蒼き閃光、そして優しき祈り
トラノスケがレーダーで発見したグラトニーの場所まで移動している一方、他の部隊が戦っていた。
「副隊長! 相手も射撃してきます!」
「ちっ、中々やる。皆、ビームシールドに隠れながら撃つヨ! 銃の腕に自信ある奴はワタシについてきて! 動きながら撃つのよ!」
「「「はい!」」」
そうやって指示を出して、副隊長はすぐさまビームフェンスを展開。これでグラトニーの攻撃を防ごうとする。
そして自分の獲物を握りしめて敵にビームをあびせようと銃口を向けたら、
「そこか」
「見つけたぜ!」
「指揮官さま! 敵を発見しました!」
「な⁉」
奇襲をかけにリオたちが横から接近してきた。
突然の味方に副隊長と他の隊員も驚いてしまう。
「え、彼女たち……第00小隊の?」
「ちょ、危ないよ! 弾当たったらどうするネ! 遠くから銃撃てばいいよ! クロスファイアよ!」
少しカタコト気味な日本語でリオたちを注意する他の小隊のリーダー格、副隊長。
それをドローンのカメラから頭を抱えたトラノスケ。
「そっちじゃない! 他の小隊と合流するんじゃなくて、その小隊に別のグラトニーの集団がやってきているんだ!」
ホバータンクを操縦しながら通信でリオ達に文句を言う。そうじゃないんだ。自分たちが戦う場所はそこではない。
だがもう遅い。
自分たちが向かっている場所とリオ達が到着した場所はかなり遠い。いや、ここで自分たちが向かっている場所を伝えればいいかもしれない。
「グラトニーは私が殺す」
ダメだ、目の前のグラトニーを倒すことに躍起になっている。おそらくどんな言葉も聞きはしない。
「彼女たちの頭の中、目の前のグラトニーを倒すことで精一杯ね……うぅ」
「大丈夫ですか?」
「ええ……すぐに目を閉じたからちょっと気分が悪いだけですんだわ」
乗り物酔いをしているマリを心配するが、本人は大丈夫と言っているので、そのやせ我慢に甘えようとするトラノスケ。グラトニーと戦えるのは今のところマリとエリナしかいないのだ。そしてエリナは武器がスナイパーライフルなため遠くからの援護と攻撃がメイン。となると近接での戦闘はマリに任せるしかないのだ。
「自分たちが別の集団を相手するしかありません!」
「そうですね〜」
「お二人さん、自信の程は?」
「あのぐらいの数なら問題ないわ」
「私も出ましょうか?」
「指揮官はタンクの中で指示出すのが仕事よ。それに貴方にはドローンがあるでしょ」
確かにただの強化手術を受けただけの人間ではグラトニーを目の前にしても相手にならない。ならばドローンで敵を索敵しつつ攻撃を与えた方がいいだろう。
それに新人であるトラノスケが前に出てもマリ達の邪魔をするだけだ。
素直に言うことを従うことにする。
「わかりました! 私もドローンで援護します!」
「姫路、ついてきて! 援護、お願いね!」
「はい! 狙撃も治療も任せてください!」
「ハイドラグン、出します! 彼女たちを守ってくれよ!」
ホバータンクから軍に託された自分の新たな相棒を出動させた。
(マズイ、他の小隊に連絡送らないと……怒っているだろうな……)
マリとエリナが出撃しハイドラグンを飛ばした後、急いで他の小隊のリーダーに通信をつなげた。
「通信! こちらは第00小隊の指揮官です! 返事、お願いします!」
『聞こえてるネ! こちらは第01小隊の副隊長よ!』
少しカタコトの喋り方をした女性の声が耳に入る。海外の人だ。
『アナタ、昨日入ったばかりの新人君だっけ? いきなり横から味方がやってきたと思ったら……もう少し早く連絡して欲しかったわ。流れ弾が当たったら大変よ』
「すいません! こう、隊員が先走りまして……」
かなりお冠。無理もない。あんな無茶な参戦の仕方をしたのだ。味方に誤射なんてあったらたまったものではない。
『まあ、あの第00小隊だからねぇ……指揮官サンも大変ネ』
(……厄介者扱いされているのか? 俺らの小隊)
何か含みある言葉に頭が痛くなってきたトラノスケ。
副隊長の言葉に否定できない。
自分を助けてくれた救いの女神だと思っていた頭の中のビジョンが崩れていく。あんなバーサーカー集団とは思わなかった。
大人組のマリとエリナはそうではない、はず。そう祈った。
「そちらに別のグラトニーがやってきているのをレーダーで確認できたため、応援に来ました」
『なるほど、だから援護に来たと?』
「はい! ですから、その集団は私たちに任せてください! そちらは白神さんと協力してください!」
『わかったわ! 白神たちと一緒に戦うから、そっちよろしくお願いネ!』
互いに作戦を話し合って、自分たちがやるべきことを決めた。
交戦している第01小隊に襲撃してこうとしてくるグラトニーの集団を討伐する。それが今の任務だ。
「ヴァイセンさん、姫路さん! そろそろエンカウントします! 私のドローンが先に攻撃を仕掛けます!」
「了解! って今さらだけど初めてグラトニーと戦うのでしょ。大丈夫なの?」
「やってみせます!」
ドローンのカメラで撮影している場面をヘルメット内の液晶に映す。
薄暗い灰色のしわくちゃな体とくすんだ青黒い葉っぱを揺らしながらこちらに向かってきている。
姿を見るに樹木が根っこを這いずりながら前へ前へと進んでいた。
それも一体ではない。二十は超えている。
グラトニーたちは基本群れて行動する。一体だけで行動する方が稀なのだ。
(人の次は動く歪んだ木かよ! 根の動きが気持ち悪いぜ……)
「木型のグラトニー、『トレント』ね。木の根っこには要注意よ」
「葉っぱも鋭いですから、気を付けないと斬り刻れますね」
二人からトレントの情報を教えてもらう。あの葉っぱには注意すべき。
「目的地までの自動操縦から脳波操作とガンドレッドの手動操作に切り替え! とりあえず当たれ!」
カメラに映ったグラトニーにバルカン射撃。
その威力は胴体に当たったトレントの体に穴が開くほどであり、怒涛のビーム連射で一気に数体を倒していった。
『ギギッ⁉』
これにはグラトニーのトレントも驚きの叫び声。
「わお! なんて威力!」
「は、速すぎますよ! あのドローン!」
新型のハイドラグンのスピードにマリ達は驚く。
そしてトラノスケもその性能に困惑していた。
(なんてじゃじゃ馬だ! こんな速度のドローン! 練習で何度も操縦したも思ったが、実際戦闘で操作してみるとそのパワーを実感できる! 刹那でも気を抜けば一瞬でコントロールが乱れるぞ⁉)
画面から目を離せない。
ほんの少しでも気を抜けば地面やグラトニーに激突してしまう可能性がある。
初めて操作したのだ。
スピードにリミッターをかけるべきかもしれない。
そう考えて速度を落としてなんとか制御しようとする、
(重力のかからない戦闘機を操作しているようなものか……戦闘機はハイドラグンより速いけどな)
これが試作品だというのが驚きだ。まだ性能が上げられるというのか。
こんな高性能なドローンを支給してくれたことに感謝して、必死になってドローンの速度についていく。
「ヴァイセンさん! 攻撃するときはこちらから合図を送ります!」
「わかったわ!」
「姫路さん! 俺と共に射撃を!」
「わかりました!」
すでに射撃態勢をしているエリナ。スコープ越しにトレントを捉える。
引き金を引いて大きめのビーム弾が飛んでいく。そしてハイドラグンの下部に搭載されたビームキャノンも翡翠の熱を噴いた。
エリナが放ったビームよりも大きなキャノンビーム弾がトレントの体を包んで燃やしていく。
『ギギギッ⁉』
『ギッ‼』
味方がビームで消されたのを見て、反撃とばかりに木の根っこを触手のように伸ばし、葉っぱを飛ばしてハイドラグンを侵食しようとしてきた。
「少しでも掠ったら壊れる! 避け続けろ!」
スピードと火力はあるが、防御面は合金にウカリウムを含んだ特殊塗料を塗っただけ。グラトニーの攻撃によって特殊塗料が剥がれたら、掠っただけでも侵食されてしまう。
攻撃は絶対に当たってはならない。
伸びた根っこと葉っぱのカッターを左右に避け、横方向に回転しながら回避し続けて、
「今、攻めてください!」
「了解! さあ、誰よりも疾く!」
「ヴァイセンさん! 援護しますね!」
指示を聞いてビームソードを展開。そしてエリナの援護射撃と共にトレントに接近し、
「消えろ!」
ビームの刃でトレント達を真っ二つにしていく。
マリの攻撃に反撃しようと根っこを伸ばすも、マリはビームソードでその根っこを斬りながらトレント本体に近づいて素早くソードを振り切っていく。根っこも体も同時に切り落として、トレントたちの体が灰へとなっていった。
「こちらも狙いますよ」
そして狙いを定めて引き金を引き続けるエリナ。彼女も必死にマリをサポートする。ビームスナイパーライフルから放たれるビーム弾の威力は絶大。一発でトレントに大きな穴を開けていく。
近接戦はマリが行い、遠くからエリナが狙撃でサポート、そして指揮官のトラノスケがドローンで索敵しながら射撃援護。
これによってトレントたちの数を一気に減らしていった。
三人の連携がうまくいっている。
『ギギギッ!』
一方的に攻められたことにキレたのか、トレントの体が大きく揺れる。すると葉が大量に飛び、地面から根っこが槍のようにつきあがっていく。接近戦を仕掛けているマリを仕留めにかかった。
「大暴れってやつ!?」
「ヴァイセンさん、危ない!」
四方八方からの葉のカッターと地面からの根っこの槍。それらの攻撃をトラノスケはハイドラグンの銃口を葉っぱに定めて射撃。ビームでカッターを燃やしていく。とにかくマリへの攻撃の手数を減らしていった。
「助かる、指揮官君!」
そして刃のカッターが手薄になったところに向かって走り出す。その間、左腕のビームシールドを展開して地面から襲ってくる根っこと空から降り注ぐ葉っぱを弾いて無理やり前に進んだ。
「くっ⁉」
「ヴァイセンさん⁉」
それでも完璧には防げない。腕や足に傷ができて出血する。ボディスーツも切れてしまう。
ダメージを受けている様子を見てエリナが悲鳴を上げた。
「この!」
ビームキャノンを撃っていたトラノスケ、すぐに武装を切り替える。ビームのバルカンでトレントたちに命中させて気をそらしてマリへの攻撃を無くすようにさせた。
そして何とか八方からの弾幕攻撃を切り抜けて体勢を立て直すマリ。
「――あら?」
傷つき血が流れている己の体を見つめ、出血した箇所に触れて、手のひらについた血を確かめる。
予想以上のダメージだ。傷は浅いものの激しく動いたら出血がひどくなり、多量の流血によって血が足りなくなってもおかしくない。
だがマリはそれを見ると顔を歪ませて、
「ふふふ……そうよ、これよこれ! 勝負はこうじゃないとさ!」
狂気に取りつかれたような、見る者を震わせるような笑みを浮かべた。
そしてビームの出力を上昇、刃が伸びて温度も上昇。
「いい悲鳴をっ! 聞かせな! 『疾くあれ、螺旋』!」
そしてマリも瞳を翡翠色に光らせたら、今度は体が鮮やかな髪の色のように青く染まる。そして次の瞬間――彼女の姿が消えた。
「えっ?」
突然消えたことでトラノスケは周囲をすぐさま確認する。そしてすぐに彼女を姿が見えた。
――マリが姿を現したその時、多くのトレント達に無数の斬り傷がついていた。
そしてそのまま細切れになっていき、トレントは自分たちが斬られたことを認識することすらなくこの世から姿を消していった。
「遅すぎるわ! 嵐を! 閃光を! 止めることは誰にもできない!」
「なっ⁉ これもウカミタマの力なのか⁉」
(ヴァイセンさんは、加速できるのか? 俺の目では認識できないほどの速度で! 移動できるのか⁉)
一瞬にしてトレント達が細切れになった光景を見て、トラノスケはマリの能力をそう解釈する。
目にも止まらないハイスピードで移動する。それが彼女の力。
なぜ彼女が近接武器で戦うのかなんとなくだが納得した。
銃で撃つより、ハイスピードで近づいて近接戦に持ち込み、素早く斬って確実に仕留める。それが彼女の戦闘スタイル。接近戦でグラトニー相手に勝てる自信があるが故の戦い方。
それに、ビームソードの斬撃飛ばしという射撃らしき技もあるため、遠くからでも一応対処はできる。
これがマリの戦い方だ。
「クックック……ああ、たまらない……」
そんなふうに思っていると、マリは頭を抱え始めた。
「フフフ……ハッハッハッハッハ‼ グラトニーはどこ⁉ まだまだ血を流したりないわ! ねえ、早く私に殺しに来てよ! 代わりに私が貴方を殺してあげるからさ!」
「ヴァ、ヴァイセンさん⁉」
狂気に歪んだ表情のままビームソードを振り回して、トレント達に突撃していく。
その時にできた傷など気にせず、むしろダメージを受けるほど彼女は歓喜の声を上げながらビームソードを思いきり振り下ろしていった。
その姿はまさに戦場の空気に酔いしれる狂人だ。自分が死にそうになろうが関係なく攻撃をし続ける。
「ヴァイセンさん! さすがに危ないです! 下がってください!」
「け、怪我……⁉」
マリを止めようとすると、今度はエリナが目を見開いた。
彼女の指が止まり、援護射撃も止まる。
「姫路さん?」
「いけません! このままじゃあ!」
エリナの目の色が変わる。それは翡翠色に、だけでなく優し気な瞳から成し遂げなければならないという必死な思いが目に宿っている。
そしてスコープを一瞬だけ目を通して軌道を確認して引き金を引く。
鮮やかな翡翠のビーム弾は――マリの体へと命中した。
「え⁉ 味方に⁉」
自分たちの仲間に射撃した。
どうみてもとち狂った行動。
不注意の誤射ではない。完全に狙った味方への攻撃。しかもマリは出血状態。傷口に塩を塗るような行為だ。
何をしているのか一瞬頭が真っ白になるトラノスケ。だがマリの体を見て今度は驚愕の表情を浮かべた。
「傷が……治っている?」
ビーム弾を打たれたマリに風穴どころかビームの熱による火傷痕も残らなかった。それどころか体中にできた傷が見る見るうちにふさがっていく。
さらにビーム弾をぶつけられると、傷は完全に治り跡も残らなかった。
「指揮官さん、心配しないでください。わたしの『無傷の祈り』は味方に打っても怪我はしませんから」
エリナが困惑している指揮官さんにそう言った。
もしくは突然味方に射撃をした、という誤解を解こうと自分の力を説明したのだろう。
遠くから狙撃で攻撃と回復を同時に行う、それがエリナの狙撃スタイルなのである。摩訶不思議な能力だけでなく、狙撃に自信があるからこそこのスタイルが可能なのである。
本来、動いている敵に狙撃は難しい、味方であればさらにだ。
それを柔和な表情のまま淡々と行っているのはかなりの狙撃の腕があってこそだろう。
「マジかよ……」
信じられないことばかり、目の前で起こっている。
本当にウカミタマのパワーには驚かされるばかりだ。
(……そういや富岡さんだけ不思議な力を見てないな。使えないのだろうか?)
「姫路、怪我は治さなくていいわよ」
「駄目です! 小さい怪我でも危険です! 完治させないと!」
「心配性ね。いつも言っているけど私はこの痛みが好きなのよ。死ななければ問題ないわよ」
不意にそんなことを考えていると、二人が言い争いをしていた。
会話の内容的にマリがわがまま言っているようだ。出血を治さなくていいとは死に行っているようなものである。
「言い争いしている場合じゃあないだろ! 『ハイドラグン』!」
残っているトレントに空中からハイドラグンの射撃。空からバルカンの雨を降らしていく。
だが、
「うおっ⁉」
トレントもうっとおしいと思ったのかハイドラグンに攻撃。木の葉がハイドラグンに命中。するとバランスを崩してそのまま地面に向かって飛んでいく。グラトニーの細胞が入った木の葉は堅いのだ。
ハイドラグンが地面に追突しているところを見たマリが真剣なまなざしとなり、エリナの治療を振り払った。
「あっ、マズイ……早く戦線に戻るわよ!」
「ああ、待ってください! まだ怪我が完璧に治っていませんよ!」
「傷口はふさがっているって!」
すぐさまビームソードを振って斬撃を飛ばす。空を飛んでいたハイドラグンを墜落させることに木を向けていたトレントたちは迫ってきている高熱の斬撃を避けれず、そのまま蒸発して消されていった。
「クソ! 俺じゃあコイツの力を引き出せないってか⁉」
すぐさまホバータンクを動かして地面に突き刺さったハイドラグンを回収しに行く。
それと同時に周囲にグラトニーがいないか確認。
反応なし。
ここでの戦闘は終わった。
「ヴァイセンさん、姫路さん、一体どうしたんですか! いきなり口喧嘩して!」
「ごめん、ちょっと熱くなってた。今クールになったから」
「もう、ヴァイセンさんっていつも無茶しますよね! 倒れたら心配しますよ!」
「まあ、とりあえず……全員無事でよかったです」
グラトニーであるトレントを討伐できた。しかもこちらは死者や重傷者を出すことなく。
それは素直に喜ぶべきことであり、トラノスケも安堵の息を吐いた。 マリとエリナの行動に少し困惑したものの、今はそのことについて追及している場合ではない。
他の小隊と一緒に戦っているリオ達のことが心配だ。
リオ達に合流しようかと考えていると、通信が入った。
おそらく第01小隊の副隊長からであろう。
開いてみるとその予想は当たっていた。
『指揮官サン! こっち終わったヨ! そっちは?』
「こちらもグラトニーの討伐を終えました」
『そうなのね! だったら合流するよ! 早く来てほしいネ!』
「わかりました! ヴァイセンさん、姫路さん。第01小隊の人たちに会いに行きましょう」
「ええ、そうね」
「白神さんたちが心配ですからねえ」
エリナの言葉に二人が頷いた。
「あーあ、服も破れちゃった。着替えないと」
「…………どこで」
「のぞくの?」
「のぞきません!」
「そ、そんな! ダメです指揮官さん! そんなえっちなことしちゃいけません! メッ、です!」
「私は指揮官君になら見られてもいいけど」
「……発進しますね」
「あーん、もう。冗談なのに、ふふっ♪」




