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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
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黒炎災禍

 第00小隊を待っている紅い顔つきは市街地の公園広場でたたずんでいた。

 紅い顔つきは獰猛な笑みを浮かべて、こちらに迫ってくる足音に耳を傾けた。

 ホバータンクの中にいた敵が自分と戦おうとしている。

 紅い顔つきの気分が高揚してくる。

 そして、その足音がハッキリと耳にした時、その人物の姿が目に見えた。


「おっ、来た来た! アタシのおもちゃがよ!」


 ――ビュン!


 獲物がやってきてようやく顔を見合わせながら戦える、そんなことを思っていると、いきなり翡翠の光が顔目掛けて飛んできた。

 それをひょいっと軽々とステップで避けて撃ってきた相手を見た。

 怒りのまなざしで紅い顔つきを睨みつけているリオだ。


「おいおい、せっかちなヤツだ。こっちが話をしたいんだから合わせろよ、地球人――ん?」


 リオと紅い髪の顔つきの目が合った。

 リオは憎悪を滲ませた表情を、紅い髪の顔つきは一瞬考え込むような顔をした後、何かを思い出したかのように目を見開いた。


「白い髪……そしてあの黒バッテン……まさか」

「やはり! お前はあの時の! 『紅い髪の顔つき』!」

「お前、あの白い奴か⁉ なぜだ! あの時爆発で消えたはず⁉ 地球人は自滅じゃあ死なねえのか⁉」

「それは私の姉だ! スターヴハンガ!」

「ん、ああ、だよな。ビックリした、あの白い奴が生きているなんてありえねーもんな。アタシの目の前で自爆してきてよ……あの時はまじムカついたぜ。アタシの体に傷をつけたからな!」

「姉さんを殺して、その言い分か!」

「お前らが弱いからだろ、クソ、白い奴二人そろって神経をイラつかせる奴らだ。これじゃあ話し合いにもなりゃしない」


 二人だけの会話が続く。

 紅い顔つきとリオは昔、出会っている。

 過去を知っている二人だけがわかる会話。言葉のぶつけ合い。互いに怒りを募らせていく。今すぐにでも銃撃戦が始まりそうな緊迫感漂う空気が張り詰めていた。


「それに、グラトニーだのスターヴハンガだのそっちが勝手に作った種族名で呼ぶなよ。まあ。お前たちにもわかりやすいようにあえて、名乗ってあげてもいいが。アタシには『ビィ・フェルノ』っていう名前があるんだ。他人には名前で呼ぶべきだぜ。白いの」

「ビィ・フェルノ……それが貴様の名前か」

「そうさ。今日だけ覚えてくれよ。どうせ明日になるころには覚えていることすらできないんだからさ」


 戦いが始まっているというのに、呑気な口調で話しかけてくるビィ・フェルノ。

 リオに睨みつけられても態度を崩さず、闘志をぶつけられても自然体だ。目の前にいるウカミタマなんてすぐさま殺せる、そんな余裕を感じられる。

 そんな会話が続く中、再びウカリウムのビームがビィ・フェルノへと飛んできた。


「ちっ! まだいたのか! あぶねーな、おい!」


 体を反らして避けながら飛んできたビームの方向を確認すると、エリナが狙撃態勢。かなりの距離からビィ・フェルノの頭部に狙いを定めて射撃。リオの援護をしていた。


「撃ちます! ヴァイセンさん! 距離を詰めて!」

「ええ! 『疾くあれ、螺旋(ブラウ・ブリッツ)』!」


 さらにマリが加勢する。

 蒼き光をまとい、閃光の如く一直線にビィ・フェルノの元へと突撃。

 その加速に身を任せて、渾身の一振りをあびせようと、ビィ・フェルノめがけて振り下ろされた。


「おうおう、いきなりか。話を聞いちゃくれない。悲しいね、だがまあ!」


 マリの奇襲に目を光らせながら、体をそらす。

 閃光の一閃を紙一重でかわして、反撃の回し蹴り。足裏がビームの刃を捉え、踏みつけて地面に踏み伏せる。


「射撃より遅いんじゃあなあ!」

「くっ⁉」

「その程度のスピードじゃあ傷一つつけられないよ!」

「ビームソードを足で弾くなんて⁉」

「グラトニーは体を変えれる! 腕を、足を、より硬く、熱に強くすればビームの刃なんて怖くないんだよ!」

「なんてこと……」


 グラトニーという生命体は物質を侵食したとき、その物質の性質を模倣できる。だがその力は完璧に再現できるというわけではない。危険度の低いグラトニーは生物の形ぐらいしか真似できない。

 だがスターヴハンガは侵食した物質をほぼ百パーセント模倣することができる。

 それにより、肉体がビームを弾くことができる体質に変化させてウカリウムのビームを防ぎきっているのだ。

 ビームの刃を地面に叩き込ませて、そのままカウンターにもう片方の燃えた足でマリの顔に焦げた足裏の後でもつけるような勢いてその足を振り切ろうとした。


「オラオラッ!」


 その時、イチカが割り込んでくる。


「グフッ⁉」

「こっちだ、ボケ!」


 マリを吹き飛ばそうとしたらイチカの拳がビィ・フェルノの横頬に食い込んでくる。

 凶暴化したイチカがマリへの攻撃を防ぎつつ、ビィ・フェルノに奇襲の一打を叩き込んだ。


「な、このアタシに負けないパワーだと⁉」

「はっ! 何がスターヴハンガだ! 名前だけが有名か? オラオラオラオラ!」


 そこから拳の乱打。腕をひねりながら放つことによって旋風も一緒に飛ばしている。放つ拳は風のドリル。かするだけでも皮膚を抉り取る。

 その凶暴な拳を何とか両腕で防いでいるが、そのパワーに目を見張る。

 目の前にいるイチカの拳を喰らって驚異的な力を秘めていることは理解した。

 ビルとビルの間を軽々と飛びこえるほどの身体能力。当然腕力も優れていて、ホバータンクぐらいなら軽々と持ち上げて投げ飛ばせるだろう。

 装甲車を改造したものとはいえホバータンクだ。二十一世紀末の科学技術によって軽量化されたが、それでも重量は十トンを超えている。

 それぐらいなら持ち上げれるとビィ・フェルノは思っている。


(だが! この風使い! アタシと同じことができるだろうな!)


 イチカも同じことができるだろうと拳の風圧を受けながらそう強く思った。

 ようは、イチカはスターヴハンガのビィ・フェルノから見ても恐ろしいほどの怪力の持ち主だということだ。


「なるほど……こいつはこれまで戦ってきた奴らとは一味違うみたいだ……だがな!」


 ようやく出会えた強敵。暇をつぶせる相手がやってきた。

 ならば自身の力を使ってもいい。

 そう判断したビィ・フェルノの体内に熱がこもり始める。奴の体がゆがんで見えていく。

 強烈な熱が空気を歪ませているのだ。


「二人とも、下がれ!」

「ええ!」

「ああ!」


 トラノスケがビィ・フェルノから危険を感じ取った。直前でビィ・フェルノと戦っていた二人もその危機を察知している。だから距離を置こうと後ろに全力でステップをした。

 そして先ほどまでいた場所から黒い火柱が立ち、イチカたちの肌にじわりと嫌な熱がかすっていく。

 火傷ですら軽い傷だと思ってしまうほどの熱量。直撃すれば溶けるか黒い灰になるか、そんな予感が脳裏によぎる。

 恐ろしいほどの灼熱だ。


「あぶね!」

「どう、火傷ない?」

「オレの風で吹き飛ばすこと出来たけどな!」

「言い争いしている場合か⁉」

「そっちばっか攻めんなよ! ちょっとぐらいお喋りに付き合ってもいいじゃねえか! だが、ここまで言うこと聞かねえなら、皮膚を燃やして大人しくしてやるか!」


 攻められっぱなしで怒りが込み上がってきているビィ・フェルノの反撃が始まろうとする。

 近づいてぶん殴りながら燃やしてやろうと、腕に炎をまとわせようとして、


「――⁉ 腕が⁉」


 その腕に痛みが走って立ち止まる。

 自身の腕を見て、数センチ程斬られていた。腕を突き出そうとしたところを確認すると、紅い線のようなものが見える。

 糸だ。

 細くて紅い糸がある。

 一本の線だけではない。

 無数の糸がビィ・フェルノの前に張ってある。


「なんと⁉ 糸に軽く触れた瞬間に離れました! なんて反射神経!」

「富岡! すぐに糸をアイツの周囲にばらまいてくれ!」

「指揮官さまの命令なら!」


 紅い糸を出したのは当然、ツムグの『断ち切れぬ糸(ザ・ボンド)』。

 静かに伸ばした糸で腕を斬ろうとしたが、腕に違和感を感じた瞬間に引っ込められてしまった。

 わずか糸に触れただけで退くその反射神経にツムグは驚くも、それだけでは攻撃は終わらせない。


「避けられないなら確実に喰らわせる!」


 糸を操りビィ・フェルノの体へと巻き付けるように動かす。

 紅い糸がビィ・フェルノに巻き付き、そのまま力強く引っ張って糸を食い込ませる。すると糸は容易くビィ・フェルノの肉体を斬り裂いていき、全身をバラバラにして、肉塊となって大地に沈んでいった。


「これで、バラバラに!」


 確実に決まった。

 ここまで切り裂けば倒しきったはず。


「――へえ、その糸。アタシの肉体を簡単に斬れるのか」


 だがその直後、その肉塊に黒い炎が噴き出す。

 その炎たちが一つに集まって、人の形となり、そして無傷のビィ・フェルノが姿を現した。

 バラバラになったのに全くダメージを受けた様子はない。普通なら確実に死んでいるであろう状態からなんてことないように復活していった。

 炎を操るビィ・フェルノは体そのものを炎に変えることだってできる。自身の肉体の一部を武器に変形することができるのなら、炎そのものに変化することだって可能なのだ。

 まさかのノーダメージにツムグは驚いて目をかっ開く。


「イッ⁉ くっつけました⁉」

「イテーな! だが痛いなんだよ!」


 どうやら全くダメージがないわけではないが、痛いだけで肉体に損傷はない。

 そしてそのまま反撃と言わんばかりに炎を放とうとして、


『白神!』

「わかっている! 私を忘れるか! 紅い顔つき!」

「ぐぁ⁉」


 だがその反撃は無駄に終わる。

 トラノスケの合図にリオのビーム弾連射がビィ・フェルノに牙を剥く。その弾はリオの『光刺す道』によってビィ・フェルノの右肩に集中して当たり、大きく体をのけぞらせる。

 傷はできていないが、反応を見るに大きなダメージは受けたようだ。

 いくら肉体がビーム兵器に対応できる体へと変化させようが、ウカリウムはグラトニーの天敵だ。一か所に集中して高火力で狙えばダメージが与えれる。

 どれだけ凶暴で人類を破滅寸前まで導いたグラトニーであろうと、ウカリウムはその肉体に傷を刻み付けることができるのだ。


「まだ終わらない!」


 さらに追撃とばかりにビーム弾を次々と放つ。


「クソッタレ!」


 これはたまらんとビィ・フェルノ、大きく後ろに下がりながらビーム弾を避けていく。

 反撃しようとした直後に、それを遮るようにリオの射撃。

 グラトニー相手に攻撃のチャンスを作らせないように立ち回る。


(一方的に攻めれている……このムーブを続けていれば……)


 いくら恐ろしいスターヴハンガ相手でも、徹底的に攻め続ければさすがに抵抗も難しい。

 ホバータンクの周囲を警戒しながら、索敵ドローンのカメラでビィ・フェルノの行動を見るトラノスケ。こちらも救出した隊員を守っている。

 守りながら第00小隊の隊員たちのサポートに徹する。

 このまま攻撃の指示を続けていけば、ビィ・フェルノは何もできずに討伐できるはず。

 そう考えていたが、ビィ・フェルノが突然全身から炎を放出する。


「…………いってえな! おい!」

「グッ⁉」


 怒声と共に炎の波が放たれる。その熱波にたまらず距離を取る第00小隊。


「いい加減にしやがれよ! ウカ何とかがなければ何もできねえ地球人の分際で! アタシに傷をつけたか! このダボが!」


 一方的な攻撃を受け続けて、ビィ・フェルノが怒りの形相。

 そして彼女の周囲がゆがんでいく。


「マズイ⁉」


 ドローンで見ていたトラノスケが警戒を強めた。

 あの空気のゆがみは熱だ。

 ビィ・フェルノが体内で熱を高め続けている。そしてあふれ出たその灼熱は空気を歪ますほどの熱を持っている。それだけでビィ・フェルノが怒りと共に熱を体内で溜め続けているのかがわかる。

 特大の攻撃が来る!


「この!」


 それを阻止しようとリオが射撃するも、ビームがビィ・フェルノに当たる瞬間に黒い炎が現れて阻まれる。鉄を溶かすビームをも超えた熱を持った炎で、逆にウカリウムのビームを飲み込んだのだ。


「ウカリウムのビームが⁉」

「テメーらばっか攻撃しやがって!  もういい全部燃やしてやる!」

「皆! すぐに防御態勢! 何かまずい! ヴァイセンさん! シールドを全開してください!」

「もうしているわ!」


 すぐにビィ・フェルノの攻撃を備えろと味方に伝えるトラノスケ。マリ達はすぐに守りの体勢を取り、射撃をしていたリオも攻撃を止めて相手の様子をうかがう。

 すると大地に変化が訪れていた。


「地面だ! 地面が真っ赤になっているぞ!」


 大地が赤くなっている。それだけはない。じっとしていれば足が焦げるほどの熱も感じる。

 大地から何かを仕掛けに来る!



「燃え散れ! 『インフェルノブラスター』‼」



 ――その時、ビィ・フェルノの腕から放たれた高熱エネルギーが大地を伝う!


 そのエネルギーが地下で充満していき、溜まり切った灼熱の炎が地上に大きな火柱を作り出した!


「なっ⁉」

「これは⁉」

『巻き込まれたら燃え尽きるぞ!』

「キャッ⁉」


 高熱エネルギーが大地からあふれ出す時、火柱と共に大地を砕くほどの衝撃が地上に走る。その衝撃と熱が同時に第00小隊の彼女たちに襲いかかった。


『皆⁉ なっ――』


 心配になったトラノスケも、自身がいる場所の近くにも火柱が生まれた。

 周囲が真っ黒に染まっていった。

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