侵食樹の破壊を終えて
任務が終わって基地に帰還。途中でグラトニーに合うことなく無事に戻ることができた。基地に戻った後、上官に任務の報告。そして地上に出たためグラトニーが発した瘴気やウイルスなどの汚染を洗浄してくれる部屋に入って身をきれいにし、第00小隊は自分たちの宿舎に戻っていく。
「退屈しない任務だったわ。久しぶりに侵食樹にも出会えたし」
「皆さん、お疲れ様です~。生き残れて任務を達成できてよかったですね」
「松下君、初めての大仕事で疲れた? マッサージしてあげる。スッキリするわよ」
「なにか危ない気配を感じるのですが」
「指揮官さま! 何とか生きて戻れましたね!」
「ええ。一時はどうなるかと思いましたが」
今回の任務、命の危機に瀕されたことも多くあった。
それでも何とか達成できたことはよかった。
「オレは暴れ足りねえがな。だろ、白神」
「グラトニーを殲滅できた。それだけだ」
「ちぇ、大物やった奴は言うことが違うねえ。オレが最初から出ていればあんな木偶の坊、一瞬で粉々にしてたがよ」
「あっそう」
リオとイチカはまだ戦い足りないようだ。
するとリオは皆に背を向けてどこかへと向かって歩いて離れていく。
「おい、どこ行く?」
「訓練所に」
そう言ってトラノスケたちから離れて一人で訓練所に向かっていく。
任務を終えた後でも訓練しに行く。リオのその行動に誰もが驚いていた。
命のかけた任務を終了させたばかりだというのに、体を鍛えにいく
「おいおい、また訓練か? まあ、オレも体動かし足りねえし、訓練所でケンカ相手でも探すか」
「基地内での喧嘩はご法度だぞ」
「言い方がいちいち物騒ですよ、平泉さん」
「あれだ、模擬戦だ。だから大丈夫だって。じゃあ行ってくるぜ」
リオに続いてイチカも離れていく。
「じゃあ松下君。今日はもうゆっくりしたいから。じゃあね」
「私もエマちゃんに電話しないと……」
「指揮官さま! 私はどうすればいいでしょうか⁉」
「えーと……富岡さん、次の指示があるまでゆっくりと休養してください。それと、ヴァイセンさんと姫路さんもごゆっくり」
「ハイハーイ」
「わかりました~」
「なるほど! 寝てきます!」
マリ達は自分たちの宿舎へと向かっていった。
「…………上手くいってはいるんだが、な」
一人になったトラノスケはうつむいてそうつぶやいた。
任務は達成できた。
だが指揮官としての活躍は全くできていなかった。
「助けてもらってばかりだな……」
死にかけた時、リオがいなければ自分は基地に五体満足で帰っては来れなかっただろう。それどころか他の皆も
――あなたが戦いに入ったところで邪魔。指揮官は指揮官らしく後ろにいろ。これからはサポートだけしていればいい。
そう言われても何も返せない。
自分は彼女たちより弱い。しかも今回の任務でも援護は上手くできなかった。彼女に、リオに頼りっぱなしだ。
指揮官としても実力不足を叩きつけられてしまった。
「悩んでも拉致明かない……生きていただけで儲けものだ。次の任務までに鍛えなおすしかないな。ハイドラグン……お前をもっとうまく使うことができれば戦いも楽になるだろうに」
未だに完璧に操作できていないことに、自分の相棒であるハイドラグンに申し訳なくなった。あのドローンはウカミタマたちの戦闘力に負けていない。
「ハイドラグンの様子を見に行くか」
グラトニーとの戦闘で動かなくなってしまったハイドラグンの様子を見に武器研究室へと向かおうとするトラノスケ。
一応、ツカサからの通信で一日もあれば直せるぐらいの損傷だ、と言われていたがそれでも自分の相棒であるドローンをこの目で見ておきたかったのだ。
「リオ、聞きましたよ。あなた、また無茶をしたと」
歩いていると、冷たい声が耳に入る。聞き覚えのある声だ。
声のした方を見るとアキラとリオがいた。
何か大事な話をしている雰囲気を感じ取る。
「アキラさん……任務は達成したわ」
「また一人でグラトニーの大群を相手したらしいですね」
「サポートは受けてもらった。私にはそれで十分」
「そうやって一人で何でもしようとして……人間、どれだけ優れていても一人では必ず頭打ちです。一人でできることなんてたかが知れているものです。だからこそ、仲間と協力し、自分一人でできないことを成し遂げれるのです」
「あなたは一人でどんな相手でも倒せる。そんな人が言っても説得力ない」
「そんなことありません! 第01小隊や他の小隊の協力あってこそ、これまでのグラトニーたちも討伐できたのです」
「どんな絶望も切り開く、『希望の女神』と呼ばれているのに。謙遜が過ぎると逆に失礼」
アキラの話を聞くたびに不機嫌になっていくリオは話を切り上げようとする。自分には訓練がある。それを邪魔するアキラが嫌で仕方ない。
「待ってください、どこにいくのですか⁉」
「訓練。私はもっと強くならなければならない。あなたよりも、もっと強く。だからお願い、邪魔をしないで」
そう言って再び歩き始める。
アキラの静止の声を無視して。
「リオ……全く」
遠ざかっていくリオに頭を抱えながらため息をこぼす。
そして振り向いて、
「松下指揮官。もう出てきてもいいですよ」
「ッ⁉ 気づいていましたか」
「ええ、気配を感じましたから」
地球奪還軍のエースならそんな超人じみたこともできるのか。
トラノスケは心の中で驚愕しながらも、幾多のグラトニーを討伐してきたのならできるのかと納得しながら、彼女の前に出る。
「失礼しました。盗み聞きしてしまって」
「あれだけ大声で話し合っていたからどこからでも聞こえていますよ。ですから謝らなくていいですよ」
「その、二人は仲いいのですか? 名前で呼びあっていましたし」
話の内容は言い争いではあるが、互いに名前で呼び合っていた。それにリオもアキラ相手にはいつもの冷たい雰囲気が感じられなかったような気がする。
会話から二人は友人のような関係だというのは察せられた。
そしてアキラは頷いて、
「この地球奪還軍が創設された時から共に軍にいた仲です。彼女が……その、第00小隊の隊長になる前は私と同じ小隊にいました」
「で、懲罰部隊に行ったと」
「……ああ、もう知っていましたか」
途中言い淀みながらもリオとの関係を話した。
(じゃあ、第01小隊から懲罰部隊、そして今の第00小隊の隊長になったわけか。結構ハチャメチャな異動してんな、白神さんは)
リオが問題起こして懲罰部隊に入ったことは賀茂上から聞いている。言い淀んだ部分はそのことであろう。
アキラはそのことを隠したがもうこっちは知っている。
「白神さん……なぜあそこまで一人でいたがるのでしょうか? どんな任務でも自分一人で成し遂げればいいとずっと言っています」
「……リオは強くありたいんです。理由もわかりますが」
「白神さんにはグラトニーに対して強い憎しみを感じます。それが理由ですか?」
グラトニーは凶悪な侵略者だ。
だから強さを求めること自体はこの軍に入っているなら誰しもが抱いていることであろう。
強い憎しみを抱いているからこそ、全てのグラトニーを討伐したいからリオが強さを求めるのではないか、トラノスケはそう推測した。
「……昔のことで。その憎しみを抱く過去があったのです」
「よければその昔のことを教えてくれませんか?」
「さすがにそれはできません。他人の心の部分をぺらぺらとしゃべるわけには……」
「あなたの部下や恋人も同じようなこと言ってましたね」
「つ、ツカサのことですか?」
「そりゃあもうあなたのことをたくさんしゃべってくれましたよ」
「もう……恥ずかしい……でもそんなに思ってくれると嬉しい」
(仲いいなあ)
アツアツなことが今の言葉でわかる。
「……リオは訓練が終わると必ずある場所に行きます」
過去を教えるようなことはしないが、かわりに違う情報がアキラから伝えられる。
「ある場所?」
「この基地の中にある……隊員たちが安らかに眠る場所に」
それって、
「墓地のことですか?」
「今日も訓練が終わればそこに訪れるでしょう。その場所でリオを話してみればいいのではないでしょうか」
「なるほど……教えてくださり、ありがとうございます。後で行ってみます」
死者が眠る場所。
その場所を聞くだけで、トラノスケはなんとなく察してしまう。
――リオが大切な人を失ってしまったと。
「……私はリオが無茶をしすぎて、取り返しのつかないことが起こってしまうかもしれないことが心配なのです。何度も注意しているのですが聞く耳持たず……でも、指揮官のあなたなら、彼女のよき理解者になってくれると、そう思っています」
「そうでしょうか?」
「確かにリオは他人を邪険に扱っているのかもしれません。でもそれは大切な人を失いたくないがための悲しい自衛……なのでしょうね」
「…………悲しき自衛」
墓地の話。
(墓地で白神に会えば、わかることがある……のかも)
そして今アキラが話したこと。
白神リオは誰か大切な人を失ってしまったのだろうか。
だから彼女は誰にも近寄らせない雰囲気を出しているのか。
そんなことしか頭によぎらなかった。




