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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
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祈りの命乞い

「あ、危ねえ……当たったら灰になってた」


 トラノスケは先ほどのビィ・フェルノの弾丸を見て恐怖する。

 見上げると、ビルが半壊している。

 ただの結晶の弾が巨大建築物を楽々と破壊できるほどの威力を持っている。こんなもの、直撃したら一瞬でお陀仏だ。

 だがそれでもトラノスケは震えることなくビィ・フェルノを見据える。


「し、指揮官……駄目だ……戦っては……死んでしまう……」

「白神……ここでただ一人で逃げるわけにはいかねえよ。こいつは……悪趣味にもほどがある」


 地面に倒れ、出血しているリオを見て、恐怖が消えて怒りが沸き上がる。

 あまりにも残虐なことをしてくれたものだ。

 スーツも体もボロボロなのはまだいい。

 トラノスケが怒りを抱いたのは、リオの体に至る所にある火傷痕と腹部の大きな焼き印、残虐非道な精神を持っていなければこんな傷はできはしない。

 ビィ・フェルノはリオをねじ伏せただけではない。

 倒れたリオに拷問じみた攻撃をさらにやったのだ。

 その精神に、トラノスケは怒りを抱いている。


「なんだ? 女じゃない。ということはお前はウカ……なんとかじゃあねえってわけか?」


 トラノスケを見て不思議そうに思うビィ・フェルノ。

 今まで地球人と出会ってきたが、ほとんどがウカミタマになった女性であった。

 指揮官を務めていた男性もあったことあるが、弱すぎて覚えていないのである。


「ウカミタマさ! 俺は違うが!」


 そんなビィ・フェルノ相手にハイドラグンのバルカン射撃。

 有無を言わさず先手必勝の攻撃だ。踏まれているリオに当たらないようにきちんと調整して発砲している。


「やはりこいつの味方か! へっ、そんなおもちゃでアタシと遊ぼうっていうのか。舐めてやがるな、コ

イツ」


 そのビームバルカンに対してビィ・フェルノは両手を広げてお迎えの態度。

 ビームの雨を体に直撃をあえて受けた。

 だが、ウカリウムのビームを喰らっても笑みの顔を崩さずことなく、痛みを感じたようか素振りは全く見せない。

 ピンピンしているビィ・フェルノを見てトラノスケは驚愕する。


「ッ! 直撃してもダメージがない⁉ バルカンでもダメなのか?」

「パワーがないね、パワーがよ。そんなんじゃあチビのグラトニー相手にも傷一つ負わせることできねーよ」

「指揮官、私のことはどうでもいいから逃げろ! お前じゃあ勝てない!」

「そいつは無理な相談だ! お前を助けに来たからな! おい、スターヴハンガ! 白神から離れろ!」

「なるほど、白いのを踏んづけたままじゃあまともにダメージは与えられねえようだな」


 ビィ・フェルノが獲物を狩る目をする。

 踏んでいた足を少し上げて、


 ――ゴキャリッ‼


 そしてリオの膝を思いきり踏みつぶした。


「グアァァァアアアアッ⁉」

「白神⁉」


 骨が砕け、嫌な感触と共に激痛がその足にやってくる。

 あまりの痛みにリオは絶叫の悲鳴を上げる。骨が折れた感触がビィ・フェルノの足裏から伝わってくる。確実に折ってやった、してやったりの表情。

 自分が離れてもリオが身動き取れないように足を潰したのだ。


「う、うぅ…………」


 あまりの激痛にうめき声しか上げられない。


「これでこいつは戦うことも逃げることもできねえわけだ」

「頭おかしいぜ、お前は……」


 トラノスケが嫌悪をむき出しにして睨みつける。

 仲間に対してこんな拷問じみた攻撃を喜びながら繰り出す。

 怒りを抱かないわけがなかった。


「んだと?」

「なんで……お前たちはこんな悪趣味な侵略を行えるんだよ……俺たちを喜びながら痛めつけやがってさ。他の惑星の人間なんだろ、お前らは!」

「なんだ、死ぬ前に質問か? 理由は簡単だよ、主がそれを望んでいるからさ!」


 初めて聞いた言葉にトラノスケは聞き返す。

 主とあがめているものとは何かを。


「主……お前たちのリーダーか?」

「神さ。この地球でアタシを生み出した。主はこの惑星に来て地球の生命たち全てを侵食しようとした。いつも通り食事をする気分で。グラトニーの体は無敵だ。宇宙中のありとあらゆる物質を侵食できるんだからよ」

「……胸糞悪い外食だ」


 遠くの街の飲食店によった、そんな感覚で侵略してきたのだ、グラトニーたちは。

 なおさら怒りが沸き上がってくる。

 だが逆にある考えが脳裏によぎる。


「待てよ……そんなに無敵を誇るのに、全部侵食しなかったのか。お前のリーダーは!」


 そう、主とあがめたグラトニーのリーダーはビィ・フェルノが語るように無敵の存在であろう。

 今はウカリウムがあるが、侵略してきたころはなかった。

 グラトニーを倒せる手段がない。

 なのに、なぜそのリーダーはまだ侵略を完了していないのか。

 その答えもビィ・フェルノが答えてくれた。


「ここが普通の惑星だったのならな……だが、侵略を開始した一週間後ぴったり、アタシたちにとって最悪の出来事が起きた」

「最悪な出来事だと?」

 

「主が、傷を負った。胴体に大きな穴をあけて」

 

「へ?」


 予想外な答えであった。

 敵のリーダーが重傷を負った。

 一体何が原因で。


「どうやって⁉」

「お前らが持っているそのビームで傷ついたんだよ。ひどいことするねえ」 

「三年前から、ウカリウムは使われていたってことか⁉」

「なんだ、知らなかったのか? まあ、主が傷を負ったのだからそれが事実だ。アタシたちグラトニーを傷つけることができるのはそのウカリウム、だっけか。それを使った武器だけだからな!」


 衝撃な事実にトラノスケは思わず黙る。

 ウカリウムはグラトニーが侵略したころから存在していた。しかもビーム兵器も開発されていた。

 だがそんなこと、ニュースにもなっていない。

 だが彼女の言葉を聞くにそれは嘘ではない。

 主は怪我したのは真実なのであろう。


「主は今も自分の住処で傷を癒しているよ。三年かけても完治しないほどの重傷を負ってしまった。ウカリウムってやつは恐ろしいな」

(ということは……)


 ビィ・フェルノの説明を聞いて、トラノスケはある考えにたどり着いた。

 

「………お前たちのリーダーが俺たち地球人を恨んで八つ当たりをしてきているのか?」


 それは自分勝手な命令。

 グラトニーの主は地球に侵略してきて、そして地球人に反抗されて傷を負った。

 そのことを恨んで地球人に恐怖と苦悶を与えろと部下のグラトニーたちにそう命令したということだ。

 あまりにも横暴な指示にトラノスケは怒りを抱く。

 そちらが地球を滅ぼそうとしてきたのに、反撃されて傷を負ってそれにイラついて自分たち地球人を痛めつけにきた。

 自分本位すぎる。


「違うな。主が望んでいると言っただろ。自分に傷をつけた地球人どもに絶望を与えろ、これが主の命令さ」

「それを八つ当たりだろうが! そっちが勝手に攻めてきて! なのにちょっと反撃喰らったから恨んでいるだぁ⁉ わがままもいい加減にしやがれよ! グラトニーども!」

「主の悪口を言うとは。お前、死ぬ前に死ぬほど苦しむぜ」

「悪意そのものの化け物が……人間じゃあねえ! 宇宙人ですらねえ!」

「惑星には惑星そのものにルールがあるもんだ。グラトニーは他の惑星を侵食しても誰も文句言わないよ。だって文句言っていた奴がいなくなるからね」

「悪意でできた化け物がよ!」


 吐き捨てるように言い切りながら腰に着けていたビームピストルを発砲。

 それを聞いてビィ・フェルノは目を細めて、


「言ってくれるぜ、指揮官サンよ!」


 怒りのまま突撃してきた。

 ビルとビルを飛びぬけるその身体能力、眼前にやってくるビーム弾を弾きながらすぐにトラノスケの目の前まで移動する。


「なっ⁉ 速――」

「捕まえた!」

「うお!?」


 ヘルメットごとに握り潰すような握力でつかみ、そのまま地面に叩きつけて後頭部を大地に押し付けた。

 さらに地面を叩きつけられてハイドラグンの脳波操作が切れてしまい、そのままビルに激突して穴をあけて姿を消した。

 身動き取れず、己の武器も見失ってしまう。

 リオの体は自由になったが、絶体絶命のピンチとなる。それにリオも大きく負傷しているため、ビィ・フェルノの拘束からは逃れていても立ち上がることができない。

 両者に破滅の危機が迫っていた。


「ゲグッ!?」

「ああ? なんだ、滅茶苦茶弱いじゃねえか。そんな貧弱でこのアタシに武器向けやがったのかよ」


 ビィ・フェルノがトラノスケの首をガッシリと掴んで離さず、そして逃がさず地面に押さえつける。

 ウカミタマであるリオでも力量差では上を取ったビィ・フェルノ。そんな相手に強化手術を受けた程度のトラノスケでは一方的な勝負になるのは目に見えていた。


「し、指揮官……」

「情けねえリーダーだぜ。やっぱ上に立つ奴は腕も立つ奴じゃねえとよ」


 掴まれているトラノスケを心配そうに見つめるリオ。助けに行こうにも足が言うことを聞かない。ジェットブーツを噴射させようにも、足が折れていてはちゃんと飛ぶことは不可能。ただ倒れてトラノスケを見ることしかできない。

 そんなリオを無視して、ビィ・フェルノは、


「ウカミタマじゃないってことは侵食できる人間ってことだ。まあ人間は雑な味だから好みじゃあねえんだがよ。アタシ的にはやっぱ宝石だ。宝石が一番口に合う。他の奴も皆口をそろえて言うぜ、地球の鉱石は上手いってよ! 翡翠色の水晶だけは食べれねえがな。で、アンタはどんなものが好物? 聞いておいてやるよ」


 戦っている最中とは思えないほどに穏やかな口調で話しかけてくる。

 彼女にとって当たり前の日常会話をしている。

 だがそんな会話でもトラノスケは冷や汗を浮かべるだけだ。


「……知るかよ」


 トラノスケの言葉にすぐさま拳が飛んでくる。

 一発でヘルメットが壊れて、拳がトラノスケの顔面にぶち込まれた。まだ侵食の力を使っていないのか、顔が侵食されて消えることはなかったが鼻や口から激痛と共に血が流れる。


「――イッ⁉」

「おいおい、アタシが話しているんだぜ。しかとしちゃあダメダメ! マナーがなっていないよ」

「な、殴るのがマナーかよ……」

「口答え、それもマナー違反だ。弱者がそんな行動、とっちゃダメなんだよ!」


 頭部を掴み上げては地面に叩きつける。それを何度もした。これが謝罪だ、と言わんばかりに後頭部を地面にこすりつけていく。

 何度も叩きつけられて後頭部の皮膚が切れて出血。トラノスケの顔が真っ赤に染まっていく。


「強者を! 見習え!」

「ゲフッ、ガハッ⁉ ゴホッ⁉」

「結構頑丈だな。まあ、コイツのことはどうでもいいな。さっさとコイツを殺して白いのを気が済むまで痛めつけて無様な屍にしてやらねえと」


 出血し、顔面を血だらけにして痛めつけまくったビィ・フェルノは、トラノスケの命を奪おうと侵食の力を解放しようとした。


「…………お、お願い」


 侵食される絶体絶命のピンチに、ビィ・フェルノの耳に声が聞こえる。

 懺悔に近い懇願だ。

 その声を発した人物はすぐにわかる。

 白神リオだ。


「なんだ、白いの? 何か言いたいことでも? 楽に殺してほしいのか?」

「……殺すのは……止めて……」


 涙をこぼしながら、そう頼み込む。

 命乞いの言葉だ。


「へえ、命乞いか? 情けねえ面してよ。みっともないったらありゃしない」

「…………」

「じゃあ指揮官を殺してみろよ。そしたら命は助けてやるかもしれないぜ」


 面白そうにそう要求するビィ・フェルノ。

 もっとも命を助けるつもりなんてこれっぽちもない。この要求を呑んでトラノスケを殺したのなら、その後にそのことを餌にしてもっといたぶるつもりだ。

 その残酷な要求にリオは血へどを吐きながら頼み込む。


「彼を……指揮官を、殺さないで……お願い……」

「――っ、白神!」


 彼女の命乞いは己の命ではなかった。

 自分の小隊の指揮官、トラノスケに対してであった。


「……駄目よ、また消える……消えてしまう……それは、嫌だ……」


『大丈夫、お姉ちゃんは死なないから』 


「また、一人になる……っ!」


 最後に聞いた姉の声が脳裏に響いてきた。


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