」
「クッ……ハッハッハッハ! いいじゃない! スターヴハンガはそうでなくちゃ!」
「やはり手ごわいです! ですが、指揮官さまを守るために!」
やはりスターヴハンガの生命力はしぶとい。
胴体に穴を開けながらも、複数人相手に互角に渡り合っていた。
イチカたちの射撃を炎で防ぎ、マリとツムグの接近攻撃も圧倒的な身体能力で避けてはカウンターを積極的に仕掛けていっている。
トラノスケとリオのコンビ相手にしていた時よりかは動きは鈍くなっているが、それでも第00小隊の攻撃を対応できているのだ。
このままでは逆に、こちらのスタミナが切れて逆転されてしまう。
あのビィ・フェルノをダウンさせるほどの威力のある一撃をぶつけなければ勝つことはできない。
「まだ動けるの⁉ しぶとい!」
「白神! あれやるぞ!」
リオを呼んで、ハイドラグンをリオの目の前に。トラノスケも味方の位置を確認するためハイドラグンの隣に。
「炎を封じるの?」
「違う!」
「指揮官! なにを⁉」
「最後の一撃だ! ハイドラグンのビームキャノン、最大出力でぶつけるぞ! 軌道修正を頼む!」
「そうか……確かに好機の時! 打つ準備ができたら合図を送れ。確実に当てる!」
ハイドラグンのチャージ開始。
最大出力のビームキャノンをビィ・フェルノにぶつけるのだ。最高の火力ならば強靭な生命力を持つビィ・フェルノでも撃ち貫けると考えたゆえの行動。
さらに確実にぶつけるために、リオの『光射す道』でビームの軌道を修正してもらう。
だが打つためにチャージの時間がかかる。
そこでトラノスケはリオ以外の隊員に通信。
「各隊員! 時間を稼いでくれ! でかいのをぶつける!」
時間稼ぎの指示を送った。
「指揮官さまの命令! 確実に! 成し遂げます!」
「じ、時間稼ぎ⁉ スターヴハンガ相手に無茶言いますよ⁉」
「でかいの⁉ 立派な奴を!」
「ああ、燃え尽きちまうほどのな!」
「勝てる作戦ですね! ならば耐えますよ~!」
トラノスケの指揮に全員が頷く。イチカはビビっているが、それでこの化け物を倒せるなら、やってやるぞ、と今にも死に行く者の顔を浮かべて銃を強く握りしめた。
「し、死ぬ⁉ ヒィィ⁉」
もっともすぐにその顔は恐怖に染まったが。
「ちょこまか逃げてんじゃんねえ! 弱虫が!」
一番弱いと感じたイチカに変形させた砲腕をぶつけにぶん回しながら接近。
涙目になりながらも、決死で命からがら避けていく。
気弱な状態だからこそ危機に対する対応力が高い。ビィ・フェルノの変形した腕も炎をかすらないように回避していった。
「当たれって!」
「こっちを見ろ! ねえねえねえ!」
横から閃光の速さで接近して斬り刻んでくるマリ。ビィ・フェルノの体を細切れにしようと音を置き去りにするかのような振りで斬撃を繰り出していく。
「クソ! 体の穴が!」
リオとトラノスケから受けたダメージのせいで体が思うように動かせない。この傷がなければ、マリの斬撃を反応できる。なんなら反撃だってできるであろう。
ダメージが大きいせいで大技が繰り出せないのである。
「だが、その武器じゃあ!」
だが、反応できないからと言って避けれないというわけではない。対応ができないというわけではない。
体に灼熱を溜めて、その熱でビームソードを相殺している。それで何とか耐えきっている。
「そんな方法で⁉」
「足止めっ!」
「糸で止められるかっ!」
さらにツムグの『断ち切れぬ糸』がビィ・フェルノの体を巻き付こうとしてくるが、切れ味が鋭いのなら、燃やし尽くせばいいと言わんばかりに、黒炎を操って糸にまとわりつかせる。
そして黒炎が赤い糸を燃やして消滅させていく。
「なんとっ⁉」
これにはツムグも驚き。
「撃ちます!」
「そんな攻撃で! かすり傷しかつかねえよボケっ‼」
隙を見たエリナの長距離狙撃も、燃える拳でビーム弾を受け止める。
次々とやってくるツムグたちの攻撃を軽々と返していく。
「な⁉」
「か、堅すぎます! ちょっとしかダメージが入っていない⁉」
「いいじゃない! 逆に楽しくなってきた! どっちが先にくたばるか決めましょうよ!」
心が狂気に染まったマリがより鋭く斬撃を放っていく。負傷しているビィ・フェルノはそれをしのぐのに精一杯であった。
(クソ、コイツラ邪魔ばかり……だが、白い奴の体力も限界みたいだ。戦いに加わってこねーから炎を消されなくて楽だ)
だが、それは致命打にはなり得ない。
斬撃も射撃も全て耐え切られている。
自慢の炎も使えるからイチカ達の攻撃に対応できる。それで耐えている。
このままでは本当にこちらが先に体力を切らしてしまう。
「指揮官! いつ撃てる⁉」
「もう少しだ!」
(……私の残り少ない精神力だと光を操作するのは一回が限界か)
リオ自身の精神力に、他の隊員が必ビィ・フェルノを相手にして消費されている体力、そしてハイドラグンの残りエネルギー量、その他諸々を考えると次の一発が最後の一撃となる。
これを外せば勝利が一気に遠ざかってしまう。
確実に決めなければならない。
焦る心を落ち着かせるリオ。無意識にハイドラグンに触れた。
「各隊員に次ぐ! 射撃準備! 完了だ!」
「「「「――っ!」」」」
ハイドラグンのチャージが完了した。
「白神、準備はいいか?」
「確実に当てればいいだけの話よ!」
「撃つぞ! ハイドラグン! フルチャージ、ビームキャノン!」
「――ファイア‼」
出力100%ビームキャノンが主砲から放たれた。
最大出力で発射されたビームがビィ・フェルノの方へと飛んでいく。
「来る! 避けて!」
「は、はい!」
「はい!」
「ええ! あとはお願いしますよ!」
マリの声にイチカたちがすぐさま回避行動。そして自分たちがいた場所に巨大な翡翠色の光線が飛んでいく!
「なっ⁉ いつの間に⁉」
目標はもちろん、ビィ・フェルノだ。
「チィ! 逆に燃やし尽くせばっ⁉」
右腕にグラトニー粒子を集中。
黒炎、出力と熱、共に最大。
黒き炎を翡翠の光にぶつけようとした。
ビィ・フェルノにとって、この光だけが己を消し去る最大の敵。そして同時に、この光は第00小隊の最大の攻撃だということも察した。
他の連中が必死になって自分を相手にしていたのだ。
そうだ。
この攻撃さえ防ぎ、耐えきれば勝ちはゆるぎないものとなる。
だからこそ、最大の炎をぶつけて相殺しにいく。
熱と熱をぶつけあって、最悪負傷をこの右手だけにとどめる。
そうすれば己を倒す手段を相手はなくすのだから。
「飲み込まれろ!」
燃える右腕を全力で振り下ろす。
豪火の黒炎でハイドラグンのビーム相殺するために。
――シュンッ……!
「え⁉」
――触れた瞬間、黒炎が消え去った。
ビィ・フェルノが顔を引きつらせる。
「なっ⁉」
正確には炎は消えてはいない。
腕の炎が肩の方に集まっている。だがそれでは翡翠の光は防げない。
黒炎が消えれば、その腕が翡翠の光に飲み込まれる。そして光は止まることなく突き進んでいく。
「ビームは曲げる必要はない。だから、その『黒炎』を捻じ曲げた」
そのビームはまっすぐと、ビィ・フェルノの顔に目掛けて行って、
「味わい続けろ! 翡翠の光を!」
「喰らいやがれぇっ‼」
――ビィ・フェルノの顔に激突した。
「グオオオオオオオオオッッッ⁉」
焼けつく熱さをも超える熱が顔面の右半分を貫いていく。
翡翠の光がグラトニーを浄化するが如く、ビィ・フェルノの顔の半分を消し飛ばし、そのビームの余波は体に刻まれていた傷をよく深くしていった。
そのビームが通り過ぎた後、地面に倒れるビィ・フェルノ。
顔は抉れ、体の傷からは青黒い血液が止まらず流れ続けている。
一目見れば致命傷だってわかるほどの重症であった。
「やった! ぶち当てた! ナイス、白神!」
「ええ、やったわ!」
切り札をぶち当てて、軽くハイタッチをかますトラノスケとリオ。
「やりやがったわ……あのスターヴハンガを大きな傷を!」
「さすが指揮官さま! 隊長さん!」
仲間たちも喜んでいる。
「う、うお……ま、まさかよ……このアタシが……白い奴に、こんな目に! オマエ! 許さねえ!」
地面で蹲り激痛を耐えるように無くなった右目を抑えるビィ・フェルノ。
もうまともに侵食技法も扱えないほどに、体に大きなダメージが残っている。
完全に決まった。
「皆! よく耐えてくれたッ!」
第00小隊、ビィ・フェルノを再起不能にまで追い詰めたのであった。