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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
20/102

話を始めよう ③

 イチカとツムグとの話し合いを終えて、再び基地内を歩き回るトラノスケ。

 残る相手はリオをのぞいて、マリとエリナの二人。どこにいるか探していると、


「姫路さんとヴァイセンさんが一緒だ。これなら姫路さんと話ができそうだ」


 見つけた。

 バーの中にいる。

 エリナが男性に対して苦手意識を持っていることはわかっている。

 となると近くに同じ小隊のメンバーがいるほうが彼女も安心できる。さらに同じ大人組のマリが同席しているなら大丈夫だろう。

 トラノスケは二人と話をするためバーの中に入る。


「マスター、そこの『海響』を一つ」

「ヴァイセンさん、ここはバーであって酒売り場じゃないですよ。こういっちゃあなんですがバーでウィスキー一瓶買うなんて割高じゃあないですか?」

「いいのよ、どうせ金なんて酒か男引っ掛ける時にしか使わないし」

「そうですか。わたしはりんごジュースでお願いします~」

「はいはい、姫路さんはいつものね」

「お酒は苦手なので〜」


 カウンター席でマスターと話し合っている姿を見た。ドリンクを注文しているようだ。

 どうやら昼間から飲酒するようだ。


「ヴァイセンさん、姫路さん」

「あっ……どうも……」

「おっと、なに? お姉さんたちに何か用? ナンパでもしに来た?」

「しにきてません!」

「じゃあ、一杯どう? 指揮官になった祝杯よ、おごるわ」

「俺はまだ二十超えていません!」

「え、そうなの? 意外、働いていたって聞いてたからてっきりもうお酒が飲める年かと」


 カラカラと笑うマリ。いきなりからかわれて戸惑うトラノスケ。そしてエリナは縮こまって黙り始めた。


「お待たせしました、『海響』一つです」

「ありがと」


 バーのマスターがマリにウイスキーボトルを渡す。

 お礼を言って瓶を手に取り、親指で蓋を開けて瓶に口をつけてゆっくりと飲んでいった。


「直飲み⁉」

「ふぅ……ウカミタマになってからこの飲み方じゃないと酔えないのよ。内臓がアルコールにも強くなっちゃってね」

「はー、なるほど……」


 ウカミタマは毒物にも耐性ができるようで、アルコールもその効果が現れるみたいだ。だから大量に飲むのだろう。酒は酔って心地よい気分を味わうものだから。

 でもそんな飲み方は止めた方がいいと思うトラノスケ。

 ゆったりと味わるのも酒の楽しみである。

 酒飲めない年齢ではあるが、トラノスケは酒の飲み方に対してそう考えている。


「はーい、指揮官。なにか飲む? 初めて来たから一杯サービスよ!」

「ありがとうございます。では強めの炭酸水を」


 マスターのサービスに感謝してドリンクを注文。


「中々珍しいものを頼むわね」

「炭酸が好きなんです。飲むときの爽快感がたまらない」


 トラノスケが炭酸水を好きになった理由が、もとは軍に入る前の職場で働いているとき、節約するために水よりちょっといい飲み物が飲みたいと思って試しに炭酸水を飲んだら気に入ったからである。

 炭酸そのものが好きだから炭酸ジュースでもいいのだが、今は炭酸水の気分なのだ。


「で、何しに来たの? これから夜までおしゃべり? 親睦会かしら」

「したいっちゃあしたいですけど今回は違います」

「今日任務ないし、互いのこともっと詳しく知りたくない? 姫路も怯えなくなるかもしれないし。例えば……私のスリーサイズとか」

「ぶっ⁉ 何言って――」

「上から95――」

「あー、もう! ストップ! あのですね、前の任務で思ったことで、お叱りを受けまして」

「――っ」

「……はい?」


 今までからかっていたマリもウィスキー瓶を机に置いて姿勢を正した。

 エリナもトラノスケの真面目な表情を見て、心を落ち着かせて二人の話の中に入る。


「あら、真剣な話ね」

「それって……白神さんたちのことでしょうか?」

「まあ、自分からしたらお二人も少々危ない部分があるように思えるのですが」


 そう言うと気まずそうに視線を動かす二人。身に覚えがあるからそのような反応をしている。

 他の三人達と比べるとマシだが、それでも戦闘中に言い争いをするのはマズイ。隙をさらけ出し過ぎて、どうぞ狙ってくださいと敵に言っているようなものだ。


「ヴァイセンさんは傷を治したくないとか言うし、姫路さんは治療はいいですが、治療に専念しすぎてグラトニーのことは無視しますし。それはグラトニーとの戦闘では危険な行為なのでは?」

「……血が流れるような過激な戦いをすると、ちょっと我を忘れてしまうのよね」

「ちょっとどころじゃあない気がしますが?」


 狂気に染まっていたという表現の方が正しい気がする。

 血を流していた時のマリの顔は傷つくことに魅了されていた、トラノスケはそんなふうに思ってしまう。正直言って怖い。


「ごめん……でもあの感覚、好きなのよ。狂って、嫌なこと忘れて、血が流れ死が隣にいる勝負に没頭するのって」

(戦闘狂の類かよ?)


 イチカと変わらない豹変ぶりだったが、なんだかんだ指示は聞いてくれるあたりそこらへんは大人なのだろう。エリナと言い争いしながらも途中でトラノスケの指示を聞いてくれたのだ。

 そしてエリナは申し訳なさそうに頭を下げて、


「ごめんなさい……怪我を見ると、すぐに治さないと、ってことしか頭がいっぱいになって……」

「でも、言い争いは……」

「すいません……でも、怪我は治さないと、もっと酷いことになりますから。仲間が死ぬところは見たくありません……」

「姫路さん……」


 いつもの優しそうな雰囲気と違って今は若干とげとげしい。

 怪我を治療することへの恐ろしいまでの執着。味方を死なせないという強い意志が見えた。

 彼女の過去に何かあったのだろうか、

 だがそれでスナイパーの利点である遠距離からの攻撃を捨てるのはもったいない。


「ヴァイセンさん。怪我は治さないでと言っていますけど、グラトニーと戦うなら怪我なんてしたくなくてもできてしまいしまいますよ。ですから素直に治療を受けてください」

「……ええ、指揮官君の指示なら」

「姫路さんも、味方の傷を治したいその気持ちは素晴らしいものですが、あなたは狙撃手でもあるのです。なら敵を打たなければならないときもあります。もし味方の怪我が心配なら私に行ってください。ドローンで治療しますから」

「……はい」


 返事が返ってくるも、どこか不満げな表情。いつも優し気な雰囲気を放つ彼女を見ていると考えられない、めったに見られない表情だ。


(姫路さん、納得してないな。まあそれはともかく、ヴァイセンさんが誤射をしただなんて、考えられないな)

「指揮官君、ひょっとしてファイルの中身を見たの?」

「まあ、はい」


 素直にそう答えた。

 どうせ隠すようなものでもない。


「……あれも見たの?」


 あれ、すなわち犯罪経歴のことだろう。


「そうですね」

「あれって?」

「あまりこの場で口に出すものではないわ。だけど」


 一口、酒を煽り、


「絶対に消えることない私の罪よ。冥界で私のこと、恨んでいるでしょうね」


 いつもの飄々とした顔とは一変、真剣でいてその瞳には大きな悲しみが宿っている。そう感じた。

 トラノスケは口を閉じる。

 なんて言葉を出せばいいか、わからなくなってしまった。

 ただわかることは、マリに励ましや慰めの言葉を送るのは間違っているということだ。

 冷たい空気になる。

 それにマリは一瞬で作り笑いを浮かべて、


「さあ、お話も終わったし。乾杯でもしていく? 他の隊員とは話つけたのでしょう?」

「いえ、まだ白神さんが……」

「まだ訓練でもしているんじゃない? あの子、訓練の鬼だから。だから一杯ぐらいゆったり飲んでも問題なし」

「わたしも……もう少しだけ松下さんと話したいです。同じ小隊の指揮官さんなのにまともに話せないのは迷惑になるかもしれませんから……」


 それを言われたら断れない。

 それにマスターからサービスのドリンクもいただいている。

 これは彼女たちとちょっとした会話でもするほうがいいだろう。


「わかりました。炭酸水を飲み切るまで軽い世間話でもしましょう」

「よし! じゃあ姫路、最初はあなたよ」

「……え、わたしからですか?」

「松下君相手でも緊張しないようになるためでしょう。何でもいいのよ、趣味でも、あなたが大事にしている娘の話でも」

「え、えっと……それじゃあ、エマちゃんとお絵描きの話でもしようかしら」


 エリナから話が始まる。

 ちょっとした親睦会が行われた。

 トラノスケはマリとエリナのことを少しだけ理解したような、そんな気がした。



「はい、指揮官。炭酸水です」

「いただきます」

「……海響、度数45、ニュー・キョートシティの蒸留所が作り出したジャパニーズ・ブレンデッドウィスキー。オレンジ、はちみつ、バニラなどを連想させる甘やかな香り。口当たりもまろやかな味わいながら後味はすっきり。癖が少なく、ストレートからハイボールなど、様々な飲み方を楽しめる、ウィスキー初心者には私はこれをおすすめします」

「なぜ、酒飲めない俺にそんな情報を?」

「ハイボールにぴったりよ」

「だから飲みませんって」

「マスター、酒を語るの好きなのよ」

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