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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
31/102

追いつきたくて ①

 侵食樹破壊の任務を終えて翌日、第00小隊のメンバーは訓練を行っていた。

 基本、任務がない日は戦いの腕を磨くための訓練を行うのが地球奪還軍の日課だ。

 今回、第00小隊が仮想世界にいた。

 VRシミュレーションシステムで実戦に近い訓練を行うことができる。


「左斜めから敵の集中砲火、来ます! ヴァイセンさん、守りを!」

「まかせて!」

「平泉さん、姫路さん、反撃を!」

「は、はい!」

「わかりました!」


 トラノスケの指示が飛び、マリたちがそれに従って銃を放つ。グラトニーのホログラムを次々と光の弾丸が打ち抜いていく。


「白神さん、上空から奇襲を仕掛けてください! 富岡さん、彼女の援護を!」

「ええ」

「わかりました!」


 トドメにリオがジェットブーツで空を飛び、高い場所からツインビームサブマシンガンで光の雨を降らす。

 光線に当たったグラトニーのホログラムたちが消えていき、敵は全滅。

 こちらの損害はゼロで終わった。


(やっぱり強いぜ、第00小隊の皆は)


 訓練の動きを見ればそれがわかる。

 迅速に敵を倒していき討伐数を伸ばしていく。

 小型のグラトニーだけでなく中型や大型のグラトニーを相手にしても着々と数を減らしていく。

 その戦闘力はやはり凄まじいものであり、一人一人が小隊の隊長を務めることができるという評価も伊達ではない。


(あとは暴走さえしなければ……)


 たまに指揮を無視して行動さえしなければ文句なしの最高の小隊になるだろう。

 でもそれはそう簡単に治るものではない。


(彼女たちの暴走癖を治すように指揮官として頑張らないといけないが……やっぱチームとしての団結力を高めていく……とかかな。あとは隊長がしっかりするとか)


 彼女たちの動きを見ながら、どうやって指揮を従わせるか感がるが、やはり信頼を得るのが第一だろう。

 そして最後の敵を倒し、シミュレーション訓練は終了した。


「皆。訓練を終えます。見事な活躍でした、お疲れ様です」

「お疲れ。いい運動になったわ」

「私はまだ足りない」


 他の隊員たちを見てもまだ動ける余力を見せている。激しいトレーニングを行った後でも息を乱す程度。体力的にはまだ行えそうだ。実力があるものはスタミナも桁違いなのである。


「指揮官さまの指示あってこそです!」

「や、やっと終わった……もうベッドで横になりたい……」

「なら、私が部屋までだっこして運んであげますね〜」

「い、いや、それは結構です……」

(たまにすげーこと言ってくるよな、姫路さんって)


 一人、イチカだけは座り込んでいる。体全身の力が抜けていてもはや抜け殻のようになっていた。


「ゆっくり休んでくださいね」

「な、なんで指揮官さんは息一つ乱れていないんですか……VR訓練以外のトレーニングでは私達と同じような内容だったのに……」


 まだピンピンしているトラノスケにイチカは驚愕していた。

 ウカミタマのリオ達よりは負荷が少ないとはいえ、同じような内容のトレーニングを行っていたトラノスケ。

 トラノスケはウカミタマと違って普通の強化人間。身体能力はウカミタマと比べたら歴然だ。それなのにまだ動けていることに驚いているのだ。


「……まあ、指揮官になる前にやった訓練と比べるとな」

「ええ……どんな訓練を?」

「一月で指揮官になる訓練をさせられたんだ、俺は」

「…………え?」

「分厚い参考書を一週間で暗記させられたり、滅茶苦茶負荷のかかったトレーニングさせられたり。一番怖いのは怪我して倒れても、目を覚ましたらもう傷が治っていた時だ。おかげで怪我を理由に休むこともできない。どうだ、平泉もやってみるか?」

「え、遠慮しておきますぅ……」


 話を聞くたびに顔を青くするイチカは首を大きく左右に振って断る。

 無理だ、そんな訓練行ったら絶対に逃げ出してしまう。


(私って……強化手術を受けた指揮官よりも体力がないってことですか?)


 そのことにウカミタマである自分に落胆したイチカである。


「じゃあ、私はまだここにいるから」

「えっ、白神さん、まだ訓練を?」

「ええ、まだ鍛え足りない。もっとしてくる」


 自分の特訓を行うためにリオはオプション画面から実戦訓練を選んでその場から消える。

 己一人で集中したいためだ。トラノスケたちと離れて一人自主訓練をしにいった。


「いつものことね」

「こ、こっちは体も、頭も、クラクラなのに……」

「早くエマちゃんにお返事送らないと。では指揮官さん、先に出ますね。さあ平泉さん、行きましょうね」

「一人で大丈夫です……わ、私は寝ます……」

「はい、お疲れ様です」


 エリナとイチカがこの場から去る。


「さて、私も一杯飲んでこようっと。じゃあね、指揮官君」

「指揮官さま! 次の指示は何でしょうか!」

「お二人もお疲れ様。富岡さんもゆっくりと休んで」

「わかりました! 休みます!」


 そしてマリとツムグも仮想世界から出ていった。

 そうして自分一人だけとなったトラノスケ。


「ハイドラグンの操作は訓練では上手くいっている……いや、まだコイツの戦闘訓練は行っていないま」


 小隊でのシミュレーション訓練でトラノスケはハイドラグンを操作していた。

 だが指揮に集中してハイドラグンは索敵にしか活用していなかった。戦闘に関してはリオ達が仮想敵を一方的に倒していったため、ハイドラグンを戦闘に加わる必要がなかったのである。

 敵を倒せればそれでいい、だがせっかく訓練なのだ。ならハイドラグンの戦闘をたくさんやりたい。

 まだハイドラグンのフルパワーの性能を活かし切れていいないのだ。自分のドローン操縦技術の未熟さが原因。

 前の侵食樹破壊任務でそれがわかった。

 トラノスケにとってドローン操縦は誰にも負けない特技だ。ハイドラグンがどれだけぶっ飛んだスペックを持っていたとしても、それが上手く操作できない理由にしたくない。

 完璧に操縦したい。

 ならば、訓練でひたすらレベルを上げるのみである。


「となると、俺一人で練習するのもな。誰かいれば……」


 トラノスケが行いたい練習はハイドラグンで仲間の援護だ。

 それは一人でできるようなものではない。一応、仮想世界ならAI搭載の訓練用仮想隊員を用意すればできないこともないが、仲間の援護となればやはり小隊のメンバーと共に訓練を行いたい。


「白神に頼んでみるか。まだこの仮想世界にいるし」


 自主練を行っているリオを探すことにしたトラノスケ。すぐさま空中液晶を操作してリオがどこにいるか調べてみた。




 一方、リオは大群のグラトニーたちを相手に訓練を行っていた。

 激しくジェットを吹かし、高速移動を行いながら射撃。

 グラトニーたちの体の中心を捉えて狙い撃ち、次々とキルスコアを重ねていく。よどみない動きで一方的に倒していった。


「まだだ、まだほど遠い」


 だがそれでもリオの表情は暗いままだ。


(お姉ちゃんやアキラさんのように……! 一騎当千の力を、グラトニー共を一方的に屠れる強さには、まだ足りない‼)


 サブマシンガンを強く握りしめて、仮想敵のグラトニーたちを撃ち抜いていく。

 その目には強さへの渇望、そして力不足への焦りが見える。射撃も雑になっていくが、『光射す道』で軌道を修正して敵を倒していく。 


「他の隊長たちよりも強く……いや、強いんだ……私は強い、でももっと強くなる……グラトニーを屠るために……お姉ちゃんの願いをかなえるために……」



 ――小隊全員で力を合わせようって言うんだよ。一人で戦っても限界があるさ。



 前の日の墓地で会話を思い出して苦い顔を浮かべる。


(……嫌な気分だ。私の戦い方に不満ばかり抱いて)


 トラノスケと話していると自分が行っていることに不安を感じてしまう。


「……間違ってなんていない、これがグラトニーを討伐するための最短ルート……」


 そうだ。

 自分は間違ってなどいない。

 誰よりも強い自分が前に出て、他の仲間は自分をサポートして、指揮官は周囲の敵を索敵する。

 それが一番効率的で、小隊が一番安全に敵を殲滅できる策だ。この小隊の一番の戦い方だ。

 なのに一人で戦うな、など。

 リオはそう言わるのが嫌で仕方がなかった。

 ならば、何度もそう言ってくるなら、これからの任務で証明すればいい。

 己の実力を、自分の正しさを。

 ゆえに訓練にして自分の実力をより上げなければならない。


「もう一回だ。今度は敵の耐久力と速度を上げて」

「おーい、白神さん」

「――ん!」


 まだ敵は居たのか。

 反射的に反応し、振り向いて銃を向けると、


「うお、あぶな⁉ 仮想世界とは銃を向けんでくれ!」


 いたのはトラノスケであった。銃口を向けられてビビっている。 


「……指揮官、まだいたのか。何か言いたいことでもあるのか?」

「銃下ろせって」


 そう言われてリオは銃口をトラノスケから外す。

 VRのバーチャル空間とはいえ、銃器を向けられるのは怖いものだ。


「なあ、白神さん」

「いきなりなに?」

「もしよければ、少し訓練に付き合ってくれませんか?」


 共に訓練しようとしわれて、リオは渋い顔を浮かべる。嫌そうだ。


「なぜ、指揮官の手伝いを? 自主練なら一人でやればいいでしょう」

「白神さん、言ってたじゃないか。サポートだけ徹しろって。でもそれは一人で練習できるようなものじゃない。だからこそ、一緒に自主練しようって頼み込んだんだ」

「…………」


 考え込むリオ。


(……まあ、あのハイドラグンを扱えるようになんてそうそうなれない。それがわかれば索敵だけやってくれるようになるだろう)


 トラノスケは操作しているハイドラグンは恐ろしいほどのモンスターマシン。一般の操縦車どころか、凄腕のドローン操縦者でもそう簡単に操作はできない。

 一日程度の練習でハイドラグンを完璧に操り切れはしないだろう。

 それをわからせるために練習に付き合っても悪くはない。

 リオとしては、トラノスケは後方に待機してグラトニーの偵察だけやっておいてほしいのだ。


「わかった。さっさと準備して」

「練習付き合ってくれるのたすかる。ありがとうございます、白神さん」

「……さん付けはいらない。あなたは指揮官なのに」

「おっとそうかい」


 そう言われたのなら、トラノスケは普段の喋り方に戻す。どちらでも話せるが、やはり自然体のしゃべり方の方が、口が滑らかになるものだ。


「というかなんでそんな他人行儀で」

「社会人の癖が抜けなくてな。あと、君は軍では俺より先輩だろ」

「そう、なるほど。でももう必要ないわ」

「わかったよ。俺も、同じ年の人に敬語で喋るのもつかれてきたし」


 話を終えると。早速トラノスケとリオ、二人の自主訓練が始めるのであった。

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