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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
39/102

燃えた大地の救出作戦

 大地に巨大な火の柱が立っている。赤黒い炎が大地を汚すように燃え広がり、周囲の建物も燃えながら吹き飛ばされる。

 さながら炎の地獄絵図。

 生き物の命を燃え滓にさせていく獄炎の大地が生まれていた。


「ぐ……おお……」


 トラノスケは、何とか無事であった。

 巨大な火柱の衝撃で吹き飛ばされてダメージは負ったものの、体中が痛い程度で体を動かすことには支障はなかった。

 火柱が近かったとはいえ直撃ではない。それが軽傷におさまった理由であろう。

 周囲の状況を知るために、何とか立ち上がり周辺を調べる。


「うわ、山火事の中にいる気分だぜ。気温も一気に十度以上上がっている。さっきの火柱、直撃してたら灰どころか蒸発していただろうな。運良く衝撃波だけですんでよかった……って、皆は? 救助した隊員は?」


 トラノスケは急いでホバータンクの中を確認。自分だけでなくホバータンクも吹き飛ばされたのだ。救助した隊員たちが無事かどうかを確かめなければならない。


「ホバータンクは壊れていないな。中にいる隊員たちは……よかった、無事だ!」


 負傷していた隊員たちの首に触れて脈を確認。指先に血液の流れを感じたため、彼女たちは死んではいない。今の衝撃で新たな負傷もしていない。

 無事で本当に良かった。

 乗り物と怪我人の確認を終えて、トラノスケはすぐさま第00小隊の仲間たちに通信を送る。


「各隊員! 無事か! 無事なら返事をしてくれ!」


 仲間の返事を待つ。

 十秒以上たった。

 返事はない。

 トラノスケに熱さで生まれた汗とはまた違う汗が流れ始める。

 最悪の想定が頭の中に流れ始めた。


「嘘だろ……生きているはずだ! ドローン、飛べ!」


 すぐさま索敵ドローンの索敵レーダーを発動。

 周囲をレーダーで探知し、仲間の無事を確かめる。

 生きていてくれ、そう願ってレーダーを確認すると、光の点がヘルメット内の画面上に表示されていった。


「よかった、ここにいる怪我人たちをのぞけば、ちゃんと五つ光っている。皆、生きている可能性が高い!」


 味方がいる位置がレーダーによって記される。

 ちゃんと五つ存在していた。あの灼熱の火柱に吹き飛ばされたため、大きな傷は受けている可能性はある。だが少なくとも彼女たちはそこにいる。すぐに救出しにいって治療を行えば大丈夫なはずだ。


「……なんだ、一つだけ目まぐるしく動いている」


 だがそのレーダーには異常があった。

 他の四つは動いていない。

 だが一つだけ動いている。しかも激しく。

 ゆったりと動いているなら、立ち上がって周囲を確認していると考えられるだろう。だがそうではないということは――


「誰かが戦っている⁉」


 レーダーの点を確認してみる。

 その人物はリオであった。

 偶然吹き飛ばされなかったのか、それとも吹き飛ばされてもビィ・フェルノへの闘志を漲らせて追いかけたのか、それはわからない。

 だが今考えるべきは、これほどの火災を生み出したビィ・フェルノ相手にリオが一人で戦っている状況はまずいということだ。そしてレーダーの動きを見るに激戦、通信の返事が返ってこないほどの。

 いくら大型のグラトニーを一人で討伐できる実力を持つリオでも、ビィ・フェルノを相手にするのは厳しいものだと考えざるを得ない。

 すぐさま合流しなければならないだろう。


「白神を優先するべきか……それとも他の隊員を……」


 だがしかし、爆発的な火柱に吹き飛ばされてしまった他の隊員たちも心配だ。場所はわかる。怪我の状態がどうなのかがわからない。

 すぐさま救助に向かわなければならないほどの大怪我を追ってしまっている可能性もあるのだ。

 リオと合流するか、それとも他の隊員たちと合流するか。

 どちらも命の危機にさらされているだろう。

 苦渋の選択に立たされている。


『おう! 指揮官! 聞こえるか⁉』


 悩んでいる最中、一人の隊員から返事が届く。


「その声、平泉か⁉」

『すまねえ、ちょっと頭がふらふらしてた。だがオレはピンピンしてるぜ。『嵐気流(タービュランス)』で相殺してやった』


 通信を送ってきたのはイチカだ。

 彼女はキセキ、『嵐気流(タービュランス)』によって自身に襲い掛かってきた熱風を相殺させてダメージを抑えたのである。

 吹き飛ばされはしたもののダメージは全くない。

 隊員の一人が無事でよかった。トラノスケは安堵する。

 そしてイチカは動ける。これで先ほど悩んでいたことも解決できそうだ。


『しかし、なんて火力だ。直撃してたら、いくらオレでも死んでたかもな。さすがに頭が冷えてくるぜ』

「ともかく、君が無事でよかった! 早速で悪いが平泉、指示を出す! お願いだ、他の隊員たちの救助を頼む!」

『ああ、わかった。さっさと地図データを送ってくれ。『嵐気流(タービュランス)』ですっ飛んですぐに救いに行ってやるからよ。そんで全員集まったらあのグラトニーをぶちのめしに行くぜ!』 


 空も飛べるのか。

 ならば負傷し気絶している仲間たちもすぐに救助できる。


「ああ、やってくれ! 頼む!」

『助けた後は何をするんだ?』

「再戦さ! 俺たちが生き残るには、あの紅い顔つきを討伐するか、動けないほどにダメージを負わせるしかない!」


 全員を救出してそのまま逃げるだけじゃあ先ほどと同じように捕まってしまう。

 ビィ・フェルノから逃げるためには、ビィ・フェルノ本人をぶっ倒すか自ら退いてもらうほかない。

 ここまでやられたのなら、もう戦って勝つしか生き残る方法はないのだ。

 その作戦にイチカも同意して、


『いいねえ、さっきの戦いじゃあ不完全燃焼だ。今度こそ『嵐気流(タービュランス)』の全力をぶつけてやるぜ』

「頼りにしてるぜ」

『で、指揮官がなにするんだ? ああ、そういや救助した奴らもどうする?』

「隊員たちは無事だ。ホバータンクの中でぐっすりしているよ。そして俺がやるべきことは――」

 


「――白神のところへ向かうよ」



『なんだって⁉』


 それを聞いてイチカは目を見開いて驚く。

 リオと合流するということは、あのビィ・フェルノの元へと向かうということ。二人の戦いの中に乱入していくことになる。いくらリオを助けるために無茶なことを考え込んだものだ。

 さすがにイチカもトラノスケのこれから行うことに心配になってきた。


『おい! 一人で行くのか⁉』

「ごめん! でも白神が心配なんだ。あのビィ・フェルノに一人で戦っているんだ。サポートしに行かないと!」

『白神の奴、もうやってんのかよ! 戦いたがってたとはいえ、運がいいのか悪いのか』

「皆が集まれるまで俺と白神で時間を稼ぐ。だから、仲間を助けてほしい」

『止めとけよ、そいつの相手はオレの方がいい。アイツの怒った顔見たとき久しぶりに冷汗かいたぜ。コイツはヤバイって。ウカミタマでもねえ指揮官が戦える相手かよ!』


 戦闘狂と言っていいほどの凶暴性に満ちたイチカが忠告する。それほどビィ・フェルノがヤバい奴だと先ほどの戦闘で理解しているのだ。

 そしてそのことに関してはトラノスケもわかっている。

 あの火柱を見てビィ・フェルノが普通のグラトニーとは逸脱している存在なのは誰が見ても明白。


「言ったろ、俺は戦うんじゃない、サポートしに行くんだって」


 だとしても、リオを一人のままにしてはいられない。

 ビィ・フェルノ相手に一人で戦わせていたら確実にやられてしまう。

 隊員を生き残らせるために、トラノスケはビィ・フェルノとリオが戦っている場所まで向かうのである。


『本当か?』


 覚悟を確かめるイチカの問いかけ。


「ああ、それにこの業火の中を安全に動けるのは平泉ぐらいだろ? この炎ぐらい吹き飛ばせるか」

『はっ、オレをなめるなよ。『嵐気流(タービュランス)』は全てを連れ去ってくんだぜ。あの程度の火、消し飛ばせるわ』

「なら仲間を確実に助けるには君が救助に向かった方がいいってわけだ」


 トラノスケの迷いなき言葉。

 それを聞いてイチカは何言っても無駄だと悟って、


『ちっ、わかったよ。スターヴハンガに殺されんなよ』

「わかっているさ」

『グラトニーどもをぶちのめしたいが、味方が死んでたら気分が悪い。さっさと救ってくる』

「ありがとう!」

『お前も生き残れよ! 指揮官! ついでに白神もな!』

「ああ!」


 通信を終えて、イチカは仲間の救出を、トラノスケはリオを助けに向かうことになった。


「グラトニーの反応は一つ。ホバータンクは防衛機能を作動していれば中にいる隊員たちは安全だろう」

「ま、松下指揮官……」

「――! 目を覚ましましたか!」


 ホバータンクの中から女性隊員が出てくる。先ほどトラノスケが治療していた隊員だ。


「いったい、なにがどうなって……?」

 

 周囲の景色の変わりように困惑している。

 突然、旧京都駅周辺が火の海になったのだ。あまりにもありえない光景を目撃すればそのような感情も抱いてしまうだろう。


「さっき、あの紅い顔つきが作った火柱によってうまれた衝撃波によって吹き飛ばされたんです。それでも、何とか無事でしたが。そちらも大きな怪我無く目を覚まされてよかったです」

「……や、やっぱり、あの紅い顔つきが⁉」


 再び恐怖の顔を浮かべる。

 やはり紅い顔つきに対して強いトラウマを抱いている。

 一人で放っておくのは危ないことだが、それでもトラノスケは仲間を助けるために、リオのもとに行きたかった。


「これから、自分はあの紅い顔つきと戦っている白神隊長の支援に行きます」

「あの、顔つきと戦いに……」

「そちらはホバータンクの中で待っていてください。黒い炎が飛んできたりしたら危ないので」

「…………わ、わかりました!」


 女性隊員もなんとか恐怖を消し去って、トラノスケの指示に頷いて、


「傷も治りましたし、武器もあるなら、小型のグラトニー相手ならどうにかなります! 第00小隊のホバータンクは私が死守します!」


 第00小隊の支援をするために、ホバータンクを守るために武器を取る。

 そしてホバータンクを防衛することに決めた。

 第00小隊には助けてもらった。

 だが自分には彼らを手助けするほどの力はない。

 だがそんな自分でもホバータンクを守ることぐらいはできるはずだ。小さいグラトニーなら倒せるはずだ。

 先ほどまで傷ついて動くとさえままならず、紅い顔つきにトラウマを植え付けられたのに、それでも戦う意思を持ち続ける女性隊員にトラノスケは心の中で尊敬し、


「ホバータンクをお願いします」

「わかりました! 第00小隊の足は絶対に潰させはしません!」


 自分たちのタンクの防衛を託すことにする。

 託された隊員もやる気に満ちた表情で武器を握りしめた。どんなグラトニーが来ても絶対にここを守る、指揮官の指揮と命を守るために。


「ならば、俺も早く向かわなければ」


 ホバータンクは第06小隊の隊員が守ってくれる。

 自分はリオを助けることに専念できるということだ。


「白神……無事でいてくれよ! ハイドラグン!」


 ホバータンクからハイドラグンが発射される。

 ハイドラグンの上にトラノスケは乗ってそのまま空へと浮かんだ。大地は燃えている。なら空を移動した方が安全であろう。


「うわー! 大きいドローンが!」

「こっちの方が速いな! ドローンに乗って自由に乗り回したいって夢がこんなところでしか叶ないのかよ、まったく!」


 空気抵抗で落ちない程度の速度で燃えた大地の上空を飛んでいくトラノスケ。

 すぐにでもリオを助けに行く。

 彼女をサポートし、そして命を守らなければならないからだ。

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