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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
14/102

二重嵐人

 リオがフェイスを撃破した後、応援に来たイチカとツムグもグラトニーの人型、ガキ相手にビーム弾をあびせていた。


「おお! 隊長の目が輝いています! 全力です!」


 そう言いながらビームナイフを持ち出して、素早い動きでグラトニーを薙ぎ払いで真っ二つにしながらビームピストルでとどめを刺す。

 小柄で素早く動く彼女をグラトニーは翻弄されて反撃を与えることができない。


「戦いしながらよそ見できるなんて……しかもグラトニーを狩っている……本当に他の人たちは私なんかと比べて強すぎですよ……」


 自信なさそうにしながらビームを発射してグラトニーを討伐しているイチカ。

 地味にコツコツと敵にビーム弾を当てていた。


『ギャオオオ‼』

「へ? 嘘⁉」


 ガキが数人まとめてイチカへととびかかる。

 慌てて銃口を敵に向けて引き金を引くも、撃ち貫いたのは三体ぐらい。残りのガキが腕を思いっきり振ってイチカの胴体に拳をぶつける。

 グラトニーのパワーは中々に強い。腹に殴られた瞬間、イチカの口から血があふれ、そのまま勢いよく吹き飛んでいった。


「きゃあああ⁉」

「――っ⁉ 平泉⁉」


 悲鳴を聞いて、すぐさまドローンのカメラを確認。平泉がボロボロになって地面に倒れ伏していた。


「うぅ…………ごほっ……やだっ……」

「は、早く治療しないと……わたし、出ます」

「姫路さん、俺がドローンで治療します! 大丈夫か! 平泉!」


 吹き飛ばされるイチカにホバータンクから支援用ドローンを飛ばす。そのドローンがリオ達が戦っている場所まですぐに移動し、ドローンがビームシールドを展開。これでグラトニーからの攻撃を防げるようにした。

「すぐに回復させる! 少し待っていてくれ!」

 イチカの怪我を治すためにヒールドローンも飛ばそうとした。



「――おい」



 その時、倒れているイチカからドスの聞いた声が発せられる。


「ひ、平泉?」


 すると彼女の髪の色がいつの間にか深緑から赤紫色へ変わっており、開いた瞳もいつものオレンジではなく青紫へと染まっている。

 明らかに様子がおかしい。

 なにかグラトニーにされたのか。心配になって再び声を掛ける。


「大丈夫ですか⁉ 早く回復を――」



「このオレにケンカ売った奴は誰だ⁉ 出て来やがれ!」



 怒声と共に立ち上がってグラトニーを睨みつけるイチカ。

 その瞳からは怯えはもう消えている。あるのはグラトニーをぶちのめすという怒りだけだ。


「グラトニーどもが群れやがって! カスがどれだけ集まってもカスのままなのによ!」


 怯えていた態度はどこに行ったが、額に青筋を立てながら暴言を叫ぶ。


 ――あまりにも違い過ぎる。まるで別人だ。


 獰猛な笑みを浮かべているイチカを見てトラノスケはそう思った。まだ出会って日が浅いとはいえ、イチカに対するトラノスケの心証は常に怯えて気弱そうな人。

 だが今の彼女はどうだろうか。

 今までの姿と真逆で、過激で暴力的で切れたナイフのような雰囲気。

 か弱い子犬からどんなものにも歯向かう狼のように変わっていた。


「あっ、いつもの戦闘スタイルになったわね」

『グギ‼ ギャアギャア‼』


 そんな暴言を吐いているイチカに先ほど飛び掛かったグラトニーが再び殴りかかりに行く。

 さっきの攻撃が通じたから、同じ攻撃を仕掛けてくる。


「マズイ! 避けろ!」


 緊急回避の指示。

 それをイチカ聞いたが、その場から動くことはせず、


「ウゼェ!」

『ムギャァツ⁉』


 だがその攻撃がイチカに当たることはなかった。

 そのまま拳を突き出して渾身のパンチ。力任せに殴った一撃はグラトニーの体を大きく吹き飛ばした。

 グラトニーの攻撃を避けることすらせず、力技でぶっ飛ばしたのだ。


「な、殴って⁉」

「ザコがよ、このオレに歯向かって、傷をつけやがったな⁉ この体に!」


 眼鏡を投げ捨てて地面にあるビームアサルトライフルを拾って単発モードに切り替える。そして地面にめり込んでいるグラトニーに銃口をねじりこんで、


「ハッ! 死ね! 死ね! さっさとくたばった方が楽だぜ!」


 引き金を引いた。


「ハーハッハッハッハ‼」


 何度も何度も、引き金を引く。

 地面に伏しているグラトニーのガキに高熱のビーム弾をあびせ続けた。体が穴だらけになっても攻撃は止めず、体すべては消え去っても無駄うちする。

 それでも彼女の眼は怒りがにじみ出ている。


「オレはな! オレに傷をつけようとするやつは徹底的につぶすって決めてんだよ! わかるか⁉ ああ‼ お前らはオレを怒らせたんだよ! 何べんでも殺してやるぜ!」


 さらにグラトニーたちに銃を向けて発砲。至近距離、確実に当たる。


 ――カスッ……。


「…………あれ?」


 だが全然かすらない。全く当たらない。


 ――ビュンビュンビュンッ!


 ――カスッ、カスッ、カスッ……。


 連射しているのにビームの軌道はグラトニーとは全く別の方向に飛んでいく。

 恐ろしいほどに下手くそな射撃であった。


「当たらねえ…………」

『…………』


 沈黙。


「くそ! 動くんじゃねえ!」


 キレて銃を地面に投げ捨てた。

 別にグラトニーは動いていない。ビビっていて立ち止まっている。

 イチカの銃が下手で当たっていないだけである。


「このよけやがって!」

『ギャアアアッ⁉』


 当てることができなくてムカついたイチカがアサルトライフルを投げ捨てて、グラトニーに近づいて拳と蹴りで吹き飛ばしていく。

 彼女は肉弾戦でグラトニーたちを吹き飛ばし続けている。

 あまりにもワイルドな戦い方。

 近づいては拳を振り回して殴り飛ばし、襲い掛かってきたグラトニーには反撃に蹴りを入れては頭を掴んでぶん回して投げる。

 銃なんかいらん。

 ただただ己の肉体だけでグラトニーを蹂躙しているのだ。

 ウカリウムのビームでなければ殺せないはずのグラトニーの体がイチカの拳を浴びると千切れて灰になっていく。

 人類の恐怖の象徴を、拳でぶち壊している。

 グラトニーから受けた肉体へのダメージももうなくなっているかもしれない。じゃないとこんな激しい動きできるはずがないからだ、


「…………なんだあれ?」


 トラノスケは困惑の言葉を漏らすことかできなかった。


「あっ! 平泉さんが目覚めちゃいました!」

「平泉、あまり邪魔をするな」

「そっちが邪魔すんじゃねーよ!」


 リオとツムグはイチカの変わった姿を見てもいつも通りの態度。小隊のメンバーは彼女の豹変を日常のようだと思っているみたいだ。

 そしてイチカは目を閉じて、見開くとリオと同じように翡翠色で輝き始めて、


「『嵐気流(タービュランス)』! さあビビっちまいな! 嵐がやってきたぜ!」


 イチカの右手に激しくうなる小さな竜巻が現れて、それを前に思いっきり突き出すと、竜巻は大きく回りながら大きくなっていき、螺旋回転の嵐がグラトニーたちを巻き込んでいく。


「『暴嵐警砲(レイジングストーム)』!」

『ギッ⁉』


 ただの風だと思っていたガキ、だがその風に飲み込まれて体が風と共に連れ去れていって体中に風の圧力がのしかかってくる。

 無意識だがおかしいと思う。

 普通の風なら侵食できる。空気だってその気なれば侵食できるのがグラトニー。

 だが今、グラトニーたちは風に巻き込まれて体がちぎれそうになってくる。


「ウカミタマのオレが作り出した風だ。当然、グラトニーにも効く! そんなこともわからねえ脳みそしてんのか! ああ⁉」

「いい的だ。射撃練習にはもってこい」

「そうですね!」


 不思議な風の原理をわざわざ説明していると、リオとツムグが銃を真上に向ける。

 それをリオとツムグが狙いを定めてビーム弾をグラトニーにぶち込み始める。

 空中で無軌道に舞っているグラトニーでも正確に狙いを定めていく。


「おい、白神! 富岡! オレの獲物をうばってんじゃねえ!」

「グラトニーは迅速に滅する。それが私の使命」

「指揮官さまの命令は絶対! ですので!」

「くそ、逆に地面に押しつぶすべきだったか……ゼロ距離直射なら外さねえからよ」


「ど、どうなって……」

「安心して。彼女、銃持っていると自然とああなるのよ。ハッピートリガーってやつね」

「あの姿が出る時って平泉さんがケガをしているときなので……心配です」

(トリガーハッピーにしては、あまりにも人が違いすぎないか?)


 イチカのあまりの変わりようにアドレナリンであんな凶暴になるのかと内心ビビるトラノスケ。ちゃんと話が通じるのか心配になってくる。というか彼女だけ戦い方がパワフルすぎる。銃より拳で戦った方が強いのではないかと思ってしまうほどの喧嘩殺法であった。

 そんな心配とは裏腹に、リオたちの周りは静かになっていた。グラトニーはもういない。戦いはすでに終わっていた。


「敵影、なし。戦闘を終える。指揮官、すぐに索敵して」

「もう終わりかよ! オレはまだ殺したりねえ! 怒りも収まらねえ!」

「指揮官さま! 次の命令を!」


 戦闘終了。

 怪我はイチカだけだが、さっき受けたダメージはどこに行ったのかピンピンとしている。


「し、白神さんが勝手に出ていったときは驚いたけど……なんとかなったか」

「あれぐらいなら大丈夫よ」

「ですね~」

「指揮官、索敵」

「はい、わかりました」


 戦いが無事に終わったことに安堵していると、リオが周囲を調べてと促進する。

 隊員たちの安全を確認するため、索敵ドローンで周囲を確認。先程よりも範囲を広げた。


「ん⁉ さっきとは違う方向からグラトニーと……小隊がいる!」


 するとレーダーに反応あり。

 仲間である他の小隊が戦闘をしている。

 さらにレーダーを調べると他の小隊とグラトニーが接敵しているだけじゃない。他の場所にもグラトニーの集団が。

 そしてその集団が戦っている小隊たちに近づいていく。


「戦闘の音につられて別の小隊にグラトニーたちが集まってきている。まずいな……このままでは囲まれる!」

「指揮官さん、どうしますか?」

「ここは全員で向かおう。そして集まってきているグラトニーの集団に奇襲だ。白神さん! 聞こえていますか! そこから東の方向に別の小隊とグラトニーが戦闘中です!」

「そう、わかった。そこに向かうわ」


 その提案にトラノスケは待ったをかけた。


「え、私たちがそちらに向かうから待ってほしいのですが。というか――」

「距離は?」

「えっと、グラトニーとの距離は八百メートルです。そして自分たちは――」

「そう、なら走った方が速いわ」


 トラノスケとの話を切り上げて、すぐに味方が戦っている所まで向かっていく。


「え、ちょっと⁉ まだ説明が終わって――」

「なんだよ、まだ敵いんじゃねえか! さっさと行くぜ!」

「指揮官さまの命令! 隊長さんについていく! だから待ってください! 隊長さん!」


 そしてイチカとツムグも意気揚々とリオの後を追っていった。


「おい待てよ! 二人まで白神についていくな! 止まれって!」


 命令を最後まで聞かずに走っていく。

 なんて自分勝手な連中。トラノスケは頭を抱えてどうすればいいか悩み始めた。


「勝手に行きやがったな! もう! ヴァイセンさん、姫路さん、しっかりつかまっていてくださいね! すぐに彼女たちと合流しに行きますから!」

「はいはーい」

「了解です~」


 とりあえず追いかけることにした。

「うっ……ごめん、ちょっと横になるわ……」

「ヴァイセンさん⁉」

「乗り物、苦手ですからね~。よしよーし、大丈夫でちゅか~」

「赤ん坊のあやし方⁉」

 こっちもこっちで大変なことが起きていた。

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