新たなる任務、『侵食樹破壊』
トラノスケが小隊のメンバーと話し合って二日後。
軍からの任務により再び地上に出た。ホバータンクを操縦して目的地まで進行していく。
周りの景色は寂れた都市街ではなく、真っ白な灰が積もった平原を走っていた。
まるで雪景色のようだが、それは人間の文明が滅んだ証である、砂のように細かい灰結晶が地面に積もっている。ホバータンクは走行した後は灰結晶が砂塵のように舞う。
「今回の任務は『侵食樹』の破壊です」
「ああ、その任務ね」
あらためて今回行う任務について話し合う。
「私たち地球奪還軍の重要な任務の一つね。指揮官君、侵食樹とはなんなのか、わかるかしら」
「はい、侵食樹はグラトニーを生み出す樹だと聞きました」
――侵食樹。
その樹の根は深く地球の大地の奥まで伸ばし、そこから地球のエネルギーを吸い取って周囲の大地の栄養を奪い取っている害樹。
この樹が生えている場所には草一つたりとも生えず、土も灰のようになっていく。空気もグラトニーが汚染していく。
そして地球の生物が暮らしていけない環境へと変えていくのだ。
「地球のエネルギーを吸い取り、そのエネルギーをグラトニーへと変えて生まれさせる。これがあるからグラトニーがどれだけ討伐しても減らないのよね」
さらにそのエネルギーでグラトニーたちを生み出している。いうならグラトニーの巣と言っていいだろう。
グラトニーにとって侵食樹は自分たちの仲間を生み出す家であり、地球を侵略するための拠点でもある。
地球に存在するものならどんなものでもて侵食しに行く、ほんとやりたい放題な侵略者たちだ。
「ほんと好き勝手やりやがるな……もとは地球に襲来した隕石が姿形を変えたものだと聞きました。というか、新人の自分がしていい任務なのでしょうか?」
「まっ、そこは私たちに任せて。侵食樹の破壊任務は何度もしたことあるから」
「頼りになります」
「……侵食樹についてだが、それだけじゃあない」
黙っていたリオが口を開いた。
「その侵食樹が数を増している」
「ということは、どっかのグラトニーが侵食樹を増やしているのかしら」
「奴らにそんなことが?」
「指揮官君、あなたは今まで弱いグラトニーしか目に入れてない。位の高いグラトニーは人間と同じぐらいの知能を持っている者もいるわ」
それを聞いてトラノスケは驚く。
まさか人間と同じような知能を持つものもいるとは。
それなら侵食樹が増えているのも納得はできる。
人間と同じように行動できる知能があるなら、侵食樹の増やし方を知っている者もいるだろうし、そのやり方を実行できるものもグラトニーの中にいるということだ。
「それはグラトニー星人って呼ばれているんですか?」
「まさか。そんな名前じゃあないわよ。でも宇宙からやってきたからそう言われてもおかしくないわね」
「宇宙からの侵略ですからね~」
「だからこそ、グラトニーは殲滅しなければならない」
――ビーッ‼ ビーッ‼
「敵襲!」
グラトニーについて話し合っていると、警戒音が鳴り響く。
モニターを確認すると、レーダーに反応あり。
「前方にグラトニーの群れ! 前に出会った狼型です!」
「狼型グラトニー、『ガロウ』か」
「どうやら、簡単には目的地までたどり着けそうにはなさそうね」
走行しながら上空で索敵ドローンを操作していたトラノスケ。そのドローンがグラトニーを発見して、車内の映像に映し出された。
レーダーの方も反応あり、目的地へと進む道を塞ぐようにグラトニーたちがその場所で立ち止まっていた。
「私がでるわ」
「必要ないでしょう。せっかくホバータンク乗っているんだし、バルカン砲を動かせば」
「……そうね、指揮官。砲台の操作を私に貸せ」
迎撃しようと外に出ようとしたリオだがマリに止められる。それでも闘争心は消えず、トラノスケに砲撃を操縦させろと頼んできた。
「いいですけど、操作できるんですか?」
「ホバータンクの操縦はできる」
「え、そうなんですか?」
「でも、白神さんは司令官さんに乗るなと言われているため操縦できないんですよ。もし操縦したら命令違反になっちゃいます」
「でも、ビームバルカンの操縦なら問題ないかもね」
ホバータンクを操縦してはいけない理由は、もしリオはホバータンクを使えると一人で勝手に基地から遠くまで移動してグラトニーを狩りに行くからだろうとトラノスケは思った。
彼女の今までの行動を見るに、そうなってもおかしくない。
だがホバータンクの武器であるバルカン砲を操作するなら問題ない。ダメなのはホバータンクの走行操縦の方だから。
それにまだバルカン砲を操作したことがないトラノスケより、兵器を使い慣れているリオの方がバルカンを操作した方がよい。
ならば攻撃はリオがするべきだ。
「白神さん、攻撃お願いします」
「了解」
ゆえにトラノスケはリオにバルカン砲の操作を頼み、リオはそれに頷いてトラノスケの隣の席に座って操作レバーを握った。
「指揮官。私のことは気にしなくていい。機体がグラトニーに触れなければ問題ない」
「わかりました」
「みなさーん! これから激しく揺れますので気を付けてくださいね~」
「え⁉ は、はい⁉ なんでしょうか⁉」
「平泉、話ぐらい聞いておけ」
「それはヤバいわ、本当に酔っちゃいそう」
「指揮官さま! アタシはどうすればよいのでしょうか!」
「怪我しないように座席にしっかりとつかまっていてください!」
「わかりました!」
隊員たちが衝撃に備えて、トラノスケがペダルを強く踏み込んでホバータンクの走行速度を激しく上昇。灰結晶の砂塵が勢いよく吹き上がり全力前進。
グラトニーの姿が見え始めた。
そしてリオが液晶を見つめて狙いを定めて、
「見えた!」
目を翡翠に光らせてレバーのボタンを押す。
するとホバータンクのバルカン砲からビーム弾が連射され、その弾がグラトニーに狙いを定めるようにホーミングしていく。
リオの『光射す道』によって撃ったビームバルカンを操作している。そしてグラトニーに確実に命中させていく。一つたりとも外れはしない。
確実に命中させて絶命させていき、前方にいたグラトニーを瞬く間に殲滅させていく。
「さすが白神さんです! 全弾命中です!」
「これぐらい、造作ということもない。前方のガロウは殲滅させた、レーダーの反応は?」
「まだあります!」
敵はまだ全滅していない。
前方には敵はいないがレーダーは周囲に敵の反応を見つけている。
となると、
「空に鳥型のグラトニーもいます」
「やはり空にいるか」
索敵ドローンの視点を変えると、空を優雅に羽ばたいている鳥のグラトニーがいた。奴らの視線は真下にいる第00小隊が乗っているホバータンクであった。
「白神さん、いけますか?」
「私の弾丸は外れない」
砲身を真上にして狙いを定めようとする。走行しながら地上から空にいる獲物を撃墜させようと集中する。
『ガァアア‼』
だがグラトニーも黙ったままではいられない。
ホバータンクを破壊しようと、バルカン弾を避けながら口から灰結晶を吐き出して、それをホバータンクにぶつけようとしてくる。
空を飛んでいる鳥型グラトニーがどんどん灰結晶を落としていく。そして鋭くとがった針のような雨の弾幕がホバータンクに襲い掛かった。
「反撃が来たな。避けろ!」
「わかりました!」
ホバータンクを急停止させて真横に急速転換。急に大きく曲がって空からの灰結晶爆撃を回避していく。そしてリオは目まぐるしく動くホバータンクを全く苦にせず、冷静に空の獲物を落としていった。
「うわわ⁉ 激し⁉」
「当たらなければ問題なし! ですね!」
「問題はなくても……気分悪くなってきた……」
「ああ、ヴァイセンさん! もうちょっと耐えてください! ここを乗り越えたら膝枕してあげますからね!」
「え⁉ な、なに言ってんですか姫路さん⁉」
後ろで何か言い合っているが、まあ言い合える元気があるなら大丈夫ということだろう。今度は加速させて速度を上げた。
緩急ある動きと左右に直角に曲がるように動くことによって空からの攻撃を回避していく。
そしてリオはそんな荒々しい運転であっても姿勢を崩すことなくホバータンク本体と索敵ドローンの二つのカメラで映った映像を見ながら、敵の位置を確認してバルカン砲を再度射撃。真上に放つ。
当然、この瞬間も『光射す道』でビームバルカンを操作してグラトニーの体へとぶち当てていく。
こちらもまた全弾命中。
キセキを使っているとはいえ、空を高速飛行しているグラトニーに命中させているのは彼女の射撃能力の高さもあってのことであろう。
そしてしばらくバルカン砲が翡翠の火花を散らしていくと、
「周囲に敵反応なし! やりましたね!」
「当然。あれぐらい相手にならない」
レーダーの反応が消えた。
リオが全てグラトニーを片付けたのである。こちらの損害は無し、完勝といってもいいだろう。
「うう……目が回るわ……」
「ああ⁉ ヴァイセンさん、大丈夫ですか! 指揮官さま、ヴァイセンさんの顔色が悪いです! あとなんか吐き気がします!」
「平泉さんも倒れてしまいました!」
「……な、なんで姫路さんは平気なんですか」
しかしグラトニーの攻撃を避けるために荒々しい運転をした結果、隊員たちの調子がものすごく悪くなった。
エリナをのぞいたメンバー全員グロッキー状態。顔色悪く、横になっても気分が治らない。もしグラトニーが襲い掛かってきたらリオとエリナしか戦うことができない。
さすがにこの状況のまま目的地まで運転するのはマズイ。
「……白神さん。ちょっと止まって休憩してもいいですか?」
「仕方ない。ホバータンクを汚されても困る。気分が治ったらすぐにでも発射させろ」
グラトニーを絶対に殺す意思を持つリオも、さすがに地上の足であるホバータンクの中が汚れたりするのは勘弁である。
珍しく指揮官の指示を聞いて、グラトニーを倒す前に味方の気分が回復することを専念した。
第00小隊はしばらくこの場で休憩し、そのあと再び任務の場所に向かうこととなった。
(…………そういえば話す相手、大抵ヴァイセンさんだな)
「……(グラトニーを討伐することしか脳裏になく黙っているリオ)」
「が、頑張らないと……見捨てられる……(挙動不審気味なイチカ)」
「今度こそ指揮官さまの依頼に応えないと……(基本指示を聞くことしかしゃべらないツムグ)」
「皆さん不安そうですね。ママに抱き着いてきてください、ね? (男性が苦手で誰か横に仲のいい女性がいないと話に来ないエリナ)」
「……そりゃあヴァイセンさんと話すこと多くなるな」
「あら、なにかしら?」
「いや、ヴァイセンさんって真面目な人だなって」
「……そう言ってくれるの、初めてだわ」