洞窟内の侵食樹破壊作戦 ①
第00小隊の任務が始まる。
リオが先手必勝と言わんばかりに敵陣に乗り込む。それをついていくようにマリがビームシールドを展開して突撃。二人でグラトニーたちに接近戦を仕掛けに行った。
「人型のガキ。楽な相手だ」
「ええ、つまらない勝負になりそうね」
リオがいつも通り、ジェットブーツに火を噴かせ、空からビームの雨を降らせる。真下のグラトニーを撃った後、すぐさま着地して回りながら引き金を引く。周囲にビームを巻き散らすように射撃してグラトニーたちを撃ち殺していく。
それを追うようにマリもビームソードで斬撃を飛ばしてガキの体を真っ二つにしていき、そこから目にも止まらぬ速さで敵に近づいてビームの刃で確実に息の根を止めに行った。
二人とも相手の陣形を乱すように縦横無尽に動き回って相手の攻撃をよけ続けながらも数を減らしていく。
「富岡さん、平泉さん! 二人は私たちを守るように立ち回ってください! 白神さんたちは私のハイドラグンで援護します!」
「了解であります!」
「わ、わかりました!」
ツムグとイチカを護衛に回して、トラノスケはハイドラグンを動かす。ドローンを動かすことに集中する以上、どうしても立ち止まって視線をドローンのカメラに集中させてしまう。
今のトラノスケには護衛が必要である。
そしてハイドラグンのカメラから敵の場所と姿を確認する。
「空からもいる! 蝙蝠⁉」
「あ、あれは『ウォーバッド』!」
「牙には気を付けてください!」
「はい! 空の敵は俺に任せてください!」
仲間から相手の情報を聞きつつ彼女たちをサポートしようと、ハイドラグンを空に飛ばす。そしてハイスピードで洞窟内の広場を飛びながらウォーバッドにビームバルカンを発射した。
「落ちろ!」
『ギギャギャ⁉』
ビームバルカンはウォーバッドの羽を貫いて地面へと引きずられるように落ちていく。
「カラスよりかは狙いやすいぜ」
「グラトニーは確実に倒さなければ……!」
地面に落ちたウォーバッドをエリナが狙いを定めて狙撃。ウォーバッドの体をビーム弾が遅い、貫かれた体は消失して灰の塊へと変わっていく。
グラトニーの生命力はなめてはいけない。
そしてグラトニーに攻撃をしている最中でもレーダーを常に確認。
「右の方が数が多い! 白神さんと富岡さん! 一気に攻めてください!」
「わかった」
「了解です!」
リオがその指示を聞いて、右方向にいるグラトニーたちに銃口を向けて発射。さらにツムグもビームピストルで的確にグラトニーたちの頭部や胴体に穴をあけていった。
「ヴァイセンさん! 空から援護します!」
そしてリオがいなくなり一人になったマリにハイドラグンからの援護射撃。
ビームバルカンで空から一方的にハチの巣にしていく。
「あら獲物取られちゃった。彼の頑張りに負けちゃいられないわね」
「あまり無茶はなさらないで!」
こちら側の攻めが上手くいっている。
徐々にグラトニーの数を減らしていっている。
(うまくいっている! このまま敵の数を減らしていけば!)
――ゴゴゴゴゴゴゴッ‼
このまま攻め続けようと思ったその矢先、洞窟内が揺れ始めた。
突然の洞窟内での地震。
第00小隊も戦闘の手を緩めて周囲の警戒を強めた。
「なんだ⁉」
「じ、地震ですか⁉」
「嫌な予感がする……指揮官君! すぐにレーダーで調べて!」
マリの言葉にトラノスケはすぐさまハイドラグンのレーダーを確認。
すると他のグラトニーよりも大きな反応が一体見つかった。
「皆! いるぞ! 他のグラトニーよりも何倍も大きい化け物が!」
「侵食樹の守護するものというべきでしょうか」
「お、大きいであります! あと足がいっぱい!」
隊員たちに報告していると、ツムグが敵を見つけたようだ。
そして洞窟のとある巨大な穴からその姿を現した。
『ギュィジャジャァァァァァ‼』
「これは『オオヨロイノムカデ』か!」
虫型グラトニーのムカデをモチーフにした『ヨロイムカデ』
その『ヨロイムカデ』が力と生命エネルギーを蓄えて成長した姿がこの異常種、『オオヨロイムカデ』である。
「ここまで来たら大型種だな。それでも小さい方だがパワーはその大型種に引けを取らない!」
リオの言葉通り、その口はどんな金属も粉々にし、その足は踏みつけて人体を貫通する。
なにより、このグラトニーに最も目を引く部分は鈍い銀色に光るそのボディ。その体は堅く、どんな攻撃もそのボディに防がれ、本体の中身に傷一つつけることができない。
そのグラトニーが天井をはいずりながらリオを仕留めようと瞳らしきものから灰結晶を飛ばしていく。
「そんな攻撃で!」
その弾幕をジェットブーツの機動力で避け続けていく。さらに周囲のグラトニーに射撃で撃ち殺していき、オオヨロイノムカデと一対一へと持ち込もうとしている。
だがオオヨロイムカデもリオに避けられ続けて怒りを抱いたか、鈍い銀色のボディが光って、そこから灰結晶がガトリングのように発射される。
オオヨロイムカデの胴体は十以上ある。その全てのボディからリオを仕留めようと撃ってきているのだ。
「ちっ! この弾幕! 伊達に大型種のパワーを持っていない!」
己に迫りくる無数の弾幕を何とか避けきろうとジェットブーツをふかし続けるリオ。所々かすってしまうも直撃は避け続けている。
本体の強靭なパワーに比べて、胴体一つ一つから灰結晶をガトリングのように飛ばしてくる弾幕力。
近距離、中距離、共に隙の無い攻撃。
圧倒的物量でリオに迫りくる。
「だが図体がでかくては!」
だがやられっぱなしではいられない。
リオも灰結晶の弾幕を避けながらビーム弾を打ち続ける。
避けては撃ち、避けながら撃ち、アクロバティックな回避をしながら引き金を引く。すべてのビーム弾がオオヨロイノムカデに直撃させていく。
『ギュィ? ギュギュィ!』
しかし本体は何をした? そんな素振りを見せる。ダメージを受けた様子はない。全くの無傷と言っていいだろう。
「チッ、やはりただのビーム弾では貫けないか」
オオヨロイノムカデのその体はただ硬いだけにあらず。
熱に対しても耐性があり、リオが持っているツインビームサブマシンガンの弾では大きさが足りない。火力が足りない。当たっても表面が解ける程度である。
本体の中身には一切ダメージが届いていない。
「グラトニーの奴ら、危険度が高い奴はウカリウムのビーム弾が効きにくいのかよ!」
「グラトニーも生きるのに必死ってことなんでしょう!」
その名の通り、強固な外皮はまさしく鎧、高熱のビーム弾でも表面が軽く焼ける程度。ダメージは全くないと言っていいだろう。
あんな化け物をリオ一人相手にさせるわけにはいかない。
そう思ったトラノスケはハイドラグンで小型のグラトニーを相手しながら、
「くっ、平泉さん! 強風であのムカデもどきの動きを止めてくれませんか‼」
「えっ、わ、私ですか⁉」
「風を操れるのは平泉さんしかできませんよ! お願いします!」
平泉にキセキを使ってリオのサポートを命じた。
それを聞いて驚くイチカ。だがすぐさまその指示を聞いて、キセキを使って風を操ろうとする。
そして力を溜めた両腕を思いきり突き出して、
「……えい‼」
溜めた風を飛ばしてオオヨロイノムカデを止めようとした。
だが風はかすかに頬をなでる程度でグラトニーの動きを止めることはなかった。
「……平泉さん?」
「だ、大丈夫です! もう一回……」
再び風をぶつけてみたが、やはり全く効いておらずオオヨロイノムカデは暴れ続ける。
「平泉さん! どうしたんですか⁉」
「…………ご、ごめんなさい! 効きませんでした!」
「へ?」
「わ、私ではこれ以上威力を上げられません! 私はそよ風程度しか風を操れないんです! 『嵐気流』はちっぽけなキセキなんですよ!」
「はぁっ⁉」
涙目でそう言ってくるイチカに思わず叫んでしまうトラノスケ。
おかしい。
前に彼女はそのキセキの名前の如く、嵐をその手で生み出してグラトニーたちを紙のように吹き飛ばしていた。
この目でちゃんと確認した。
なのにイチカはそんな力は使えないと言ってきている。
そのことに頭を抱えていると、
(ま、まさか豹変しないと強風を操ることができないのか⁉)
そんな推測がよぎる。
キセキの強さも人格によって左右されるのか。
あの獰猛で凶暴なあの状態でなければキセキはフルパワーを出すことができないのだろう。そう予想を立てる。
「平泉さん! 前のように怒りに身を任せて強気な自分になれますか⁉」
「えっ⁉ 前みたいって……ああ、あれですね! でも……こう……自分の意思ではなれないといいますか……」
「とにかく銃を撃ちまくるとか!」
「や、やってみますぅ!」
グラトニーへ銃を乱射していくイチカ。とにかく撃ちまくる。狙いが外れようと。
それが、今自分ができることだと信じて。
『ギュィ‼』
そう思っているとオオヨロイノムカデは自身に飛んでくるビーム弾にイラついてたかのように騒ぎ出し、
『ギュィィ!』
『ギュィ、ジャジャギィ‼』
自身の胴体の関節から、体が分断して後ろの胴体がトラノスケたちの方へと襲い掛かっていった。
まさかの分断、分裂。
自分の体を分けて片方をリオ、もう片方をトラノスケたちと戦おうとしてきたのだ。この動きには第00小隊の誰もが驚いた。
「分断した⁉」
「ムカデというより、ムカデの形をした『戦闘装甲電車』というべきね、これは!」
「こっちに来ます!」
分裂体が背中の外皮から灰結晶を乱れ撃つ。
「うぉ⁉ なんて数!」
目の前に鋭く尖った灰結晶が壁のように迫っくる。このままだと体中に刺さってハリネズミ状態になるだろう。
「ならば!」
ハイドラグンのバルカン砲を灰結晶弾に命中させて溶かしていく。これでなんとか敵の弾幕に穴を開けて、
「皆、飛べ!」
「はい!」
その穴に向けて緊急回避。なんとか弾幕の壁を抜けきるも、
「チィ! どんだけ弾飛ばしてくる! 弾切れがないのか!」
敵の放つ灰結晶弾が途切れることはない。オオヨロイノムカデの全ての身体から弾を撃っているのが原因だ。
どうにかして止めなければ、そう思っていると視界に青い閃光が一直線にオオヨロイノムカデに突撃してくる。
「そっちばっか見てていいの? くたばりな!」
そこに横槍を入れてきたマリ。分裂体の足にビームソードが鋭く斬りさきにいく。出力を上げたビームの刃が食い込みそのまま振りぬいた。
『ガガガッ⁉』
「こっち向きな! 勝負の最中によそ見なんてさ! 消えなよ!」
そしてそのまま離脱。
斬られたことに驚き、周囲を見渡してマリの姿を見ると怒りを露わにして突撃。マリは『疾くあれ、螺旋』で逃げながらオオヨロイノムカデをひきつける。
なんとか猛攻を防げることができた。
「た、助かった――」
「キャッ⁉」
「――⁉」
悲鳴が洞窟内に響く。
確認するとツムグが吹き飛ばされてダメージを受けている。
彼女の周りには人型や獣型などのグラトニーたちがいる。
「大丈夫か⁉」
(他のグラトニーの攻撃か! ちっ、多勢はこれだから厄介だ!)
吹き飛ばされたため距離が離れてしまった。
「くう! まだ腕が動きます!」
倒れながらも射撃を繰り返す。だが下半身のダメージが大きいのか、すぐに起き上がれない。
すぐさまツムグの救助へと向かおうとする。周囲の敵を討伐して安全を確保しなければ。
「富岡さん⁉ 大丈夫ですか⁉」
そう思っているとエリナが慌て始める。
怪我を治さないといけない、その使命感が彼女を動かした。トラノスケの指示をも無視して。
「まってください、すぐに治療しますから!」
「姫路さん! 治療は後です! 安全を確保することが先決ですよ! 富岡さんの周囲の敵を狙って――」
そう指示を出す前にエリナはすでに銃を構えていた。
銃口の向きはツムグに向けられている。
攻撃ではなく回復をしようとしている。
それではいけない。
周囲のグラトニーを倒さないと、怪我を治しても奴らの攻撃が止まるというわけではない。
だからこそ、
「駄目です! このままじゃあ死んでしまいます!」
「待って、周りのグラトニーを倒さなくては!」
そう言うもトラノスケの言葉が耳に入っていないのか、すでに癒しの弾丸を発射してツムグの体を治療している。
だがグラトニーはそのツムグを倒そうと再び襲いかかろうとしている。
このままではエリナの治療は無駄に終わり、ツムグは再起不能へとなってしまう。
(言い争いしている場合じゃないか!)
ならばすぐに作戦変更。
エリナが治すことに集中するなら、トラノスケ自身がグラトニーを討伐していけばいい。
ハイドラグンのバルカン砲でツムグを襲いかかろうとしているグラトニーに無数の穴を開けた。
「ああ! 指揮官さまに手を煩わせてしまった⁉ ありがとうございます!」
「このまま救助を!」
これでエリナが『無傷の祈り』でツムグを治せばいい。
そう思っていると、レーダーから危険信号。
「なに⁉」
すぐに周囲を確認しようとすると、
「指揮官君! あいつデタラメに撃ってくるわ!」
マリの声が。
するとオオヨロイノムカデの分裂体が怒り狂って、周囲に灰結晶弾をばらまき撃ちまくっていた。
「全方向に弾幕⁉ 危ない⁉」
すぐさまハイドラグンのビームバルカンで応戦したが、やはり鎧のように硬い外皮にはダメージが通らない。
「ハイドラグン――グアッ⁉」
「キャアァッ⁉」
トラノスケとエリナが悲鳴を上げる。
灰結晶弾はハイドラグンにぶつけて機能を停止させただけでなく、それによって反射して周囲の灰結晶同士がぶつかりあって予測不能の反射しながらの弾幕となった。弾が常に曲がりながらこちらに攻めってきたのだ。
この攻撃にはトラノスケも反応できない。
そして近くにいたエリナもその弾幕の餌食となる。
数発、体に直撃してしまいそのまま吹き飛ばされてしまう。
「ま、まずった……」
ハイドラグンが動かなくなった。
これではウカリウム濃縮弾薬を放つことができない。侵食樹を壊す武器を一つ失ってしまったのだ。
さらにそれだけではない。灰結晶同士がぶつかり合って威力は下がっているものの、ウカミタマよりも身体能力が低いトラノスケにとっては戦闘不能になってもおかしくないほどの威力。
気を失っていないのが奇跡というべきか。
呼吸するだけで体中が痛い。
おそらくだが身体中の骨にヒビが入ったのだろう。
ヘルメットの中も赤くなっている。
吐血が原因だ。
トラノスケは立とうとしても立てない。
「うぅ……」
「い、痛い……エマ……」
ツムグもエリナも地面を赤く染めながらその場で倒れ伏している。
「あ……あぁ……こ、こっちに来ないで!」
イチカはトラノスケたちが倒れているところを見て大いに焦り、銃を乱射しまくる。これでは指示も聞こえないだろう。
(このままじゃあ……まずい……急いで……仲間に救援を……)
ダメージを受けていない隊員にすぐさま救援要請。ヘルメットの通信機能から仲間の通信器具にメッセージを送る。
『ギギ、ガッ!』
だがグラトニーは待ってくれない。
倒れているツムグに襲い掛かるグラトニーの群れが。ツムグの命を絶とうとしている。
「富岡⁉」
ハイドラグンを動かそうにも、先ほどオオヨロイノムカデの灰結晶を直撃した時に故障したのか飛行させることができない。バルカン砲も曲がっている。
これではハイドラグンを動かせない。
このままではツムグが死んでしまう。
(指揮官として……そんなこと……させては……)
自分が新人だというのは関係ない。
指揮官としても、松下寅之助としても、仲間の死は見たくない。
だがハイドラグンは動かせない。
「……まだ‼」
なら奥の手のビームピストルがある。
それを握りしめてツムグを囲っているグラトニーに乱射していった。
だが怪我した状態のトラノスケの射撃は狙いが定まらず、当てたのはグラトニーの手足だけであった。
『ギギッ⁉ ギャギャ!』
人型のグラトニーは穴が開いた腕を見て激昂して、ビーム弾を撃ってきたトラノスケを見て怒りのまま突撃してくる。
「来るのか……マジかよ…………死んで……たまるかよ!」
死が迫ってくる。
だが諦めてたまるか。
己の最後の武器であるビームナイフを手に取ってグラトニーの飛び掛かりに最後の反撃をぶつけようと覚悟を決めるトラノスケ。
「――甘い」
だがその攻撃が来ることはなかった。
上空にいたリオが銃を真下に向けてそのまま回転。ビームの雨を降らしてトラノスケ前方のグラトニーたちを灰へと変えていった。
そして負傷しているツムグの近くに着地、ダガーモードに切り替えてツムグを守るように立ち回りながらグラトニーを切断、そしてそのままツムグを担ぎ上げてジェットブーツで高速移動。トラノスケの近くまで移動した。
よどみない動き。
リオは敵を倒しながらトラノスケを守り、ツムグを救出。たった一回の行動でそれらのピンチを乗り越えたのだ。
そしてツムグをトラノスケの横に下ろし、球体の装置を起動させる。
ウカリウム粒子が大量に含まれた煙を発生させる装置だ。
「これで侵食もされないでしょう。指揮官用のスーツが破れると灰結晶病になる可能性もある。ワクチンを接種していてもね。予防はしておくべき」
「あ、ありがとう……白神さん、命の恩人だぜ」
「指揮官、ヴァイセンは盾役よ。シールドで守らせて」
「わ、わかった! ヴァイセンさん! こっちに来てください!」
「アッハッハッハ! ああ、喰らわせてよ! 痛みと命をさあ!」
すでに血を流しながらも分断したオオヨロイムカデのボディに斬撃を叩き込もうとしているマリ。だが敵の弾幕がきついせいか、ビームシールドで灰結晶を防ぎながらゆっくりと近づくことしかできていない。
怪我をしているが、今頼れるのはシールドで仲間を守れる彼女しかいない。
「ヴァイセンさん! 姫路さんと富岡さんを治療の手伝いをお願いします!」
「……盛り上がってきたところなのに……はいはい」
ソードスラッシュでビームの斬撃を飛ばして敵を動かせないようにし、キセキの『疾くあれ、螺旋』によって視界から消えるほどの速度でトラノスケの前まで移動。そこからシールドを展開してグラトニーからの射撃を防ぐ。
「指揮官、ハイドラグンは動かせる?」
「駄目だ、飛ばせない?」
「ビット兵器のシールドビットは?」
「……っ、それなら!」
さらにトラノスケのハイドラグンからシールドビットも出してエリナとツムグを守るようにシールドビットで囲んでドーム状のシールドを形成する。
これで何とか相手の攻撃をやり過ごせそうだ。
それでも持って一分ぐらいか。
「指揮官、動けるか?」
「動けはする……動くたびに横腹が痛むが」
「なら我慢して」
「俺しか動けないしな。我慢するよ」
「今は早く彼女たちを治すべきね。そして――」
こちらを睨みつけているオオヨロイノムカデを睨み返して、
「後は私一人であのオオヨロイノムカデの本体である頭を殺せばいい。これ、借りるわ」
地面に落ちていたエリナのビームスナイパーライフルを背負って、単独で大型グラトニーとの戦いを再開させようとするリオ。
無謀だ、トラノスケは心配になって止めにかかる。
「ちょ、無茶だ! 一人って!」
「私を見てないで。指揮官なら他の隊員を見ていればいい。富岡と姫路の治療するべきよ」
トラノスケの心配を無視してその場から飛び去り、
「さっさと来い、しばらくは私が相手をしてやる」
本体と分裂体に向けてビーム弾を発射してヘイトをこちらに向ける。
撃たれたオオヨロイノムカデが激昂してリオへと敵意を向けた。
二方向からの灰結晶弾の連射にリオは避けながらビーム弾を放つ。当ててもダメージはない。これは挑発だ。
この結果、オオヨロイノムカデにはもうリオを倒すことした頭になかった。
「白神……頑張ってくれよ」
小型のグラトニーしかトラノスケたちを狙っていない、今がチャンスであった。




