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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
34/102

緊急任務

(しかし、白神と仲良くしてやってくれ、か)


 リオのとの自主練を終えてトラノスケは一人考えていた。

 アキラから頼まれたことを。


(日常会話だけじゃあ駄目かもな。任務なら会話して……いや、グラトニーに夢中になるな。話す暇ないかも)


 グラトニーを心の底から恨んでいるリオ。任務では指揮を無視することもある。

 任務中ではもっと話を聞かない。指揮官の目線から見るとそう思わざるを得ない。


「兄さん! 聞こえてる?」

「おっと、すまない。ちょっと考え事しててな」


 妹の美羽に言われて反応を返すトラノスケ。

 トラノスケは訓練の後に、いつも通り美羽がいる病院に足を運んでいた。指揮官になった後でも妹に会いに行くことは止めない。任務の後はさすがに無理だが、訓練や休養日の時は来るようにしているのだ。


「……迷惑かけてる部下のことを?」


 美羽が心配そうにそう聞いてくる。


「おいおい、彼女たちはそんなことしないさ」

「本当に?」

「ああ、もう解決できた」


 当然嘘。

 だがこれ以上心配かけるようなことはしたくないためそう言った。


「そう…………兄さん、あのね」

「おっと、地球奪還軍に入るってのは無しだぜ」


 美羽が何か言う前に否定するトラノスケ。

 驚く美羽。


「なんでわかるの?」

「いつもと違って真剣な目をしてたからかな。後は、俺は君の兄だぜ、考えていることはなんとなくわかる」

「いいじゃん、別に。ウカミタマになっても」

「美羽、前に医者が言っていただろ。身体灰結晶病が進み過ぎた状態でウカミタマになるのは危険だって。前例だってあるんだぜ」

「……それは知っている」

「身体灰結晶病にかかった女性がウカミタマになるために手術を受けたら、激しい痙攣をおこして灰結晶になった部分から大量に出血したって。おそらくウカミタマの体とグラトニーの細菌によってできた灰結晶が互いに拒否反応を起こして、あのような惨事になってしまった、って研究部が謝罪会見開いていただろ」

「知っているわよ! そんなに詳しく言わなくてもいいじゃない!」


 怖がりながら怒る美羽。


「ごめんって。心配なんだよ、だってウカミタマになるってことは武器持ってグラトニーと戦うんだぜ」

「でも、兄さんは私において、勝手に危険な場所に行って戦っているじゃない!」

「それも悪かったって」


 妹が心配になって怒ってくるが、優しく受け止めるトラノスケ。


(美羽を残していくわけにはいかねーよな)


 死ぬつもりなんてない。

 病に侵された家族が少しでも楽になれるように、完治できる可能性を掴むために。そのために戦っている。

 そして家族に悲しみなんて押し付けるつもりはないのだ。




「ねえねえ、皆。新しい指揮官が来てだいぶたったけど、どう?」


 翌日、トラノスケがいない第00小隊の宿舎、マリが突然そのようなことを言ってきた。


「どうって?」

「いい男かそうでないか、それが聞きたいのよ」

「いい指揮官かどうかではないのですか?」

「まあ、それも込み。でも、女としても評価したいじゃない? ねえ、どうなのよ、ねえ?」

「…………」


 またヴァイセンがなにか変なこと言ってきたな、リオは興味がなさそうに席を外す。彼女は任務の方に思考を向けている。

 そんなリオは知らず、他の隊員たちはマリの言葉に乗っていく。


「はい! 指揮官さまは素晴らしいお方です!」

「はいはい、富岡ならそういうと思ってたわ」

「おお、心が読めるのですか?」

「ええ、あなたの心は読みやすいわ」

「おお!」

「私は……入ったばかりなのに、あんなに頑張って凄いなって思います。でも……いや、悪い人じゃあないんですよ」

「男が苦手だからねえ」

「ちょっとずつ歩み寄っていけばいいですよ。ほ、ほら、指揮官さんも事情はわかっていますし」

「そういうヴァイセンはどうなの」

「そうね。彼の前なら全てをさらけ出していいかも……」

「ど、どういう評価ですか!」

「言葉通りの意味よ」


 レディーストークが盛り上がっていく。

 そんな様子を端から見ているリオはつまらなそうな表情を浮かべていた。


「…………私より強いでしょ……指揮官さん……自信なくします……ウカミタマなのに……」

「なんでそう卑屈になるかな」

「そんな後ろ向きにならないでください。ほら、いい子いい子してあげますからね」

「ひ、必要ありません……」


 自信が次第になくなっていくイチカを励ますエリナ。


(くだらない……しかし、指揮官としての松下トラノスケか)


 遠巻きに見ていたリオはふと、トラノスケの能力を分析して、


(ドローンの支援は優秀だ。後方で指揮をとっていれば頼りにはなる。前には出てこないでほしいが。しかし、真面目に見て結構趣味に奔放というか……予想と違って軽い奴というか……学生ってそういうものなのかしら?)


 学生時代、ずっと家に引きこもりパなしだったらか、普通の学生はあんなふうなのか、とそんなことを考えて、


(……なぜこんなことを考えている? 余計なことは考えるな。グラトニーを殺すことだけを考えろ)


 トラノスケのことを頭の中で思った印象を思い浮かべる自身を戒めるように叱る。

 するとマリがやってきて、


「で、白神はどうなの?」

「……なんのだ?」

「しらばっくれちゃって。指揮官君のこと、どう思っているのよ」

「なにもない」

「もう、素直じゃないわね」

「…………」

「ふふ、そんなに睨まなくてもいいじゃない」

『皆さん、集まってますか?』

「指揮官!」


 そんな会話をしていると、その話題になった人物が通信を送ってくる。

 第00小隊の指揮官、トラノスケだ。



『総司令官から緊急任務だ。今すぐ出撃の準備をして地上へ向かう』



 そして彼から、重大な任務のことを言い渡されたのであった。





「第06小隊が帰ってこない?」

「ああ」


 賀茂上総司令官の緊急任務。

 それは第06小隊の帰還が予定より遅れているため、彼らを探しに無事かどうか確かめにいく。

 無事であれば救助、それでなければ周辺を調べて何が原因で小隊が壊滅したか、それを確かめる。

 それが今回の緊急任務の内容だ。


「しかも聞くところによる他の小隊も被害にあっているらしい」

「な、なんで私たちの小隊にそんな危険な任務を……」

「地上に出る以上、どの任務でも危険ですよ!」

「そんなに被害が出ているということは厄介なグラトニーがいるのか。ならば討伐しなければならないわ」

「だが、その前にその小隊の救助が先だ」


 第06小隊が帰ってこないということはアクシデントに見舞われたのであろう。

 凶暴なグラトニー相手に出会った可能性が考えられる。

 生きていることを願いながら、トラノスケはホバータンクを走らせる。

 そして目的地に到着した。


「場所はここ? えーと……」

「旧京都駅付近だな。グラトニーの連中、こんな灰にまみれた駅にしやがって」

「グラトニーもいるかもしれませんからね!」


 かつては人が多くにぎわっていた京都の交通の要。

 だが灰に覆われ、青黒い結晶がいたるところに生えているこの景色を見て、栄えていた場所だとは誰も思わない。

 人が住んでいた建物もグラトニーたちが侵食し、奴らが住みやすい巣へと作り変えられ、巨大なビルの形をした灰の建物が立ち並んでいる。

 いついかなる時においても、グラトニーたちが見張っているだろう、隊員たちはこの場所に来てそう思ってしまう。死が身近にあるグラトニーがいる街。

 化け物によって変えられた街、それが今の旧京都駅だ。


「ここまで大きなビルあったか?」

「グラトニーが作ったと考えられていますね」

「奴らも寝床は欲しいってことか……建物も好き勝手いじりやがって」

「指揮官。グラトニーの反応は?」

「ないな。なおさら不気味だ」


 だが、レーダーにはグラトニーの反応がない。

 それが逆に不気味であった。

 あんなにグラトニーによって変えられた建物が多く建て並んでいるのに、


「昔はさ、ここも人が多くて、にぎやかで、駅の周りを食べ歩きしまくったな。菓子片手にさ」

「あら、指揮官君、甘いもの好き?」

「ああ、大好きさ! 最近は食べれてないが……」

「おお! 指揮官さま、お菓子は欲しいですか! 今度献上します!」

「いや、いいよ。さすがに年下の子におごってもらうのはちょっとな……」


 トラノスケはふいに昔を思い出す。

 かつて学友と共にこの京都駅とその周辺を歩き回って、色々と遊びまくったものだ。

 そんな思い出に振り返っていると、突然ブザー音が鳴り響く。


「これは⁉」

「どこかの小隊が救助を求めているわ」

「もしかしたら、第06小隊か?」

「皆、すぐに行こう! 武装の準備を!」

「わかったわ」

「了解です!」

「はい!」

「は、はい……」


 市街内を猛スピードで駆け抜けていく。仲間の隊員が助けてくれと願っている。

 すぐに見つけて救護しなければならない。

 だが市街内を走行していると異様な光景が目に入る。


「なに……地面も建物も黒く……」

「これは焦げているというべきでしょうか! 黒く燃えています!」

「も、燃え切った後、というわけですか?」


 灰色に染まっていた地上に黒く焦げた大地が現れた。

 地面は焼け焦げて黒くなっており、建物も火に覆われている。

 そし燃えている炎は普通の炎ではない。黒い炎が激しく揺れて地面と建物に燃え広がっているのだ。

 普通の炎ではない。

 グラトニーが生み出した炎であることは間違いない。 


「指揮官、レーダーの反応は?」

「ない……逆に不気味だ」


 リオが再び聞いてくる。

 こんな異常な光景を目の当たりにしたら、周囲にグラトニーが隠れているかもしれないと考えてしまうもの。リオはグラトニーの襲撃を警戒している。


「そろそろ第06小隊の救難信号の場所につく! レーダーに反応あり! ドローンを飛ばす!」


 ホバータンクを停止させ、索敵ドローンを発射。

 これで救難信号を出しているであろう第06小隊の隊員たちを見つけ出そうとする。

 早く見つけるためにドローンのスピードを上げて周囲をくまなく探索。


「――なんだこれは?」


 するとトラノスケが目を細めた。

 レーダーに反応があった場所までたどり着いたドローンのカメラが何かを捉えた。ヘルメット内液晶に異様なものが映る。

 よく確認する。


「……マジかよ」


 吐き捨てるようにトラノスケは言った。嫌なものを目にしてしまった、そんな険しい表情を浮かべていた。


「何を見た、指揮官!」


 そう聞かれて、心を落ち着かせるために少し間をおいて、


「……死体だ」

「……遅かったってわけね」


 トラノスケが目にしたものは誰かの死体であった。

 普通の人なら侵食されて死骸も残らない。だがウカミタマはグラトニーに侵食されない。

 死体を発見するということは、ウカミタマが殺されたということだ。

 指揮官の言葉に第00小隊全員が空気を重くする。

 しかし、トラノスケの言葉はこれで終わらなかった。


「ただの死体じゃない。人の形をした黒焦げの塊がある」


 トラノスケが見たものは普通の屍ではなかった。

 全身が灼熱を浴びたかのように、人の形をした黒い灰があった。

 予想はできる。嫌な予想だ。

 おそらく、グラトニーに燃やされて命を失ってしまった隊員の姿である。トラノスケはそれ以外は考えなれない、と確信していた。


「――なんてこと……」


 隊員全員がざわつく。


「うぷ……焼死体って……み、見たくありません……嫌だよ……」

「平泉さん、気を確かに。ゆっくりと深呼吸しましょうね」


 イチカが口に手を押さえて吐き気を何とか抑える。その様子を見てツムグが安心させるようにイチカの背中をさする。


「……指揮官、案外冷静ね」


 逆にトラノスケはいつも通りの様子、慌てたり気分が悪そうにはなっていない。

 少し前まで物流会社で働いている一般人とは思えない。


「焼死体だから吐き気よりも恐怖の方が勝っている。こんなことをするグラトニーがいるなんてな……」


 指揮官であるため、味方に不安を出さないように気を張っている。それでも足が震えていることにトラノスケは気づいていた。


「おそらく兵器か機械を模倣したグラトニーの仕業かもしれない」


 死体の原因をリオが憶測ながらも言った。


「兵器、機械?」

「ええ、奴らはどんなものでも侵食し、その侵食した物体を模倣できる。コンロかガスバーナーか、ともかく火を生み出すことができる物を模倣すれば、火を使うグラトニーも生まれる。そういった種類のグラトニーとは戦ったことがあるから」

「アナログなものをコピーしやがって……」


 グラトニーの侵食がいかに恐ろしいものか、再度確認する。

 侵食した物質の特性を模倣できる。

 そして炎に関する兵器や日常道具を模倣したグラトニーがこの悲惨な光景を作り出したというわけだ。

 第06小隊は生き残っているのだろうか。

 不安が強くなっているが、それでも生きているという希望を捨てずに捜索を続ける。


「――いた! 生存者を発見! すぐに向かおう!」


 だが抱いた希望は無駄ではなかった。

 ドローンが横転して壊れたホバータンクを背に座り込んでいる隊員を見つけた。さらにレーダーに複数の点滅。

 数人、まだ生き残っているかもしれない。


「指揮官! レーダーに異常は?」

「ない! 周囲一キロにはグラトニーの反応は見当たらない! カメラでも確認した!」

「……周囲一キロか。本来のレーダーの性能ならもっと広範囲に索敵できるはずだが」

「おそらく、空気中のグラトニー粒子が濃いいのでしょう。よっぽど凶悪なグラトニーに出会ったと考えられるわ」


 さっきからレーダーの調子が悪いが、それもグラトニーの原因だ。グラトニーが持つグラトニー粒子がこの周辺の空気に濃く漂っている。それが原因だ。


「…………私たち、死んでしまうのでしょうか」

「平泉さん、後ろ向きなことをいうのはメ、ですよ」

「だが、警戒を強めた方がいいのは確かだ」

「ですね!」

「皆さん、そろそろつきます! レーダーの反応は複数ありますので手分けして救助に向かいましょう! 


 仲間を助けるために、ホバータンクの速度を上げた。







「おっと、砂煙ならぬ灰煙。新しい獲物が来たか」


 それをはるか遠くから眺めている、紅い髪をなびかせた青黒い肌の人影が楽しそうに見つめていた。

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