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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
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お前のせいだろうが!

「ダメ、死んじゃ……指揮官!」


 リオは心に絶望が染まりながらも、生きてほしいと祈りを捧げる。

 身動き取れず、立ち上がることができず、ただすがりつくようにトラノスケに手を伸ばす。

 指揮官には死んでほしくない。

 彼は戦士である。

 グラトニーと戦う以上、死は突然やってくる。もう地上でそうなったのなら、仕方ない、リオは無理矢理心に納得させるだろう。

 だがこんな痛みを与えられ続けられながらの死に方はあまりにもあんまりだ。

 彼が何をした。

 そんな死に方だけはさせるわけにはいかない。

 死なせるわけにはいかない。

 しかし、リオの体は動かないのだ。

 ビィ・フェルノによって肉体は動くことすらできないほどに痛めつけられたのだから。

 だから、懇願するほかない。

 それが絶対に聞き入れてくれないだろうという確信があったとしてもだ。


「――へえ」


 そして、その言葉を聞いたビィ・フェルノはおぞましいほどに歪んだ笑顔を浮かべた。

 見るものに恐怖を刻みつけるような、そんな笑みをリオに見せつけた。


「なるほど、この指揮官がそれほど大事か。そいつはいいこと聞いたぜ」


 人差し指を突き出し、トラノスケの横腹に置いた。

 それを見たリオが恐怖の表情を浮かべた。自分に痛みを与えたように、トラノスケにもただ痛みを与えるようなことをすると確信する。自分が楽しむためだけに。


「ま、まさか……指揮官に何をするの!」

「ちょっとしたゲームさ。何本目で死ぬか、それを当てるゲームだよ!」


 そう言って指を押し進めていく。

 すると指は何の抵抗もなく体を貫いていく。


「ガアアアアッ⁉」


 恐ろしいほどの激痛に叫び声を上げた。

 肉体に力任せで一気に穴を明けているのではない。

 侵食でゆっくりと横腹の細胞を消しながら穴を開けているのだ。そのため、鋭い痛みがじっくりとトラノスケに襲いかかってくる。


「どうだ、侵食される感覚は! 細胞が痛みを残しながら消えていくのさ!」


 勢いよく指を外して、再び横腹に指をゆっくりと差し込んでいく。人体に穴を開けて激痛を与え続けていった。

 それを楽しそうにしてくる。残虐な行為に快楽を感じているのだ。


「ぐあああぁぁっ!?」

「アタシは五本で死ぬ! それにかけるぜ、耐えたら白いのは殺さないでやるか」

「やめろッ‼ ビィ・フェルノ! 指揮官にそんなことするな!」 

「さんをつけろよ! 負け犬!」


 生意気だと思ったビィ・フェルノが手のひらから灰結晶を出してリオの左腕にぶち当たる。鋭く尖った灰結晶が深々と突き刺さった。


「あああああああッ⁉」

「アタシの炎はどんな物も燃やしながら侵食する無敵の能力なのによ、ウカミタマめ、燃やすことしかできねえ」


 人差し指に黒色の炎が宿る。

 彼女の侵食技法、『獄災火』だ。

 そして今度はその指をトラノスケの穴が開いた横腹と反対側の方に向けて突き入れた。


「グアアアアッ⁉」

「だが人間なら違う! ほら、火に触れたところが消えるぞ! 血も流さず細胞だけが消えるぞ! 傷口は熱でふさがるからな!」


 横腹の細胞が侵食されながら、黒炎の灼熱が肉体の傷穴に襲ってくる。細胞を侵食された痛みと炎に燃やされる痛みが同時にやってくる。


「グアアアァァァッッッ!?」


 今までの叫び声より大きく吠える。さっきまでの指刺しなんか比べものにならない激痛がトラノスケの腹部にきている。

 もう叫ぶことしかできない。


「指揮官っ⁉」

「血を流して死ぬことはねえ。痛みを抱きながら死ぬのさ」

「やめて……お願い……指揮官を虐めるの止めて! ほんとうに、死んじゃう……殺さないで……私を殺してもいいから……痛めつけてもいいから……」

「……し、白神!」


 痛めつけられるトラノスケを見て、リオは涙を流しながらビィ・フェルノに止めてくれと頼み込む。

 自分の身を犠牲に、何しても構わないと付け加えて。

 しかし、ビィ・フェルノはトラノスケを痛めつけることをやめず、リオの懇願を面白そうに笑って、


「いい気分だ! 人は幸せに生きるにはストレスとどう向き合うことだと思っている。ストレスが溜まればイラつく、 だからそのストレスを発散する方法を持っていることが大事だとアタシが思うんだ」


 楽しくてたまらない。

 嬉しくてたまらない。

 自分を苛つかせた白い奴が絶望の表情を浮かべて涙をこぼしている無様な姿を見られた。

 ビィ・フェルノの気分は最高潮だ。


「ムカつくやつの尊厳を徹底的に壊す。嫌いな奴が不幸な目に合えば心に幸せが満ちていく! 人間ってのはそういうもんなんだよ。なあ、指揮官さん」

「……好き勝手しゃべりやがって」

「おしゃべりは好きだ。さみしがりでね。これでまた一人で寂しくなっちまう」

(ま、まずい……痛みが激しすぎる……)


 感覚がなくなってくる。

 死神に魂を取られるのも時間の問題か。

 このままではビィ・フェルノに無残に虐殺されてしまう。

 だが、グラトニーの中でも凶悪なスターヴハンガには、ただ強化手術を受けただけではあまるで刃が立たない。


 ――ここで死ぬのか、俺は。


(父さん……母さん……美羽……)


 大事な家族が脳裏に思い浮かぶ。


 父と母はまだ寝ていて、もし目を覚ました時、自分がいなかったら悲しませてしまうだろう。


 妹の美羽には自分は死なない、と約束をした。


 それを破ってしまう。


 そう思っていると罪悪感が沸いてくる。


 家族を悲しませて迷惑をかけてしまった、そんな罪悪感が。


(――なんだよ)


 トラノスケは目を閉じて死ぬ前にこう考えた。


(ごめん、なんてことをなぜ考える必要があるんだよ。悪いのはグラトニーだろ! 父さんたちがこんな目にあっているのも! 白神や俺が傷ついているのも! 全部!)


 死への恐怖よりも理不尽に対する怒りが沸き上がってくる。

 恐怖も消えた。

 痛みも消えていく。

 思考はグラトニーの怒りと、そしてこの場を乗り越えるための冷静さ、その両方が満ちていく。


 ――いい加減にしやがれよ、クソッタレ!


「お前がこうなったのはアタシのせいじゃない。そこの白いヤツのせいだ。アイツがアタシを苛つかせた、それがなければ楽にしてたのになぁ。運がないな〜、指揮官さんはよ」

「……わ、私じゃ!」

「事実だろ、お前がアタシに逆らわなければコイツは死ぬこともなく、苦しむこともなかった! お前の我儘が原因でな! 自分の力を過信して現実から目を背けた結果がこれだ!」


 とどめと言わんばかりに四本の指をトラノスケの胸に突き刺して勢いよく引き抜く。その勢いで血が噴出、体と大地が血に染まっていった。


「――ごふっ⁉」

「――いやああああ⁉」


 噴水の如く、大量に血が溢れ出すトラノスケの姿に絶望の悲鳴を上げるしかないリオ。

 体に穴を開け続けられたトラノスケも目の焦点が合っておらず、すでに瀕死の状態。

 指一本動かすのも無理に近いほど限界だ。


「へ、泣き叫んでやがるぜ。いい気分だ。だがまだ殺してねえよ、よかったな。さあ、あの女に恨み晴らす時が来た。指揮官さん、最後に言いたいことあるか? 言葉次第じゃあお前が死ぬことはないかもな。おべっかでも謝罪でもいいからよ〜」


 死にかけているトラノスケに甘言を流す。

 もっともどんな言葉を言おうが殺すことを決めている。

 リオが大事だと思っている人物、そいつを殺せばさらに絶望を叩き込むことができる。

 ビィ・フェルノにとってトラノスケの命はリオの心を傷つけるためのおもちゃでしかないのだ。


「…………俺の」


 トラノスケは目がぼやけながらも、口を動かした。


「なんだ? ハッキリと言うべきだ」


 興味を持ったビィ・フェルノがトラノスケの口元に耳を近づける。殴られようが効かない、掴もうが逆に侵食する、一見無防備に見えるがトラノスケの反撃が効かないと確信しているからこそのこの体勢。

 完全にトラノスケをなめ腐っている行動。

 どんな言葉を言うか、楽しみにしている。



「……俺の……家族は……病に侵されてやがる」



「――は?」


「……え?」


 突然の告白にビィ・フェルノも思わず戸惑う。リオも叫んでいた声をなくした。


「お前たちグラトニーが地球にやってきたせいで……妹は病室から出られず、両親は寝たきりだ。俺は家族を助けるためにこの軍に入った……お前みたいな奴にその願いを邪魔されるとは……俺は不幸だな」


 そう話し終えると静寂がこの場を制した。

 しばらく、誰もが止まる。


「自分かわいそアピールか⁉ それで助かるなんて思ってんじゃないだろうな!」


 突然、そんなことを言ってきたトラノスケにさらに怒りをぶつけてやろうと痛みつけを再開しようとした。



「お前らがそれを当たり前にしたことにブチギレんだよ俺は!」



 トラノスケの怒りと共に、ビィ・フェルノの背中に爆発的な衝撃が襲いかかった。

 高速飛行してきたハイドラグンが背後から突っ込んできたのだ。


「――ガッ⁉」

「轢き逃げでも喰らってろ、邪悪な化け物」


 ハイドラグンの表面はグラトニーからの侵食を防止するためにウカリウムが配合された特殊塗料が塗られている。

 侵食を予防するための特殊塗料がある状態でのみ発動できる本体突撃。マッハの速度でツッコめば生物なら確実に殺し切ることができる恐怖の一打。

 激痛に襲われながらも、トラノスケはハイドラグンを操作し続けてビィ・フェルノに奇襲の一撃をかましたのだ。


「う、うお……イテェ……⁉」


(これ受けても死なないのかよ!)


 腰を押さえてうめき声を上げているが、マッハで飛んできたハイドラグンの直撃を受けてこれだけの反応。音速を超えた一撃でも命を取ることはできない。

 つくづくグラトニーの驚異的な生命力にトラノスケは言葉も出ない。

 やはりウカリウムのビームでなければ倒しきれないようだ。


(だがしかし、今だ!)


 だがこの奇襲はビィ・フェルノを倒すための一撃ではない。

 逃走路を作り出すために一手だ。

 トラノスケはすぐさまハイドラグンを自分近くまで引き寄せて這いずりながらもハイドラグンに乗った。


「白神! 手を伸ばせ!」

「――えっ⁉ でも……」

「でもじゃない! 今は逃げて体勢を立て直すんだ!」


 自分は助かってもいいのか?

 そんな考えが心にへばりついているが、リオはトラノスケの必死なまなざしを見て、手を伸ばしてその手を掴む。


「よし! しっかりつかまってろ!」


 そしてリオを落とさないようにその手を強く握りしめて空へ飛んで逃げていく。


「クソヤロー‼ 待ちやがれ――イッ⁉ 腰が……」


 立ち上がってすぐさま追いかけようにも、ハイドラグンの突撃のダメージが腰に来ている。動こうにも、腰に襲ってくる激痛がビィ・フェルノの動きを止める。

 初めての痛みだ。

 まさか地球人よりも優れた肉体とありとあらゆるものを侵食する能力を持ったグラトニーである己がこのように無様に這いつくばっているとは。


「あの雑魚が……このアタシを腰痛にさせやがって……絶対に逃がさねえぞっイテェッ!」


 自分をこのようにさせた指揮官に怒りを抱きながら、あえて地面に横になって腰痛の回復に専念するビィ・フェルノ。

 この痛みが引いたら、死ぬよりも恐ろしい目にあわせてやる。

 そう思いながら逃げていくトラノスケたちを横寝で睨み続けた。

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