希望の道しるべ、『光刺す道』 ①
「チクショウ、見つからねえ!」
トラノスケの奥の手を喰らって腰にダメージを受けたビィ・フェルノ。それが回復して、乱暴に腕銃を撃ち続けている。
ストレス発散だ。
だがどれだけ撃ってもストレスは消えない。
トラノスケたちにやられた背中の痛みが、怒りを燃え上がらせていく。
「こうなったら、もう一度『インフェルノブラスター』でこの場所を地獄の業火に変えてやる!」
探すのが面倒になった。
再び火柱を生み出して、さらにこの旧京都駅市街をより火の海にしようと考える。そうすれば、トラノスケたちを燃やし尽くせる。
灼熱を体内に集め始めた。
「……なんだ?」
上空から自身が作り出した炎の光とは、違う色をした光が目に入った。、
――その時、翡翠の光雨がビィ・フェルノへと飛んできた。
「なにィ⁉」
すぐさま真横にダッシュステップで回避する。まさかの不意打ちに驚くも何とか避けきることができた。
「こっちだ! ビィ・フェルノ! 私はここにいるぞ!」
聞き覚えのある声だ。
ビィ・フェルノが追いかけていた獲物の声だ。
それと同時にブオンッと機械音も鳴り響く。
空を見上げれば――高速飛行ドローン、ハイドラグンにリオは乗っていた。
「なんだ! あのドローンに乗ってきやがった⁉」
「そんなに暴れたいなら相手してやるぜ! 紅い顔つきさんよ!」
「さっきの男の声も⁉」
ハイドラグンからトラノスケの声が。
カメラだけでなくスピーカー機能だってついているのがハイドラグンである。
「喰らえ!」
ビーム弾を連射しながらハイドラグンから飛び降りる。さらにハイドラグンのビームキャノンとバルカン砲からもビーム弾が発射されていく。
「『光刺す道』!」
目が翡翠に光る。
彼女の周囲の光が、彼女の意思によってのみ動き始める。
自身が撃ったビームとハイドラグンが撃ったビームを同時に操る。ビームの軌道は様々で、ジグザグに曲がり、綺麗な曲線を描き、ただ速く直線に進むものもある。
無数の光が、無軌道な弾道を描きながらビィ・フェルノに向かってくる。
頭、腕、胴体、足、体の全てのパーツを打ち貫こうとしてくる。
「チィ! いきなりこの量かよ!」
前方から迫ってくる光の群れに焦るビィ・フェルノ。
なにせハイドラグンの援護射撃も入っている。
ツインビームサブマシンガンに加えてハイドラグンの二砲から放たれるビーム弾、大量発射されたビームの弾幕が迫ってくる。
それに対して、ビィ・フェルノは全身を黒い炎をまとわせて相殺させようとする。
どれだけ弾幕を張ろうが、体に当たらないようにすればいいだけ。黒炎でビーム弾を燃やそうとしているのだ。
「そうくると思っていた!」
それを呼んだリオ。
大量のビーム弾を一か所に集める。それによって強大なビームの球体を形成。そしてそこから極太のビームをビィ・フェルノに向けて照射させた。
本来であれば高出力のビーム砲台でのみ可能な巨大ビーム照射。
だがリオの『光刺す道』ならば連射のビーム弾を操作すれば、今のように再現することができる。
これほどの大きさならさすがに防げない。
スターヴハンガでも浴び続ければ消滅するほどのウカリウムビームレーザー。
「なんだと⁉」
当然、ビィ・フェルノもこれほどの大きさのビーム弾には驚愕。自身の炎では消し切れないと判断して、即座に炎を消して回避行動。右方向に大きくステップ。
それでビーム弾をかわして何とかやり過ごす。
「逃げるな!」
炎を消して避けたその隙を狙ってリオがビームダガーで斬りかかる。
――ガシュイン!
「クウ……甘いんだよ!」
「グッ⁉ チィ、反応するのか!」
だがその奇襲も読み切る。
そのビーム刃を、即座に燃やした右腕で弾きつつ突き出し蹴り。リオの腹部に刺さるも、ジェットブーツで後方に飛ぶことで、蹴りを何とか浅く喰らう程度に収める。
これによって耐えることができた。
「逃げるなよ!」
だがビィ・フェルノの攻撃は終わらない。
今度は燃えた手でリオの体に手刀と叩き込もうと猛スピードで近づく。黒い炎で燃えたその右上はビームソードよりも熱く、鉄板さえも熱したバターのように易々と溶かし斬り裂いていくほどの熱。
その手刀の一振りをリオにかます。
それを喰らったらマズイ、リオはすぐさまビームダガーモードに変換、ビィ・フェルノの手刀を止めようとビームの刃をクロスして受け止める。
熱と熱、グラトニーとウカリウムの粒子がぶつかり合って、互いの粒子が火花のように飛び散った。
「うぐっ……⁉」
「真っ二つだ!」
押しているのはビィ・フェルノの方。スターヴハンガの身体能力の方が上だ。
さらにリオの体を蒸発させながら斬ろうとして腕を押し込もうとする。さらにもう片方の腕でリオを燃やそうと炎を生み出そうとして、
「グオッ⁉」
だが、背中に炎とは違う熱い衝撃が。
背中から炎とは違う激しい熱が皮膚を焦がす。後ろを見ると、翡翠の光の雨が横向きに襲いかかってくる。先ほど放った、集合させて作り上げた極大ビーム、それをリオは自分の方に戻ってこさせつつ拡散させてきた。
さらに被弾してひるんだその隙を狙って、リオのビームツインサブマシンガンが火を噴く。
ビーム弾の軌道を操作して、全方向弾幕射撃。
それがビィ・フェルノの体に突き刺さっていく。
「おまけにコイツだ!」
もう一発とハイドラグンからビームキャノンが放たれる。
「ドローン! 余計な手間を増やすんじゃあねえ!」
「こっちを向け!」
「なっ⁉」
ハイドラグンに怒りを向けるも、リオがビーム弾の軌道を操作しながら発射。ビィ・フェルノからハイドラグンを守るように動かしつつ、本命のハイドラグンの一撃をビィ・フェルノの胴体に直撃させた。
リオとトラノスケの連携攻撃。
実戦で初めてとは思えないほどに、滑らかに速いコンビネーション。
ビィ・フェルノ相手にビーム弾を何度もぶつけている。
「グッ……効かねえんだよ!」
「なっ⁉」
だがそれでもダメージは浅い。
ビーム弾で焼かれた体も、肉体の表面がちょっと荒れた程度。
グラトニーの最上位クラス、スターヴハンガの肉体ではあの程度のビーム弾では軽傷を負わせるぐらいだ。
「なんて肉体……」
「マジでバケモンだぜ、こいつは……⁉」
「やりやがって、壊れろ!」
射撃戦では分が悪い。なにせ、ウカリウムのビームを受け続けることになる。
いくらスターヴハンガの肉体を持つビィ・フェルノも何度も何度もビーム弾を受け続けるのはマズイ。というか痛いのは勘弁。
ならば接近戦で制圧するのがいい。ビィ・フェルノはビームの弾幕を避けながらリオに急接近。
「クッ⁉」
変形させた大砲の腕を突き出してリオを吹き飛ばす。
真っ先にリオを潰そうと思っての肉弾戦。
リオもビィ・フェルノの攻撃に衝撃をそらし切れず骨がきしむような感触を味わった。少しでも反応が遅れていたら骨が折れていただろう。
だがそれによって動きが鈍る。そこに追撃でもう一回砲弾腕をぶつけにいったビィ・フェルノ。今度は回転しながらぶん殴ることによって遠心力も加わっている。
「白神! 下がれ!」
「ウオッ⁉ 盾が⁉」
だが追撃は入れられない。
ハイドラグンは発射したシールドビットがビィ・フェルノの拳を受け止める。一発で壊れてしまったが、それでリオが救えたのなら安いもの。
さらにトラノスケが操るハイドラグンのビームバルカンがビィ・フェルノの頭部に飛んでくる。さすがに頭部にやってくるのは腕で防ぐか避けるしかない。
後ろに大きく下がって避ける。だがこれによってリオから距離が離れてしまった。
(あの白い奴の動きは大したことねえ……一番ヤバいのはあのおもちゃだ⁉ 目に追うのもやっとなのに、嫌なタイミングで撃って来やがる!)
イライラしながら空を優雅に飛んでいるハイドラグンを睨みつける。
アイツがこちらのチャンスを潰してくる。これでこちらの攻撃のターンが途切れていってしまっている。
この戦いのキーはあのハイドラグン。
リオを潰すのではない。
ハイドラグンを潰さない限り、こちらが戦いを有利に進めることはできないとビィ・フェルノは悟った。
ならば、するべきことは一つだ。
「邪魔だ! 燃えちまえ! 『獄災火』!」
ビィ・フェルノの身体中にある青黒い灰結晶が禍々しく光る。
漆黒の炎が天に上る。
侵食技法の力が解放された。
ビィ・フェルノの意思で自由に動く黒炎がハイドラグンへと鞭のように伸びていく。
漆黒の炎は触れたものを燃やし、その物体を侵食していく。
いくら外装にウカリウム特殊塗料が塗られていようが、炎の量で攻めてその塗料をはがしてしまいさえすれば、あとはほんの少し炎が触れればいいのだ。それだけでハイドラグンは侵食されて己の体内に吸収できる。
ハイドラグンを消し飛ばす、そしてその後にリオを殺せばいい。
ハイドラグンさえ潰せれば、第00小隊の二人組が瓦解するのだから。
空に飛んだ黒炎が無数に分かれてハイドラグンを囲んでいくように伸びていった。
「飲み込まれろ!」
そして一気に収縮。炎でハイドラグンを燃やし包もうとした。
どうあがいてもかわし切れないほどの大火だ。
「――見えた」
ハイドラグンの主砲が光る。
ビーム弾が囲んでいる炎に穴を開けて、そこからマックスのスピードで脱出。音速を超えた速度で炎をかわした。
「なっ⁉ 嘘だろ!」
ムキになって炎の勢いを強くしてハイドラグンを追いかける。
だが炎は追いつけない。
空を飛ぶハイドラグンにかすることすらできない。
飛ぶ方向を予測して炎を動かすも、それさえも読んでいるかの如く、音速の速度でかわし、目の前に飛んでくるならビーム弾で打ち消す。
止められない。
ハイドラグンは侵食の炎をかわし続ける。
「見えるぜ……液晶から、肉眼から、全てが見える! 今なら二人の動きがスローモーションになっている!」
トラノスケの眼に不思議な現象が。
彼女たちの戦闘がくっきりと見える。
それだけじゃあない。
リオの放つビーム弾が。
ビィ・フェルノが放つ炎の弾も。
二人の接近戦でビームの刃も
その動きも、その軌道も、全てが見える。
「へへ……人間ってやつは死に追い込まれると、周りがゆっくりになるんだな……」
今のトラノスケの体は重症であった。
体にはビィ・フェルノの侵食によってできた風穴に火傷痕。さらに地面に叩きつけられえて、踏みつけられて骨も至る所が折れている。
動けているも不思議なほどに重症。
死がトラノスケの隣に来ている。これ以上ダメージを受けたらもう立ち上がることができない、そう感じるほどに。
――だが、それがいい!
人間、死に追い詰められたとき周囲がまるでスローモーションになったかのように動きがはっきりと見える時がある。
それは生き残るために最後の力を振り絞って己の命を生存させるために脳の処理能力が格段に上昇するのだ。
この現象をタキサイキア現象と呼ぶ。
要は、火事場の底力だ。
今、トラノスケはその状態になっている。
ビィ・フェルノに受けた拷問によって。
己が死ぬ間際にいるがために、周囲の動きがゆっくりと感じられている。
脳の処理能力が格段に上昇している状態なのだ。スポーツで言う極限の集中モード、ゾーンに入っている。
だからこそ、リオとビィ・フェルノの戦いを目で追いかけることができる。どこに射撃すればいいかがわかる。
「見える、動きが見える! ハイドラグンも動きも!」
――そしてなにより、今まで操作しきれなかったハイドラグンを完璧に手綱を握っている!
トラノスケはビィ・フェルノと戦えているのはリオがヘイトを稼いでいること、そしてなによりモンスターマシンのハイドラグンを百パーセント、操作できているからだ。
これが本当のハイドラグン。
この灰色の空をどこまでも飛び、グラトニーどもを屠っていく、トラノスケの機械の羽。
これをフルに使っていけるのなら、どんな相手でも負けはしない。
そう確信できるパワーがある。
だから、今のトラノスケは誰にも止められない。
「俺! ドローンになったぜ! 誰にも負けねえ!」
極限状態のトラノスケがハイドラグンを
「テメー! だったら本体を『インフェルノブラスター』で燃やして――」
「させはしない!」
右腕に熱を溜めようとしたビィ・フェルノ。それを放っておくわけにはいかない。リオは逆にビィ・フェルノに急接近してサブマシンガンのビーム弾を連射。
大技を阻止しようとする。
「グッ⁉ 邪魔してんじゃねー!」
「するさ、貴様相手なら!」
極大の火柱を生み出す『インフェルノブラスター』を繰り出されたら、仲間たちに被害が及ぶ。
ゆえに絶対に阻止しなければならい。
ビィ・フェルノの顔に射撃を続ける。
「この! どけ!」
「くっ!」
『獄災火』で炎を鞭のように動かして、リオに灼熱の鞭をぶつけにいく。
枝分かれした無数の鞭がリオの体に襲ってくる。ジェットブーツでなんかとかかわしてく。
それでも、無数にある炎の鞭はかわし切れない。確実に当てに行くビィ・フェルノ。
「させるかよ!」
だがその攻撃に待ったが入った。
炎を生み出している両腕目掛けてハイドラグンのビームキャノン。ゾーンに入っているトラノスケの狙いは正確、見事にビィ・フェルノの両腕に命中した。
何度も邪魔をさせる。
「ウオオ⁉ クソ雑魚ヤロー! コソコソ隠れながら戦いやがって! ちょっかいばかりかけてくる臆病者がよ! リーダーのくせに恥ずかしくねえのか⁉」
フラストレーションがたまり、邪魔ばかりするトラノスケに暴言をぶつけるビィ・フェルノ。
気持ちよく戦闘させてくれない。
隠れながらこっちの妨害ばっかしてくる。
本当にムカついてくる。
「指揮出すのがリーダーの務めでね!」
「クソッタレ!」
物陰に隠れているトラノスケ。別に怖がっているわけではない。
こんな大けがで前線に出たらすぐ死ぬ、リオに負担を大きくかける、そもそも遠隔操作武器のハイドラグンの有利性を自ら捨てるなんて、臆病者以上に無能だ。
実際、この戦い方で勝負を有利に進められているのならこれでいい!
「チェンジ! ぶち込むぞ! 白神!」
「問題ない! 来て!」
トラノスケの合図とともにハイドラグンのキャノンからビームが放たれる。
それを『光刺す道』で軌道を操りながら射撃。極大のビームとサブマシンガンのビーム弾が変速軌道で飛びかい、ビィ・フェルノへと襲いかかった。
「うっ、うおおおお‼」
トラノスケとリオの連携ビーム攻撃がビィ・フェルノに炸裂した。




