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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
37/63

大熱波から逃げのびろ!

 ビル並ぶ荒んだ市街地を走っていくホバータンク。そしてその上空から火の雨が再び降り注いでいた。


「あの程度の火の雨なら!」


 目を翡翠に光らせ、『光射す道(ライトニングカレイド)』を発動させる。

 撃ったビームバルカンは変則軌道を描いて、降り注いでくる火の玉を的確にぶち当てて消していく。

 ドローンで位置は確認できた。

 ならばあとは光を操作して、ビームバルカンをぶつければいいだけの話。

 リオにとっては簡単な事である。


「さっすが! 頼りになるぜ!」

「これぐらい、当たり前のことよ。指揮官、敵の位置を」

「すぐに映す」


 こちらもやられっぱなしではいられない。

 確実に逃げ切るためにはこちらの攻撃を当てて隙を作らなければならない。


「打ち落とした? というかビームが曲がったよな」


 ビルを走り渡りながら曲射でトラノスケたちのホバータンクを狙っている紅い顔つきが興味深そうにビームバルカンを見つめた。

 地球人の文明に感心しながら、久しぶりに狩りを楽しめることに心が高揚していた。


「あの砲撃にその機能があるのか。なるほどな」


 実際はホバータンクの武装にはそんな機能は無く、リオがキセキの力でビームを操っているのだが、そのことはまだ知らない。

 だが紅い顔つきにとっては、何が光を。操っているのかはどうだっていい。

 大事なのは自分が狙っている敵は光を操れる事が出来るということだ。


「――おや?」


 そう思っているとそのバルカン砲がこちらに向かって発射してきたのが見えてきた。

 それを軽々と走り飛びながら避けていく紅い顔つき。

 まさか反撃してくるとは。

 ちょっと想定外のことにびっくりしながらも走りながら周りを見渡す。


「おっと、アタシの位置がばれたか。あのおもちゃで見つけられたか」


 上空を見て、空に浮かんでいる索敵ドローンを見つける。そしてそのドローンにめがけて射撃するがひょいっと軽々と避けられてしまう。

 索敵ドローンは紅い顔つきの攻撃を避けられるように距離をきちんと測っている。

 そう簡単には落とせないと思った紅い顔つきは、


「ちっ、さすがに避けるか」


 ならば、


「ちまちま撃ってもダメなら、デケーのをお見舞いしてやるよ!」


 紅い顔つきは走ることを止めてビルから飛び降りて地面に着地。索敵ドローンから姿を隠して変形させた腕砲を斜めに向けつつ、衝撃に備えるようにしゃがみ込む。

 そしてホバータンクの進む方向を見定めて、右腕に熱を溜める。

 腕が黒く、そして紅く光っていき、空気が灼熱によって歪んでいく。


「さあ! 灰になっちまいな!」


 熱を集め終えた腕砲にもう片方の拳を叩き込む。すると腕砲から強烈な爆発音とともに巨大な火の玉が発射されて、隕石のようにホバータンクのもとに落下してきた。

 膨大な熱が秘められた炎の塊。

 喰らったら骨さえも溶かし切ってしまう。

 スターヴハンガの渾身の一撃。


「くる! でかいのが!」

「数でなく質で潰してきたか!」


 索敵ドローンで紅い顔つきを探していたら、突然の爆発音に気づいて上空に高く上げて確認。

 そして炎の塊が目に入る。

 見た瞬間に恐怖がトラノスケとリオに襲い掛かってきた。

 あれはまずい。

 直撃すればただではすまない。見ているだけなのに汗が顔をつたってくる。


「壊せば!」


 リオがすぐさまビームバルカンを炎の塊に集中砲火するも、炎はわずかにしか削れない。炎を消し飛ばす前に、逆に炎に飲み込まれて燃やし消されてしまう。

 炎の塊の熱量が強すぎるのだ。


「だ、ダメ! 壊し切れない!」

「グラトニーの砲弾に直撃したら、ホバータンクは一瞬で侵食されますよ⁉」

「ならば‼ しっかりつかまってろ!」

「指揮官⁉ まさか、やるつもりか!」


 このまま直撃するなら、トラノスケはハンドルを思いっきり横に切って急カーブ、そしてビルに向かって直進。

 一見すればとち狂った行動、しかしリオはトラノスケが何をしたいのか理解した。

 同時にこの場面でそれを選ぶか、とぶっ飛んだ精神力に驚愕していた。


「反重力があるホバータンクなら――」


 そしてハンドルを全力で引っ張る。するとホバータンクの前側が浮かび始めて、ビルに当たる瞬間にバイクのウィリーみたいに真上に立った。ホバータンクの下部の反重力装置がビルの側面を地面と認め、そのままビルを駆けあがっていく。

 さながら鯉の滝登りならぬ戦車のビル登りだ。


「ビルを登れるぜ!」


 ビルの半分を超えると、紅い顔つきが放った巨大炎弾が地面に着弾。そして爆発して周囲に灼熱の爆風が大地と灰になりかけていた建物たちを焦がしていく。

 トラノスケたちは真下から襲い掛かってくる爆風に追いつかれないようにスピードをマックスまで上げて逃げのびる。

 なんとか燃やされずに済んだ。


「おおっ⁉ ナイス判断! さすが指揮官さま!」

「は、はじめてにしては上出来だろ?」

「なんて度胸なの……ヤバッ、マジで気持ち悪い……」

「耐えてください、ヴァイセンさん! ほら、ママに抱き着いて! 気が楽になりますから!」

「ま、真面目にやってそれですか⁉」


 なんか後ろがごちゃごちゃ騒がしいが気にしている場合ではない。

 ちなみに車内は重力装置のおかげで変化は無し。反重力装置を搭載している乗り物には当然、備えられている機能である。これも地球奪還軍の科学技術の賜物だ。


「へえ、驚いた。でもよ」


 そうやって避けるのか、称賛と驚きを同時に感じながらも、斜め上に掲げていた腕を下ろして今度は真横に。

 そして再び熱のエネルギーをチャージ。

 狙いはすでに定まっている。


「曲芸じゃあアタシの大砲は止められないのさ!」


 ホバータンクが駆け上っているビルの真下の部分に先ほどはなった巨大炎弾を発射。

 そしてビルに激突させて爆発、ビルの下部を爆破させる。

 するとどうなるか。


「ゆ、ゆれる! ビルが壊れるぞ!」

「チッ! 規格外な事ばかりしてきやがって⁉ うおっ⁉」


 ビルか倒壊して残骸共に大地へと墜落していく。

 空を移動しようにも、ビルの破片が邪魔をしてうまく動かせない。そのまま流れるように地面に激突した。


「ヒュー、ビンゴだ」


 地面に落ちたホバータンクを見てほくそ笑む紅い顔つき。

 さらにホバータンクの上から瓦礫が降り注いで埋められてしまう。

 ホバータンクは生き埋めとなってしまった。


「あっけないもんだ。もうちょっと耐えてほしかったが」


 ビルの瓦礫の山を見て、笑っていた顔はすぐにつまらなそうな無表情へと変わる。

 紅い顔つきからしてらもう少し遊びたかった。もっと派手に逃げ回ってほしかった。

 押しつぶされたホバータンクを侵食しようと近づこうとする。


「――あん?」


 すると紅い顔つきの体に激しい追い風が、吹き飛ばされるほどではないが、髪の毛が風になびく。

 すると瓦礫の山が爆発したかのように吹き飛んでいく。


「なんだ?」


 こちらに飛んできた瓦礫を片手で叩き落としながら、ホバータンクが潰されているであろう場所に視線を映す。

 するとひっくり返ったホバータンクが見つかった。先ほどまで瓦礫の山に埋もれていたのに、その瓦礫も綺麗になくなっている。 


「危ねえな。オレが風のクッション作ってなければぶっ壊れていたぜ」

「た、助かった、ありがとう。でも乱暴すぎじゃないか? ヴァイセンさんが横になって身動き取れてないが……」

「仕方ねーだろ。細かい操作は苦手なんだ」

「瓦礫に潰されても傷しかついていませんよ! すごいですね~」

「元は戦争に使われる代物だ。侵食さえなければ、グラトニー相手でも蹂躙できていた装甲車だからな」


 瓦礫の山の下で埋もれていた第00小隊であったが、イチカが『嵐気流(タービュランス)』でホバータンクが地面に激突する瞬間に風のクッションを作り出し衝撃を抑え、さらに空から落ちてくる瓦礫も風で落下スピードを落としていた。ホバータンク自体は頑丈であり、実弾なら戦車の主砲だって耐えられる代物。ゆえにゆっくりと落ちてくるおおきな瓦礫程度なら損傷しない。

 マリは顔を真っ青にしてピクリとも動かないが、負傷した第06小隊の隊員たちは無事なので、全員無事だ。

 何とか生き延びたのである。

 しかし動きを封じられた。ホバータンクがひっくり返ったため、すぐに逃げることができない。

 瓦礫の山が嵐で吹き飛ばされたのを見え、紅い顔つきは顔を歪める。


「なんだ、まだ生きてんじゃん」


 悔しそうに、ではなく楽しそうに、だ。

 まだ遊べる、そう思ったからだ。


「本命はその乗り物に乗っている連中だ。ほら! さっさと出て来いよ! アタシと遊ぼうぜ! 射的のサンドバックになってくれよ!」


 紅い顔つきはホバータンクに乗っているトラノスケたちに好戦的にそう呼びかけた。

 いつでもかかってこい、すぐに撃ち貫いてやる。そんな尊大な自信が垣間見られる。


「あ、あぶねえ……でももう動かせないぞ! いや動かせるけど立て直すには時間がかかるぜ!」

「でも、射撃は収まったみたいですね」

「いい気になってるぜ、アイツ! 油断していても勝てるっている自信があるんだろうな!」


 攻撃をしてこないスターヴハンガの意図をイチカが読んでイライラし始める。

 予想は当たっている。本気で潰すならこんなチャンスを見逃す奴はいない。

 だが攻めてこないのはいつでも勝てるという自信、己が地球人より圧倒的に優れているという自負、それがあるからだ。

 そうやっていい気になっているのがイチカは気に入らないのである。

 しかし、紅い顔つきが攻めてこないなら好都合、トラノスケはすぐに味方の無事を確認しつつ戦闘の準備を行うことに決めた。


「各隊員! 無事なら返事をくれ!」

「ええ、何とか無事よ……気分は最悪だけど」

「私、ツムグは無事です!」

「はい、大丈夫です!」

「無事に決まってんだろ!」


 マリ、ツムグ、エリナ、イチカ、無事と返答する。


「白神! 大丈夫か!」

「ええ、問題はない」

「そうか――あれ?」


 声はした。

 だがホバータンクの中にリオの姿はいない。


「どこにいる⁉」

「あのスターヴハンガのところに向かっている」

「なに⁉」


 ヘルメットの内部にリオからの通信が。

 もうすでにホバータンクの外に出ていた。


「これは運命だ……アイツを殺せと、そう言っているんだ」


 執念が込められた言葉を呟く。


「私が戦わなければ……みんな死ぬ。私がグラトニーを殺さなければならない! 姉さんの名誉のためにも!」

「――白神‼」


 その言葉は復讐の使命か、それとも敵を殺させてくれとの懇願か。

 仇を討ちたい、仲間を守りたい、その二つの思いが入れ混じった声。

 トラノスケはまずいと直感で感じた。


 ――白神リオは自分の命を顧みずにスターヴハンガを倒すつもりだ。


 自分が死んでもスターヴハンガの命を取れればそれでいいと本気で思っていると、彼女の行動と言葉で理解した。

 それがまずい!


「また一人で勝手に行きやがって! 各隊員! 武装は!」


 そのまま我儘に身を任せて死なせてたまるか。

 トラノスケは憤りながらも、イチカたち他の隊員に戦闘準備はできたかと問いただす。


「全員、準備できているわ!」


 準備完了。いつでも行ける。


「よし! 白神に続いてくれ! スターヴハンガを迎え撃つぞ!」

「本当は戦わない方がいいのに! だけどこうなった以上、覚悟は決めたわ! アイツとの勝負、楽しもうじゃない!」

「いいじゃねえか。スターヴハンガだろうと、オレがいる。全て吹き飛ばしてやるよ」

「確かにスターヴハンガは手ごわいかもしれない。でも第00小隊全員が力を合わせれば、心の不安を消え去れば! 乗り越えれる!」

「指揮官さま! その通りでございます! 指揮官さまが指示を出せば勝てます!」

「俺はホバータンク付近からドローンでサポートする!」

「その方がいいわ。今回ばかりはあなたを守れそうにない! 指揮官君はホバータンクの中にいて!」

「それに助けた隊員たちから離れるのは危ないですからね」


 トラノスケもついていきたいが、スターヴハンガの戦闘力が恐ろしいものだということは、先ほどのタンクチェイスで理解した。

 それに後ろにはスターヴハンガとの戦闘で身も心もすり減った第06小隊の隊員たちがいる。あれほど荒々しい運転をして、しかもタンクが横転しているのに目を閉じている。精神力が限界に近かったのだろう。

 だから彼女たちの安全も守る人が必要だ。

 トラノスケならドローンで第00小隊のメンバーをサポートしつつ、ホバータンクで寝ている隊員たちをハイドラグンで守ることができる。

 小型のグラトニーならドローン捌きでどうにか対応できるのだ。

 隊員たちの命は大事だ、トラノスケはもしもの時に備えてこの場に残ることにする。


「指揮官さまに危機が迫った時はすぐに駆けつけます!」

「ホバータンクの中の人たちも守るために、頑張ってきますね!」

「白神のヤロー、喧嘩しに行きやがって。オレも混ぜやがれってんだ」


 全メンバー、すでに覚悟を決めた。

 もう怯えて逃げることなんてできない。

 生き残るためなら、もうスターヴハンガはビビってないで闘志をむき出しにして戦いに赴くしかない。

 負けると決まっているわけではないのだ。

 先ほどまでの絶望に染まっていた顔から一変、生き残ってやるという決意の表情。


「第00小隊! 目標はスターヴハンガの討伐! 

「「「「了解!」」」」


 トラノスケの指示に従い、紅い顔つきへと向けて突撃していく。

 彼女たちの顔にそよ風が撫でていく。

 その風は全く涼しくなく、熱と死の香りを運んできたのであった。

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