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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
19/102

話を始めよう ②

 小隊の隊長であるリオに前の作戦でのことを話し合おうとしたが訓練があると断られた。

 なら、他の隊員に話をつけることにした。


「平泉さん」

「はいっ! し、指揮官さんですか! なんでしょうか!」


 訓練しているリオと別れて他の隊員を探していると、廊下でイチカと遭遇。

 偶然ぱったりとであった。やはりオロオロとしている。

 すぐに出会ったのは運がいい。


「いや、昨日の作戦のことについてな」

「昨日の作戦……ですか……その……やっぱり足手まといだったでしょうか……?」

「いや、あなたは頑張っていました。そのことじゃなくて、他の小隊にケンカ売るのは止めてほしい」


 そんなこと絶対にしてはいけない。味方同士で争うなんて。

 はっきりいって他人に怪我をさせてしまう行為だ、しかも任務中にそんなことしたら、普通だったら除隊になるだろう。

 だからそんなことをさせないためにちゃんと言っておかなければ。


(しっかし……全くそうは思えないほど気弱だな)


 喧嘩なんて絶対にしたくないです、痛いの怖いです、そんなビクビクとしているイチカを見ているとあんなに他人に暴力を振るってしまうような人物には到底思えない。

 そう思っていながら注意するとイチカは驚いたような表情を浮かべて、


「……そ、そんなことが」


 ぼそっと誰にも聞こえない声がこぼれた。


「? なにか言いましたか?」

「…………わ、私、は……そ、その……」


 目が泳ぎまくっている。何を言おうか頭の中で整理がついていないのだろうか。曖昧な言葉だけが彼女の口からこぼれていく。ついでに目に涙が溜まっていく。


「落ち着いてください。私が言いたいのは他の小隊に迷惑をかけてはいけない、そのことだけです」


 とにかく慌てている彼女の精神を落ち着かせようとできるだけ優しく言葉をかける。大声を上げず静かに自分が伝えたいことを言葉に出した。


「…………」


 するとイチカはしばらく黙って


「…………わ、私…………終わりですか……?」

(なんかマズイスイッチ入った!)


 暗い面持ちでそう言った。

 違う、そんなつもりはない。何か勘違いしている。

 すぐに訂正しなければならない。


「いや、そんなことはなくて――」

「…………お願いしますっ! 第00小隊にいさせてください! 私には居場所はもうそこしかないんです! なんでもしますから! どんなことでもしますから! ちゃんと戦いますから外さないでください!」

「ちょ、おい」


 涙をこぼしながらすがりついてきた。ガッチリと足をつかんで命乞いでもしているかのように見えた。トラノスケからしたら小隊から外すつもりなんてない。盛大に勘違いしているイチカにどう言えばいいか頭を抱える。

 周りに人がいないのが幸運だったというべきだろうか。もし人がいたら、トラノスケの悩みのタネがまた一つ増えるところであった。


「は、外すつもりなんてないですよ!」

「で、でも! 私、ダメダメだし……小隊のメンバーに迷惑かけているばかりのお荷物で……しかも他の小隊にもいつの間にか迷惑かけて……指揮官からしてみたら厄介でしょ、私なんて……」

(めんどいな、こいつ)


 ちょっと後ろ向きすぎてイラついてきたトラノスケ。だがそれは表に出さない。出したらももっと面倒なことになるのが目に見えているからだ。

 とにかく今は彼女の精神を安定させなければ。そうでないと話は続かない。


「部隊から外しません。ちゃんと指示を聞いて戦ってくれればそれで――」

「おい!」

「っ!? いきなり大声を――んぐっ!?」


 驚いて、あまり大きな声を出さないようにと注意しようとしたら胸元を掴まれた。

 今日はよく服を掴まれる日だ。

 なんかもう嫌な気分になってくる。

 そしてイチカの様子も変わっている。

 グラトニーと戦っていた時のように髪と瞳の色が変化し、表情も先ほどまでとは真逆で強気で他人を視線だけで殺すぐらいの勢いでトラノスケを睨みつけていた。


「テメー、文句ばっかり言いやかってよ! ケンカ売ってんのか⁉」

「間違ったこと言いましたか、俺!」


 いきなり何をいいだしているんだこいつは。

 トラノスケは豹変したイチカに言い返した。


「他の小隊とケンカするなって間違った意見ですか!?」

「あんなん、あっちがバカにしてきたからだろ!」

「銃撃戦の時に乱入したら馬鹿にされるに決まっているだろ! 彼女たちが味方に銃を撃ったことになったのかもしれんだぞ! おい!」


 トラノスケもさすがに声を荒げ始める。

 言っていること滅茶苦茶だ。

 すると、イチカは掴んでいたトラノスケの胸元を放して、


「……へー、面白い男だぜ。このオレにビビらねえとは」

「なんで平泉さんの方が上から目線なんだ?」


 いつの間にか試されている側に立たされている。おかしい、自分は注意をしにきただけなのに。


(敵前逃亡に味方に暴行……まだ小隊に居られるのも不思議だな。最悪銃殺刑だろ、これ)


 イチカという人物に頭を抱えるも、とにかくいうべきことはちゃんと言わなければならない。


「とにかく……ちゃんと指示を聞いてくれ。俺達は同じ小隊のメンバーなんだ。勝手に行動されたら皆が困る」

「チームねえ。いらねえ、オレ一人でグラトニーなんざどうにでもなる。あんなヤツらそよ風みたいなもんだ。ちょっと小突いてやれば吹き飛んでいく。誰の助けもいらねえよ」

「待て、さっきと言っていることが変わっているぞ。君はこの小隊にいたいんじゃなかったのか」


 さっきあれほどまで第00小隊に残りたいと懇願していた彼女はなぜか小隊なんていらないと言ってきた。

 興奮するということも正反対になってしまうのか。

 そう思っていると、イチカは意味深な表情を浮かべて、


「……アイツ、そんなことを」

「あいつ?」

「オマエには関係ねー。だだの独り言だ」


 トラノスケの疑問を一蹴して、


「ああ、わかった。ちゃんと指示を聞いてやるよ」

「え?」


 急な心変わり。素直に指示を聞くと言ってきたのでトラノスケも戸惑ってしまう。

 だが彼女は本気だ。トラノスケを指揮官として見て、指示もちゃんときくとそう約束したのだ。


「やっぱあれだ、この小隊にいた方が暴れられると思ったからな。もちろんテメーの指示も従う。グラトニー相手なら任せろ、オレの『嵐気流』は無敵だ」

「わ、わかった。そう言ってくれて助かるよ」

「そのかわり、テメーがろくでもねえ指示出したら聞かねえからな。最強のオレを扱うんだ、ちゃんとしろよ」

(その傲慢はいったい……)


 だがその自信を持っている理由もわかる。

 あの暴風を自由に操ることができるのだ。風の神様が起こしたキセキと言っていいだろう。

 さらにはウカミタマの中でも飛び抜けた身体能力。グラトニーを一方的に殴れるのは地球奪還軍の中でもそうそういないだろう。

 ……射撃に関しては不安しかないが。


「よろしく頼みますよ。平泉さん」

「ああ、よろしく。指揮官」


 とりあえず話はすんだ。

 不安しか残らないが、今度の任務の時はちゃんと指示を聞いてくれる……はずだ。


「あっ、思い出したぜ。テメー、オレに電流流しやがったな!? 痛かったんだぞ!」

「まあ電流流したのは悪いが……その原因も君だろ」

「知るか! バーカ!」

(本当別人みたいだな……)

 

 やっぱり不安は残る。



 なんとかイチカとの話を終えた。

 凶暴になった状態の彼女との会話は疲れた。

 すぐに拳をぶつけてやる、そんな目をしている状態で話し合いをするのだ。少しでも刺激したら暴れる、まるで破裂寸前の風船を相手にしているようだった。

 とりあえず暴力沙汰にならなかったことに喜ぶべきかもしれない。

 そして次の相手はツムグだ。だがしかし、彼女がどこにいるのか見当もつかない。


「富岡さん、いつもどこにいるんだろ……」

「呼びましたか!」

「うおっ!? と、富岡さん?」


 背後から大声がして驚くトラノスケ。

 振り向くとツムグがいた。


「え、いつから背後に?」

「指揮官さまから呼ばれた気がしたのですぐに駆けつけました!」

「そ、そうか……」


 気配は感じなかった。

 だが彼女からやってきてくれたのだ。

 これで話し合いができる。


「指揮官さま! このアタシに何か命令があるのでしょうか! どんなことでもやってみせましょう!」

「あの、前の作戦のことでですね」

「はい!」

「白神さんが勝手にグラトニーを追いかけていったことが覚えていますか?」

「はい!」

「その時、私はその場でとどまるように指示をだしました」

「そうだったのですか⁉」

「聞いてなかったのか⁉」


 予想外の答えだ。

 命令無視とかじゃなくて、そもそも命令があったことさえ知らなかった。

 それはそれで頭が痛くなることである。

 それほどまでに戦いに集中していたのか、それとも何かほかに理由があるのか。


「……どうしてですか?」

「も、申し訳ありません! 受けた命令は絶対に達成する、そう思い、頭の中で覚えているようにしていまして……他のことが頭の中に入らなかったのです!」

「…………」


 ツムグの答えにトラノスケは長い沈黙。

 どうやら彼女は一つ目の命令を絶対に達成する、そしてその命令を忘れないために頭の中でずっと命令の内容を考えていたのだろう。

 で、それを忘れないように一つ目の命令を覚えてい続けていて、それが原因で他の命令の内容が耳に入ってこなかったようだ。


(……シングルタスクってやつか? 素直ではあるが……)


 ツムグの『指示を聞いていない』は、その指示に従わないではなく、その指示そのものを聞いていなかった、ということである。

 絶対に命令を遂げる、その意思は褒めるべきところなのだろうが。


「……あとですね、第01小隊の人たちも怒っていましたよ。

「そ、そうだったのですか……」


 目に涙が溜まっている。

 ヤバいことをやってしまったという自覚が涙となっているのだろう。

 一瞬、罪悪感を抱いたが、よくよく考えたら彼女の行動が悪い。


「指揮官さま‼ 申し訳ありませんでした‼ アタシがバカなばかりに、命令を聞かないから、指揮官さまの命令を無視してしまいました‼ どうか‼ 許してください‼ 罰は勘弁してください‼」

「ちょ⁉ ちょっと待て! 謝罪が重たい!」


 いきなり正座して頭を下げて謝ってくる。

 土下座だ。

 小柄な彼女がそれを行うと、第三者から見たらとてもマズイ絵面になっているだろう。

 周りに人がいなくて本当に良かった。いたら、絶対に冷たい視線を向けられる。気苦労は増やしたくないのだ。


「いいから立って、ね!」

「……はい、立ちます!」


 土下座の体勢から手を振り下ろして地面をたたく。そしてその反動で浮かんで直立姿勢のまま着地。


(いや、普通に立てばいいのでは?)


 まあでもすぐに立ってくれたのはよかった。

 それに軍人として、命令に従うのはいいことではある。

 だがしかし、命令を物理的に聞けないのは小隊の指揮官として困ることである。


「富岡さん、指示はその場の状況に応じて変えるものです。ですから、あなたにもそれに慣れてもらわないと」

「わかりました! がんばって指揮官さまの命令を聞きます!」

「おねがいしますね」


 トラノスケの言葉に大きな返事でそう答えた。涙も消えている。もう大丈夫だろう。

 とりあえず話は終えた。

 前の二人、リオとイチカと比べたらツムグは素直なためスムーズに話し合いを済ませることができた。


(……いや、まあこれが普通だよな)


 ちゃんと話を聞いてくれたツムグにトラノスケは内心、感謝していた。


「だけど……彼女が上官を殺害未遂をしていたとは全く思えない」


 まっすぐすぎる彼女の性格。それに命令だってちゃんと遂行しようとする軍人としての姿勢。

 そう考えると、あのファイルに書かれていた彼女の罪に対して、本当にそんなことをしでかしたのか、そんな疑問がトラノスケの頭の中に残った。


「……あの、富岡さん」

「なんでしょうか!」

「もう姿勢を楽にして、自由に動いていいですよ!」

「わかりました!」

(解除するまでそこに立っているつもりだったのか⁉)


 真面目すぎるのも考えものだ。

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