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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
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希望の道しるべ、『光射す道』 ②

 ビィ・フェルノが地面に倒れる。


「やったか?」

「いや、あのビィ・フェルノがこの程度で死ぬとは考えられないわ。まだ警戒を解かないで」


 スターヴハンガの生命力をなめてはいけない。

 二人とも警戒を強めてビィ・フェルノを見る。


(だがしかし……あのビィ・フェルノに戦えている! 松下のサポートがここまで頼りになるなんて)


 一人で戦ったらここまでいい勝負にならないだろう。

 自分が危ないとき、トラノスケがシールドビットで守りに入り、さらに援護射撃で相手を崩してくれている。

 危険な場面を何度も消してくれている。

 彼のサポートがここまで心強く頼りになるものだとは思わなかった。


(お前は私より、よっぽど戦闘の才能があるみたいね……指揮官としても、戦士としても)


 この地球奪還軍に入隊して一週間も経っていないというのに。

 たった一月の超ハードな訓練を行ったとはいえ、ここまでグラトニーと戦える指揮官になっているのも驚きだ。

 彼のおかげでビィ・フェルノをここまで追い詰めている。

 ならばこのままビィ・フェルノを倒そうと銃口を向けた瞬間、


「くっ、この発光は⁉」


 ビィ・フェルノの体が光り始めた。


「へへ……完全にブチギれた。もう全部爆発しちまえばいいんだ!」


 その声には怒りが満ちていた。

 自分の邪魔をする奴なんて消えてしまえ、強い憎しみに満ちた笑顔を浮かべるビィ・フェルノ。

 笑顔とは本来攻撃的な仕草である。

 奴の笑顔は敵対するものを破滅に追い込むことに喜びを感じる残虐なる笑みであった。


「まずい、白神! 奴が狙っているのは俺たち二人じゃない! 第00小隊全員だ!」


 トラノスケはすぐにビィ・フェルノがやろうとしていることを察した。

 あの発光は体に熱を集めているのだ。

 そしてその熱を思いっきり放出させて、この周囲を焼け野原にするつもりだろう。

 自分そのものを超威力の爆弾になることによって。 


「周囲を爆発させるってこと⁉」

「ホラーゲームのお化けみたいに好き勝手やりやがってよ! この!」


 ハイドラグンのビームキャノンによる射撃。しかし、そのビーム弾はビィ・フェルノの体を守るように現れた高出力の黒炎によって阻まれる。

 この黒炎によってトラノスケたちの攻撃を完璧に防ごうとしているのだろう。

 この周囲を大爆発させるための時間を稼ぐために。


「無駄無駄! その程度のビーム! 逆に燃やしてやるぜ! 消えぬ炎は無敵だ!」

「こ、このままじゃあアイツの思惑通り、爆発する! 己が無傷の自爆を!」

「あの黒く光る炎を突破しなければ……」



「――待てよ? 黒く光る炎?」



 トラノスケ、脳裏に電流走る。

 突如、この場を切り抜けられる作戦が頭の中に舞い降りた。


「賭けかもしれないが……ほかに手はない!」

「指揮官?」

「白神、聞いてくれ!」


 すぐに自分が考えた作戦をリオに伝える。

 説明を聞いたリオが険しい表情になりながらも、どこか期待にあふれた目をしていった。


「いけるか?」

「……わからない。初めてよ」

「こういうのはできるって思いこむのが大事だぜ。失敗したら文句を俺にぶつけてきな」

「必要ない。やるわ、何もせず後悔しないようにするために」


 それに、


「お前の作戦なら、私は心の底からかけることができるわ」

「最後の会話は済ませたか! 爆ぜて無くなれ!」


 ごちゃごちゃと喋っているトラノスケたちに残虐な笑みを見せる。

 地獄を見せてやると言わんばかりに、ビィ・フェルノの体に膨大な熱が集まった。



「――『デストロイエクスプロージョン』‼」


 

 ビィ・フェルノの体の発光が激しくなる。

 この場の世界が黒く染まっていく。

 そしてその光がより激しく光った瞬間、爆音と共に灰塵とかす大熱波が周囲に爆発的に広がっていった。

 体内に蓄積された膨大な熱を一気に放出、大規模な大爆発を引き起こしたのだ。

 大地さえも焼けこげ、空気は熱に歪みながらその黒炎に染まっていき、その爆発はこの場の全てを燃やし尽くしていく。

 その爆発は手榴弾やミサイルでは比べ物にならず、都市一つを更地に変えるほどの熱を秘めていた。

 その爆発がしばらく続く。

 その爆発音は破滅の音だ。

 そしてその爆発が収まり、ビィ・フェルノの体が光ることを止めた。 


「へっ、これで完全に燃やし切って――」



 ――シュザンッ‼



「――はぇ?」


 ビィ・フェルノは戸惑いの声を上げた。

 残忍な面持ちが消えてしまうほどの衝撃。

 腹部に何かが刺さっている感覚が。


「間抜け面ね。私がいるのが不思議かしら」

「な?」


 さらに目の前には白神リオがいる。

 なぜだ、今の大爆発で消えたはず。そんな疑問が脳裏に沸くこともなかった。


 ――なぜなら、ビィ・フェルノの腹部にはビームの刃が貫通している痛みの方に思考を奪われているからだ。


「がっ――グアアアアアアッ⁉ 痛い⁉ 痛ぃぃぃいいいい⁉ なんだこれ⁉ 何が起きて⁉ なんで⁉ なに⁉」

「消えろ!」


 容赦せず、突き刺したビームダガーを振り上げて頭部を消し飛ばそうとする。

 その瞬間、ビィ・フェルノに今まで感じることのなかった予感を感じた。


(よ、避けないと! 死ぬ⁉)


 初めて感じた死の予感。

 それは本能的行動。

 無意識に身体を後ろに大きくそらす。ビームの刃が顔に抉りこむよりかはマシと考えて。

 ビームの刃はビィ・フェルノの頭部をかすることはなく過ぎ去っていく。

 だがしかし、ビィ・フェルノの胴体に大きな穴ができていた。

 リオがビームの刃で突き刺してできた刃の風穴が。当然、激痛がビィ・フェルノに襲い掛かってくる。これも初めての感覚であった。内臓を抉りだされて斬り刻まれたかのような感覚がやってきている。

 思わず涙目になってしまう。

 それほどの痛み! 


「おまえ! おまえっ! なんてことしやがるんだ! 人の体に! こんな、傷穴を!」

「貴様が言う事か」


 避難するが、それをお前がやってきたと言わんばかりに、怒りの表情でリオが射撃を繰り出す。


「テメー! 燃えろ!」


 こんな傷をつけられた、その怒りがビィ・フェルノの黒炎をより激しく燃え上がらせる。

 その激火でリオを燃やし尽くそうと放射する。



「『光刺す道(ライトニングカレイド)』!」



 その攻撃、リオは避けることはしなかった。受け止めることもしなかった。

 立ち止まって、目を翡翠に光らせる。

 すると、ビィ・フェルノの炎に異変が走る。


「あ、アタシの炎が言うことを――うおっ⁉」


 飛ばしていた炎はその場で停止する。前に動かそうともピクリとも動かない。

 しかもそれだけでなく、生み出した炎は逆流してビィ・フェルノに襲い掛かってくる。

 炎とは言え自身が作り出したもの、少し熱い程度でダメージは受けない。

 だがそれ以上に精神面に大きな傷をつけられたような気分を味わるビィ・フェルノ。


 ――炎が、私に逆らった?


(ど、どうやって、なにが起きているんだよ⁉)


 困惑と恐怖が思考を支配していく。

 自分が放った炎が自分に返ってきた。

 どういうことだ。

 あの炎は自分の化身だ。

 黒炎は自分の意思に従う。なのに、自分の意思から外れて、逆に己に逆らって襲い掛かってきた。

 頭の中で思考がぐちゃぐちゃに混ざっていく。


「賭けに勝ったぜ! やったな!」

「指揮官の言葉がなければ一生気づくことはなかったでしょうね」

「な、なんでピンピンして……ハッ⁉」


 無傷のリオとハイドラグンを見て、それと同時にビィ・フェルノは爆発して消えたはずの周囲の建物を確認する。

 建物は火で燃えているものはあるものの、崩壊や消滅はしてない。火がついていたのはもとからだ。すなわちこの建物たちはビィ・フェルノの爆発の影響を受けていないということになる。


「周りの建物も消えていない、なにより爆発の跡が――小さすぎる⁉」


 爆発した場所にクレーターができているのは確認できた。

 だがそのクレーターの大きさ、目測で測って約五メートル。小規模な爆発だ、自身が放った『デストロイエクスプロージョン』の威力は全力で出せば半径三キロメートルは火の海にできる。ならばクレーターもそれぐらいの大きさになっていなければならない。

 この周りの景色に建物なんて存在してはならない。

 爆発することはできた。

 だが技は不発だったのだ。

 そしてそれをやったのがリオだということはビィ・フェルノは理解した。

 だがどうやって?

 どんな方法で?


「テメー……何をしやがったんだ!」

「お前を殺すウカリウムのビームは光と熱の集合体だ。そして炎もまた同じだ。炎は周囲を照らす光を持ち、そして近づいたものに熱を与える!」


 ということは、


「私の『光刺す道(ライトニングカレイド)』は! 光を操る! すなわち光が多く含まれている物なら炎だって雷だって己の意思で操ることができる!」

「――ま、まさか!」

「ビィ・フェルノ! お前の爆発を私のキセキで操作した! 半径五メートル以内に収めるように! 技は発動したけど広範囲に爆発はできなかった! この場を壊すことはできなかったのだ!」


 ビィ・フェルノに『デストロイエクスプロージョン』が発動する前に、トラノスケにこう言われたの

だ。


 ――炎や爆発を操れるか? ビィ・フェルノの炎をさ。あれだけ輝いているんだ、光線みたいなものだろ。


 その言葉を聞いて思ったことは、ひょっとしたらできるのではないか、そんな希望であった。

 もし炎を操れるのなら、ビィ・フェルノの大爆発を止められるのではないか。

 ゆえにトラノスケの言葉を信じて、キセキを発動させた。

 そして結果は、見事ビィ・フェルノの『デストロイエクスプロージョン』を止めることができた。技は発動されてしまった、その爆発を小規模まで抑えて、なおかつ不意打ちのビームダガー突き出しをビィ・フェルノに喰らわれることができたのだ。


「な、なんで……そんなアタシにとって都合の悪い能力をもっていやがるんだよ……クソが⁉」


 ビィ・フェルノの顔が恐怖に歪む。これ以上は自身の作り出す炎がトラノスケたちに効かないことに恐怖しているのだ。

 ありえないものを見た。

 自分の自慢の能力を一方的に封じれる手段を持つ奴が現れた。

 しかもそいつは、いつだって自分の邪魔ばかりする奴だった。

 リオも、その姉のリサも、いつだって自分のやりたいことを妨げてくる。

 そんな奴がなんでこんな、都合いい力をもって現れてくるのかと。


「姉さんの意思だ。この力をもって倒せと姉さんが私に言っている!」


 このキセキはあまりにもビィ・フェルノの力を封じ込めることに特化した能力であった。

 リオは思った。

 これは姉さんが託してくれた意思だと。

 この力でビィ・フェルノを倒せと、その願いを力に変えて託してくれたのだと。

 そうとしか思えなかった。


「……もう一つ、指揮官が私を信じ、そして勝利へと導く指揮を出した。だからこの能力を応用させることができた」


 そしてその能力の可能性を引き出してくれたのはトラノスケの指示のおかげであった。

 自分一人で戦い続けていたら、この能力のさらなる使い方を見つけることはできなかった。

 指揮官の指示によってこの『光刺す道(ライトニングカレイド)』は成長したのだ。


「白神! いけるぞ! このまま倒しちまおうぜ!」

「……ええ、そうね」


 一気に叩き潰そうとトラノスケが徹底攻勢に仕掛けようとリオに指示を出す。

 だがリオは頷きながらも、その声は弱弱しかった。


「だ、大丈夫か? さっきの怪我が再発したのか?」

「いえ、問題ないわ……」


 そう答える彼女、しかし呼吸は荒く汗を多くかいている。

 今のリオは体力がそこにつきかけていた。


(大爆発を抑えるためにキセキの力をフルパワーで使ったけど……ここまで体力を持っていかれるとは……)


 ビィ・フェルノが放った大爆発の威力は凄まじく、リオは必死になって爆発の威力を抑えようと『光刺す道(ライトニングカレイド)』を全力で発動させた。その反動が今彼女に襲いかかっている。

 そしてリオが黙った理由、それはビィ・フェルノに己の不調を悟られないためでもあり、


(松下は今も怪我の痛みが体を襲い掛かっている。なのにそれに耐えている。なら私もこの戦いが終わるまで黙っておくわ)


 そしてトラノスケに心配をかけさせないためのやせ我慢であった。

 もしかしたらそんな誤魔かしはすでに見破られているのかもしれない。

 だが、リオからしたらこれ以上トラノスケに心配をかけられるようなことはしたくなかった。


「……ビィ・フェルノ! テメーは俺が倒す! 白神は下がってくれ!」

(……やっぱり、わかるか。だが、松下。お前だけに戦わせるわけにはいかないわ!)


 ハイドラグンをリオの前に出して、ここからはドローンだけで戦おうと試みるトラノスケ。リオの不調はすぐにわかった。ならばこれ以上無茶をさせるわけにはいかない。

 そう思って攻撃を仕掛けようとしたら、


「――え?」


 トラノスケはハイドラグンをその場で停止させた。

「なに、どうしたの?」

「と、止まった? ふ、封じられる前に火の粉がそのおもちゃに触れたのか!」


 その行動に不安を覚えたリオ。

 何かハイドラグンに不調でもあったのか、そう思っていると、


「いや、白神。もう大丈夫だ」

「え?」


 トラノスケはそういうと、


「やっほ〜」

「なっ?」


 突然、気楽な声がこの場に響いた。

 これはビィ・フェルノの近くから聞こえた。横を向くと青髪の女性が笑みを浮かべて、


「――じゃあ、くたばりな!」


 突如、マリが殺意に満ちた表情となり、鋭いビームの一閃がビィ・フェルノの左肩に振り下ろされた

「……ホバータンクを守ると指揮官さんに言いましたけど。敵来ないですね~」

「まあ、その方がいいけど」

「皆、目を覚ましてよかったです」

「気を抜いちゃあだめだからね」


 ――ホバータンクを守っている第06小隊の平和な会話である。

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