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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
リオ・アヴェンジャー
12/102

第00小隊、初出撃!

 指揮官としてグラトニー討伐用の道具と武器を貰った翌日。

 とうとう指揮官としてグラトニー討伐の任務が来た。

 絶対に失敗はできない任務。ボディスーツと指揮官用の軍服を身に着けて地上での汚染された空気の中でも活動できるようになるヘルメットを右腕でかかえ、気を引き締めた。


(武装ももらった。今日からグラトニー討伐の任務が始まるんだな)


 人類を滅亡まで追いやったグラトニー。その数と戦闘力、そしてありとあらゆる物体を侵食するその能力は脅威と言っていい。このニュー・キョートシティの平穏を守るためには地上エレベーター付近のグラトニーを討伐し、数が増えている原因を捜索するほかない。

 第00小隊のメンバーも準備できているはずだ。

 宿舎にある第00小隊指揮官室に訪れると、


「遅い」


 扉の目の前にリオが不機嫌そうにそう言ってきた。


「遅いって……十分前に来ましたけど」

「グラトニーを討伐するために時間は無駄にできない。さっさと作戦会議でも始めましょう。もしくはすぐに地上に出るか」


 リオの暴走しがちな闘争心にちょっと困るトラノスケ。

 グラトニーを討伐しようとする強い意志は頼りになるが、それはそれとしてすぐに戦いに行こうとせかしてくるのは困る。


「他のメンバーは……」

「ヤッホー、指揮官君。お邪魔するわね」

「指揮官さま! 指揮官さまが到着なされましたよ!」

「えっ、は、はい~!」


 マリ、ツムグ、イチカも集まってきた。

 だがあと一人いない。エリナだ。

 どこにいるか聞こうとしたら、


「ええ、うん。ママこれからお仕事。エマちゃん、さびしい? ごめんね、でも明日はたくさん遊びましょうね。公園に……えっ、ゲームがしたい? でもママ、今時のゲームのことあまり……いえ、一緒に帰ったら遊びましょうね」


 どうやらエリナは誰かと電話をしているみたいだ。

 いつも以上に柔和な表情で会話している。


「彼女は誰と……?」

「娘さんとお電話よ。出撃する前はいつも電話しているわ」

「えっ、姫路さんって娘さんいたんですか? 結婚していたんですか⁉」

「みんなのママって挨拶の時、名乗っていたじゃない」

「それ決して血のつながっていない他人に名乗っていい挨拶じゃあないでしょう」

 

 自称ママではなく、ちゃんと娘さんがいるお母さんであった。


「あと、言っておくけど。夫のこと聞いちゃだけよ」

「いきなり聞くことはないですけど、なぜ?」

「男が苦手になった原因だから。今は別れてる」


 なるほど、それは絶対に聞いてはいけない。

 他人のトラウマに触れるなんてことはやっていけないのだ。


(しかし、娘さんをおいて軍に入っているのか……)


 よほどグラトニーに怨みでもあるのだろうか。大事な娘さんを誰かに預けてでも兵士としてグラトニーを討伐しに行く。

 なにか理由はあるのだろうけど、今はそのことを聞くべき時ではないのかもしれない。 


「すいません。長電話になってしまいまして」

「いえ、時間は過ぎていませんから。娘さんとの電話ですか?」 

「そうなんです。エマちゃんって名前で、ほら、かわいいですよ〜」


 そう言って、携帯電話の画面に自分の娘が写った写真を見せた。

 まだ幼い子がエリナに抱きかかえられている。


「確かに、かわいい子ですね。誰かに預けてもらっているんですか?」

「そうなんです。軍に入ってから保育園に面倒を見てもらっています。出撃がない日にはニュー・キョートシティ保育園に行ってエマちゃんと一緒に遊んだり、お世話をしに行くこともあります。わたしの我儘で軍に入って寂しい思いをさせているのは、やっぱり心苦しいですけど……」


 悲し気な表情を浮かべるエリナ。だがそれは一瞬で消え、すぐに柔和な笑みを浮かべて、


「指揮官さん、任務にいきましょう」

「わかりました。じゃあ皆さん! 地上へ向かいましょう!」


 長話はここまでのようだ。そろそろグラトニー討伐の任務が始まる。武器を確認して地上へと向かった。




 任務のため地上エレベーターで地上に出ると、トラノスケたちにツカサが声をかけていた。


「おーい、こっちだ! 松下指揮官! こっちにこい!」

「八幡副官、第01小隊の副官がなぜここに?」

「よお、皆さん。00小隊に乗り物を用意したんだ。ついてきな」

「乗り物ですか!」

「わ、私たち第00小隊に⁉」


 ツムグたちが喜んでいる。

 今まで乗り物はなかったので近くの場所まで歩いて行っていた。だがこれからは軍から支給された乗り物を使って楽に移動できる。しかも乗り物の中に戦闘用の道具や食料なども置いておくことができるようになり、任務がより楽に遂行できる。

 彼女たちが喜ぶ理由はそれである。


「人が多いな」

「防衛施設の再建設と周囲のグラトニーからの襲撃の警戒、あんなこと二度目を起こすわけには行かないからな」

「昨日も襲撃してきたよな、被害はなかったからよかったが」

「数が急に増えた、アキラはそう考えていたよ」

「そうだな。法隆さん、前にあった時そう言ってた」

「そっかお前、アキラに案内されてたんだってな。本人に聞いたぜ」


 他愛ない話をしながら地上エレベーター付近を歩いていくと、


「ほら、見なよ。ホバータンクだ。カッコいいだろ」

「おお!」


 目の前に大きな乗り物が。

 ホバータンク。

 キャタピラを排除して反重力装置を搭載することによって、地面から浮き悪路による進行の妨げを防げる。常に最高速のスピードで移動できる。

 グラトニーが襲撃してくる前の時代ではスピードを生かして、走行しながらビーム兵器で敵軍を攻撃することができる。地上での戦車はほぼこれになっていった、グラトニー侵略前では戦場の主力になっていた兵器である。


「偵察型ホバータンク。装甲車を改造して製造された。時速は三〇〇キロ。主砲は無いがビーム弾のガトリングと遠隔操作可能のシールドビットがついてある。そしてグラトニーの居場所を発見するソナーもあるぜ。グラトニーからの攻撃はウカリウムを混ぜた特殊塗料を装甲に塗ってあるから触れられた程度じゃあ侵食されん。もっとも塗料剥がされたら終わりだから気をつけてくれ」

「ハイドラグンと同じってわけか。ウカリウムそのものを金属と混ぜたりしないのか?」

「ウカリウムはな、他の金属に比べたら滅茶苦茶脆い。合金にしようにも強度は足りんわウカリウム以外の金属が侵食されるわで駄目だった。グラトニーの連中、普通に化け物じみた身体能力しているからな。その代わり、ウカリウムを燃料としたシールドビットがあるわけだ。ビームシールドなら出力で強度が変わるからな。でも使い過ぎて燃料切れには気をつけるんだな。ビーム兵器は実弾と同じ、使い過ぎたらすぐになくなるからよ」

「なるほど」


(八幡副官、説明長いのよね)


 トラノスケ以外ぼーっとして説明を聞き流している。

 ツムグに至っては常に頭にハテナを浮かべていた。


「まあ、大事に使ってくれよ。グラトニーに襲われて壊れるならいいが、変なことして故障させるなよ」

「わかったよ」

「や、やっと私たちにも乗り物が貰えるのですね」

「移動が楽になりますね〜」

「誰が運転するの? 私たち、誰も操縦できないわ」

「私がします。訓練期間の時、ホバータンクの操縦の練習をしましたので」

「指揮官様の運転ですか! 楽しみですね!」


 指揮官になるための訓練期間の時、隊員たちのサポートのためにホバータンクの乗り方を教えられた。初めて戦車を操作したのは興奮した。

 でも一番厳しかったのはホバータンク以外の乗り物も練習させられた。一気に様々な乗り物の乗り方を覚えさせられたときは頭がパンクしそうになったのはここだけの話である。


「これでこのエレベーターから離れた場所にいるグラトニー達もぶっ潰せるってわけね」


 リオがホバータンクを見て物騒なことを呟いた。


「……白神、お前荒れてんな」

「八幡。何?」

「あまりメンバーに迷惑かけんなよ」

「……善処する」


 そう言って、ホバータンクの中に入っていった。


「白神と何があったのか?」

「同じ時期に入隊したってだけの話だ……松下、彼女のこと、見てやれよ」

「えっ?」

「この部隊、過去に訳アリなメンバーばかりだ。まあそんな人、この軍にはたくさんいるんだが。彼女たちは実力はある、強いと言ってもいい。でもその強さには脆さがある」

「どういうことだ?」

「隊員の資料見ていないのか? 気になるんだったら、任務が終わった後に見てみなよ。それでわかる」

(自分のことで精一杯だったからな……とりあえず、八幡に言われたことは後で考えることにしよう。今は任務に集中すべきだ)


 彼女たちのことももっと知りたいが、それはこれから起きるグラトニーとの戦いでもわかることである。

 まずは目の前の任務、それを遂行することが大事だ。


「全員乗りましたか?」

「問題ないわ」

「じゃあ行きますよ! 自分、実戦でこれに乗るのは初めてなので荒い運転になるかもしれませんが、その時はすいません」

「大丈夫です!」

「ゆ、揺れるぐらいなら何でもないです!」


 スイッチを押しエンジン起動。

 ホバータンクは浮かび、トラノスケはハンドルを強く握って、


「――第00小隊! 出撃します!」


 ホバータンクを出撃させてグラトニーはびこる灰の世界へと踏み込むのであった。

「あれ、ヴァイセンさん。寝たんですか?」

「いえ、乗り物は苦手なのよ。だから目を閉じているだけ」

「だ、大丈夫なんですか?」

「そうね。あなたの運転が荒かったら酔っちゃうかも。その時は指揮官君が優しく介抱してね」

「姫路さん、もしもの時は彼女のこと、お願いします」

「は〜い、任せてください」

「もう、指揮官君のいじわる」

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